アニメ業界を志すきっかけになった作品の監督が師匠に
──門脇さんのキャリアはどれくらいですか?
作画監督としては2003年頃から、総作画監督としては2008年からキャリアをスタートしました。アニメーターとしては14年くらいです。
──アニメ業界、このお仕事を志そうと思ったきっかけは?
子供の頃、いちばんの取り柄が絵を描くことでした。1990年代のある日、見ていたアニメがあまりにもひどくて腹が立って(笑) そこで「俺だったらもっと上手く描けるのに」と奮起したことが、ひとつのきっかけかもしれません。あとは専門学校に入学したとき、高校時代の友達がマンガ家コースに行って、「2人一緒に同じことするのつまらないな。もしマンガ家を目指すなら、あいつから授業の内容を聞いて自分でやればいいじゃん」と思って、僕はアニメコースを選びました。
もしアニメをずっとやることになったとしても「お前の描いたマンガを俺がアニメ化してやるよ。だから一緒に頑張ろうぜ」という話を当時していました。きっかけといえば、そうしたでき事ですかね。
──たまたま見たアニメが、アニメ業界を志すきっかけになった。
もちろんできのいいアニメは大好きですよ。思い出深いのは『呪いのワンピース』です。『笑うセールスマン』が一度、放送が休みになって、その枠で放送されていました。京都アニメーションの木上益治さんが監督、作画監督、キャラクターデザインを手がけた作品です。まだ僕は小さくて、親と一緒にそれを見て、すごくできが良くて印象に残りました。そして後年、最初に入社した京都アニメーションに木上さんがいらっしゃってビックリしました。
──そこから師弟関係が始まる。
なし崩し的にではありますが、そうですね(笑)。僕が原画マンになれたのも木上さんのおかげです。当時、動画のできが悪くて、まわりに「この人どうかな」と思われていたのですが、初めてやった原画で師匠が評価してくれて、それからずっと。京都アニメーションを退社する2007年まで、とても面倒を見て頂きました。未だに、師匠がいる京都には足を向けて寝れません(笑)。
総作画監督はクオリティーの門番!? 制作現場での役割分担
──アニメの最前線で活躍する門脇さんにこんなことを聞くのは恐れ多いのですが、総作画監督という役割は、アニメのなかでどのような立ち位置のものなのか、教えてください。
総作画監督は、クオリティーの底上げを行います。今手がけているアニメ『終わりのセラフ』(2015)では、キャラクターデザインと総作画監督を担当していますが、だいたい半分ほどのカット、主要キャラクターのアップ絵などを中心にチェックしています。キャラクターの絵が崩れないように、最終的に調整する仕事です。
──調整というのは、具体的にはどのような作業ですか?
作画監督さん(注:ここでは話数ごとの作画監督を指す。総作画監督はシリーズ全体の作画を統括して見る)が、原画マンさんからあがってきたレイアウトに修正を入れるのですが、そのあがってきた作画監督さんの修正を見て、さらに作品らしいキャラクターに仕上げます。あがってきた作画に新しい紙を1枚なり数枚なり乗せて描いて、次のセクションに渡す仕事です。
ちょっとだけ説明しますと、作画には原画と動画の2種類があります。原画はアニメーションのなかで動きのキーになる大事な絵、動画はその原画と原画の間の動きを示す絵です。昔、学校の教科書に書いたパラパラマンガの要領です。入ったばかりの新人は動画マンからキャリアを始め、経験を積み、原画マンにチャレンジします。そして実力次第で作画監督、総作画監督というポストにステップを重ねていきます。
──なるほど。言い方が合っているか分かりませんが、総作画監督は「クオリティーの門番」みたいな存在ですか?
そうですね......はい。門番という表現は良いかもしれません。僕は、よく「怪我の応急処置をする人」という言い方をしています。
──お医者さん。
はい、「怪我を直す」という意味で。
──「怪我」というのは、俗に言う「作画崩れ」のことですか?
そうです。クオリティーが厳しい場合は、修正を入れないと、崩れたまま映像になってしまうので処置します。
限られた時間内で最高のクオリティーを追求
──今のお仕事は楽しいですか?
ゲロが出そうなほど気持ち悪くなって辛くなる時もありますが、毎度のことなので(笑)。やっぱり、基本は楽しいからやっています。放送間近は、今でもプレッシャーで寝れないときがあります。体力の限界で寝なきゃいけない状況になっても残りのカット数を考えたらもっと描かなきゃと焦ったりしたり......。やらないといけない、でも休まないといけないの狭間で、目をつぶっても眠れないし、起きてても集中力が出ないし。
──すごい瀬戸際ですね......。
瀬戸際ですよ。自分のまわりを、ラッパを持った音楽隊が、音を立てながら行進する幻覚を見たことがあります。
──1日はどんなスケジュールで?
朝10時に出社して、総作画監督として原画にチェックを入れて書き直す以外に版権関係、DVDやCDのジャケット、他版権物の修正など色々な仕事をしています。何時まで働いているかは......皆様のご想像にお任せします(笑)。
──仕事で心がけていることは?
原作ありきの作品は、原作ファンが「これをされたら嫌だな」と思うことをしないように心がけています。『進撃の巨人』でも『終わりのセラフ』でも、この原作を見ていて「面白いな」と感じるシーンがあるじゃないですか。そのシーンの良さが半減していたら、必ず修正します。原作のテイストを残しつつ、より良いものにしようと思って。
──より良いものとは?
アニメ版ならではの良さを追求するということです。『進撃の巨人』は、けっこうシリアスな笑いが多く、「大真面目にやっているけどなぜか笑えてしまう」というシーンが多いです。例えば最終回付近の女型の巨人のことをまだアニと信じられなくて、気持ちが煮えきれないエレンに詰め寄るミカサの表情芝居。ミカサが「アニに気があるんじゃないだろうな 」と顔をのぞきこむシーンがあるのですが、そういうシーンは描くのに一層力が入りました。原作にないシーンでは、木の破片が体に刺さっているけれども、そこから巨人になろうとするエレンなど。原作の意図を汲み取りつつ、もっといいものにしたいと考えてます。
──総作画監督としてスケジュールを指揮する場合に心がけていることは?
総作画監督がスケジュールの指揮に乗り出す場面というのは、制作状況が追い詰められているときです。余裕があったら、それぞれの原画マンさんに描いてもらって、それに対してチェックを入れ、調整をしていきます。スケジュールがきつくなってくると、悠長に待っていたら「(原画が)できていません!」という状況も起こりうるので、各セクションにこの期間中に終わりそうな現実的な数を出してもらって、そのなかでちゃんとできることを考えます。「頑張ります」とかフワフワしたところに落ち着かないようにして、現実的にできる数を洗い出していきます。あくまでクオリティーありきの話ですが。
──結果を着実に出してね、と。
はい、1日にできる数を聞いて、これだったらできるよというのを各セクションに確認して僕のところに持ってきて......とスケジュールを指揮する場合はあります。
──放送日に間に合うように、スケジュール管理をちゃんとやる。
限られた時間のなかで、最高のクオリティーを求めていきます。
──『終わりのセラフ』で手がけるキャラクターデザインは、どのような役割ですか? また本作で工夫していることや、力を入れているキャラクターなどあれば教えてください。
力自体は、全キャラクターに均等に入れています。アニメ用のキャラクターデザインを描き起こすにあたって、アニメにしやすいデザインにする必要があります。絵柄としては原作ファンを大事に、原作から離れすぎない。上手く描けたからといって原作からかけ離れてしまっては、原作ファンからしたら「僕が見たいのはこれじゃない」という思いが発生すると思います。
僕が好きな作品でもたまにそういうことを見かけて、僕はマンガもアニメも好きだけども、原作ファンはこんなにリアルにされたら「このキャラはこんな風じゃない!」と思う気持ちも理解できます。なので、ファンの方が納得しつつ、アニメの現場のことを考えたキャラクターデザインをすることが役割だと思います。
また話は変わりますが、自分の好きな作品が、アニメでしっかり描かれている場合は......それはそれで腹が立ちますね。
──腹が立つ?
「俺がやりたかったのに」という悔しさでいっぱいになります。「なぜ俺はあの作品の現場にいないんだろう? 」と。もちろん、同業の方ですので敬意は払っていますよ。でも......やっぱり悔しい。
──なるほど。私はそういう場合、ひとりの視聴者、ファンとして「良い作品だなぁ」と楽しんで終わりますが......。
「チクショー!! 俺以外の人間がこの作品をこんなに上手く描きやがって!!」とひたすら悔しいです。
──ライバル心じゃないですが、クリエイターとしてメラメラと燃えてくる感情がある。
「なぜ俺が担当じゃないんだ......」と鬱になりますね(笑)。まぁそれはさておき、原作ファンの期待を裏切らないものをつくる努力を惜しまないようにしています。ただしアニメーションにするにあたって、デザインを一部シンプルにしたり統一したりはしています。
──統一というと、たとえば?
わかりやすいところで言うと、『終わりのセラフ』で登場する吸血鬼や日本帝鬼軍の軍服。マンガ内では、話数ごとに胸の勲章やベルトのアクセサリーとかのデザインが変わったりします。アニメでは、それを統一しています。原作を大事にしつつ、デザインを統一していきます。
監督:徳土大介
アニメーション制作:WIT STUDIO
第2クール『名古屋決戦編』/ Second Half 'Battle in Nagoya' TOKYO MXほかにて2015年10月10日〜放送開始
URL:http://owarino-seraph.jp/
後編では、アニメ業界の「人材問題」について迫ります!