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【社説】

放火殺人再審 「自白」偏重の危うさ

 大阪で放火殺人とされた事件の再審が認められた。元被告の「自白」が疑わしいことが、弁護側の再現実験で明らかになったからだ。「自白」偏重の捜査や裁判が根本から問い直されるべきだ。

 放火なのか、自然発火なのか−。一九九五年に起きた住宅火災によって風呂場で小学六年の女児が死亡した事件では、それが焦点だった。捜査当局は放火とみた。女児の母親と同居相手の二人が、死亡保険金千五百万円をだまし取る目的だと考えたのだ。

 支えたのが「車庫でガソリンをまいて、ライターで火を付けた」という同居相手の捜査段階での「自白」だった。だが、裁判ではそれを翻し、一貫して無罪を主張したものの認められず、「無期懲役」が確定した。

 元被告二人が裁判のやり直しを求めたのは二〇〇九年だった。今回の再審決定までの道のりを検証すると、弁護団が建物などを再現して実施した火災実験の結果が大きいといえる。

 屋内の車庫と風呂場は隣接している。その間に風呂釜がある。夏場に走行し、満タンに給油した直後に車庫に駐車すると、給油口からガソリンが漏れやすい状態にあったという。給油キャップが完全にしまった状態になかったから、車両から百ミリリットルから三百ミリリットルのガソリンが漏れ、風呂釜の種火に引火した可能性があったのだ。

 逆に自白どおりにガソリンをまこうとすると、途中で引火し、激しく燃焼し、やけどを負うはずだ。だが、同居男性にやけどはなかった。こうした実験結果から、大阪高裁は「自然発火の具体的可能性がある」と述べた。

 「無罪を言い渡すべき蓋然(がいぜん)性がより高くなった」とも言った。自白だけでは有罪に導くだけの高い信頼性を認める根拠とはなりえないわけだ。つまり、有罪認定に合理的な疑いが生じた結果となった。再審開始の決定も、刑の執行停止も当然といえよう。何しろ、逮捕以来、身柄拘束期間は実に約二十年にも及んでいるのだ。

 再審開始が確定すれば、死刑または無期懲役となった事件としては七五年以降で十例目となる。足利事件や東電女性社員殺害事件などでは、科学的観点から確定判決が見直された。

 「自白は証拠の王様」といった時代はあったが、今は取調官から迫られて虚偽自白することもあるのが前提だ。過去の数々の冤罪(えんざい)事件から学ぶのは、客観証拠こそ最重視せねばならないことだ。

 

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