憧れのMD。
自分が東京で働き始めて、最初の冬のボーナスを貰った時に買ったのは、MDデッキだった。
そっち方面に詳しい友達と一緒に秋葉原まで足を伸ばし、どれにしたらいいか、あーでもないこーでもないと話し合って、最終的に決めたのがケンウッドの「K'sシリーズ」とかいうシステムコンポのMDデッキだった。
KENWOOD ケンウッド DMF-7002S ミニディスクレコーダー(MDレコーダー/MDデッキ) 単品/単体 MDLP非対応
- 出版社/メーカー: KENWOOD ケンウッド
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※多分これ。まさかAmazonに中古があるとは… 当時は6万円くらいした記憶がある。
何故ラジカセとかじゃなくてMDデッキだったのかというと、将来的にアンプやスピーカーを買って、ちゃんとしたシステムコンポを組みたいと思っていたからだ。だが、いっぺんに買うにはちょっと値段が高すぎたので、当時自分が持っていたラジカセに無い機能であるMDデッキを買ってきたのだ。
ちなみに、ラジカセの方は1993年に発売した、Panasonicの「マジカルコブラトップ」搭載「RX-DT75」とか言うやつ。
正直、この機能は全く意味がなく、ラジカセの前を歩いただけで勝手に蓋が開いて演奏が始まるもんだから、買った初日にオフにした記憶がある。ネットでちょっと調べると、この頃の無駄な機能満載のラジカセは「バブルラジカセ」とか言われているらしい。まあ、もうあの頃はバブルは終わってたけどね。
で、MDデッキのDMF-7002Sは、光デジタルケーブル?とかいうケーブルでラジカセと接続し、MDの音をラジカセのスピーカーから出すようにしていた。
話は逸れるが、あの頃自分が使っていたテレビは14インチの物凄い小さいモノラルTVで、笑っちゃうくらい音がショボかったので、TVもラジカセに接続して音を出していた。画面が小さくてしょぼいのに、豪華な音だけが足元に置かれたラジカセから出るというのは、今にして思えば妙な感じだ。
自分は、当時MDに憧れを抱いていた。CDよりコンパクトで、自分で自由に録音もできて、曲名まで記録できる…なんて便利な発明なんだと思っていた。電気屋さんでMDコンポなんかを見かける度にずっと欲しい欲しいと思っていたのだが、学生時代はとても手が出せる値段では無かったので、自分で買えるだけのお金を稼げるまで我慢していたのだ。
色んな意味で「軽かった」MD。
秋葉原からいそいそと帰ってきて、早速各種接続を行い、自分の持っているCDをダビングして、音を聞いてみる。すると、MDの音がなんだか「軽い」事に気がついた。
その頃の自分には「圧縮音源」という知識がなく、CDの音がそのままMDにコピーされるのかと思っていた。だが、実際にダビングしてみた音を聞いてみると、何かが違う。何が違うのかを説明しろと言われても難しいのだが、とにかく妙な気持ち悪さがあったのだ。何かスカスカになったというか…
でも、カセットテープには無いMDの利点である、頭出しやトラック名の記録などの機能は本当にすごいと思ったし、なにより同時に買ったMDウォークマンのコンパクトさとカッコよさは格別だった。
※多分買ったのはこれ。「MZ-E25」ってやつ。
オーディオマニアではない自分は、これでも十分かなと納得して使っていた。
最初のうちは、お金が貯まったら「サイバータイトラー」という物も買おうと思っていた。これは何かというと、MDにタイトルを打ち込むための外付けキーボードのようなものだ。
MDに曲名を入れるためには、リモコンのボタンで携帯電話のように曲名を入力しなければならなかった。そのリモコンも決してレスポンスがいいとはいえず、間違えた時の修正も面倒だった。だから、楽にタイプするためにサイバータイトラーが欲しかったのだ。
だが、MDを使ったことがある人ならわかると思うが、正直曲名入力はだんだん面倒になってくる。そしていつかはやめてしまう。で、どうしたかというと、「あのアルバムはソニーの赤いMDに入ってる」とか、「TDKの青はマイベストアルバム1、黄色は2」とかいう区分けをし始めるわけだ。
そんな状態だったので、結局サイバータイトラーは買わなかった。それどころか、その後PCを買ったのでそっちの周辺機器(プリンタとかスキャナとかペンタブとか)にお金をつぎ込むようになり、「システムコンポを組む」という最初の目的はどこかに行ってしまった。
iPodとの出会い。
その後、東京から実家にUターンする事になり、PCも最初のノートPCからちょっと背伸びしたデスクトップPCに買い換えた。
そして、ある日電気屋さんを散策していた時に衝撃的な出会いをした。そう、iPodを見つけてしまったのだ。
※最初に買ったiPodはこれ。静電容量方式のタッチセンサーはカッコ良かった。
すでにCDをPCに取り込んで保存するという行為はやってはいた。だが、それは音楽を聞くためではなく、あくまでバックアップのためだった。
だが、iPodを買ってからは変わった。
CDを買ったり、レンタルしてくると、まず最初にやることはPCに取り込むこと。そして、それが終わるとCDはケースの中にしまい込まれ、ラックにしまわれてしまう。自分は、PCと同期した圧縮音源のみを聞くようになり、いつしか自分の家からCDを再生するための機械そのものが無くなっていった。
以前に、ふと気になって、自分で圧縮音源の聴き比べをやってみた事がある。ビットレートを変えただけの同一音源を幾つか用意して、プレイリストをランダム再生してみたのだ。だが、48kbpsのもの以外はサッパリわからなかった。ひょっとしたら48kbpsのもまぐれだったのかもしれない。それくらい、聴き分けることが出来なかった。
MDを買った時、それ程耳が良いとはいえない自分ですら「この音軽いな〜w」とか言ってたのにも関わらず、今では圧縮音源と無圧縮音源の区別すらつかないくらいにボンクラな耳になってしまっていた事に驚いた。
昨今、CDを遥かに上回る音質の「ハイレゾ音源」が音楽業界を賑わしている。専用の再生機器が必要で、お値段もなかなか高価な高付加価値商品だ。
だが、おそらく自分はこのハイレゾの波には乗れそうもない。AACとCDの区別もつかない自分には、これだけのお金を出してまでハイレゾ機器を買ったとしても、まさに馬の耳に念仏だろうからだ。実際、電気屋さんでハイレゾのサンプルを聞いても、いまいちピンと来なかった。
iPodは、自分の「音楽を聞くというスタイル」に革新をもたらした。だが、その影で大切な何かをなくしてしまっていた事には最近まで気が付かなかった。
正直、少し寂しい。
ハイレゾが楽しめる男に、自分はなりたかった。
あ、でもオーディオは「沼」だから、これで良かったのかも…