政府は先週、地球温暖化の被害軽減をめざす初めての国家戦略「適応計画」案をまとめた。主要7カ国(G7)では最も遅く、日本政府の消極的な姿勢を反映している。

 適応策の実行が遅れると、社会、経済、環境と、さまざまな分野で取り返しのつかない被害が生じうる。被害を予想しきることが難しくても、まず適応策の策定と実行を急ぎ、走りながら修正していくしかない。

 計画案は、すでに温暖化の影響とみられる被害が出ているとしている。全国の水稲で高温による品質低下が起き、病害虫の分布域拡大が確認されている。また、強い台風の増加といった「極端現象」による洪水や高潮、土砂崩れ、都市化とあいまった熱中症の増加なども、被害として挙げる。

 さらには、雨や雪の降り方が変わって水資源に影響を与えたり、観光業や企業の生産活動も対応が必要になったりする可能性も指摘した。

 「温暖化の被害が広範に及ぶ恐れがあり、対応を迫られている」旨を、この計画案で政府として宣言した意味はある。

 しかし、対策になると、各省庁がすでに実施したり計画していたりするものを束ねたに過ぎない。「21世紀末まで意識し、今後10年の基本的方向を示す」国家戦略というには弱々しい。

 台風や高潮、洪水などのリスクは国土にどう偏在しているのか。それを踏まえて今後、どう国土を利用していくのか。本来は、そんな骨太な議論にこそ計画案策定の意味がある。

 もちろん、リスクを正確に計測することは難しい。だからと言って、被害軽減に及び腰になってはならない。むしろ、最新の科学的な知見を取り込んで修正しながら、より被害の少ない国土利用を考えていくべきだ。

 実際、多くの国も走り出している。基になっているのは、英国政府が2006年に発表した「早期かつ強力な対策が経済学的にみて最終的に安上がりだ」という趣旨の報告書だ。

 日本の経済界などには依然、温暖化論議への懐疑的な見方が残る。だが、地球規模で温暖化は起きている。「原因の大半は人間の出す二酸化炭素など温室効果ガス」「ガスを削減しても容易に温暖化は止まらず、各地の気候変動は当面不可避」とみるのが世界の大勢である。

 温暖化による気候変動は世界全体を不安定にし、地球規模の災厄につながる。ガス削減で少しでも温度上昇を抑え、被害軽減にも手を打つことは、政府と国民の責務である。