「住」の安全に直結する問題である。責任企業は機敏に不安の解消に動いてもらいたい。

 横浜市の築10年近くの大型マンションが、構造を支える杭打ちの一部が不十分だったために傾いた。調べると、杭打ちを担った現場責任者がデータを偽装していたことがわかった。

 あってはならない事態だ。問題の旭化成建材が過去10年に杭打ちをした物件は、全国に3040件ある。まずは全力で調査を急がねばならない。

 旭化成建材は当初、「調査は専門知識が必要で、人手が足りない」としていた。だが、国土交通省は、データ偽装の有無を調べて来月13日までに報告するよう期限を切って指示した。

 各物件の元請けのゼネコンなども協力して、点検を急ぐべきだ。より多くの目が入れば、調査の信頼性も増すだろう。

 不安は各地の住民や自治体、関係組織に広がっている。旭化成建材は、該当物件について、都道府県別や用途別の件数だけの発表にとどめ、物件名は問い合わせにも答えなかった。その対応は適切ではなかった。

 該当してもただちに構造に問題があるとは限らないし、マンションなどでは物件価値にかかわる。そうした配慮は必要ではあるが、だからといって一切、物件名を明かさないのでは地元の不安を一層かきたてる。

 忘れてならないのは、最優先すべきは安全の確認だということだ。3040件の中には、学校や役所、公民館、病院などが900件以上ある。一部自治体が労力を割いて物件の割り出しに追われたのは実に残念だ。

 国交省は、3040件の所有者や自治体へ、物件が調査対象に含まれることや、偽装の有無について個別に知らせるよう指示した。当然の措置だろう。

 もし今後、新たな物件でデータの偽装などが見つかれば、住民や関係者に動揺が広がる。旭化成建材には、いっそう丁寧な説明と対応を求めたい。

 横浜で杭打ちを担った人物は10年以上の経験のあるベテランで、東海地方を中心に41件に関わっていた。「悪意はなく、ミスを隠すためだった」というが、杭打ちのデータで三つの別のグラフを切り貼りしており、悪質と言わざるを得ない。

 工期やコストが最優先とされる現場では、こうした偽装は特殊ではないという指摘も業界から漏れている。今回の問題は、一部企業に限った話なのか。どうすれば再発を防げるのか。

 建設業界全体で点検し、国交省と自治体もチェック体制のあり方を考える機会とすべきだ。