東京に旬八青果店という八百屋があります。2013年の10月にスタートして2年がたった今は、都内に10店舗ほどになりました。文鳥社では、そのスタートから携わっていて、名前を一緒に考え、ロゴをつくり、店舗の設計を手伝ったり、ポスターやチラシをデザインしています。
以前書いたブログの中で「自分たちが信じれる仕事をしたい」と書きましたが、この旬八青果店も自分たちが信じることのできる仕事のひとつです。八百屋という商売の形態は、できることならずっと存在してほしいと思うし、デザイン会社としてその手助けをしていきたいと強く思っています。
八百屋とは、別の言い方をすれば「青果の専門店」です。それは、店に並べる青果を自分たちの目で見て、舌で味わって決めることや、お客さんにそれを説明できるというようなお店の形態です。青果は人の暮らしにおいて、不可欠なものであり、かつ、新鮮な青果は人の気持ちを豊かにする力を持っています。しかしながら、元気のいい八百屋を見ることは少なくなってきたように思います。スーパーやコンビニのようなところでも、青果が買えるようになったからというのがきっと大きな理由です。
また、八百屋は、コミュニケーションの場として機能していたように思います。「今日、おいしいデコポンを入荷したんですよ」とか、「この果物は冷やさないほうが甘みを楽しめますよ」とか。そういう「青果に関する会話」は、ひとの暮らしをちょっと豊かにしてくれるものです。今や、コンビニでも青果が売っていますが、そのような「会話」は絶対に聞こえてきません。缶コーヒーから爪切りまで、いろいろな商品を見なくてはならない店員さんが、青果のことをそんなに詳しく理解しているわけがないからです。
その結果、都市に暮らす私たちは、「いつ」「どこで」「だれが」「どう」つくったのかもわからないものを口にするようになりました。人にとっていちばん身近な「食」さえも、遠い存在になってしまったような気がします。なんでも手に入る東京という大都市で、おいしく新鮮な野菜はなかなか手に入りません。
だから、文鳥社としては「八百屋という業態をもう一度作り直したい」という株式会社アグリゲート代表の左今さんに全面的に協力したいと考え、この仕事を続けています(もちろんボランティアではなく、ビジネスとして)。とてもシンプルな話、青果のポスターを作るというのはとても気持ちがよくて楽しいものです。
2013年の10月に一つ目の店舗をスタートしました。とにかくスタートすることを目指し「一坪の八百屋」でした(いろいろあってその店舗は店じまいしています)。そして2年が経ち、都内に10店舗となっています。目黒、赤坂、五反田、下目黒、大崎、渋谷、広尾。どのお店も夕方に行くと、多くのお客さんがいて、青果の会話が聞こえてきます。
よくロゴやデザインを褒められるのですが、本当にすごいのはお店を動かしているアグリゲートのみなさんです。雨だろうが風だろうがほとんど毎朝市場に行き、ときに全国の農家をまわり、仕入れをしている代表の左今さん。そしてめちゃくちゃ寒い冬の日でもお店に立って販売している店子さん。ほんとうにすごいと思います。
僕も始まったばかりの頃に何度かお店に立って販売をしたことがあります。それは大変だけど、とても楽しい仕事でした。大企業の中の仕事で10億円を獲得するよりも、一号店初めのお客さんであるおばあちゃんが買ってくれた「さつまいもの100円」のほうが嬉しいと感じるのは仕方のないことだと思います。そこに圧倒的なリアルがあり、人の感情があるからです。
効率を追求したシステムが今の社会を動かしています。僕たちはその恩恵を受けて生きています。自分だって毎日コンビニで買い物をしています。だからそういったものを否定するつもりはありません。社会にとって大切なものだと考えています。要はバランスだと思います。セブンイレブンがどこにでもある都市のかたわらで、
「今日は、おいしい柿が入ったんですよ」
という声が聞こえてくるような社会にしたいと考えています。
近くにお住まいの方は、ぜひ一度行ってみてください。きっと野菜と果実が大好きな店員さんが出迎えてくれると思います(忙しくなければ)。
以上、文鳥社の仕事紹介でした。