【ソウル植田祐一】韓国の朴槿恵大統領がオバマ米大統領との会談で旧日本軍の慰安婦問題に言及しなかったのは、韓国が「中国傾斜」で米国の不興を買い、対日関係で米国の後押しを受けるのが難しくなったからだ。朴氏は米国が望む日韓関係改善のため、慰安婦問題の進展が望めなくても安倍晋三首相との首脳会談に応じざるを得なくなり、苦しい立場に追い込まれている。

 日韓関係改善の必要性で一致した米韓両首脳だが、会談後の記者会見で「日本との関係を見ながら歴史問題の解決を」と促したのはオバマ氏だった。朴氏は日中韓首脳会談に関連し「2国間関係の改善」に触れただけ。対日関係への直接の言及は避けた。

 韓国はこれまで、米国に対日関係改善を迫られた場合、日本との間に歴史認識問題があることを強調し、米国に「対日圧力」を求めてきた。しかし今回、朴氏はこれを「封印」せざるを得なかった。

 朴氏は中国の覇権主義を警戒する日米に同調せず、北京で9月に行われた抗日戦争勝利の軍事パレードを参観し、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも参加した。米国の視線が「韓国の想像以上に厳しい」(日韓外交筋)状況で訪米した朴氏は、対米関係「修復」を最優先。米国を困らせる「対日圧力」要求は棚上げするしかなかった。

 慰安婦問題は日本側が譲歩の構えを見せていない。米国の「後押し」も期待できない中、日韓首脳会談に応じるのは朴氏にとって大きな負担だ。韓国の外交専門家は「前提条件なしの開催は安倍首相のシナリオ通り。一方で朴大統領は慰安婦問題で成果がないと、外交敗北とみなされかねない」と語る。

 世論の動向に神経をとがらせる韓国政府は、日本側との水面下の接触でも首脳会談開催の意向を示さなかったが、朴氏はオバマ氏との会談前日、安倍氏との会談開催を表明した。日本側には「直前まで明言しない可能性もある」との見方もあっただけに、米国への配慮を迫られた朴氏の苦境を印象付けた。

 もっとも、慰安婦問題をめぐる韓国側の出方はまだ読めない。日本側に対応を求める朴氏の姿勢に変わりはなく、首脳会談に向けた日韓の駆け引きはぎりぎりまで続くとみられる。

=2015/10/18付 西日本新聞朝刊=