だが私は、事態の原因に劣らず事態の本質にも関心を持っている。VWの不正は結局のところ自動車業界の無限競争に端を発したもので、その核心は価格競争だ。VWは環境基準を満たすことのできる技術力を備えている。だが問題は、その技術力を使えば車の価格が上がることだ。それを避けるため、いんちきをしたのだ。
米大手調査会社JDパワー・アンド・アソシエイツの自動車メーカーランキングは、最近になって順位が随時入れ替わるようになった。それだけメーカー間の技術平準化が進んだということだ。技術力の差が縮まったため、デザインや価格が勝負どころとならざるを得ない状況だ。
VWはアウディ、ベントレーなどを抱える世界1位の自動車グループであり、ブランド価値もやはりトップクラスだ。また、模範的な労使関係でも有名だ。1990年代、同社のヴォルフスブルク工場は海外生産の増加で存廃の危機に陥ったが、労使が労働時間の弾力化などを通じた構造調整に合意し、危機を乗り切った。2014年の事業報告書によると、VWの1人当たり人件費は9062万ウォン(約970万円)で、韓国・現代自動車の9700万ウォン(約1040万円)よりも安い。売上高に対する人件費の割合を示す売上高人件費比率は、現代自は12%を超えるがVWは10%にすぎない。
言いにくいことだが、現代自は技術力でVWを追い抜いたとは決して言えない。それにもかかわらず人件費はVWよりも高いのだから、競争力がどうであるかは言うまでもない。VWの問題を目の当たりにして韓国自動車産業のことを心配するのは杞憂(きゆう)だろうか。どうかそうであってほしい。