財布は、自分自身を映し出す鏡でもある。

 素材や大きさ、構造など、数多く存在するモデルの中から何を選び出したのかに、その人自身の思想やスタイルが見えてくるからだ。このことはどんなモノにも当てはまるが、とりわけ大切なお金をしまう入れ物である財布に限っては、重要度が増してくる。

 時計や靴に比べれば、財布が他人に見られるシーンはそう多くないかもしれない。だからこそ、ふとした瞬間に目に飛び込んだ財布の姿は強烈な印象を相手に与えるものだ。

 では、どのような財布を選ぶのがよいのか? そこでモノの魅力を知る大人たちに提案したいのが、“馬”に関連した2つの素材。コードバンブライドルレザーだ。

両者に共通する“エイジング”の魅力

 コードバンとは、馬のお尻にあるわずかな部位からとれる希少な革のこと。筋肉繊維が非常に細かいのが特徴で、抜群の光沢を放ち、革の宝石とも呼ばれている。また、一般的な革は構造的に2層あって「浮き」と呼ばれる劣化現象が起こることがあるが、表皮を削り出したコードバンは単層構造のためこうした現状が起きずに、頑丈といわれている。アメリカのシューズブランド、オールデンで使われていたり、昔ながらの高級ランドセルに使用されていることでも知られる素材だ。原皮は食用馬から採取している。しかし、徐々に食用馬の生産量が低下している一方で、コードバンの世界的ニーズは高まっており、その希少性は年々高まっている。

 もうひとつのブライドルレザーは、鞍やハミなどの馬具を作るために英国で誕生した伝統素材だ。丹念になめした牛革に、最後の仕上げとして蜜ロウや植物性油脂などを塗り込むことで、中に浸透させたオイルを保持し、さらに外部からの水分や汚れを防いでいる。現在でも英国での生産量が多く、高級感のある素材として人気だ。

 革のタイプは異なるが、共通しているのが経年変化によって味わいが増していくという事実。いわゆる“エイジング”を楽しめることだ。紫外線を受けたことによる色合いの変化や、革内部の油分の状態が変わることによる質感の変化などで、その表情はどんどんと深みを増していく。むしろエイジングしてこそはじめて、本当の価値が生まれる素材といえるだろう。手にした当初は優等生顔で、すばらしさは伝わるけどもどこか頼りない。しかし、使い込むうちに味わいが増し、やがてその道を極めたかのような熟練顔をのぞかせる。

 コードバンやブライドルレザーの財布であれば、そうした大人の表情を無言で語れるわけだ。

 デカデカとブランドロゴを刻んだハイファッションブランドの財布や、見るからに高そうなエキゾチックレザー仕様の財布も悪くない。しかし、“歳月を経たことによる魅力”は、また別格の雰囲気を表現してくれるはずだ。そんな財布を手にした持ち主も、同じように“有意義な時間を歩んできた人”と思われてもおかしくない。

国内外人気ブランドで豊富に取り扱われている

 では、実際にコードバンやブライドルレザーを取り扱っている人気ブランドの製品をご紹介しよう。

 日本の職人による最高級革製品ブランドのGANZOでは、タンニンなめしを施した上に、アニリン染めと呼ばれる水染め製法で仕上げたコードバンを採用している。顔料染めとは違って革本来の質感を最大限に生かしているのが特徴で、筋肉繊維が細かなコードバン特有のキメ細やかさや光沢を引き立たせることに成功。透き通るような艶は使い込むほどに増していくから、財布を手に入れた満足感は日々高まっていくことになる。内側には牛革のヌメを使い、財布に求められる耐久性を確保。カード段に至るまでコバ処理された丁寧な手仕事も、高級ブランドならではの矜持を感じさせる。

 国内屈指の革小物ブランドであるキプリスでは、「ホーウィンコードバン&ナチュラルコードバン」シリーズを展開。素材にはコードバンの代名詞的存在といえる、アメリカ・ホーウィン社製造のシェルコードバンを採用している。熟練職人の手によってたっぷりオイルを加えた上で丹念に磨きこまれた革は、飴色と表現される独特の輝きと美しさが生まれ、さらにしなやかさや強靭さも兼備。染色したモデルのほか、艶出し加工のみを施した無染色モデルも展開し、コードバンの魅力を存分に味わえる。

 スコットランドで生まれたグレンロイヤルは、1979年の創業当初から高品質のブライドルレザーを使用したコレクションを発表し、この素材を語るのに不可欠な存在だ。伝統的な製法を堅守することで生まれたブライドルレザーは、じっくりとロウを染み込ませたことで優れた堅牢性と光沢感を持ち、高級感を醸成。黒・茶などの基本カラーから赤・緑など小洒落たカラーまで、色の種類が豊富に用意されているのもうれしいポイントだ。なかでも自然染料で染色したフルブライドルレザーは、当初はやや淡い色合いながらも次第に色合いが増していくため、経年変化も楽しめる。

 日本が世界に誇るカバンメーカー・吉田カバンでも、ブライドルレザーの魅力を引き出した革小物シリーズ「ポーター カジノ」を展開している。重厚な素材感を持つ英国製のブライドルレザーを駆使し、オーセンティックな二つ折り財布や馬蹄形コインケースなど伝統的なデザインも数多くラインアップし、クラシックな雰囲気を表現している。ヘリの裁断面は、あえて無着色の仕上げ剤を使った切り目仕上げで、重なった革の断面が層になって見えるのも個性を感じさせる。

 その財布を手にして、どのように思われたいのか。実用性やデザインのバランスを見極めながら、最良の財布を見つけてみてほしい。

<問い合わせ先>

●GANZO(AJIOKA.)

03-6861-3165

http://www.ganzo.ne.jp

●キプリス(モルフォ)

03-5638-6701

http://basic.cypris.co.jp

●グレンロイヤル(BRITISH MADE 青山本店)

03-5466-3445

http://watanabe-int.co.jp

●吉田

03-3862-1021

http://www.yoshidakaban.com

文 ライター 横山博之