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〈厚労省汚職〉高卒ノンキャリ「赤シャツ」はなぜ出世したか

 投稿者:東京新報  投稿日:2015年10月24日(土)07時38分15秒
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  〈厚労省汚職〉高卒ノンキャリ「赤シャツ」はなぜ出世したか

「中安さんのチンピラのような服装は省内でも有名でした。ワインレッドのシャツに身を包み、大きな指輪や金のアクセサリーもつけていた。高卒のノンキャリですが、厚労省に出勤してくるのは週二日程度。それでも、キャリアの上司は何ら注意せず、『あいつがいないとITの仕事は回らないから』と野放しにしていたんです。結果、中安さんがマイナンバー関連の予算を握るようになっていました」(厚労省官僚)

 マイナンバー制度への信頼を揺るがしかねない汚職事件が起きた。収賄容疑で逮捕されたのは、厚生労働省・情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸容疑者(45)。中安は厚労省が二〇一一年十月に公募したマイナンバーに関連する二事業を、都内のシステム開発会社「日本システムサイエンス(以下システム社)」に受注させる見返りに、同社のY社長(当時)から現金百万円を受け取っていた。
「中安はシステム社の社長室で、Y氏に人差し指を立て、『社長、一本』と言って自ら現金を要求したそうです。中安は公募の数カ月前からシステム社を訪れ、厚労省が作成すべき仕様書の原案を作らせ、企画書を簡単に作れるよう便宜を図っていた。システム社はこの二事業を計約二億一千万円で契約することに成功したのです」(社会部記者)
 逮捕容疑となった問題の“一本”以外にも中安は一一年から約一年間、システム社から顧問料として月十万円、一二年夏には指導料として約二百万円、さらにタクシー券百数十万円分を受け取っていた。その総額は五百万円近くにのぼる。
「贈賄側の時効はすでに成立していますが、警視庁が今回、収賄側の立件にこだわったのは、市場規模三兆円とも言われるマイナンバー制度が利権化することを防ぐためです」(同前)

やりたい放題を黙認した上司

 中安は一九六九年生まれで兵庫県出身。県内の高校を卒業後、事務職や組み立て工を経て、九一年に国立病院機構・兵庫中央病院の事務官として採用された。
「当時はまだITの導入は進んでおらず、彼は物品の補給係など経理関係の仕事を担当していました」(兵庫中央病院)
 九五年、本省に出向したことが彼の転機となった。中安は社会保障のIT化を推進。その功績が認められて、〇五年四月、医政局研究開発振興課医療機器・情報室に転任する。〇七年四月に社会保障担当参事官室に異動後は、一貫して情報政策部門を歩み、「厚労省のITは中安さんがキーパーソン」(総務省幹部)と言われる存在となった。
 中安をよく知る大学教授はこう語る。
「十年ほど前から、赤や黒のカラーシャツを着ていました。講演では『厚労省の役人には見えないでしょう。初めて会った人は驚くんです』という自己紹介が決まり文句。歯に衣着せぬ話しぶりで、引っ張りだこでした。普段は一切アルコールを飲まないし、極度な偏食家で野菜や魚、鶏肉は口にしません。いろいろと変わったところがある役人ですが、知識が豊富で勉強熱心だったのは確かです」
 中安は、高卒という学歴にコンプレックスがあったのか、やたらと大学講師のポストを欲しがったという。自身も役員に名を連ねる医療情報学会のルートを頼っては、北海道大院客員准教授や秋田大非常勤講師などの肩書きを手にしてきた。
「『いざとなったら、厚労省を辞めて大学の先生になればいい』とよく漏らしていました。ただ、〇九年には東北大院客員准教授に就任したものの、品格に欠けるとの声が上がり、一二年に退任しています」(同前)
 システム社の関連会社で取締役を務め、中安と親しい東京大院の山本隆一特任准教授もこう指摘する。
「地位ではなく、人に褒められるような実績に執着を持っていました。事実、論文等もたくさん書いており、中途半端な大学の研究者より実績はあります」
 実績を積み重ねていくなか、中安は経済産業省のプロジェクトに携わっていたY社長と出会い、関係を深めていった。
「中安とY氏が知り合ったのは、約十年前のこと。その後はシステム社の会議にも顔を出し、Y氏に様々な形で助言を行なっていました」(前出・大学教授)
 システム社の山本行俊会長は「(中安と接点があるのは)Yさんだけ。(医療情報システムという)特殊な世界で、彼の営業力でここまでやって来た」と証言する。しかし、その営業力とは、中安への賄賂だったわけだ。実際、システム社は社員がわずか十五人という小所帯にもかかわらず、
「〇八年度から一五年度にかけて、中安が所属する部署が発注する七件、計十五億円超もの業務を受注しています。同社の売上の大半は厚労省や経産省など官公庁の契約事業です」(前出・社会部記者)
 JR大宮駅から車で十分ほどの閑静な住宅街にある中安の自宅。約四十坪の一戸建てで、〇二年に四千万円弱のローンを組んで購入したと見られる。バツイチで前妻との間に息子が二人いて、現在は再婚した妻と幼い娘との三人暮らしだという。近隣住民が語る。
「朝九時、十時という遅い時間にタクシーが迎えに来ていました。一年前までは、綾小路きみまろみたいなチョンマゲ姿だった。最近もモスグリーンのチェロキーに乗り換え、公務員にしては羽振りがいいなという印象でした」
 だが、今回の汚職事件は、中安一人の問題なのか。
「上司は一体何をしていたのか。情報政策担当参事官室長と室長補佐は、同じ部屋で机を並べているのです。勤務態度に疑問を抱かないほうがおかしいでしょう」
 そう憤るのは、元厚労政務官の山井和則衆議院議員(民主党)だ。十月十六日に開かれた民主党の部会では、上司の佐々木裕介情報政策担当参事官室長は「捜査中で回答は差し控えたい」と答えるばかり。
 部会後、小誌が佐々木室長を直撃したところ、
「十分に(中安を)コントロールできたとは言えませんが、コミュニケーションは普通に取っていた。国民の信頼を損なわないような服装をしなければなりませんが、(赤シャツが)一概に悪いとは言えない」
 さらに責任が重いのは、佐々木氏の前任室長、鯨井佳則援護企画課長だ。一二年九月から今年九月末まで三年間にわたり、室長を務めていたが、中安の振る舞いに見て見ぬフリを続けていたという。鯨井氏を官舎で直撃すると、「取材はお断りします」と繰り返すのみだった。
 厚労省は二十一日に外部弁護士らを加えた監察本部を設置し、事件の検証と再発防止策を検討するとしている。だが、監察本部スタッフはこう実情を明かす。
「監察本部には外部委員もいますが、あくまで省内の組織。報告書を出すだけで、その後のフォローアップは行ないません」
 五月に起きた年金機構の個人情報流出問題でも、メディアの追及に対して「第三者委員会で調査する」と逃げ続け、八月下旬、ひっそりと報告書を出した。
「この時も厚労省は、ウイルス感染の対応にあたった担当係長が一人で情報を抱えこんだということで調査を終えてしまった。組織として問題に向き合おうとしないのが、厚労省の体質なのです」(郷原信郎弁護士)
 自浄作用なき厚労省。このままでは、第二の「赤シャツ」が生まれかねない。

「週刊文春」2015年10月29日秋の特大号
 
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