東京・六本木で開かれた空手のPRイベント。
空手は先月末東京オリンピックの追加種目の候補に決まり大きな注目を集めています。
オリンピックに出れば金メダルに一番近いとされているのが日本のエース荒賀龍太郎選手24歳です。
もちろんオリンピックというのは夢の舞台ではありますしそこで金メダル取りたいと思ってます。
人呼んで…武器は目にも留まらぬ速さの突き。
おととしの国際大会で世界一に輝きました。
しかし今空手は海外勢が躍進。
本来の空手とは異なる変則的な戦い方に日本は低迷を余儀なくされています。
荒賀選手も去年の国際大会では…空手の本家日本のエースとして勝たなければならない宿命。
取り組んだのは空手の源流沖縄拳法の奥義です。
誰にもかわされない究極の攻撃。
徹底的にスピードを磨きます。
今年最大の国際大会。
究極のスピードで世界の壁を打ち破る事ができるのか?空手の神髄を追究する荒賀選手の戦いを見つめました。
おはようございます。
荒賀選手は2か月後に迫ったアジア選手権に向けて準備を進めていました。
エースとして日本を牽引する荒賀選手。
その素顔は恥ずかしがり屋です。
この日は強化選手が集められ日本代表を決める選考会が行われました。
始め!空手の試合は3分間。
突きや蹴りで多くのポイントを取った方が勝ちです。
ポイントを取れるのは顔や胸など色のついた部分。
アーイ!突きを決めると1ポイント。
アーイ!蹴りは2ポイント。
首より上に決まれば3ポイントです。
技は寸止めにします。
ボクシングのように相手にダメージを与えるのではなくいかに速く技を決めるかそのスピードが勝敗を分けます。
荒賀選手は上から2番目に重い−84kg級で戦います。
勝負始め!アーイ!アーイ!荒賀選手の突きは世界一速いといわれています。
アーイ!0.5秒の間に3発も繰り出します。
赤の勝ち!選考試合3戦全勝の成績を収めました。
おす!世界最強を目指す荒賀選手。
その試金石であるアジア選手権への戦いが始まりました。
日本発祥の武道空手。
1970年からは世界選手権が始まり日本は最強国として君臨していました。
しかし今や愛好者が世界で1億人にまで増え状況は一変。
新しい国際大会が次々と生まれ本来の空手とは異なる戦い方が行われるようになったのです。
一番の特徴は独特のディフェンスです。
赤の選手に注目。
大きく逃げ回るステップ。
そして青の選手。
大きく頭を下げて逃れるダッキング。
攻撃的精神が重んじられる日本では好ましくないとされています。
更に変則的な攻撃。
青の選手。
突きと見せかけて相手の拳を払いました。
独自の進化を遂げた海外勢の空手を前に日本は長らく世界最強の座を奪われてきました。
そこに現れたのが荒賀選手でした。
スピードある突きで海外勢につけいる隙を与えません。
おととし第2の世界選手権といわれるワールドゲームズで優勝。
日本にとって12年ぶりの金メダルをつかみました。
誰でも見てて分かるハッとなったところをしっかりポイントを狙えてるっていうのが一番理想の突きなんですけど。
一躍日本空手界の救世主となった荒賀選手。
空手をしている子どもたちの憧れの存在です。
負けんなよ。
フフフ返事は?いいかな?
(一同)はい!子どもたちのお目当てはあの突きです。
(拍手)スピードが速くてキレが違いました。
ピストルの弾が飛ぶみたいに速かった。
自分が活躍する事で日本の空手を更に盛り上げていきたいと考えています。
アーイ!世界一速いといわれる荒賀選手の突き。
一体どんなものなのか。
アーイ!アーイ!まず相手が突きを繰り出します。
これを察知した荒賀選手。
後から動き出したにもかかわらず相手よりも速く顎に突きを決めました。
荒賀選手が動き出してから相手に突きを決めるまでの時間は僅か0.39秒。
後ろ足を強く蹴り出すと同時に拳を最短距離で突き出しています。
一直線の無駄のない動きが驚異的なスピードを生み出しているのです。
この攻撃は先の先と呼ばれています。
先に攻めてくる相手を先んじてしとめるカウンターです。
先とは空手では攻撃の事です。
攻撃に対し攻撃で返す。
これこそが空手の極意です。
おはようございます。
荒賀選手は誰よりも厳しい練習で非凡なスピードを身につけてきました。
練習の拠点は母校京都産業大学。
大学日本一に3回も輝いた強豪です。
気合い入れて10本。
アーイアーイ!腰にチューブを巻いて負荷をかけての突き。
スピードの源となる足腰を徹底的に鍛え上げます。
そのあとは実戦形式の練習。
厳しいトレーニングは3時間続きます。
大学から帰っても練習は終わりません。
父正孝さんが代表を務める荒賀道場。
ここでも更に3時間の練習を続けます。
突きを繰り出す練習を誰よりも多く重ねる事で無駄な動きがそぎ落とされ究極のスピードを身につけていったのです。
空手一家に生まれた荒賀選手。
父は世界選手権母は国体に出場。
姉と弟も日本代表選手です。
そんな環境の中で3歳の時当たり前のように空手を始めました。
しかし当時は気弱な子だったといいます。
私の後ろに隠れてるような子だったんでバスに乗って幼稚園行くんですけど初めての日に青ざめてました。
バスのドアが閉まったら…。
フフッ。
荒賀選手が大きく変わるきっかけとなったのは中学1年生の時の全国大会でした。
準決勝の相手は3年生身長は20センチも差がありました。
圧倒的な体格差。
攻める気持ちを失っていました。
荒賀選手は試合を見た正孝さんから大人を相手に練習するよう言い渡されました。
自分より何倍も大きな相手。
後退すると「下がるな!」と叱られました。
下がるのは攻撃しながら下がるのと逃げながら下がるのと全然違うんですよね。
メンタル的なものがやはり覚えてほしかったっていう事。
倒されても倒されても向かっていく日々。
そしてある日自分の変化に気付きました。
荒賀選手は厳しい練習を積み重ねる中で空手で最も大切な攻める気持ちを身につけていったのです。
荒賀選手は空手の最高峰世界選手権での優勝を目指してきました。
しかしまだ成し遂げていません。
海外勢に研究され本来の攻撃が封じ込められたのです。
去年の世界選手権決勝。
相手は荒賀選手のカウンターを警戒して防御に徹してきました。
荒賀選手が前へ出ても攻めてきません。
得意の先の先が出せない。
相手が攻めてきて初めて可能となる技だからです。
業を煮やして先に攻撃。
圧倒したように見えますが相手に1ポイント。
大きく逃げられ突きが届きません。
そして大振りになったところを狙われたのです。
世界選手権。
2大会連続で決勝で敗れました。
2位って…負けて終わるじゃないですか。
3位は勝って終わるじゃないですか。
敗者復活があって。
3位決定戦があるんで。
2位っていうのがいっちゃん悔しいなあって。
本当に悔しかったんで次こそは…。
アジア選手権が1か月後に迫ったこの日。
世界最強と目される強敵が出場する事が分かりました。
その選手は荒賀選手が世界選手権で負けた相手を打ち破ったというのです。
この次のコーナーな。
次のコーナーでここでダッキングしよるから。
強引にいった時ダッキングしよる。
ポーシェイブ・ザビオラ選手。
世界選手権で団体優勝したイランのエースです。
荒賀選手が負けた相手との試合。
赤のザビオラ選手は大きく逃げ回って防御に徹しています。
そしてダッキング。
外国人特有のディフェンスを極めています。
攻撃ではトリッキーな技を次々に繰り出します。
変則的な突き。
膝で防御。
更に両手で相手をつかんで引き倒して突き。
日本の空手ではほとんど見られない技ばかりです。
世界最強になるためには倒さなくてはならない相手です。
自分に自信が持てるまでしっかり練習して。
いくらポイントを取られても取り返せる自信があれば焦る事もないでしょうし…。
荒賀選手は特訓を開始しました。
相手は全日本3位の実力を持つ…仮想ザビオラ選手として防御に徹する戦法をとってもらいました。
いつもなら当たる突きが当たりません。
次は…。
よけられて突きを食らいました。
世界選手権と同じ形です。
出すのはいいねんけど…。
穴を埋めていくというか…。
自慢のスピードは防御に専念されると通用しない事が分かったのです。
一体どうすればいいのか。
荒賀選手は父正孝さんにアドバイスを求めました。
用意したのは過去の試合の映像です。
正孝さんは負けた試合ではなく勝った試合の映像を見始めました。
海外勢をスピードで攻め抜く荒賀選手。
速い突きを入れるというね。
「攻める気持ちを忘れるな」。
父のメッセージでした。
大会まで1週間。
この日荒賀選手は大阪に向かいました。
更なるスピードを身につけるヒントを得るためです。
教えを請うたのは沖縄拳法の師範…空手の源流は古来から沖縄に伝わる拳法にあります。
山城さんは三大流派の一つとされるとまり手の継承者です。
(山城)意識としては…山城さんは荒賀選手の突きをじっくりと観察する事から始めました。
ちょっとこっちに向かって打ってもらっていい?人って相手が攻撃してくる手を見てる事は絶対ない。
手は見てない。
何を見てるか。
あなたの…この崩れが今まではスピードでかわしきれてたけど…山城さんは対戦相手は荒賀選手の肩を見ていると指摘しました。
相手から見ると肩は突きを出す瞬間上下するリズムが変わりせり上がってきます。
突きを出す直前の右肩の位置はここ。
それがせり上がってここまで来ています。
後ろ足の強い蹴り込みがどうしても体を上に持ち上げてしまうからです。
そこで山城さんは沖縄拳法の形を教えました。
体の上下動を抑えて動く練習。
これを繰り返し肩がせり上がらないようにします。
今度は肩に余計な力が入っていると指摘されスムーズに動くようにする運動も行いました。
そして2時間後。
おおっ!全然違う突きの感覚が。
指導前と比べると右側の指導後は右肩の位置がほとんどせり上がらなくなりました。
そのため相手は突きに来る瞬間が分かりにくくなりスピードが速くなったと感じるのです。
これを身につければ防御に徹する相手にもよける事ができない突きを決める事が可能になります。
先の先を上回る究極の攻撃先です。
ありがとうございました。
面白いな。
ハハハッ。
いやすごいわ。
ヒントをつかんだ荒賀選手。
更に練習を重ねました。
目指すのは世界最強。
最後まで攻め抜いて優勝する覚悟です。
決戦の舞台横浜。
アジア選手権に参加するのは33の国と地域の258人。
世界トップクラスの選手たちが頂点を争います。
荒賀選手の1回戦。
持ち前のスピードを生かした攻撃。
順当に2回戦に駒を進めます。
強敵ザビオラ選手も1回戦を突破。
2人は早くも2回戦で相まみえる事になりました。
世界の頂点に立つためには絶対に負けられない相手。
事実上の決勝戦です。
試合開始。
序盤ザビオラ選手は守りに徹してきました。
一瞬世界選手権で負けた光景が頭をよぎりました。
動けない両選手。
審判から注意が与えられます。
そして…。
荒賀選手のカウンター。
しかし膝を上げてブロックされました。
日本の空手にはない変則技です。
その直後…。
突きで1ポイント先制されます。
リードしたザビオラ選手再び守りに入ります。
攻める荒賀選手。
ダッキング。
更に大きく上体をそらして突きをかわされました。
それでも焦りませんでした。
そして…。
練習してきた先。
相手を逃しませんでした。
試合を振り出しに戻しました。
このあと互いに1ポイントずつ重ねて2対2。
残り40秒を迎えた時でした。
踏み込んだところにザビオラ選手の上段蹴り。
ブロックしましたがザビオラ選手に3ポイントが与えられました。
残り38秒で3ポイントを追う苦しい展開。
それでも攻める気持ちを忘れませんでした。
ひたすら前へ。
荒賀選手に1ポイント。
相手に防御の姿勢をとらせずスピードで攻め続けました。
残り23秒。
あと2ポイント。
究極の先。
ザビオラ選手に反応させませんでした。
土壇場で練習の成果が出ました。
残りは21秒。
あと1ポイント。
たまらず突きを出してきたザビオラ選手。
持ち前のスピードでしとめました。
ついに同点。
そして…。
(ブザー)試合終了。
判定にもつれ込みました。
(笛の音)3対2で荒賀選手。
攻め続けたゆえの勝利でした。
その後も決勝までスピードで攻め抜いた荒賀選手。
(歓声)優勝を決めました。
しかしこれで満足してはいません。
その目は来年の世界選手権を見据えていました。
そこを…そこだけを見て頑張ります。
荒賀龍太郎選手24歳。
目指すは世界最強。
更なる高みへ。
己を磨き続けます。
2015/10/22(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「速さこそ神髄 空手 荒賀龍太郎」[字]
東京五輪の追加種目候補の空手。日本のエースが荒賀龍太郎選手。体格とパワーで勝る中東や欧州の選手に最大の武器であるスピードで立ち向かう。荒賀選手の強さの秘密に迫る
詳細情報
番組内容
東京五輪で正式採用されれば、金メダルに最も近いと期待される24歳の荒賀選手。スピードを武器に、一昨年、第2の五輪と言われるワールドゲームズで世界一に。しかし、去年の世界選手権では、まさかの敗戦。海外勢に戦法を徹底的に研究され、カウンター攻撃にやられた。今、進化への挑戦を始めている。さらにスピードを磨き、相手が対応できない究極の突き。成果は9月のアジア選手権で試される。荒賀選手の戦いの日々に密着。
出演者
【語り】杉本哲太
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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