東京駅お忘れ物預り所 2015.10.22


(兵藤敦夫)ご苦労さん。

(片岡康浩)社長そろそろお時間です。
全て確認を入れておきました。
まずは14時より東京中央百貨店向井部長。
続きまして15時30分より…。
(兵藤和晃)珍しいですねぇ。
夫婦揃って東京なんて。
同窓会に出るんですって?どういう風の吹き回しで?
(兵藤澄子)いらしてたのね麻美さん。
お仕事は?こんなにしょっちゅうこっちへ来てていいの?
(木村麻美)モデルの仕事はもう辞めたんです。
結婚したら和ちゃんに尽くしてあげたいし赤ちゃんだってすぐに欲しいしね。
奥様お待たせしました。
さあ。
明日には戻ります。
はい。
会社の事は任せてゆっくり楽しんできてください。
もう限界だわ。
和晃の事です。
元はと言えばあなたがあの人を…。
(敦夫)何を言ってるんだ。
お前だって納得したはずだろう。

(片岡)それでは気をつけていってらっしゃいませ。
(望月幸平)
首都東京の表玄関JR東京駅
1日の平均乗降者数およそ百万人
これだけ多くの人々が行き交えば落とし物お忘れ物の数もまた半端ではなく…
もしかして…これですか?あった!これですこれ!
(大口康夫)かわいいですね。
お子さんのですか?何言ってるんですか私のですよ。
よかったよかった。
帰ってきてくれて本当によかった。
ん〜まっ!ありがっした〜。
(嶋田福男)世の中色んな人がいるからねえ…。
落とし物にはその人その人の個性がそして時には人生そのものが映し出される事もある
お忘れ物預り所では今日もたくさんの忘れ物たちがあなたの迎えを今か今かと待っているのです
(床に落ちた音)ああーあっ!
(箕島早紀)すいません。
髪留め届いてませんか?
(村尾由希子)髪留めっていうと…ヘアアクセでしょうか?バレッタとかシュシュとか?
(早紀)これくらいの大きさの赤いゴムがついた髪留めです。
飾り部分が陶器で出来ているんです。
陶器の髪飾り。
そりゃまた珍しいね。
どこで落とされました?電車の中かそれとも…。
ついさっき八重洲口の洗面所で鏡を見た時はちゃんとあったから…。
そのあと駅の構内でなくしたのは間違いないんです。
どうしよう…今日はあの髪留めがないと…。
今のところはまだお届けは…。
よかったらこれから一緒に捜しにいきましょう。
え?早ければ早いほど出てくる可能性高いですから。
でももう私時間が…。
あ…とにかくこちらに連絡先を。
どうするんだ?同窓会が終わったあとは。
心配しなくてもあなたのお邪魔はしません。
遠慮なく朝まで好きなようになさって。
いつものように。
社長!兵藤さん!3週間待ち遠しかった。
そうか。
八重洲口のトイレ出て…。
ねえねえお仕事終わったらお店に来てくれる?もちろん行くよ。
ほんとに?よかった。
(拍手)では改めまして結婚記念日おめでとうございます。
おめでとうございま〜す!あ〜。
(嶋田満江)あ〜あもう10年か…。
あ…まだ10年って気もしますけどね。
(大口)アハハハハ…。
いやその10年のうちにね一緒に暮らしたのはね…。
いじましいわね。
自業自得でしょ!だからほんっとうになんにもしてませんって。
馴染みのスナックでねつい眠たくなっちゃってさそれでハッて気がついたらねママが俺の上に乗っかってた…。
誰が信じるもんですかそんな話!ちょちょちょちょ…!まあそのぐらいにして。
今日はこの機にねせっかくですから仲直りしちゃってください。
そうですよ。
お二人の別居解消を願ってみんなで企画した会なんですから。
あの一度馴れ初めを聞いてみたかったんですけどどうして助役のような立派な方がこんな「ヒマ田さん」なんかと…。
ちょっと…なんかっつった今?なんかって。
え?しかもさ「ヒマ田さん」っつった今?そんな失礼な事言いませんよ。
嶋田さん。
正直私もわからない。
なんでこの人と一緒になったのか…。
毎日仕事が楽しくて順調に昇進してなんの不満もなかったのに…。
どけよ!あっはいはい…。
ちょっとさいいかい?人生ってそれだけじゃないでしょ?女性にはね温かく抱きとめてくれる胸が欲しいんですよ。
ね?一見さ満たされたように見えたあなたにはねどこか寂しげな影があったんだよ。
なるほど!こうやってしつこく口説いたわけですね。
10年前に。
しつこくなんかしてませんよ!あなたね僕の中年の魅力にさこの人はコロッといったんだ。
ねえ。
今となっては魔が差したとしか言い様がないわ。
魔が差した…?もっと色々思い出してみたらどうですか?2人きりで当時の事。
それがいいですよ。
うん。
僕らは早めに切り上げますから。
カメラカメラカメラ!ああ撮りましょう撮りましょう。
じゃあ2人くっついて。
仲のいいとこ撮りましょう。
じゃあもうちょっと2人くっついて頂いてよろしいですか?くっつけって。
くっつけって。
(大口)もっとくっついて…!笑ってください笑ってください。
いきますよ!
(大口)はいチーズ。
笑ってって。
あれ?あっ!ああ…。
昼間東京駅にお忘れ物預り所で。
ああ!髪留めまだ見つかってなくて…。
これから駅に戻ってもう一回捜してみようかと思ってたところなんですよ。
もう遅いわ。
今さら見つかっても…。
え?大事なものなんじゃ?ねえこれから一杯付き合ってくれない?はい?私無性にお酒が飲みたい気分なの。

(店内の音楽)あああ!チューしてる!チューしてる!!チューしてますよ。
(シャッター音)アハハ。
笑える今の顔。
ねえねえ一緒に撮ろう?ああ…え?え?いくよ。
はい。
はいチーズ!はい。
はい次私の番。
はいわかりました。
はい。
じゃあ…あっこっちか。
じゃあいきます。
はいチーズ。
ありがとう。
あれ?牛ですか?うん。
なんとなくつけてるの。
干支が丑だから。
ああ丑年ですか。
ていうかさ座ってるだけじゃつまんなくない?踊らない?いや…いやいやそれはちょっと。
ちょっと踊ろうよ。
いやいや無理だって!勘弁してくださいよ!最近太って体が重いの!いいだろ!やだやだやだ〜!
(チャイム)あ…!
(サイレン)
(谷山刑事)同窓会のあとはどうされました?
(澄子)同窓会がお開きになったのが9時半くらい。
そのまま親しい友達2人と会場のホテルに泊まったんです。
(谷山)それは初めからのご予定で?ええ。
前もって部屋を予約して。
(森川刑事)昨夜若い女がマンションを出て行くのが目撃されています。
一見したところ水商売風。
かなり慌てた様子だったそうです。
時間は?9時過ぎです。
何かお心当たりは?いえ…申し上げにくいんですが主人はちょっと女性関係に問題があって…。
あ〜…飲みすぎて頭痛ぇ〜。
ありがとうございました。
(机を叩く音)しっかりしてください!もうお昼過ぎですよ!2人揃って朝から締まりのない顔して。
さては嶋田さんお疲れですね?久々に助役と仲直りしてこの…肉体的な疲労が。
そのつもりだったんだよほんとは。
2人で一緒に帰ってさそのまま家に入れてもらってごにょごにょ…って思ってたんだよ。
あなたはここまで。
あ!ねえいいじゃないのよ。
せっかくさ奴らがお膳立てしてくれたんだからさ。
ね?大体さ不経済でしょ?せっかくこんな立派な家がありながらね毎月毎月さアパート代払って。
それにねあなたにくらべると僕の給料安いからさ…ね?だから行こう行こう。
はい行きましょう。
何?不経済?だから別居解消したいですって?あなたの気持ちよ〜くわかりました。
ふんっ!かみさんなんか言ってたか?ゆうべは遅かったですしギリギリまで寝てたもんですから…。
うっ…!大丈夫か?大丈夫か?
(谷山)すいません。
こちらに望月幸平さんいらっしゃいますか?はい。
はい。
私が望月ですけど…。
な…何か?失礼ですが昨夜はどちらにいらっしゃいました?はい?実は殺人事件の裏づけ捜査でして。
(3人)殺人事件!?午後9時から11時の間箕島早紀という女性があなたと一緒だったと言ってるんですが間違いありませんか?
(森川)この女性です。
何度も言ってるじゃないですか!私はその時間この人と2人で飲んでたって。
9時頃会って11時過ぎに別れた。
そうおっしゃってましたよね?そうです。
望月幸平さんですがあなたと一緒だった事は認めています。
ただし会ったのは10時近かった。
そう言ってるんですよ。
被害者の死亡推定時刻は午後8時からおよそ1時間前後の間。
つまりあなたには十分殺害可能という事になる。
違います。
私殺してなんか…!だって…。
社長?
(早紀の声)私がマンションに行った時にはもう…。
(谷山)認めるんですね?マンションに行ったのは。
あなたのせいで殺人事件の犯人にされるかも。
ねえどうして話合わせてくれないの?警察に嘘をつくわけにはいかないですよ。
ふ〜ん平気なんだぁ。
自分の言った一言が人の人生狂わせる事になっても。
あの…兵藤製陶の片岡と申しますが兵藤敦夫の事で谷山刑事から連絡頂きまして…。
どちらへ行けばよろしいでしょうか?あ!あ…!あっどうも。
あなたは…。
片岡さん!来てくれたのね。
奥様遅くなって申しわけありません。
この人は?
(片岡)あっ…ああ。
社長のお供で銀座のお店で。
銀座の?あなたね?あなたが主人を…!殺してません。
私じゃありません。
奥様!何するんですか!あのマンション主人が東京出張のお楽しみに使ってた…。
あなたもそういう女の一人なんでしょ?勝手に決めつけないでよ!ちょっと…!もうもうもう帰りましょう。
離してよ!あの人を連れ戻して!どうして帰すのあのホステスを!箕島早紀は参考人です。
現時点では勾留出来ません。
箕島早紀…。
ちょっとちょっと…!ひどいあの奥さん!いきなりひっぱたくなんて。
無理ないですよ。
突然ご主人亡くされて普通でいられるわけがないもん。
やっぱりあなたも私の事疑ってるんだ。
おうちには誰かご家族が?どうしてそんな事?だって心細いでしょ?こんな事があって。
そこまで心配してくれるんだったらいっそあなたの家に泊めてくれる?え?嶋田さん!ああ幸平。
ちょうどいいところへ。
あのさなんとかとりなしてもらえないかな?かみさんにさ。
え?え?…あれ?どうも。
(満江)だって殺人事件の容疑者なんでしょ?そんな人をうちに泊めるなんて…。
容疑者じゃなくて参考人です。
どっちにしたって同じじゃない。
いやしかしさ一人にしとくと危ないじゃないの。
急にね罪の意識に苛まれてさ…それで手首切っちゃったりさ首くくっちゃったりして。
ていうかあんたどさくさにまぎれて何あがりこんでんのよ。
いやいやだって心配だもん。
幸平君女ってしたたかなものよ。
あなた人がいいんだから気をつけないと。
おい何やってんだよ。
おいお鍋がほら!泊めて頂くお礼に何か作ります。
おう出来た出来た。
はいいただきますよ。
ああうまい!こんなうまい飯今まで食べた事がないよ!いやこれね久しぶりっつったんですよね。
ええ。
久しぶりだなぁ〜こんなおいしい家庭料理。
まあ確かにたいしたものよね。
うちにあった材料でこれだけちゃちゃっと。
いえ。
去年まで荒川区のほうで小さな料理屋をやっていたから。
母と2人で。
ふ〜んお母さん仕込みか。
どうしてやめちゃったの?急に母が亡くなって。
お店を始めた時の借金がまだ残ってたから…。
そうかそれで転身したんだ夜の蝶にね。
苦労したんだねぇ…。
変な同情しないでください。
殺された社長さんってその銀座のお店のお客さんだったのよね?疑われても仕方がないんじゃないの?夜一人でマンションを訪れるような関係だったとすれば。
そんなんじゃないんです。
ただどうしても見てもらいたいものがあって行くって約束を。
見てもらいたいもの?それを昨日東京駅で落としちゃって…。
えっ?じゃあ例の陶器の髪留めが?信楽焼で結構古いものだって聞いてたから…価値がどれくらいのものか知りたくて。
なんでよ?だからさねえお願いだから今晩一晩だけだって言ってるじゃない。
ね?ちょうど2時間きっかり。
時間制になっております。
大体ねおかしいと思うんだよね。
主の僕がいないこの家でねなんでさ幸平とあなたはさ一緒に暮らしてるの?そんな事思ってたの?最低!だってさ世間の目ってのもあるでしょ?世間体なんてどうだっていいの!本当に帰りたかったらもっとちゃんと言うべき事を言いなさい!世間体どうでもいいの?あっそう?行っちゃうよそれじゃあ。
寂しいなぁ…。
布団部屋に用意しといたから。
いいご夫婦ですね。
え?ケンカしてるのになんとなくあったかい。
いつもそうやって包丁を?素材道具それに器。
料理は腕も大事だけどそれだけじゃ本物の味は出ないって母がよく言ってた。
(携帯電話)すいません。
はい。
話したい事があるんですけど今からホテルへ来て頂けないかしら?会って一体何を?ちょっと…もしもし?
(電話が切れる音)どうしたの?兵藤さんの奥さんが今から会えないかって…。
まさか行くつもりじゃないよね?相手は君を疑って恨んでる。
話があるんだったら警察通してもらったほうがいいよ。
そうね…。
そうよね。

(満江)幸平君起きて!ねえ!わっ…!あーびっくりした!おはようございます。
おはようじゃないわよ。
早紀さんがいなくなった。
それだけじゃないの。
包丁が1本なくなってるの。
「この電話は電源が入っていないため…」通じない…。
電源切ってるんだ。
兵藤夫人の宿泊先ですか?ええ。
まだ東京にいらっしゃいますよね?今朝早く発ってとっくに信楽に帰ったはずですよ。
会社を人任せにしておけないからって。
信楽…。
ねえ幸平君!今朝早紀さんが新幹線口へ向かうの大口君が見たって。
え?はい間違いありません。
有給休暇取らせてください。
これから信楽に行ってきます。
本気なの?望月さん。
奥さんが彼女に危害を加えないとも限らない。
それに早紀さん刃物を…。
あの人あなたを利用してアリバイの偽証までさせようとしたんでしょ?どうしてそんな人のために休みまで取って…。
そうですよ。
人がいいにもほどがあります。
人一人殺されて何が起きてもおかしくない状況なんだよ。
嶋田さんお願いします。
いや…お願いって言われても…。
アハッ…ねえどうしましょうね助役。
いいわ。
昨日のお食事に免じて1日だけ特別に許可します。
あのーこれって…?
(車掌)盆梅列車といいまして信楽高原鐵道では毎年2月から3月にかけて梅の盆栽を展示して皆様に楽しんで頂いているんです。
そうですか。
へえ〜。
でかっ!すげえ!おうっ!ご旅行ですか?ええまあ…。
至るところ狸だらけですね。
信楽焼いうたらやっぱり狸だから。
「八相縁起」いいましてねこの笠にも腹にも徳利にもみんな大事な意味があるんですよ。
「思はざる悪難災難さける為用心常に身をまもる笠」へえ〜。
これ髪留めですか?値段もほどほどやし結構人気あるんですよ。
もう少し大きくて作りの凝ったものは?ああそういうもんなら田辺はんが詳しいんじゃないかな。
この先に工房があるますさかいそっちで聞いてみはったら?あっちょっと…。
ここですわ。
どうぞ。
ありがとうございます。
これなんて読むんですか?楽斎窯ですな。
すいません。
この楽斎窯ってあっちでいいんですよね?はい。
ありがとうございます。

(片岡)納品のほうは間違いなく期日どおりに。
ええはい。
よろしくお願い致します。
失礼します。
社長が殺されても仕事はいつもどおり。
薄情なもんね。
それがビジネスというものですよ。
ねえもしかして奥さんじゃない?だから社長を殺した犯人よ。
何をおっしゃるんですか。
だって和ちゃんが言ってたんだもん。
同窓会なんか行った事もないのに急に東京に親父さんにくっついていくなんておかしいって。
もしかして最初からこの機会を狙って…?めったな事を口にするもんじゃないですよ。
何かご用ですか?あっすいません。
あれ?あっちょうどよかった。
片岡さんですよね?はい。
昨日東京の警察でお目にかかってます。
はあ…。
どうしてわざわざ信楽へ?箕島早紀さんが奥さんに会いにこちらに来てるんじゃないかと。
刃物を持ってるんで心配で…。
刃物を?ちょっとお待ちください。
奥様なら社長室に…。
おふくろさんだったらさっき血相変えて出かけていきましたよ。
和晃さん奥様はどちらへ行かれたんですか?さあ?またぞろ警察沙汰にでもならなきゃいいけど…。
和晃さん…。
ここにいたんだ和ちゃん!ん?なあに?どうしたの?なんでもないよ。
捜しに行きましょう。
お願いします。
(片岡)あっ太郎さん。
うちの奥さん見なかったかな?いや知りまへんな。
そう。
じゃあ見たら教えてね。
あっすいません。
私川沿いを行きますからあなた申し訳ないですが町のほうをお願いします。
あっはい。
それじゃあ。
あっあのすいません。
どこで待ち合わせますか?じゃああの…陶芸の森で。
陶芸の森。
わかりました。
逃げたのかと思ったわ。
逃げたくなかったからここまで来たんです。
私は犯人じゃありません。
それを確かめに来たんでしょ?あなた自分から主人に近づいたのよね?え…?もしかして最初からあの人の命を狙おうとして…。
(片岡)いけません!早紀さん!ちょっと…。
あなたどうしてこんなものを…!?私は殺してません!ご主人とはほんのたまたまホステスとお客として知り合っただけでそれ以上でもそれ以下でもありません!
(澄子)嘘よ!
(片岡)奥様戻りましょう。
さあ。
おせっかいな人ね。
放っておけるわけないでしょ。
こんなものまで持ち出して…。
会うのは危ないってあなたが言うからでしょ。
でも…あれ以上なんか言われたら私本当に刺してたかも…。
早紀さん…。
そうだ。
さっきね土産物屋でこれ…。
髪留め…。
でも違う。
私が持ってたのは作りもデザインも違うわ。
こういうものに詳しい人がいるらしいんですよ。
ちょっと行ってみませんか。
どうして?人がいったん手にしたものにはその人の気持ちが移る。
心が入り込むんです。
だから落としたものが見つかればそれが一番いい。
でももし少しでも似たものがあれば心が慰められるって事ありますよね?あのーちょっとお尋ねしたい事があるんですが…。
(田辺勲)作業中だ。
用があるんなら待ってろ。
さっき言ってた髪飾りな昔俺が作ったものかもしれん。
えっ本当ですか?あんた一体どこで手に入れた?それは…もらったものなので詳しい事は…。
いい時代だった。
土から形を作り上げ窯に火を入れ一つ一つ自由に作らせてもらってた。
独立されたんですか?そんな結構な話じゃないよ。
クビだ。
放り出されたんだ。
これからはちまちま手作業なんかで作ってる時代じゃないってな。
大勢の職人を犠牲にしてもうけ主義に走った揚げ句に殺されちまった…。
救われないな。
もしかしてそれ兵藤社長の事ですか?あんたたちあいつを知ってるのか?ええまあ…。
創業200年の大事な時期に社長さんが亡くなって大変でしょうね兵藤製陶は。
まあ前途多難だな。
一応跡取りはいる事はいるが…。
確か和晃さんって…。
奴とはそのために養子縁組したようなもんだ。
養子?敦夫自身も婿養子だから似たようなもんだがな…。
社長も息子も2人共養子なんですか?
(田辺)200年続いた血筋を絶やさないというのがあのうちの誇りだった。
だが先代の社長の子供は娘の澄子さんひとりきりだ。
それで先を心配して遠縁の沢井家から婿養子を迎えた。
それが…殺された社長の兵藤敦夫さん。
(田辺)だが2人には一向に子宝が授からなかった。
業を煮やして探し回った揚げ句今度は沢井家の遠縁の和晃君を…。
だが俺に言わせりゃただしがみついてるだけだ。
伝統ってのはな血じゃない技術だって事があいつらにはわからないんだ。
ほんとにそうね。
今時血筋血筋って…バカみたい。
(澄子)改めて読んでみたのよこの手紙。
奥様…。
どうしても確かめずにはいられなかった。
あの人の本心を。
(大口)怪しいですねその奥さん。
早紀さんだって相当怪しいわよ。
ただ早紀さんは兵藤さんと男女の関係にはなっていないと言ったから殺す理由はないと思うんだけどさ…。
じゃあ何かあるのよ別の動機が。
別の動機って?わからないけど奥さんも何か思い当たる事があるんじゃないの?それでお互い腹の探り合いをしている。
信楽だけに狸と狸の化かし合い。
なんちゃって〜。
ちなみにそれ縁結びの狸ですよ。
雄の狸は助役に渡してありますから早く2つ並べられるように頑張ってください。
あなた…。
お前…。
(2人)ん〜…。
うわ〜!幸平君その和晃っていう養子はどうなの?あんまり良好な親子関係とは言えない様子でした。
でもさわざわざ義理のお父さんを殺さなくたっていつかは自動的に社長の座が転がり込んでくるんでしょう?割り切った義理の関係だけにその「いつか」が待てないって事もあるんじゃない?他にも急ぐ理由があるかもしれないし…。
なんだろう?急ぐ理由って。
お金とか女とか。
(満江)んっ!早紀さんのお店に?シーッ!幸平だってさ気になるでしょ?あの子の事。
そりゃそうですけど…。
でも銀座ですよ。
高いですよ。
いやそれはわかってるけどさ…。
いいんですか?狸さんの片割れほっぽってそんなところへ遊びに行って。
いや遊びに行くわけじゃないよ。
だってさ昼間みんなで推理し合ったでしょ?それを本人に直接ぶつけてみてね…。
ついでにきれいなお姉さんたちと仲良くなれたらいいなみたいな。
それだよそれだよそれだよ。
嶋田さん!助役には内緒。
内緒だからね!幸平割り勘ね。
行くよ。
いやちょっ…。
最初に料金システムちゃんと聞きましょう。
そんなのどうでもいいよ。
あ〜あこれじゃ氷の心が溶けないわけだ。
フン!さあ飲んで飲んで。
(ホステス)いただきま〜す。
ごちそうになります〜。
どうぞどうぞ。
ところでね今日は早紀ちゃん来てるかな?早紀ちゃん?箕島早紀さん。
ああリエコさんの事?えっリエコ?彼女の源氏名。
あの子辞めちゃったんですよ。
っていうかもう来る必要もないわよね。
兵藤社長が死んじゃったんじゃ。
それってどういう意味?月に一度か二度兵藤さんが来る日だけは皆勤賞。
あとは気も入らないし休みも多かったし…。
兵藤さんが殺された日だって兵藤さんが来ないってわかったらすぐに早退しちゃったしね。
そういえば最初すごいアピールしてたっけ。
リエコです。
私リエコって言うんです。
リエコ…。
いい名前でしょ?リエコって。
あの子が殺したんじゃないわよね。
最初から狙って近づいたんだったりして…。
(2人)怖〜い。
ああ怖い…怖いよ〜。
なんだよ…。
そんな縁起でもない事やめてさ楽しく飲もうよ。
ね?
(和晃)正式に社長になればもっと自由に会社の金が動かせるように…。
(ドアの開く音)
(和晃)あとでまた。
お帰りでしたか。
気がつかなくて…。
いい機会だからはっきり言っておきます。
あなたを兵藤製陶の次期社長にするつもりはありません。
どうしたんです?急に。
冗談でしょ?ついでに養子縁組も離縁手続きをとろうと思ってるの。
そのつもりでいてちょうだい。
そんなバカな…!頭下げてうちへ来てくれって頼んだのはそっちじゃないか!このままじゃ歴史ある兵藤製陶の血筋が途絶えてしまう。
どうか助けてくれって床に頭こすりつけて…!そのために俺は決まってた就職口まで棒に振って…!それなりの慰留金は差し上げます。
それでも気に入らないなら裁判でもなんでも起こしてもらって結構よ。
ふざけやがって…!ああー!「おふくろの味りえ子」
(早紀)去年まで荒川区のほうで小さな料理屋をやってたから。
母と2人で。
あのすいません。
この店ってもしかして去年まで…?ああ感じのいい店だったよ。
美人のママが娘と2人でやっててね。
この「りえ子」って名前は?ママの名前。
亡くなっちゃったんだけどねかわいそうに…。
あっそういえばこの前も男がこの店の中をのぞき込んで手を合わせて泣いていたように見えたなあ。
のぞき込んで泣いていた男?あのー…。
あっやっぱり!確か…和晃さんの彼女さんですよね?何してるんですか?こんなところで。
早紀さんに何か?あなたこそなんなんですか?早紀って人の。
恋人?い…いや僕は…。
だったら言っておいてください。
兵藤家の財産を横取りしようったってそうはいかないって。
兵藤家の財産?遺産ももらえない。
社長にもなれない…。
それじゃあ和ちゃんがかわいそう!あっちょっとちょっと…ちょっと待ってください!
(早紀の声)「初めてお手紙を差し上げます」「訳あって箕島と名乗っていますが私はあなたと母・榎本理恵子の間に生まれた娘です」
(鐘の音)あなたの事調べさせてもらったわ。
あなたは夫の…兵藤敦夫の娘なんですってね。
(澄子)あなたその事を夫に娘であるっていう事を突きつけたかったんでしょ?それであの人に近づいて…。
だとしても死んでしまったんじゃなんの意味もないわ。
それとも奥さんがご主人の代わりに私の願いをかなえてくださるんですか?
(携帯電話)あの女か?俺の後釜。
聞いたんだよ片岡に!あの女は別れた恋人が産んだ親父さんの娘だって。
兵藤家に直接繋がってる親父さんの子なら確かに俺よりずっと血縁は濃い!だから俺をお払い箱にしてあの女を…!当然じゃないかしら。
当然…?そもそも主人が死んで一番得するのはあなたでしょ?あなたが主人を殺した…そう思われても仕方がないじゃない?俺が親父さんを殺しただと…?どっちにしてももうこの家にあなたの居場所はない。
身の振り方を考えなさい今すぐに。
(犬の鳴き声)え…?
(片岡)和晃さんどうしてあなたまで…。
私のせいだわ。
私がこの人を追い詰めたから…。
(アナウンサー)「今朝早く滋賀県甲賀市内の神社で自殺死体で発見された兵藤和晃さんは先週東京都内のマンションで殺害された兵藤製陶社長兵藤敦夫さんの養子で警察では…」なんだかややこしいなあ。
要するにお父さんを殺して社長になろうとしたけどもうまくいかなくて自殺したって事みたいですね。
ドロドロの女の争いかと思ったら案外簡単にケリついちまったね。
(アナウンサー)「犯人はまだ見つかっておらず現在も捜査は続けられています」「警察の捜査では事件当日兵藤さんは午後5時頃に取引先の百貨店を出て帰宅そしてその後何者かが兵藤さんの部屋に押し入り兵藤さんを殺害…」
(チャイム)
(小野刑事)箕島早紀さんですね。
(浜口刑事)信楽署の者です。
(麻美)私は和ちゃんのお嫁さん同様に尽くしてきたんだもの。
それくらいの権利はありますよね。
麻美さんあなたには和晃さんの死を悼む気持ちはないんですか?悼んでるわよ悲しんでるわよ!胸が張り裂けそうなくらい!片岡さん。
たったこれだけ!?私の人生設計もうめちゃくちゃだわ…!奥様…。
税理士さんから聞きました。
経営状態思った以上によくないのね。
はあ…。
販路を広げすぎたのかもしれません。
無理して東京の百貨店に進出したのも今のところ逆効果に…。
夫は予想していたのかもしれないわね。
いつか兵藤製陶がこうなる事を…。
(片岡)まさか…。
でもそんな事はさせない。
何があっても…。
片岡さん私あなたのおかげではっきりと決心がついたわ。
よっと!いくら探しても見つからない。
もう時間も経ってるし出てこないんじゃないの?ご協力ありがとうございます。
もう少し探してみるよ。
なんでそんなにこだわるの?あの髪留めに。
んー…もしかしたらお母さんのね形見なんじゃないかと思って。
形見?うん。
早紀さんお母さんの名前のリエコを源氏名にして執拗に兵藤社長に印象づけようとしてた。
それに和晃さんの彼女が言っていた遺産狙いという言葉…。
って事は早紀さんは兵藤社長の娘?その可能性は高いんじゃないかな。
あったー!あっ指伸びろー!伸びろー指!
(大口)伸びて!指伸びろー!望月さん!ダメだ!これ。
ダメだ。
ちょっと待って…。
上げます。
よいしょ!頑張って頑張って!くぅー…!はい持ちました。
よし…!あー!よし!やったー!ハハハッ!よし!やったー!やったー!
(歓声と拍手)幸平!幸平!大変だよ。
お前早紀さんがさ…。
今な…テレビで言ってた。
兵藤社長がさ事件の時に事情を聞かれたホステスに今度はな和晃殺しの容疑がかけられてるってんだよ!えっ!?
(浜口)奥さんとは何を?ご主人の事を色々と…。
あの人は私が社長を殺したって疑ってるから。
問題はそのあとだ。
あんたに似た女が兵藤和晃の遺体が見つかった神社の近くで目撃されている。
会ったんじゃないのか?和晃にも。
会ってません!それに和晃っていう人自殺だって…。
あれは偽装ですよ。
敦夫と和晃東京と信楽…。
2つの事件は連続殺人の可能性が高い。
(警笛)この髪飾り…俺が作ったものだ。
やっぱり…。
25年も前の話だ。
敦夫に頼まれて理恵子さんのために。
2人の幸せを願って信じて…。
恋人同士だったんですね兵藤社長と早紀さんのお母さんは。
敦夫とは幼なじみだった。
理恵子さんは敦夫の行きつけの食堂で働いてた。
(田辺)いい子だったよ。
ところが敦夫急に理恵子さんと別れて婿養子に行くと言い出した。
それも俺が職人として働いてた兵藤製陶の社長の家だ。
耳を疑ったよ。
何かよほどの事情が?要は親に泣きつかれて多分金も積まれて断れなかったんだろうな。
理恵子さん納得を?するしかないさ。
理恵子さんも陶工の娘だ。
だから信楽から姿を消すしかなかった。
身寄りのない理恵子さんが弟のようにかわいがっていた奴がいた。
その男いっとき本気になって理恵子さんの行方を捜していたようだが…。
しかし理恵子さんと敦夫との間に赤ん坊が出来ていたなんて…皮肉なもんだよな。
跡継ぎも作れずなんのための婿養子かと散々陰口をたたかれて…。
その頃からだよあいつが変わっていったのは。
仕事一筋にのめり込むようになったんですね。
女遊びにも羽目を外してしかも大っぴらに見せつけるように。
澄子さんとは険悪になるばかり。
会社を大きくしたんだ。
誰にも文句は言わせない。
そう思ってたんだろうな…。
理恵子さんはもとより澄子さんも俺たち職人も敦夫自身も不幸に…。
バラバラに…。
うおっ!?村尾さん!助役より業務命令。
望月さん甘いところがあるから1人じゃ危なっかしいって。
そういういわれがあったんだこの髪留めに。
早紀さんはその髪留めをつける事で娘だって事を兵藤さんにはっきり知らせようと…。
だからそこが甘いの!近づいて様子を伺っていざ決行のその日に決意表明として形見の髪留め使ったかもしれないでしょ?浄観寺…墓地…?どうしたの?そういえばあの時…。
早紀さんがこの墓地のパンフレットを?うん。
和晃さんが死んだ日彼女が目撃されたのはこの辺りなんだよ。
誰か知ってる人のお墓があるとか…。
いや…もしかして見学しに来たのかもお母さんのために。
じゃあ何ここにお母さんのお墓を…。
ねえちょっと待って。
早紀さんのお母さんってその理恵子さんって人に間違いないのよね?ハハッ…何を今さら。
ねえ望月さん気づいてた?ここに昭和62年3月って小さく彫ってあるの。
この頃兵藤社長と理恵子さんはラブラブの恋人だったのよね?25年前だってそれ作った田辺さんが。
で早紀さんの年齢は?確か…。
なんとなく集めてるの。
干支が丑だから。
計算が合わない。
丑年だったら今年27になるはずよ。
兵藤社長が理恵子さんにこの髪留めをプレゼントした時早紀さんはとっくに生まれてる。
じゃあ何…父親は兵藤社長じゃなくて別の人!?それ以前に母親が違うって事にならない?明日も来てもらうのでそのつもりで…。
熱い!あ…でもおいしい!うんうん!早紀さんもさ冷めないうちに食べたほうがいいよ。
やけどしちゃった。
ハハハッ…。
どうしてまたここへ?ん?なんでそんなに首突っ込むんですか?あなたねこの人がどれだけあなたの事心配して…。
村尾さんまあいいから…。
とにかく僕一刻も早くさこれを返したかったから。
見つかったの?見つかったんじゃなくて見つけたの必死になって。
大事な形見なんでしょ?あなたのお母さんの。
まあ本当のお母さんかどうかは知らないけどね。
村尾さん。
あなたあの日本当に和晃さんに会ってないのね?疑われるような事は何もないのね?もうたくさん!警察でも何度も何度も同じ事聞かれて!大事な事なんだからちゃんと答えて!もういいって村尾さん。
早紀さんねえ疲れただろうから今日はもう早く休んだほうがいいよ。
なあにあの態度!感じ悪い!怖いんだよ自分の置かれてる立場が。
自分でもどうしていいかわからない。
とにかく僕は早紀さんを信じるよ。

(幸平の声)とにかく僕は早紀さんを信じるよ。
1つだけお願いしたい事があるんだけど…。
望月さんにだけは嘘をつかないであげて。
変わってるのよあの人。
知り合って間もないのにあなたの事まるで自分の事みたいに…。
どうしてそんな事…。
あなたの中に自分を見てるんだと思う。
自分を?あの人小さい時お母さんに駅のホームに置き去りにされたの。
自分もお母さんが忘れていった落し物みたいなものだって…。
だから持ち主のもとに帰りたがってる忘れ物たちの気持ちがわかるって…。
そんな人だからお母さんを亡くしてひとりぼっちになってしまったあなたの事放っておけないしなくした髪留めもお母さんの分身あなた自身の分身だと思って一生懸命探したの。
あ…まあおせっかいでうっとうしいところもあるけどね。
それだけはわかってあげて。
おはようございます。
あの…お二人にお話ししたい事が…。
おっしゃるとおりこの髪留めを残してくれたお母さん理恵子さんは私の実の母親じゃありません。
本当のお母さんは?産みの母親はよく知らないんです。
物心ついた時には父と2人きりで…。
うるせえ!お父さんが暴力を…?
(早紀の声)そんな私を見かねていつも助けてくれたのが隣の部屋に住んでたお母さんだった。
(父親)早紀!どこ行ったー!
(榎本理恵子)今日はおばちゃんちに泊まっていきなさい。
晩ご飯は早紀ちゃんの好きなおかずなんでも作ってあげる。
でもお父さんが…。
大丈夫よ。
おばちゃんがちゃんと話すから。
早紀ちゃんはおばちゃんの事お母さんと思って安心してらっしゃい。
お母さん?
(早紀の声)父が仕事の事故であっけなく死んで…。
これからは早紀ちゃんは私の娘。
私は早紀ちゃんのお母さんよ。
お母さん…?私たちは本当の親子。
お母さん…お母さん!
(早紀の声)それ以来私たちは親子として一緒に暮らすように。
母には色んな事を教わりました。
料理はもちろん人として女としての生き方も…。
結婚したいって言われちゃった。
結婚?あの人ならきっと…。
お母さんをきっと安心させてあげられるかなと思うし…。
私は反対。
どうして?だってあなたちっとも嬉しそうに見えないもの。
あの人の事本当に好きとは思えない。
でも…。
お母さんねあなたには本当に好きな人と結ばれてほしいの。
女は男次第で幸せにも不幸にもなれる。
(早紀)その時初めて聞いたんです。
母が若い時信楽で一生に一度の恋と信じて愛した人がいたって。
そして仲を引き裂かれたって。
それで東京に…。
その人の赤ちゃんを抱く日をずっと夢見てた。
だから私の事を神様からその人の子を授かったと思って抱きしめていたって。
だからあんなに私に優しくてあったかくて…。
(早紀の声)しかしそんな時母がスキルス性のガンにかかり…。
信楽…。
お母さん…?たった1つ残された母の愛の思い出がこの髪飾りだった事も…。
私…その男の人が憎かった。
母の事を傷つけてまるで紙くずみたいに捨てて…。
大きな会社の社長さんになってお金持ちになりたかったんでしょう?だから私手紙を書いたんです。
母が亡くなってすぐ兵藤社長に…。
母に謝ってほしかった。
手を合わせて泣いてほしかった。
自分のした事が1人の女をどれほど不幸にしたのかはっきり胸に刻んでほしかったんです。
その手紙本当の娘として?箕島と名乗ってはいますが私はあなたと榎本理恵子の間に生まれた娘ですって…。
本当に娘の気持ちになりきって書きました。
兵藤さんから手紙の返事は…。
許せなかった。
無視するなんて。
何か思い知らせる手はないかと思って調べてみたら兵藤さんが仕事でしょっちゅう上京して銀座で飲んでる事がわかったんです。
それでお母さんの名前のリエコという源氏名で…。
でもあの人は気づかなかった。
(早紀の声)女に囲まれのんきに鼻の下伸ばして…。
(早紀の声)そしてあの日私は全てを打ち明けるつもりでこの髪留めを…。
なのに…。
(早紀)あっごめんなさい。
(早紀の声)しかもあの晩あの人が…。
あっ…あっ!あれも言おうこれも伝えよう。
お母さんのために心の底からわびて後悔の涙を流させようって…。
望んでなかったって事かもしれない。
思い出の髪留めを好きだった人に恨みをぶつけるために使う事をお母さんは望んでなかった。
お母さんは早紀さんの存在に救われてた。
あなたがだんだん成長する事で大きな安らぎを得ていた。
だから決して不幸じゃなかったんじゃないかな。
でも…母は事あるごとに信楽の話を…。
でも理恵子さんは信楽の町を捨てたのでは?それでも…母は帰りたかったと思うんです信楽に。
もう一度信楽の土自然信楽が育んでくれた故郷に戻りたい。
母は…本当はそう思っていたはずなんです。
だから信楽に墓地をたててあげようと…。
墓地を見に行こうとしたらまた奥さんから電話が…。
あなた夫の…兵藤敦夫の娘なんですってね。
(満江)本当の親子以上ね早紀さんと理恵子さんの絆。
すごいと思います。
今までなんの縁もゆかりもなかった者同士そこまで強く心と心が結ばれるなんて…。
まあ考えてみれば夫婦も同じ。
それこそ赤の他人。
生まれも育ちも違う男と女が一緒になるんだから兵藤夫妻のように愛のない結婚をすればうまくいかないのも無理ないわ。
その点助役と嶋田さんは大丈夫ですよね。
うちのだんなはちょっと別。
親子も夫婦も関係なし。
仲よくなれば家族みたいになっちゃう人だから。
幸平君あなたがそうじゃない。
いや…そこはほら…ハハハッ!嶋田さんのいいとこですよねねえ…。
まあ…そうなのよね。
いや考えられないよそんな手紙!知らない女からさ水茎の跡麗しき手紙がきてだよ「私あなたの娘です」なんて書いてあったらさ俺どうなっちゃうのかな…?何想像してんだろうこの人…。
助役には見せらんないですね。
会いたいよね。
絶対会ってみたいよね。
あのさこっそりのぞき見だけでもいいからやって…。
あれ…?もしさこれ読んでなかったらどうなるんだい?読んでないって…。
いや兵藤社長がさ仮に読んでないとしてもだね早紀さんがホステスになって現れてリエコリエコってさ…露骨にアピールしたらこれなんらかの反応はあってしかるべきじゃないのかな。
もしかして奥さんが隠したとか?あ…。
奥さんは親子関係を調べたって早紀さんに言ったのよね?でもちゃんと調べたら出てくるのは本当のお父さんとの関係のはずじゃない?しかしそうじゃなくて早紀さんをご主人の娘だと…。
読んでたんだ早紀さんの手紙を…。
(物音)やっぱり田辺さんだったんだ。
あんたか。
せっかくの登り窯。
火を入れないまま放っといたら使いものにならなくなっちまうんだ。
ええ。
また火を入れられる日が来るといいんですが…。
変えるんなら今だと思うんだ。
もう一度昔の兵藤製陶に戻す事が出来るんじゃないか?あんただってそう思ってんだろ?奥さんは同窓会に出席していてアリバイは完璧なんだよな…。
甘さ控えめパンチの利いた大人の味の…お味見…。
あれ?また会った。
何やってんすか?こんなとこで。
セクシーダイナマイト…。
出戻ったのよモデル事務所に。
ブランクあるからってこんな仕事させられて。
しょうがないじゃない!玉の輿に乗り損なっちゃったんだから。
まあまあ…落ち着いて。
とにかく頑張ってください。
僕応援してますから。
ヘヘ…。
誰が負けるもんですか。
あっあの…和晃さんの事警察から何か…。
(麻美)色々聞かれたわようんざりするぐらい。
結局自殺じゃなくて殺されたんでしょ?
(麻美)あの早紀って女に。
いやそんな事は…。
だっていなかったじゃない。
あの日東京のアパートに。
和ちゃんを殺すために信楽へ行ってたんだわ。
あのあと何度携帯にかけても出てくれないし。
ちょうど奥さんと電話してる頃に和ちゃんは…。
奥さんと電話を?夜大津の家電にかけたのよ。
そしたら奥さんが出て。
それ何時だかわかりますか?8時54分。
和晃さんが殺されたのは午後9時前後。
その頃奥さんは間違いなく大津の自宅にいた。
アリバイ成立ね。
だんなのほうも和晃のほうも。
うん…。
う〜ん…。
早紀さんでもない奥さんでもない。
じゃあ一体誰が2人を?一度振り出しに戻ってみるか。
振り出しって?助役に許可もらってくる。
これ…。
ん?何かあったの?兵藤夫妻が東京に着いたところよね。
それから4時間後…。
兵藤社長の秘書の片岡さんだ。
ええ?夕方になって東京に来たって事?えーっと12時24分に電車に乗って信楽を出て東海道新幹線で…16時23分に東京に着く。
帰りはどうなんだ?ちょっと見せて!これだ!21時発の東海道新幹線で取って返せば犯行後に東京を出て午前1時には信楽に戻れるわ。
でもどうして同じ日に片岡さんが東京に?思い出って大事ですよね。
思い出のもの思い出の場所思い出の人。
いつまでもいつまでもあったかく心に残る。
ちょっと付き合って頂けますか?奥様…。
ああ片岡さんも…。
すいませんお呼び立てして。
どうしてもお二人にお話を聞いて頂きたくて。
一体どういうお話でしょうか?奥さんは最初早紀さんの事をご主人と親しい単なるホステスだと思っていたんですよね?ええ。
でもすぐに気がついた。
娘と名乗ってご主人に手紙を送ってきた女性だという事に。
何するんですか!箕島早紀…。
その手紙の主が思いがけない形で目の前に現れた。
さぞ驚かれたでしょうね。
ご主人が愛した人が産んだ娘。
しかもご主人殺しの疑いが…。
顔も見たくないと思って当然の相手なのにあなたは何度となく早紀さんに接触し心の内を探ろうとした。
早紀さんは途絶えそうになっている兵藤家を未来に繋ぐ存在。
そう思われたからなんでしょう?兵藤家の一人娘として生まれた奥さんはどうしても跡継ぎを産まなければならないという宿命を背負った。
でもその願いはかなわず養子に迎えた和晃さんとは反りが合わない。
このままでは代々続いた兵藤家の血筋を絶やす事になる。
なんとかしなければ…。
必死だったと思います。
自分でもわからなかったわ。
そうまでして家を守る意味があるのかどうか。
早紀さんを産んだ理恵子さんがうらやましかった。
ねたましくもあった。
でも…それでもやっぱり跡を譲るなら夫の血を引いた人がいい。
そう思って…。
愛してらしたんですねご主人の事。
だから片岡さんに背中を押してもらってやっと決心がついたんです。
奥さんのそういう気持ち…あなたは利用したんじゃないですか?利用?どういう意味?片岡さんの心の中にはどうしても守りたい大切な思い出があったんです。
ここに来る前に早紀さんと一緒に田辺さんに話を聞いてきました。
早紀さん。
田辺さん言ってました。
あなたが母の事お姉さんのように思っていて東京に探しに行った事があるはずだって。
たった1枚届いたハガキを頼りにきっと探してみせるって。
憧れの人だったんだろうな片岡にとって。
それを聞いて思い出したんです。
ずっと昔母と一緒にあなたに会った事を。
何作ろうかな〜?フフフ…。

(早紀の声)あのあと母のもとに小包が届いて…。
わあきれい!この間のお兄ちゃんがねあなたにって送ってくれたのよ。
これ私のおひな様?
(早紀)ずっと大切に今も飾ってるおひな様…。
あなたが送ってくれたものだったんですね。
まだあのひな人形を?ええ私にとっては宝物です。
子供の頃理恵子さんは…。
(片岡の声)いつもいじめっ子から私をかばってくれた。
いつも理恵子さんに守られてた。
やっちゃん大丈夫?うん。
血出てない?大丈夫?私が初めて好きになった人です。
(片岡の声)信楽の土地に生きてきた人たちには何代にもわたって信楽の土にその人たちの血が流れているんです。
そして大人になった理恵子さんは燃えるような恋をした。
(片岡の声)寂しい気持ちはあったけどでも理恵姉ちゃんの笑顔はまぶしいほど輝いていた。
だけど裏切られたあの男に。
(警笛)
(片岡の声)だから…。
だからせめて2人の間に生まれたあなたには災難が降りかからないように幸せに育ってくれますようにと願いを込めてあのひな人形を送りました。
片岡さんはそれから東京出張の度に理恵子さんの店を訪ねて2人に気づかれぬように見守ってましたね。
理恵子さんが病死したあとも。
その後社長のお供で行った銀座のお店でリエコと名乗るあなたを見た時すぐに気がつきましたよ理恵姉ちゃんの娘だと。
違うんです。
私は母と兵藤社長の間に生まれた娘じゃありません。
どういう事?
(澄子)だってあなたは…。
早紀さんと理恵子さんは実の親子以上の絆で結ばれていた。
だからこそ兵藤社長の仕打ちが許せなくて本当の娘の気持ちになって手紙を書いたそうです。
(早紀の声)「今月2月20日に母が病に倒れ永眠いたしました」「母が最後まで愛した貴方にそのことをお伝えしなければならないと思い筆をとりました」そんな…。
(澄子)結局は私の嫉妬がまいた種ね。
夫の女関係には目をつむってきた。
(澄子の声)口ではそう言いながらいつだって目を光らせて…。
その手紙を片岡さんに?1人では抱えきれなかった。
悔しくてつらくて。
片岡さんは早紀さんを2人の娘と思い込んだ。
その上にもう一つ誤解が重なったんです。
それがあの手紙です。
それが…。
あなたの動機になったんですね。
(片岡)どういう事ですか?社長を殺したのはあなたですね。
それに…。
和晃さんを自殺に見せかけて殺したのも。
まさか…!そんな…。
私はあの日ずっと信楽にいたんですよ。
東京のマンションにいる社長を殺せるわけがないじゃありませんか。
東京駅の防犯ビデオにあなたの姿が映っているんです。
そしてそのあと理恵子さんの店の前で涙を流し手を合わせている男が目撃されています。
それは片岡さんあなたです。
なんだったら往復に使った電車のルートもご説明しましょうか?本当なの?片岡さん。
どうしてあなたが…。
早紀さんからの手紙は痛いほど気持ちの伝わる手紙でした。
あの時の…25年前のあの人の…理恵姉ちゃんの悲しみがまざまざと…。
(片岡の声)私は純粋な理恵姉ちゃんを傷つけ信楽にいられなくし追い出したそんな仕打ちをした社長が許せなくなりました。
でもそれだけではありません。
もとより社長にとっては伝統より利益が大事。
子種を残せず蔑まれた恨みをぶつけるかのように兵藤製陶をもうけ主義の会社に変えていった。
おまけに何一つ仕事を覚えようとしない和晃さんの世話を全て私に押し付け…。
何!?取引停止?冗談じゃない!もう一度かけ合ってこい。
しかし手を尽くして失礼をお詫び致しましたが先方は和晃さんを辞めさせない限り取引再開はありえないと。
人のせいにするな!コラ!痛っ…!ああ…。
ここは一つよろしくお願いしますよ。
(片岡)そこまでならまだ踏みとどまる事が出来た。
早紀さんは理恵姉ちゃんの事を思い出させようと水玉の服を着ポニーテールをしても…。
くすぐったいです…。
(片岡の声)社長は何も気づかず…。
社長。
早紀さんにまで好色な目を…!もう気持ちが抑えられませんでした。
あの日社長と奥様を送ったあといつもどおりに仕事をこなし東京駅へ着いてその足で理恵姉ちゃんの店の前へ。
(片岡の声)理恵姉ちゃんの冥福を祈り兵藤のマンションへ向かいました。
(チャイム)一体なんの用だ?こんなとこまで押しかけてきて。

(片岡)その日のうちに信楽へ戻りました。
誰にも私の犯行だとは気づかれていない。
そう思ってました。
でもあの日和晃さんに呼び出されて…。
おふくろさんはあの早紀っていう女に兵藤家を継がせるつもりなんだろ?え?それは社長を殺した犯人という事になれば奥様も後継者にするわけにはと…。
しかもこの俺が親父さんを殺したように言いやがって。
ふざけんな!犯人はお前だろ。
あの日こっそり出かけて夜中に帰ってきたろ。
こうなりゃ全部ぶちまけてやる。
兵藤製陶なんてぶっ潰してやるよ。
あんたも覚悟するんだな。
あっ…!
(片岡)自殺に見えるように細工をしました。
和晃さんが社長を殺して自殺。
その筋書きなら早紀さんの疑いは晴れ奥様もためらいを捨てて早紀さんに相続の話を持ちかけられるだろうと。
せめて何かしてやりたかったんです。
あの人があの世で安心して昔見せてくれた優しいほほ笑みを取り戻せるように…。
でも兵藤家の跡を継ぐ事が早紀さんの本当の幸せなんでしょうか?片岡さんも澄子さんもその事本気で考えた事ありますか?私の書いたあの手紙がみんなの運命を狂わせてしまったんですね。
早紀さん…。
片岡さん。
こんなにも母の事を思ってくれてたのにずっと忘れないでいてくれたのに。
私と同じ思いで母の運命を悲しんでくれる人がここにいたのに…。
私…ごめんなさい。
(早紀の泣き声)人と人との絆。
人を思いやる心を忘れた人間は自分自身に忘れ物をしてるんです。
自分に忘れ物…?兵藤製陶の登り窯をね若手にも使えるようにしてもらえたから俺ももっと腕上げないとね。
もしよかったら私にもこの器使わせて頂けませんか?もう一度お店を始めようと思うんです。
道具や器にこだわって。
そりゃいいや!お母さんきっと喜ぶよ。
お墓はどうするの?時々母を連れてふるさとを訪ねる事に…。
その時はまたここへ来るといい。
みんな一緒にね。
(一同の笑い声)
(大口)よかったですね届いてましたよ。
よかったありがとうございます。
もとのだんながくれた定期券だから。
ご苦労さまです。
あっ!年が違う。
えっ?これ40。
私ね28なんです。
えっ?こう見えても28…。
53って書いてるじゃないですか!何言ってるんですかあんた!お客さんちょっと…。
いい加減にしてよ…。
オグちゃん医務室に…。
医務室ってなんです!私具合が悪いわけじゃありません!ちょっと待ってよ。
今はね絆が大事なんだよね。
せっかくさお互い惚れ合って一緒になった仲なんだからさ。
勘違いだったかもしれない。
えっ?案外難しいわよね。
本当に好きな人と結婚するのって。
ほんとに好きじゃないの?こうでしょ。
もう…。
なんでそういう事するのよ。
これでいいんだよ。
嫌!えっ?ちょっと待ってよ!お母さんって何…。
あのねちゃんとその辺にあるから…。
(大口)ないから帰ってよ…。
(女性)ちょっとあなた私をどこで…!
(2人の笑い声)
(2人)・「いっしょに歩いて…」2015/10/22(木) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
東京駅お忘れ物預り所[再][解][字]

滋賀しがらき〜登り窯に殺意の炎!!狙われた女相続人…髪留めに母の秘密!?

詳細情報
◇番組内容
高嶋政伸主演!大好評シリーズ第5弾!! 東京駅遺失物係の幸平は“信楽焼”の髪留めを落としたという美女と出会うが、彼女に殺人容疑が…!?滋賀大津〜信楽で大ロケーション!
◇出演者
高嶋政伸、櫻井淳子、高橋ひとみ、北村総一朗、井上和香、丘みつ子、国広富之、斎藤洋介、エド山口、マギー

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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