クローズアップ現代「なぜ医療事故は繰り返されるのか〜再発防止への模索〜」 2015.10.23


(鈴の音)
父親を医療事故で失った男性です。
事故の真相が分かるまでに7年の歳月がかかりました。

誠に申し訳ございませんでした。

日本各地の医療機関で起きた患者が相次いで死亡する事故。
なぜ事故は繰り返されるのか。
どうしたら未然に防ぐことができるのか現場での模索が始まっています。

今夜は、相次ぐ医療事故の現状と背景を探り医療安全の在り方を考えます。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
医療は安全に提供されて初めて患者はその恩恵を受けられます。
現実には病気を治すために受けたはずの治療が原因で傷を負ったり、命を奪われる医療事故が後を絶たず大きな社会問題となっています。
国の推計では、医療事故によって亡くなる人の数は、年間推計で1300人から2000人とされています。
医療を受けたことで命が失われたとき残された家族はなぜ事故が起きたのか真実を知りたいと強く願うものです。
しかし医療は専門性が高く医療機関の説明にたとえ納得できなくても実態を明らかにすることが難しく結局、泣き寝入りせざるをえないケースも少なくありません。
こうした中で今月からスタートしたのが医療事故の再発防止を目的にした新しい制度医療事故調査制度です。
すべての医療機関に事故の原因調査を義務づけました。
調査の対象となるのは予期しなかった死亡事故です。
医療の質と安全を高めていくために公平で透明性の高い事故の調査や検証が行われることが大切ですが調査を行うかどうかの判断は医療機関に委ねられています。
調査されるべき医療事故がすべてきちんと検証されるかどうかはいわば医療機関の意識自浄作用の高さに委ねられています。
患者の命に関わる深刻な問題を起こした大学病院などで事故調査が行われず、その後も死亡事故が繰り返されるといった事態が実際に起きているだけに制度が適正に運用されるかが問われています。
みずから調査し改善していく意識はどのように生まれるのか。
初めに11人が手術後、亡くなったあとようやく再発防止に向けた事故調査を行った千葉県がんセンターのケースからご覧ください。

千葉県に住む渋谷春樹さんです。
渋谷さんの父親は7年前千葉県がんセンターで胃がんの手術を受けました。
初期のがんで、医師からはすぐに退院できると言われていました。
ところが、手術のあと容体が急変。
心停止を起こしその後、死亡しました。
父親が受けたのは腹くう鏡を使った手術です。
腹部に開けた小さな穴からカメラや電気メスを入れがんが出来た胃をすべて取り除きました。
体への負担が少ない一方視野が狭いため安全に行うには技術が必要です。
父親に一体、何が起きたのか。
渋谷さんはすぐに説明を求めました。
原因は、体の中で傷口が開いてしまったことでした。
病院側は、手術に伴って一定の確率で起きる合併症のためしかたがなかったと説明したといいます。

ところが、渋谷さんにとって信じられないニュースが飛び込んできました。

深くおわびを申し上げます。

千葉県がんセンターで渋谷さんの父親のあとも腹くう鏡の手術を受けた患者が相次いで死亡。
亡くなった患者11人はいずれも消化器外科のチームが手術を行っていました。
事態を重く見た千葉県は原因究明のため第三者委員会を設置。
外部の専門家が調べたところ患者の命に関わる重大な問題がいくつも明らかになったのです。
渋谷さんの父親のケースでは執刀した医師の技量不足を指摘。
手術を行う医師が適切に選ばれていたのか疑問が示されました。
また、別の医師が行った7例は保険適用外の難易度の高い手術にもかかわらず事前の審査を受けていませんでした。
この中には技術に自信のある医師が、操作の難しい腹くう鏡での手術にこだわり患者の出血を止めるのが遅れてしまったと指摘されたケースもあります。

なぜ病院側は、患者の死亡が相次いでいたにもかかわらず再発防止のための調査を行わなかったのか。
当時、幹部は手術を担当した医師たちから話を聞いていました。
第三者委員会によると医師たちは幹部らに避け難い合併症、再発防止は困難といった見解を示しそれ以上、詳しい調査が行われなかったとしています。

実は、消化器外科チームの手術に関しては、当事者以外から問題が指摘されていました。
声を上げた一人麻酔科医の志村福子さん。
消化器外科チームの手術にやり直しが多いことに疑問を感じていました。

志村さんを含め複数の医師が問題だと病院幹部に訴えましたが組織として取り合ってもらえなかったといいます。
現場の声をどう生かすのかどんな場合に事故調査を行うのか明確なルールがありませんでした。

結局、第三者による詳しい事故調査が行われたのは外部への告発があってからでした。
報告書では死亡事例のほとんどで問題点があったとしそのうち何例かは発生を防止できた可能性があると指摘しています。

父親を亡くした渋谷さんです。

自宅の留守番電話には手術の前日、亡くなることを考えもしなかった父親の声が残されています。
父の死がきちんと調査されずその後に生かされなかったことが今も無念でなりません。

こんにちは。
お願いします。

千葉県がんセンターでは去年から、組織を挙げた改革に乗り出しています。

安全管理の専門スタッフを増員。
内科や外科など、診療科を超えて医療事故に関する情報を積極的に聞き取ろうとしています。
さらに、事故調査を行う部門の権限を強化しました。
現場はミスがないと主張しても重大な事故が繰り返されたと見られる場合には手術などの中止を、病院長に勧告できるようにしました。

今夜のゲストは、心臓外科医で、天皇陛下の手術で執刀医を務めたことでも知られています、天野篤さんです。
天野さん、今の千葉県がんセンターでは、なかなか問題が明るみにならなかった。
今のケース、どう見てらっしゃいますか?
まずもって、亡くなられた患者さんには、大変お気の毒だったと思います。
ご子息も精いっぱい、ご自身たちが選ばれた医療を否定しない、そういう発言だったと思いますが、途中で麻酔科の先生のお話がありましたけれども、いろんな重大合併症が続いたということを、問題視しなかった。
もし感染であれば、感染が続けば、アウトブレークですから、組織として対応しなければいけない。
そういう状況を、外科手術の重症合併症で対応を取れなかったということが問題で、これは組織のガバナンスの欠如に間違いないというふうに思います。
ですから、その合併症をどう受け止めるのか、どう見るのか、重要事象として、問題視されずに来たということは、やっぱりそれは今、組織的ガバナンスの問題だとおっしゃいましたけれども、例えば、相次ぐ手術で亡くなる方が出たとき、現場っていうのはまひしてしまうんですか?
そういった合併症、一番最悪の死というのが、続くということに対して、問題視する。
それが医療安全の文化でありまして、そういった医療安全の文化そのものが、やはり欠如してたんだろうと思います。
まず、そういう医療安全の知識、経験、そういったものを重要視しないっていう空気が、病院全体にあって、特に幹部の方たちに、そういった感覚が欠如してたんではないかというふうに考えます。
こういったことは、日本の医療機関ではどこでも起こりうるというふうに見てらっしゃいますか?
起こりうるかもしれませんけれども、先進医療、高度医療、あと難易度の高い手術を行うような基幹病院では、あってはならない。
なおかつそういった病院では、繰り返し、繰り返し、医療安全の文化を植え付けていくということが、結局それは結論として、今回の事故調査制度の、最終的な目標なんだろうというふうに思います。
今おっしゃった事故調査制度ですけれども、今月から始まって、すべての医療機関に義務づけられて、患者が予期しなかった死亡が、予期しない形の死亡事故が起きた場合に、調査が行われるということで、原因究明する、調査を行って、第三者機関に報告して、遺族にもその調査結果を説明するということになっているんですけれども、ではどの事故を調査するかという判断は、医療機関に委ねられると。
調査が行われるべき事故というのは、本当に調査の対象になるのかどうか、懸念はありませんか?
皆さん、そういうふうにおっしゃる。
患者さん側の方はおっしゃると思いますけれども、やはり医療機関も、先進医療とか高度な医療を続けるような、そういったものを担う責任のある医療機関は、安全を守る、患者さんをまず保護するという観点から、医療行為を行いますから、そういった医療機関では、特に重大事象が起こりやすいので医療安全の文化、患者さんを保護する文化、それは根づいていると思います。
肩を持つわけではありませんけれども、特に特定機能病院とかそういった所では、なくてはならない。
あと中にいる人たちも、すべての医療スタッフがそういう自覚を持っていなければいけないというふうに思います。
ですから、そういった医療機関では、起きたとしても、きちんとした対応が取れるというふうに私は思っています。
患者の側の目線からしますと、患者が訴えたケースについては、取り上げてほしいなという思いもあるでしょうね。
それは、患者さんがまず、先ほどの医療行為を起因とした予期しない死プラス、患者さんのご家族が、不審に思う、あとは、医療者側も、おかしいと思う。
そういったところから院内調査が始まる。
あと、死亡事例でなくても、合併症、あとは、ヒヤリハットっていう、ちょっとしたおかしなこと、これも問題視するという文化を根づかせることが大変重要ではないかと思いますね。
さあ、医療安全の意識の高い医療機関は、どのように取り組み、そして再発防止に取り組んでいるのでしょうか。
続いてご覧いただきますのは、過去に重大事故を経験した医療機関の今です。

高度医療の拠点。
1日に2000人以上の患者が訪れる名古屋大学附属病院です。
この病院では死亡事例はもちろん治療中のトラブルやひやりとした事例を全職員が報告するよう徹底しています。
その数は、年間およそ1万件に上ります。

現場からの報告が送られてくる安全管理部です。
ここでは、吸い上げた情報を再発防止につなげるシステムを取っています。
まず安全管理部では膨大な報告を蓄積しすべてに目を通します。
その中から、重要度や緊急性の高い事例を選び出しさまざまな職種の専門家が多角的にチェックします。
この日は、ある薬を使ったあとに患者が発作を起こしたという事例について検討。
薬の投与は適切だったのか患者に十分な説明はされていたかなど医師や看護師に加え弁護士たちも参加し検証しました。

さらに現場へのヒアリングも徹底しています。

お忙しいところすみません。
安全管理部の福島というんですけども…。
合併症で避けられない事例だったという報告でもほかに原因がなかったのか安全管理部の医師が聞き取りを行い、客観的に検証します。

もし患者が死亡した事例で医療ミスの可能性が否定できないなど重要なケースが見つかった場合は外部の専門家を入れた調査委員会を設置。
原因を究明し、再発防止策を現場にフィードバックする体制を取っています。
さらに重視しているのが情報の公開です。

この10年間に発生した重大事故の調査結果は患者や遺族に手渡すだけでなく社会に対して公開するなど透明性を高める努力を続けてきました。

事故調査の取り組みは個人の責任を追及するものではなく患者の命を守ることにつながる。
そうした意識が浸透するにつれて報告件数は増加。
一方で、過失があると認められた重大事故の発生は抑えられています。
病院では今蓄積してきた情報をもとに事故はどこで起きやすいのか分析する取り組みを始めました。
すると、高度な手術では複数のスタッフが連携し医療器具を操作する場面にリスクが集中していることが分かりました。

ちょっと一回手止めてもらって打ち合わせを。

そこで安全管理部の医師たちが現場と協力して作成したのは手術の工程図です。

これまで執刀医だけが理解して指示していた工程を可視化し、麻酔科医や看護師などチーム全体で共有しました。

この日は内視鏡を使った手術が行われ無事に終わりました。

失礼します。

医療安全への地道な取り組みが患者の命を支えています。

天野さん、トラブル、ヒヤリハット、すべてを全職員に報告して、その中から、重要なものと思われるものを、いろんな職種の方々が多角的にチェックしていくっていう。
これは徹底するっていうのは、本当に大事なことでしょうね。
今の名古屋大学の取り組みは、医療安全の文化は大変根づいたうえでの再発防止っていうものを、最終的なゴールに置いた取り組みだと思いますね。
医療安全の究極の形だと思います。
ですから、かなり組織として、しっかりと、そういった教育、あと経験を生かすっていうことをできてる所だと思いますね。
どうすれば、安全な医療文化を浸透させられるのか、医療文化の安全が大事だっていうことを浸透させられるのか。
重要なポイントが3つあるというふうにおっしゃってるんですけれども。
まず統計的に裏付けられた医療っていうのは、過去の経験に基づいて、最も確実性が高いと思われる医療行為を選択する。
例えば?
まずある一定の、ある細菌に対して、この抗生物質が効くということが、裏付けられている場合には、まず間違いなくそれを投与するということですね。
その相互チェックの体制というのは、たくさんの医療職の人たちがいますから、偏らないで、起きたことに対して、客観的な判断を下して、問題が起きたところから、それが再発防止にどうつながるのかということを検証する。
あとは起きたことをできるだけ早く、正直に公開して、出た結論に関しても、患者さんに伝え、治療に対する全力を尽くす。
あと次の医療事故防止に努めるということですね。
医療安全文化とは何かって問われたら、先生はどうお答えになりますか?
患者さんを守ることなんですけれども、医療と医療安全は両輪、もしくは医療安全は、空気かもしれません。
空気が薄くなれば、医療は苦しくなります。
ですから、チケットとして、それを持って大手を振るんじゃなくて、医療安全の空気、文化を広くする、濃いものにするということが大切だと思います。
きょうはどうもありがとうございました。
天野篤さんと共にお伝えしました。
これで失礼いたします。
2015/10/23(金) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「なぜ医療事故は繰り返されるのか〜再発防止への模索〜」[字][再]

各地の医療機関で死亡事故が相次いでいる。中には同じような事故が繰り返されている実態も明らかに。今月始まった医療事故調査制度の検証も交え、医療安全の対策を考える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】順天堂大学医学部附属順天堂医院 副院長…天野篤,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】順天堂大学医学部附属順天堂医院 副院長…天野篤,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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