趣味どきっ! 石川九楊の臨書入門 第3回「戦国の貴婦人 細川ガラシャ×忠興」 2015.10.22


やはり火山がいつ噴火するのかというのを見極めるのはまだまだ難しいのが現状です。
国は火山の観測、研究安全対策をもっと進める必要があります。
一方火山に登る人たちも情報に注意して十分な装備をしたうえで温泉や紅葉を楽しんでほしいと思います。
これは戦国時代の悲劇のヒロイン細川ガラシャが38歳で自らその生涯を閉じた時の辞世の歌です。
キリシタンだったガラシャ。
その終焉の地は現在は大きな教会になっていました。
「逆臣の娘」と疎まれつつ家の名誉を守るという夫との誓いを果たすためその命を投げ出したガラシャ。
これは彼女がキリスト教の洗礼名を書いた唯一の書。
夫・細川忠興と共に激動を生きたその人物像に迫ります。
「臨書」とは書をありのままに写し取る事で歴史上の人物に触れる事。
文字の傾きや震えかすれなどから書いた人物の生きざまや息遣いまでも追体験していきます。
講師は…石川さんは長年書とは何か独自の視点で探究。
臨書を通じて多くの人物と向き合ってきました。
私羽田美智子が石川先生と臨書を体験しながら歴史に名を残した人物の生きざまに迫ります
訪ねたのは東京国立博物館。
ここに細川ガラシャの直筆の手紙があるのだとか。
ふだんは公開されていない貴重な書を特別に見せて頂きました
(石川)あれですね。
忠興宛ての手紙ですね。
これはガラシャが遠方にいる夫・忠興に宛てしたためた手紙です
先生全く読めません。
柳の木みたいです。
枝みたい。
しだれてる感じがします。
「それよりのちハ御とおとおしく」は「その後ご無沙汰しております」といった型どおりの手紙の挨拶。
後半の「ちとちと御目にかかり申され候」辺りから「少しでもお目にかかりたい」というガラシャ自身の心境がつづられています。
そして最後はキリスト教の洗礼名「ガラシャ」の文字で結ばれています。
書いてるっていうの分かりますね。
その時ただ書き散らすんじゃなしにグッと少し身をかがめてそして力解放するとこはワッと解放するという。
緩急があるんですよね。
そういう…でしょ?リズムが。
見えますね。
先生が思うガラシャさんってどんな方だったと思いますか?思い込んだらそのまま走っていくっていうような感じじゃないでしょうか。
一直線みたいな。
だから多分キリスト教に走ったところにもそういうところがあると思うんですよね。
今からおよそ450年前ガラシャは明智光秀の三女玉として生まれました。
夫となった忠興は名門細川家の跡取りでした。
玉がこし入れしたのは16歳の時。
明智・細川両家の主君にあたる織田信長の勧めによるものでした。
その結婚は両家に明るい未来を約束するはずでした。
ここ勝竜寺城は玉が嫁いで最初に暮らした所。
玉と忠興はここで2人の子をなし幸せな日々を過ごしました。
しかし平穏に暮らしていた彼女の運命は一つの事件によって大きく変わります。
主君信長が謀反に散ります。
襲ったのは事もあろうに玉の父明智光秀でした。
一夜にして逆臣の娘となった21歳の玉。
細川家からは離縁され子供とも引き離され京都の山奥に幽閉されます。
およそ2年後秀吉の許しを得て玉は忠興と復縁しますが軟禁状態の不自由な暮らしは続きました。
この間忠興と側室との間に子が生まれ玉の心は更に乱れます。
そんな中彼女が心のよりどころとしたのがキリスト教でした。
当時は既に伴天連追放令が出ていた時代。
それでも玉は洗礼を受け25歳で「細川ガラシャ」となりました。
「ガラシャ」とはラテン語で「神の恵み」という意味。
ガラシャの研究を続ける田端泰子さんは洗礼後のガラシャにある変化が生じたと言います。
全くガラシャの性格が変わるんですね。
家臣たちにもつらく当たったりしたと。
ところが洗礼を受けてから明るく快活になって苦しい環境の中で自分の救われる道はこうなんだというのを見つけた…。
仏教的儒教的考え方ではない新しい思想に触れてそれをきちんと理解してその中で自分の生き方にふさわしいものを獲得していったと。
石川先生がこのガラシャの手紙で注目したのは前半と後半の書きぶりの違いでした
ここまで…。
この最初の6行。
線も濃いしまあ勢いがありますよね。
でこっち反対…。
逆にこっちからこっち側だけ。
反対見るともうえらく線がどんどんか細くなってきて…。
筆先を非常に微妙に使いながら優美にこっち側は書いてますね。
こっちはもうすごく筆が走ってるけれどもここは少し抑えて少し優美な…。
「ちとちと」というね。
ここは非常に美しいところです。
「ちとちと」。
この間合いも含めて。
やっぱ前半はじゃじゃ馬でしょうね。
へえ〜!で後半ちょっと変わったかなという感じはしますけども。
この書きぶりの変化はどこからくるのか。
玉が洗礼を受ける前に書いた知人への手紙と比べてみます。
これがいわゆる受洗する…洗礼を受ける前のそのいわゆる玉時代の字なんですけど。
これはもうほとんどこの前半だけしかないでしょ。
もうほんとに勢いに任せて書いてく。
忠興宛ての手紙の前半部分は洗礼前に書かれた手紙の「御うれしく」の書きぶりとよく似ていました
もう疾走していくという。
だから前半と同じような書き方で疾走していく。
でそれと比べるとこの後半のところに非常に繊細優美な書き方が書き残されているっていう事は事実ですよね。
まあそこに強引に結び付けたらまずいかもしれないけどもキリスト教に入信したその理由がどうであるか…。
そこにどんなものがあってそしてその後ガラシャがどういうふうに自分の…人間を改造したかというような事がこの後半に明らかに出てるっていう事は間違いないと思いますよね。
形式どおりの挨拶を書く前半は若い頃からの書きぶりが強く表れていますが自身の心境をつづった後半は一転し丁寧で優美な書きぶりに変わっています。
キリシタンとなり心の平穏を取り戻したガラシャ。
しかし太閤・秀吉が世を去ると有力大名たちが再び覇権を争い天下は乱れます。
天下分け目の決戦関ヶ原の戦いを前に忠興は東軍の徳川方につき家康に従う事を決めました。
一方西軍の石田三成は東軍についた大名を寝返らせる策を講じます。
東軍大名の妻たちを人質に取り夫に揺さぶりをかけたのです。
細川家の屋敷も軍勢が差し向けられガラシャは逃げ出す事ができなくなりました。
しかしガラシャは夫・忠興と約束を交わしていました。
「いざという時は命を絶ってでも家の名誉を守る」と。
ガラシャは覚悟を決めます。
キリスト教は自害を禁じているため家臣に槍で胸を突かせ炎の中で38歳の生涯を閉じました。
ガラシャが亡くなった細川家の屋敷跡にはその辞世の歌が刻まれた碑が残っています。
人も花も散る時を知っているからこそ美しい。
ガラシャの強い信念が読み取れます。
夫・忠興との約束を守り抜き自らの意思を貫き通したガラシャ。
そんな彼女の姿に書から迫ります。
それでは今日の臨書細川ガラシャの手紙です。
九楊先生お願いします。
「忠興宛」…ご主人向けの手紙の冒頭の2行を最初に臨書してみましょう。
臨書をするのは冒頭の2行。
1行目は「それよりのちハ」。
「ハ」はカタカナです。
2行目はかなり難解そうですが…。
最初の点2つが御中とか御礼の「御」という漢字。
「ぎょ」って字ですね。
これが「と」。
ここがクルッとひらがなの「と」。
その次が「お」がクルッと回って…。
繰り返し符号がここまできますから。
それでその次が「し」でスーッと「し」。
で「く」。
ここからここまで。
しかも今まで書いた「とお」という字を真っ二つに割るように…。
へえ〜!そういう書き方だったんですね。
なんか分かるでしょ。
真っ二つに割るようなそういうふうに…。
いやここ難関ですね。
それはもう最大の見どころ。
それはちょっと普通にはやれない芸当ですね。
これはなんかもう別世界ですね。
だから今日はガラシャになった気持ちで。
う〜ん…。
今日いろいろ見てきましたからいろいろこうガラシャが降りてきてますから。
はい。
羽田さんガラシャの気持ちになって最初の臨書です。
アハハ!ちょっとかすれましたね。
うんいいです。
ちょっと力を入れ過ぎたからもうちょっと筆をこう…。
上げて。
つり上げるような形で…あっ…。
どんなんなってもいいからなるたけ筆の当たり軽くとって太くならないようにして…。
フフフフ…。
フフフッちょっとこれは…。
いいいい。
ビックリしますね自分で。
これずっと見てこれ見てるともう文字じゃないですよね。
羽田さん筆の運びが遅かったためガラシャの勢いに届かなかったようです。
ここが一番見どころですね。
ほとんど動きを出さないようにギュッと引き締めて。
で「お」も引き締めてそこから繰り返し符号で大きくなった力を合わせ次の「し」をスーッと書いてそれで「く」に結ぶというね。
緩急をつけてもう一度。
いいですようん。
フフフッちょっと…。
いいじゃないですか。
速度感とかその辺のところうまくとれましたね。
羽田さんじゃじゃ馬のような勢いに少し近づけたようです。
じゃあ後半のところで…前半と後半と違うっていうのは今日見てきましたね。
その後半のところで同じ繰り返し符号のある「ちとちと」というところですね。
ここですか「ちとちと」。
それをちょっと臨書してみましょう。
前半と後半で書きぶりが変わるガラシャの手紙。
今度は後半の「ちとちと」の臨書です。
「少しだけでも会いたい」という心情がかいま見える箇所。
ここだけ取り出せばもう平安時代のかなの基本。
基本どおりの字ですね。
基本どおり。
ここからこうこっちへ横へ延びてね。
でこう間をおいて…だからさっきのようにここへ繰り返し符号が上がっていかないでここへね。
こうでしょ。
「ちとちと」と。
このままだったら普通誰でも読もうと思ったら読めますよね。
ああ〜そっか。
こっちは読めないです。
こっちは普通には読めない。
羽田さん気持ちを整え後半の臨書に挑みます。
うんいいじゃないですか。
完成やね。
フフフッ今ちょっと心を込めました。
うんそうですね。
2か所を臨書して羽田さんはその違いをどう感じたのでしょうか。
はぁ〜でもやっぱり同じ人が書いてますけど心境がちょっと違いますね。
こう手に伝わってくる…。
前半はやっぱり流れるようにほんと水のようにさらさらさらさらリズムがないと書けない文字だったんですけどこちらは一個一個文字を置いていく感じがして…。
臨書で見えてきたのは書いた時のリズムの違い。
それは心の動きの変化にも通じるものなのでしょうか。
まあ前半はある意味では慣用みたいな形でスッと入っていって最後の方で伝えたい事が出てきたというような事もあるかもしれませんね。
「本当の事はこちらです」というような心の趣が違ったのかなっていう感じはしましたね。
だから書きながら…それでそこに向けてより書いていこうという書き方が増えていったのかもしれませんね。
なんか距離がグッと縮まるような…。
形を似せて書くんじゃなくてその速度感とか…。
リズムというか。
ストロークとか呼吸とかそういうようなものを合わせていく事によって本当の意味での臨書っていう…。
似せるだけじゃないんですね。
その書いた…そうそうそういうものを…
2つの書きぶりが表れた細川ガラシャの書。
それは彼女のドラマチックな人生そのものを思い起こさせました
先生がお書きになってるその姿を見ててここからガラシャの気持ちになって手を伝わった形が似せるっていう事ではなくって気持ちが振動で伝わった文字がそのものになってくんだなという発見があって「臨書ってこういう事なんだ」というのが初めて体感できたというか…。
だから似せる事とは非なるものだなと思いました。
やっぱりその気持ちになるという事が大事なんだな…。
なんかすごく楽しいですね。
なんか役を演じるのと近いものがありますね。
書家・石川九楊が日本で最も美しいと思う書に会いに行きました。
京都の野村美術館が所蔵する名品中の名品。
「日本人というのはどういうスタイルですか」っていったらその全てがここにあると。
…と言っていいと思いますよ。
一筆一筆動いてますね今もね。
生きて…すごいなあ。
これは平安時代菅原道真の歌を紀貫之が書き写したと伝えられる「寸松庵色紙」。
その美しさの秘密。
まずは行頭をそろえず少しずつ下げる書き方。
同じ高さで「あけましておめでとうございます」とせず「あけまして」それからちょっと行頭を下げて「おめでとうございます」。
あるいは「おめでとう」更に行頭を下げて「ございます」というふうに書く。
こういう頭を下げる書き方を「散らし書き」っていいますけどその元がここにあるわけですね。
書き始めの位置に戻らない書き方というのは日本にしか基本的にはないですね。
左右対称平行ではない形での一つのバランスというものがいつも日本語日本人の中に働いてる。
更なる美しさの秘密は歌を2つのパートに分ける…手前側が此岸ですね。
こちら岸でそれで真ん中に川あるいは海があってその向こう側に彼岸があるというそういう姿っていうのは日本人の中に隠れてるというところがあってそれがこの「寸松庵」の分かち書きにはっきり出てますね。
千年もの昔に育まれた日本人の美意識は今なお不変である事が分かる書です。

(テーマ音楽)2015/10/22(木) 10:15〜10:40
NHK総合1・神戸
趣味どきっ! 石川九楊の臨書入門 第3回「戦国の貴婦人 細川ガラシャ×忠興」[解][字]

書から歴史上の人物の素顔を読み解く「臨書入門」。今回は戦国時代の悲劇のヒロイン細川ガラシャが夫に宛てた直筆の手紙に迫る!ガラシャの署名が残る唯一の書の真意とは?

詳細情報
番組内容
柳の木のように優美で、かつ強さがみなぎるガラシャの書。逆臣の娘と疎まれつつ、家の名誉を守るため、最期は自身の命を投げ出したガラシャ。キリシタンになって変わった彼女の人生とは?留守中の夫・忠興に宛てた手紙には、家の無事を伝えると共に、会いたい気持ちが表れていた。また手紙の前半と後半の書きぶりの違いからも見えてくるガラシャの素顔とは?「臨書」の実践では、手紙の冒頭の常とう句に挑戦する。出演:羽田美智子
出演者
【講師】書家・京都精華大学客員教授…石川九楊,【生徒】羽田美智子,【出演】京都橘大学名誉教授…田端泰子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:19656(0x4CC8)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: