うわさどおりの型破りな男だった。
裸一貫からたたき上げ。
年商2,000億円の企業を率いる社長だ。
常識を覆すビジネスは常に注目を集める。
32年前に立ち上げた日本最大のレンタルチェーン。
映画と音楽の楽しみ方に革命を起こした。
2年前から運営する公立図書館。
本の分類方法を一新しカフェを併設するなど大胆な改革で来館者を3倍に増やした。
一方で運営のしかたや本の選び方などに批判が上がり議論を呼んでいる。
新ビジネスを次々と生み出す起業家。
会員数5,500万人のポイントカード。
常識破りの書店。
その企画力はレンタルチェーンの枠を大きく超える。
64歳。
攻める気持ちは全く衰えない。
(主題歌)モノもサービスもあふれる時代。
増田の手腕に名うての経営者も舌を巻く。
40代大事業に失敗し200億円の負債を抱えた。
この夏勝負をかけた大プロジェクト。
これまでにない百貨店を一からつくるという壮大な挑戦。
失敗のリスクが高いところにあえて飛び込むのはなぜか。
先の見えない時代を生き抜くヒントがここにある。
増田の会社があるのは東京・渋谷。
朝9時。
Tシャツにジーパン姿で現れた。
ラフないでたちには理由があるという。
(一同)おはようございます。
出社して一息つく間もなく会議が始まった。
普通ですよ。
(笑い声)この日はポイントカードを担当する部署からの報告。
いきなり増田が切り出した。
自らの会社をレンタル会社ではなく企画会社だと言う増田。
この日も新たな企画の種を社員にぶつけた。
会議の合間やトイレにまで社員は至る所で待ち構える。
ションベンまで撮るんかい。
増田が言う「企画」とはこれまで世の中になかったビジネスを生み出す事。
今抱える20のプロジェクトのほとんどが時代を先読みして始めた新事業だ。
例えば増田がいち早く始めたポイントカード事業。
単なるレンタル店の会員証を大きなビジネスへと変貌させた。
カードをコンビニや飲食店など提携先で提示すると客はポイントがもらえる。
同時に購買データを収集。
それを年代や性別売れるものの傾向などに分析して販売する事で相手先はマーケティングに生かす仕組みだ。
現在100以上に上る提携企業を更に増やす戦略を練っている。
独自の企画を次々と生み出す増田。
一つの信念がある。
今増田が取り組んでいる企画は低迷する小売業を変える新たなビジネスモデルの開発だ。
4年前につくった書店を中心とした複合施設。
既存の書店のように本の品ぞろえだけで勝負してはネット書店に勝てないと考えた増田。
コーヒーを飲みながら商品を自由に何時間でも読む事ができるなどネットとは対極のゆったりとした居心地を追求した。
これまでにない雰囲気が評判を呼び売り上げは右肩上がりに伸びている。
しかし課題になっている売り場があった。
2階にあるCDレンタルや販売を行う音楽フロア。
オープンから4年。
売り上げが2割弱落ちていた。
増田はまずどういうジャンルが売れているのか分析を始めた。
他の系列店で人気の日本のポップスが落ち込んでいる。
突然売り場に向かった。
客からどう見えるか感じた事をどんどん伝える。
時代の心をつかむには自分自身が問われる。
それが企画を生み出す者の宿命だと考えている。
一人の生活者としての感性を保つために増田さんは努力を怠らない。
その一つがランニング。
休みの度に走りながら街を眺める。
この日は2キロほど走って銀座にやって来た。
あらゆる世代の目線になって何か課題がないか探る。
そして企画を形にするために使うのが画用紙と鉛筆。
スケッチ用の特殊な鉛筆を使う事で頭の中を自在に表現できるという。
(増田)この平面に対して一番少ない情報ってこれじゃん。
だけど俺にとってはこれがすごい大事でこのこれはすごく情報なの。
例えばこの線の太さ。
それから濃さ。
だからこういうふうにも描くしこういうふうにも描けるしっていう一本のペン。
これがすごく大事なのよ。
この日増田は大切な会議に出席するためある店舗を訪れた。
今年5月にオープンした家電店。
他の量販店が次々と閉鎖する中で立ち上げ業界を驚かせた。
商品の脇に関連の書籍を置いたり料理勉強会を行うなどただ売るだけではなくライフスタイルを提案するという店舗だ。
更に店の中には家電製品と相性の良い食や美容などに関わるテナントを誘致した。
この日はテナントのオーナーたちとの初めての会議。
オープンから1か月。
客の数は多いが売り上げは目標に達していなかった。
テナントからは増田の会社が担当する家電売り場にも疑問の声が出た。
これまでにない売り場に客が戸惑っているのではないかという。
テナントが不安を抱えたままでは店舗は決して成功しない。
増田が口を開いた。
力不足である事を正直に認めた。
無理という事を前提にやってるのでまあ10点いうのは「ようやってるなぁ」と。
是非在庫管理を教えてやって下さい。
増田は新たな事業を企画する時成功するとは見込まない。
失敗を前提に事業計画を立てる。
1週間後増田は早速売り場の改革に着手した。
失敗を恐れず挑み続けた者だけが生き残れる。
それが今の時代だと増田は考えている。
ジャーン!NHKが来てもうたで〜。
(笑い声)ふるさとに帰るとやっぱりほっとする。
(一同)乾杯!年に一度親戚みんなが集まるお盆の帰省。
(鈴)今の姿からは想像もつかない話だがそこから波乱万丈の人生が始まった。
子供の頃はつらい記憶しかない。
幼稚園の時交通事故で顔に痕が残りいじめの標的になった。
更に小学校の時父親が事業に失敗する。
そんな中でも母親は自分の着る服や病院代まで我慢して息子に不自由をさせまいとしてくれた。
そう思うようになった。
まず弱い自分を変えなければと高校でレスリング部に入部。
つらい練習に耐えるうちいじめられなくなった。
自信をつけた増田さんはサラリーマンとして婦人服の会社に入社。
そして32歳の時会社を辞めてレンタル店を立ち上げた。
繰り出す策が次々と当たり10年後には600店舗を持つまでに急成長。
裸一貫から一大チェーンを築き上げた増田さんは時代の寵児ともてはやされるようになった。
しかし転落の時は突然訪れた。
増田さんはアメリカで始まった多チャンネルの衛星放送を日本に導入。
200億円を出資し社長となった。
この挑戦は必ず成功させなければならないと意気込んでいた。
だが加入者が伸び悩み事業は低迷。
2年後業績不振を理由に社長を解任された。
財産と信用を同時に失った。
初めての大きな失敗。
更に追い打ちが来た。
後発のライバル会社に追い上げられレンタル事業が伸び悩む。
そんなある日。
友人から増田さんにある提案があった。
「これまでの仕事仲間を集めて復活を目指すパーティーを開いてはどうか」。
増田さんは乗り気じゃなかった。
成功しているところに人は集まるもの。
失敗した自分に会いに来る人などいるはずがない。
しかしパーティー当日増田さんは目を疑った。
100名もの仕事仲間が次々と駆けつけ増田さんを励ました。
大きな失敗をしても集まってくれる人がいる。
もう一度挑戦してみよう。
増田さんは次々と新事業を立ち上げ始めた。
中には赤字で失敗したビジネスもある。
それでも新たな企画を立てる事にこだわり続けた。
増田にとってひときわ熱い夏が来た。
勝負をかけたビッグプロジェクトが佳境を迎えていた。
大阪の郊外に地上8階建て5,000坪の百貨店を新たに造る計画だ。
今モノが売れない時代に百貨店業界は苦境にあえいでいる。
実際増田が店舗を建設する駅でもこの10年で2つの百貨店が閉鎖した。
しかしだからこそ常識を覆す百貨店を成功させられればそのインパクトは計り知れないものになる。
逆境だからこそ飛び込む。
増田らしい挑戦が始まった。
オープンまで1年を切った7月下旬。
百貨店の全体像を決める企画会議が開かれた。
責任者は入社18年目の久保田。
8人の企画チームを率いるリーダーだ。
増田から課せられたのは来た客が驚き思わず笑顔になるような斬新なコンセプト。
工事は既に始まっている。
早急に決めなければならない。
久保田が提案したのは「食」に特化した百貨店というコンセプトだ。
従来の百貨店はデパ地下以外は服飾が中心だが思い切り振り切ってはどうかという。
だが増田は手厳しい。
一見新しそうに見えるが言葉だけの企画になっていて具体的ではないと指摘した。
10日後。
久保田は現場で百貨店の全体像を探り直していた。
久保田にはゼロから施設を企画した経験がない。
既存の店を改革した実績を武器に企画の仕事をしたいと希望してきた。
増田はその熱意を買って抜てき。
自由な発想で挑み企画屋として育ってほしいと考えていた。
3日後。
久保田が新たなコンセプトを出してきた。
提案したのは家族がそれぞれ楽しめる百貨店。
単にモノを売るのではなく家族の絆を育む場にしたいという。
各階のイメージも具体的に練ってきていた。
増田にも具体的なイメージが見えてきた。
百貨店全体を「家」に見立て1階から5階までそれぞれの階で自分たちの時間を過ごせる仕掛けを作る。
しかし問題があった。
年配の女性をターゲットにした4階だ。
4階のテーマである「旅行」は家の外のイベント。
他の階が「日常を過ごす家」というコンセプトで統一されている中そこだけが浮いている。
場所を埋める事を優先し客の目線を忘れていると増田は見た。
久保田たちは4階の中身をもう一度考え直してくる事になった。
はいお疲れ。
(一同)お疲れさまです。
その夜増田は社員と共に夕食に出かけた。
久保田も誘ったが会社に残り参加しなかった。
(笑い声)久保田たちは必死にもがいていた。
4階の面積は600坪。
その広大な売り場で年配の女性たちに何を提案するのか。
翌日増田は久保田と現場の視察に向かった。
増田自身も何が正しいコンセプトなのか答えを持っているわけではない。
経営者となって30年。
自分の思いを突き通しこれまで幾度となく失敗を繰り返してきた。
伝えたい思いがある。
決断の日。
久保田がプランを話し始めた。
企画内容を詰めきれていない。
久保田はまだ迷いの中にいた。
増田に答えを求めてきた。
オープンまで1年を切りもう時間がない。
手を差し伸べるかまだ任せるか。
4階には何も入れず空けておくと言う。
大胆な決断だった。
(主題歌)ありがとうございます。
なあ久保田。
(久保田)はい。
どうよ?10日後。
久保田たちは自ら知恵を絞り1階の具体的なプランを出してきた。
オープンまでには4階の中身も間に合わせてくる。
増田はそう確信していた。
人を一番幸せにできる人。
人生を一番豊かにできる人。
大変?違うよ楽しいよ。
大変だけど楽しい。
だって人が喜ぶから。
いつも言ってるじゃん。
好きなやつと好きな事を好きなようにやるって。
2015/10/19(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「常識の外に、未来はある 起業家・増田宗昭」[解][字]
型破りな企画で斜陽の小売業界に革命を起こしているのが、日本最大のレンタルチェーンを起業した増田宗昭。大きな勝負を懸けた百貨店プロジェクトに密着、その流儀に迫る。
詳細情報
番組内容
ネットの隆盛でジリ貧の小売業界で、型破りな企画を武器に革命を起こしている起業家がいる。日本最大のレンタルチェーンの創業者・増田宗昭(64)。ネットと競ってモノを売るのではなく、「居心地がいい」「発見がある」などの生身の体験を重視した新業態の書店や家電量販店などを開発し、売り上げを伸ばしている。大きな勝負を懸けた百貨店プロジェクトに密着し、失敗のリスクが高いからこそあえて挑む、増田の哲学に迫る。
出演者
【出演】カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長…増田宗昭,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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日本語(解説)
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