ことし上半期新車の販売台数で世界トップに上り詰めたフォルクスワーゲン。
その陰で消費者を欺く不正を続けていました。
不正なソフトウェアを使った排ガス規制逃れ。
環境に優しいクリーンディーゼルを売りにしながら路上では基準値の最大40倍もの有害物質を排出していました。
新車の半数がディーゼル車のヨーロッパでは今回の不正を受けて排ガス規制の在り方に批判が高まっています。
世界に衝撃を与えたフォルクスワーゲンの排ガス不正。
その真相に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
フォルクスワーゲンというグローバル企業ドイツ最大の自動車メーカーはなぜ、みずからの信頼を揺るがす不正に長年手を染めていたのでしょうか。
問題となっているのは軽油を燃料に走るディーゼル車です。
ディーゼル車は燃費がよい反面黒いススや窒素酸化物などの排出が多く大気汚染を引き起こし呼吸器疾患などにつながるという課題がありました。
しかし、1990年代に入ってエンジンの改良や排ガス処理装置の進歩で環境に優しいクリーンディーゼルとして復活しヨーロッパでは今や新車の販売台数の半分を占めています。
ところが先月、アメリカ政府はクリーンを売り物に販売されていたフォルクスワーゲンのディーゼル車が不正なソフトウェアを使って試験場での排ガス検査をくぐり抜け実際に道路で走行すると最大で規制基準の40倍もの窒素酸化物を出していたと発表しました。
クリーンな車を選んで購入したと思っていたユーザーを裏切る行為です。
問題のディーゼル車日本で該当する可能性があるのは個人で輸入した200台余り。
しかし、世界的な影響は大きくアメリカで販売されていたおよそ50万台に加えヨーロッパ市場で850万台など対象となる車は1100万台にも上ります。
さらに今回の不正問題をきっかけに排ガスに含まれる有害物質が試験場で検査したときと実際に道路を走ったときと異なるケースが少なくないことから検査の方法排ガス規制の在り方そのものを見直す動きも出てきています。
この10年で販売台数を2倍に増やしたフォルクスワーゲン。
少しずつ見えてきた不正の実態からご覧ください。
今月8日に開かれたアメリカ議会下院の公聴会。
フォルクスワーゲンのアメリカ法人の社長が厳しい追及を受けました。
フォルクスワーゲンは現在不正の詳細や動機などをほとんど明らかにしていません。
一体、不正はどのように行われたのか。
アメリカの研究者を取材しました。
フォルクスワーゲンのディーゼル車の排ガスを調査し不正を見つけたダニエル・カーダーさんです。
カーダーさんは独自に排ガス計測器を複数のメーカーの車に取り付け路上を走って測定しました。
すると、フォルクスワーゲンの車から驚くべき結果が出たのです。
緑の点線で示された法令の基準値をはるかに上回る窒素酸化物が排出されていました。
フォルクスワーゲンの車はカリフォルニア州の検査はパスしていました。
この検査は、路上ではなく室内のローラーの上で車を走らせ排出される有害物質を測定します。
実際の検査結果です。
基準値の0.05グラムを下回り問題はありませんでした。
路上と室内で、なぜこれだけ大きな違いが生じたのか。
カリフォルニア州は車に不正なソフトウェアが搭載されていることを突き止めました。
室内検査ではアクセルやブレーキを踏む走行パターンがあらかじめ決められています。
また、ハンドルはほとんど動かしません。
車に搭載された不正なソフトウェアはこうした運転データから検査中であることを察知します。
その際は、排ガス処理装置をフルに稼働させて検査をクリアしていました。
一方、ハンドル操作やスピードの変化などから路上走行と判断した場合には排ガス処理の機能を低下させ有害物質をほぼそのまま排出していたのです。
ディーゼル車の排ガス処理装置をフル稼働させると燃費や走行性能が悪くなるとされています。
この課題を乗り越える高性能の処理装置もありますがコストがかさむためフォルクスワーゲンは不正なソフトウェアの使用に踏み切ったと見られています。
不正の背景には自動車業界のしれつな競争がありました。
フォルクスワーゲンは世界一を目標に掲げここ10年で、販売台数を2倍に増やしてきました。
しかし、市場規模が世界2位のアメリカでは環境に優しく燃費のよいハイブリッド車に大きくリードされ苦戦していました。
そこで打ち出したのはクリーンディーゼル車でシェアを拡大する戦略でした。
ドイツの自動車専門誌で編集長を務めるイェンス・カーテマンさんです。
長年、フォルクスワーゲンの取材を続けてきたカーテマンさんは世界一を目指すうえで焦りがあったと見ています。
7年以上にわたって隠蔽されてきた今回の不正。
カーテマンさんは企業風土にも問題があったと指摘します。
ドイツ最大の企業の不正はヨーロッパ経済も大きな影響を与えかねないと懸念されています。
特に深刻な問題となっているのが本社のあるドイツ・ウォルフスブルク市。
歳入の半分をフォルクスワーゲンからの税金に頼ってきましたが今回の問題を受けて予算案の先送りを決めました。
今夜は長年、自動車業界の研究、そして分析を続けていらっしゃいます自動車アナリストの中西孝樹さんをお迎えしています。
ヨーロッパから帰られたばかりということで、関係者の方々の間の空気というのはどういうものでしたか?
正直申し上げて、まだ情報が非常に限られていて、困惑している雰囲気があったと思います。
ただやはり、自分たちの力であるディーゼルの技術に対しては、先行きに対して、少し悲観する声がやっぱり多かった。
あとは、次の技術として、電化、いわゆる電気自動車だとか、ハイブリッド、あるいはプラグインハイブリッドのようなこういった電化の技術というのが、より重要度を増すんじゃないのかなという、そういう空気を感じましたね。
フォルクスワーゲン社にとって、ディーゼル車の販売に占める割合って、どれくらいのものなんですか?
世界では大体20%程度と思っていいと思います。
大きな販売台数を占めている中国市場が実は、ガソリン中心ですので、ディーゼルが多いのはヨーロッパ。
ですから、今回、大きな問題になっていますけれども、影響を強く受けるのは、20%の部分だというふうに見ています。
それにしても、堅実だというイメージが強いこの企業ではないかと思うんですけれども、その企業がアメリカ市場で、ハイブリッド車に苦戦をする中、消費者を裏切るような不正を犯していたと、なぜそんなことをしたんですか?
そうですよね、大変残念ですね。
とてもいい技術を持った会社だと思っていますが、今回、まだファクトファインディングの段階ですので、断定的に原因が分かっているとはいえませんが、私は大きく2つ原因があると思っていますが、1つ目は先ほどのVTRにもあった、…を非常に急いだと2つ目には、…、その技術でいうところで、少しこのボードを使って説明をしますと、アメリカは、実は、この排ガスの規制ですね。
これが2004年から、今のヨーロッパの規制の倍以上厳しいという、非常にこの問題をクリアするのは難しかった、そういう市場です。
ですので、この排ガスをクリアしながら、価格と燃費と走行性能、全部をクリアするのは、恐らく2007年とか8年の当時の技術では、かなり厳しかったと。
そういうことでこの排ガスの技術を少し抑えてしまおうと、それであれば、フォルクスワーゲンらしい走りだとか、燃費性能を実現した車ができるという、こういったねらいがあったんだと思います。
ただ、時代がたつと、走行中の排ガスをきちっと測定していくという技術がだんだん進化してくる。
実はこのエンジンを出した2008年当時は、そういった技術があまりよく見えていなかった。
これが2010年、11年ぐらいから、かなり確立してきまして、どうもこの排ガスがきちっとコントロールできていないんじゃないかと、業界の中でも大きな認識になってきていて、今回、調査の中で、その不正なソフトで、これを抑えているということが、判明したと、これが実はアメリカでの原因の一つだと思っていますね。
実際に走行して調べられるようになったことも、今回、判明したこと。
これ、大きな技術革新でした。
なるほど。
そしてもう一つの点が今のVTRにありました、企業風土ということなんですけれども、この企業風土を表すその特徴が、ちょっとこちらですけれども、フォルクスワーゲン社というのは、グローバル企業ですけれども、ピエヒ家とポルシェ家が持ち株を51%持っていて、ほかにドイツ州政府が20%、一般株主が僅か12%と。
普通のグローバル企業ですと、もうもっともっと一般株主の比率が高いと思えるんですけど。
そうなんです。
ですから、ここがフォルクスワーゲンの会社の非常に特殊な、複雑な背景になっていまして、もともとは、これ、国民車を作る会社ですので、公益会社ということで、ドイツの州政府が多くの比率を持っていた会社です。
ところが、成長する過程の中で、ピエヒ家とポルシェ家、いわゆるポルシェを経営している一族なんですけれども、フォルクスワーゲンとポルシェが一緒になるという形で、こういった形で、非常に組織が大きいんですけれども、一部のファミリーが、議決権の51%を握り、かつ州政府も20%を握りという形で、ちゃんと会社のガバナンスみたいなものを確立することが、大きくなる過程の中でできなかった。
もう一つ、このピエヒさんですね、22年間、実は社長と監査役会の会長という形で、会社のトップに、事実上のトップとして君臨しました。
ですから、監査役会の会長自体が、会社を事実上運営するという形になると、きっちりと監視をするということもできない、そういう成り立ちがこういった不正の背景にあった可能性はあるというふうに言えるんではないかと思います。
まだ組織ぐるみかどうかは明らかではないんですけれども、非常に特殊な企業体質があったということですね。
さて、このディーゼル車、新車の販売台数の半数をヨーロッパで占めています。
フォルクスワーゲンの不正をきっかけに、ヨーロッパでは検査そのものの在り方を見直そうという動きが出てきました。
スモッグでかすむフランス・パリ。
ここ数年、大気汚染が社会問題となっています。
その原因の一つと見られているのが自動車の排気ガスです。
パリ市では、汚染がひどい日には車のナンバーによって市内での走行を規制しています。
フォルクスワーゲンの排ガス不正問題を受けてディーゼル車への風当たりが強まっています。
排ガス規制は厳しくなっているのになぜ、大気汚染は収まらないのか。
環境団体や調査機関の間ではクリーンディーゼル車が実際に出している排気ガスを調べる動きが広がっています。
各国の専門家が参加するNPO国際クリーン交通委員会が去年まとめた報告書です。
アメリカとヨーロッパで室内の検査をパスしたディーゼル車15車種を対象に路上で排気ガスを測定。
その結果、窒素酸化物の排出がヨーロッパの今の基準内に収まったのは、僅か1車種でした。
ヨーロッパ議会では室内だけでの検査に批判の声が上がっています。
ヨーロッパ議会のヘルブランディ議員です。
路上での排ガス検査の早期導入を訴えてきましたがなかなか進まなかったといいます。
今回の不正を受けてヨーロッパの一部の国では独自に検査方法の改善に乗り出しています。
フランスでは各メーカーのディーゼル車合わせて100台に対する緊急の抜き打ちテストの実施を決めました。
一方、ヨーロッパの自動車メーカーで作る団体は声明を発表。
路上での排ガス検査の必要性を認めつつ対応には時間がかかるとして猶予期間を設けるべきだと主張しています。
欧米と同様に室内での検査を行っている日本。
自動車の排ガス規制に詳しく政府の委員も務める専門家は検査の見直しは世界的な流れだといいます。
国土交通省も検査の見直しに言及しました。
今のリポートにあった、実際にヨーロッパで走らせて調べてみたところ、ヨーロッパの窒素酸化物の基準をクリアしていたのは、1車種だけだったと。
4倍平均して上回っていたと、これ、違法ではないけれども、ということでしたけれども、これ、排ガス問題、大変な課題になってきますね。
そうなんです。
こんなにかい離しているものを、放置してたのは、皆さん、きっと驚きだと思うんですね。
ただこれ、決して放置していたわけではなくて、先ほども申し上げたように、実は、実走行で測る技術というものが、きちっと確立できていなかった。
実際、そういう技術が出来たのはここ数年、それで測ってみると、結構、それが大きな問題であるということは認識されてきていて、規制当局、業界合わせて、その問題を解決しようという、そのやさきに実は今回の不正が見つかったという形になっています。
今、世論の空気から見ますと、早く、走行しながらのテスト導入しろという声が上がっていますよね。
実は業界にとっては、大変大きな問題になってくるんですね。
こちらのフリップをもう一度使いますが、実は、業界の認識としては、この排ガスの問題というのは、おおむねクリアできたというのが業界の認識で、これから燃費性能をどんどん高めて、地球温暖化に対する環境問題をクリアするということで、2020年、25年って、非常に厳しい規制が敷かれるスケジュールになっていると。
ところが、今回は路上テストでちゃんと規制値まで、排ガスを落とそうということになると、排ガスの問題が、また再び大きな問題になってきていて、この2つの燃費と排ガスを両方規制をクリアしながら、かつ価格を抑えて、走行性能を保つというのは、実はこれは本当に大きな問題で、ディーゼルは大変難しい問題を抱えたといえます。
そうすると、ヨーロッパ市場の半数を占めているといわれるディーゼル車ですけれども、相当な逆風にあるというふうに見ていいんですか?エコカーの競争というのは、どういうフェーズに今度入っていくんでしょうか?
やはりこのディーゼルは、しばらくは規制の厳しさと、技術革新のギャップというのが少し開いてきてしまいますので、エンジンとしての競争力はしばらく厳しくなると思います。
そういう意味においては、ディーゼルに変わる新しいエコカーの技術が台頭する可能性はあるんですけれども、ただ、ディーゼルなしに将来の燃費規制をクリアできるのかという、これ本当に現実的にやはり必要な技術ですので、そこはいろんな技術革新をしながら、ディーゼルが信頼できる、かつ環境にいいエンジンにもう一回再生をしてくるということが、必要だと思います。
ただ、エコカーの分野にいけば、やはりディーゼルもガソリンもなかなかこういった路上テストが厳しくなっていくとなれば、やはり電化の技術を使った電気自動車だとか、プラグイン、こういったところが、より有望になってくるという可能性は十分に考えられると思います。
そうしますと、そのハイブリッドの技術で、世界をリードしている日本の車というのが、優位になると思っていいんでしょうか。
短期的な目線で考えれば、やはり追い風なんだと思うんですね。
ただ、重要なことは、自動車の将来の技術を見渡したときに、本当に短期的なエンジンの性能で、勝敗が決まるという形にはなっていないと。
自動車というのは、本当に100年に1回ぐらいの大変大きな技術革新の時代を迎えています。
ですので、今後は自動運転だとか、あるいは通信技術だとか、あるいは電化技術みたいな、そういったエレクトロニクスと車が融合する、こういったところで、欧州メーカーはどんどん勝負をしてくると思いますので、決してこの結果において、日本の自動車メーカーが勝ち組になると、油断をしてはならないと思っています。
2015/10/19(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「フォルクスワーゲンで何が…〜“排ガス不正”の真相〜」[字]
フォルクスワーゲンの排ガス試験を巡る不正発覚からひと月。ドイツ最大の企業で何が起きていたのか。不正の実態と背景に迫るとともに、排ガス規制のあり方について考える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】自動車アナリスト…中西孝樹,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】自動車アナリスト…中西孝樹,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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