さまざまな国の領有権の主張が絡みあう南シナ海で、米国と中国の緊張が高まっている。

 中国が埋め立てて造った人工島の近くに、米軍の艦船か、航空機を派遣する。オバマ政権がその方針を固めた。

 国際法では領土から12カイリ(約22キロ)が領海とされるが、米軍はあえて通航し、中国の一方的な主張を認めない姿勢を示そうとしている。

 これに中国が反発するのは、筋違いである。人工島の領有権も領海の主張も、説明のつくものではない。仮に領海内だとしても、軍艦の航行が、いわゆる「無害通航」ならば、認めるのが国際ルールだからだ。

 どの国であれ、国際規範に沿った「航行の自由」という海洋の原則を曲げてはならない。とりわけ世界有数の重要海路である南シナ海で、独断によるルール変更は許されない。

 懸念されるのは、米軍のそうした行動に対する中国の反応である。米中の軍同士が直接対峙(たいじ)すれば、西太平洋地域は一気に緊迫しかねない。

 万が一にも軍事衝突に発展させてはならない。米側は航行に踏み切っても無用な挑発は避けるべきなのは言うまでもない。

 この緊張を招いた大きな責任は、中国の側にある。国際規範を守り、不測の事態が生じぬよう自制すべきだ。

 そもそも中国の主張には無理がある。南シナ海のほぼ全域に「管轄権がある」というが、法的根拠は乏しい。92年に定めた領海法で、軍艦が領海内を通るには中国の許可が必要としているのも受け入れがたい。

 中国側には軟化の兆しも見える。人工島建設について「民間サービスが主」と釈明し、東南アジア諸国連合(ASEAN)に対しては、南シナ海での衝突回避のための「行動規範」づくりを働きかけている。

 中国が国際ルールを守る国として発展するか、それを無視して「力による現状変更」に進むのかの分岐点となる。責任ある大国として分別を示すときだ。

 国際社会も、中国にいかに向き合うのかが試される。来月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議や、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議など各国首脳が顔をそろえる機会を通じて、南シナ海情勢を安定させる道筋を探りたい。

 安保法制が成立した日本も、最大の役割は軍事的関与ではなく、国際社会の結束を築く外交面にあることを忘れてはならない。ASEANと日本のパイプを生かし、粘り強く緊張をほぐす努力が求められている。