養蚕に関わっていねえ家はなく生糸に携わっていねえ女はおりません。
長州では男に二言はありません。
「忙中閑あり」。
安田美沙子さんのくつろぎの時間を演出するのはある素材で出来たものたち。
手ざわり感のいい…そして器を引き立てる…さらにクッションのカバー。
実はどれも和紙で出来ているんです。
クッションにしてもいいほどの丈夫さが特徴。
富山県の「越中和紙」が本日のイッピン。
今越中和紙の製品は全国で注目されています。
東京原宿のセレクトショップには越中和紙のコーナーがあるんです。
色とりどりのおしゃれ小物がずらり。
どれもどこか懐かしい和紙の風合いとモダンな柄が融合していると人気なんだそう。
なるほどこれ和紙なんですねっていう感じで現代のライフスタイルに華やかさをもたらす新しい和紙の形。
きょうは驚きの姿に変貌を遂げた越中和紙の魅力に迫ります。
越中和紙が作られているのは富山県の3都市。
富山市南砺市そして朝日町。
江戸時代には全国に知られた和紙の里です。
安田さんまず富山市の工房を訪ねました。
わ〜いっぱいあるんですねぇ。
かわいい!これはペン立て?和紙とは思えないものばかりおよそ20種類。
工房は創業55年。
絶えず新たな製品づくりに取り組んできました。
クッションもそのひとつです。
え!クッションってでも布でしかないですよね普通。
こうやって寝たりとか。
こんにちは。
こんにちは。
2代目社長。
和紙でもクッションってこうもたれたりとかしますよね。
(社長)しわがつけばなおさら良くなるし柔らかくなってきますし。
破れない?不思議!なんで破れないんだろう?もたれたり乗ったりもするクッション。
丈夫な和紙なので長年使っても問題ないんだそう。
驚きの和紙。
その製法を見ていきます。
和紙づくりは手作業。
まずは…。
え!よかった!アホがばれるとこだった。
皮!これが和紙の原料。
「楮」という木の繊維です。
「トロロアオイ」という植物から抽出した粘液を加え水に混ぜます。
そして天井から糸でつるされた「簀桁」と呼ばれる道具で一枚一枚すいていくんです。
吉田さんがクッションに使う和紙を見せてくれました。
そうそう。
確かに丈夫そう。
さぁ紙すき作業開始。
この道10年の…簀桁は水を入れると10キロにもなります。
簀桁のへりを水槽に密着させると扱いやすいんだとか。
そして楮の繊維が行き渡るようまず簀桁を左右に揺らし横の流れを作ります。
次に簀桁を上下に揺らしタテの流れも加えていくんです。
こうして栃山さんは簀桁を上下左右に揺らして楮の繊維を絡ませていました。
これが丈夫さを生む最初のポイント。
電子顕微鏡で見ると確かに楮の繊維同士が絡まり合っている事がわかります。
ここで安田さんも紙すきに挑戦。
いいんですか。
どうぞ。
持ち上げて。
持ち上げて。
まず手前からあ〜流れちゃう流れちゃう。
でくむ時に…。
アハハハハ。
あ〜メチャメチャになっちゃった!すいません!何にも出来ないんです。
アハハハ。
そうなっちゃうんで。
なにこれ!難しい!はい。
大きなしわが寄ってしまいました。
これでは製品になりません。
「水を操れ」ってよく言われました。
教えられた時に「水に遊ばれるな」って言われたんです。
そうですね。
完全に。
クッション用和紙づくりの本当の難しさはこれから!何度も何度も紙すきを繰り返さなければならないんです。
水をすくって…。
1回。
2回と繊維を行き渡らせ簀桁の底にたまったら水をすくい上げる作業を繰り返します。
一般的な和紙なら4回程度すけば完成しますがクッション用和紙はまだまだ続きます。
少しでもバランスが崩れると繊維が乱れ製品になりません。
栃山さんの腕は紙すきを始めてからひと回り太くなったそうです。
繊維が厚く重なって簀桁の底が見えないほどに。
12回目でやっと終了!わ〜!こういう感じです。
わ〜ぶあつ!こんなに分厚くなるんですか?そうです。
1センチはないけどそのくらいの幅ありますよね。
分厚いですね。
すごい均等できれい!どうですこの厚み!しかしこれでもまだ完成ではないんです。
さらに丈夫にするために使うのがこの謎の液体。
クンクンクンクン。
わからない。
何だろう?えっと…。
(社長)ごはんではないです。
だいたい四角くなってます。
か三角のもありますね。
三角の…?やった〜!
(ピンポンピンポ〜ン)大正解です。
だいぶヒントもらっちゃった。
コンニャク芋の粉末を水で溶いた…和紙の両面に塗り込むととても丈夫になると言うんです。
はい。
破ってみてください。
破れた。
破れますね。
はい。
破れた。
そうそう。
塗ったほう。
はいそうです。
何だろう。
違います?違いますね。
ここで実験。
コンニヤクのりを塗っていない和紙をはかりにかけ引っ張ると…。
9キロ弱の力で破れました。
今度はコンニャクのりを塗った和紙。
なんと倍以上の力に耐えたのです。
いったいコンニャクがどんな働きをしたんでしょう。
電子顕微鏡で見てみると…。
コンニャクのりのない和紙は繊維だけですがコンニャクのりがついた和紙は繊維の上を皮膜が覆っています。
コンニャクが繊維の隙間を埋め固めて強度をもたらしていたんです。
こうして丈夫な和紙がついに完成。
次は模様をつけますが和紙には珍しい方法で行います。
こんにちは。
こんにちは。
よろしくお願いします。
この道40年のベテラン。
まず型紙を和紙にかぶせ…。
この技なんと着物の染色技法「型染め」を応用したもの。
型紙を使うと柔らかな風合いに仕上がる上正確に同じものを作る事ができるからです。
あホントだ。
黄色くなってますね。
これがクッションの色つけになります。
へぇ〜。
で色を入れるのに…へぇ〜。
紙がケバだたない程度にしっかりと塗り込む適度な力加減が求められるんだそう。
アクセントに筆でえんじ色の円を描き入れ乾燥させます。
そして水に30分ほど浸してからのりを落とします。
丈夫な和紙だからこそ長く浸せるんです。
わ〜こんなすぐに落ちるんですか?そう。
そうです。
きれ〜。
真っ白ですね。
そこの部分は。
不思議。
わ〜きれい。
のりが落ちると黄色と白のコントラストが美しい模様が浮かび上がりました。
この後和紙を袋状に縫い合わせ綿を詰めたら完成です。
見て美しく使って丈夫!和紙の常識を打ち破るクッションはいくつもの職人技によって作り上げられていました。
富山市で和紙づくりが発展したのはあの有名な産業と関わりがあります。
それが富山の薬売り。
江戸時代富山藩は製薬業を奨励。
行商人は全国の家庭を訪ねては薬を置くという方法で販路を広げました。
和紙は薬の包み紙として大きな需要があったのです。
薬のおまけとして配られた版画にも地元の和紙が使われました。
人気力士や役者を描いた浮世絵はおまけ商法の元祖とも言われます。
明治初めに1500人もいた和紙職人。
しかし洋紙の普及により昭和になると3分の1以下に減りました。
この状況を打破しようとしたのが工房の創始者…染色界の第一人者芹沢介から学びあのクッションに用いた「型染め」という技法を導入しました。
染めに耐える丈夫さを持った和紙の開発。
和紙に合う独自の染料の調合など苦労を重ねて製品化に成功。
和紙の可能性が一気に広まったのです。
もうひとつの和紙の里南砺市の五箇山地域。
合掌造りの家屋が建ち並ぶ集落は世界遺産にも登録されています。
この町で作られる和紙は古くから家屋の障子紙として重宝されてきました。
厳しい豪雪にも耐えうる丈夫さを兼ね備えていたからです。
工房を訪れた安田さん。
はじめまして。
安田です。
宮本です。
どうも。
よろしくお願いします。
こちらに取って置きの和紙のイッピンがあるって聞いたんですけど。
何ですか?どれだと思われますか?何だと?え?かなり目立っている帽子かなと思うんですけど。
ああ。
そうです。
そうですよね。
正解です。
安田さん好きなようにやって自分でかぶってみてください。
グチャってやっていいんですか?やっていいですよ。
こんな感じで?クシャクシャにしても…。
普通折っちゃいけなかったりしますものねハットとかって。
でもいいんですね。
大丈夫です。
こんな感じですか?あぁ似合いますね。
大丈夫ですか?え〜かわいい。
軽いですね。
変形も自由自在。
とにかく丈夫な和紙の帽子。
しかもこの和紙にはもうひとつ。
ユニークな特徴があるんです。
宮本さんが作った2枚の和紙。
どちらが新しいと思いますか?正解は左側。
こちらが最近すいた和紙で右は10年ほど前にすいた和紙です。
普通紙は日に焼けて色がくすんでいきますが宮本さんの和紙は日に当たるほどだんだん白くなるという不思議なもの。
この特性に注目した東京のデザイナーが2年前あえて屋外で使う帽子をこの和紙で作る事にしたのです。
丈夫な上に日に当たると白くなる和紙。
どうしたらそんな和紙が出来るんでしょう。
不思議な和紙の秘密はまず原料に。
案内されたのは楮畑。
へぇ〜。
宮本さんの和紙づくりは楮を無農薬で育てる事から始まります。
6月から9月にかけてはほぼ毎日草取りや楮の間引きを行います。
1本1本手間をかけ丈夫な楮にする事がこの地で長く伝えられてきたやり方です。
はい。
へぇ〜。
秋には3メートルにまで成長した楮を収穫。
和紙で使うのはこの皮の部分。
乾燥させるとこんな色に。
さらに冬には「雪さらし」という自然を利用した昔ながらの漂白法を行います。
天気の良い日ばかりおよそ2週間雪にさらし続けると適度な水分と太陽光によって皮の色素である「葉緑素」が抜けていきます。
繊維を傷めずに漂白する豪雪地帯ならではの知恵なんです。
宮本さんの工房では紙をすくまでに多くの手間をかけます。
まず楮の皮についたほこりをたわしで丹念に落とす作業。
そして煮て繊維の中の不純物を溶かします。
徹底した下準備はまだまだ続きます。
見せていただいていいですか。
職人の山本さんと大野さん。
1日8時間繊維の奥深くに入り込んだちりと呼ばれる黒っぽい部分を取り除いていきます。
僅かでもちりが残ると完成した時の見栄えが悪くなるんだそうです。
こうしてやっと紙すき作業へ。
すくのは宮本さんの妻で職人歴10年の…すき始めたと思ったらまた…。
こういうふうに振られたあとに…取っていただいてきれいになってるんだけどへぇ〜。
作業の過程で付着する僅かなゴミも見逃しません。
そうですよね。
宮本さんの和紙づくりは手間ひまかけて不純物を徹底的に取り除くものでした。
こうして作られた和紙は長い時間を経て白くなります。
一説によると空気中の酸素と日光の紫外線が和紙に作用するためだとか。
驚くべき先人の知恵。
それを頑固に継承する事で奇跡の和紙が作り出されていました。
南砺市五箇山地域で近年世界が注目する和紙製品が誕生しました。
いろいろありますね。
それは…。
うゎ〜これすごい!しかもこれ…え〜かわいい!蛍光の和紙。
和紙と蛍光色の意外な取り合わせ。
裏地を生かしたデザイン。
現代的な色合いと和紙の素朴な風合いが絶妙にマッチした新感覚の品々です。
2年前パリの国際見本市に出品され海外の人々から高く評価されました。
手がけたのは…
(32歳)東京の美術大学の学生時代に越中和紙に魅せられ職人の世界に飛び込みました。
新しい和紙を求め友人と話し合ううち革新的なアイデアが生まれます。
それが蛍光色を使う事でした。
石本さんは派手すぎず和紙の風合いを損ねないマイルドな蛍光色を苦心して作りました。
色を和紙に定着させる工夫も凝らしています。
「シルクスクリーン」という網目状の幕を使った版画技法で通常は印刷業界で用いられます。
シルクスクリーンだと均一に塗る事ができご覧のとおり色むらのない仕上がりになるんです。
しかも顔料が裏ににじまないようにできるため裏地を生かしたデザインも可能になりました。
さらに手もみ加工によって和紙の柔らかな風合いを演出します。
最後に裏表交互に貼り合わせた和紙を折っていきます。
こうして新感覚の和紙製品が完成。
若き和紙職人石本さんには強い思いがあります。
いろいろ見たりとか…伝統ある素材を未来に生かしていきたい。
先人への思いを胸に抱きつつ越中和紙のそれぞれの工房が歩みを止める事はありません。
安田さん今回いかがでしたか?和紙のイメージが変わったのはすごく大きいですね。
きっと昔のものが変わらずに守られてきていて守ってくれてる人がいてそれと今の人のアイデアやデザインが加わってすごいコラボだなと思います。
2015/10/18(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「もたれて かぶって 破れない〜富山 越中和紙〜」[字]
富山の越中和紙は、丈夫で鮮やか!なんとクッションや帽子にまで変身した。和紙の風合いを生かしつつ、従来にはない色や柄で注目される和紙の里を安田美沙子が訪ねる。
詳細情報
番組内容
軽やかで、しゃれた色柄のクッションが人気だ。なんと和紙製なのだが、丈夫で破れないという。「富山の越中和紙」から生まれたイッピンだ。その驚きの製法とは?さらに近年、和紙の帽子が登場。日光にさらすと黄ばむどころか、逆に白さが増すという不思議な紙は、どうやって作られるのか?他にも若き職人が開発した蛍光和紙など、紙の風合いを生かしつつ、従来にはない色や形で可能性を追求する和紙の里を安田美沙子が訪ねる。
出演者
【リポーター】安田美沙子,【語り】平野義和
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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