宙を舞う豪快なジャンプ。
大量の水しぶきを飛ばすターン。
ダイナミックな技を競います。
今選手たちは東京オリンピックの追加種目候補に選ばれたサーフィンをもっと盛り上げたいと考えています。
プロサーファー…日本のエースです。
身長153センチと小柄ながら大きな水しぶきを上げる世界レベルのターン。
今目指すのは世界最高峰のツアー。
日本人初の出場まであと一歩と迫っています。
しかし体格とパワーに勝る海外のトップ選手の壁が立ち塞がります。
そこでトップ選手でも数人しかできないという大技に挑戦。
求められるのはかつてない高い技術。
それでも諦めません。
最高峰のツアー出場への関門となるアメリカでのビッグマッチ。
新しい大技を決める事ができるのか。
日本人初の大舞台を目指す大村選手。
その挑戦の日々を見つめました。
(取材者)おはようございます。
大村選手は毎月のように国際大会を転戦しています。
(大村)飛行機…飛行機寝ましたねすごい。
大会はアメリカスペインメキシコなど一年およそ10試合。
遠征費は400万円もかかります。
節約のため安いホテルを探し日本人選手と相部屋で泊まります。
手放せないのはスペイン語会話の本。
中南米の試合が多いため2年前から勉強し始めました。
食事も節約第一。
現地で買った冷凍野菜に日本から持ってきたレトルトのおかゆを混ぜて温めます。
慣れない国の転戦。
戦う相手はライバルだけではありません。
中国今年の初め行った時はケータリングのその試合会場のランチが駄目で集団食中毒にはなりましたね。
奈央なんか試合あって…大村選手は身長…170センチ以上の選手が少なくない中でひときわ小柄です。
「スリーツーワン」。
(合図の音)それでも体格差を物ともせず世界と互角に渡り合ってきました。
サーフィンの試合は20分から30分。
複数の選手が交代で波に乗り技のダイナミックさを競う採点競技です。
高得点を与えられるのは大きな水しぶき。
ターンの鋭さ。
更に1つの波でいくつもの技を決めればより高い得点が得られます。
大村選手の武器は高いテクニックに裏打ちされたボードコントロールです。
全体重を乗せて一瞬でターンする…大柄な選手にも引けを取らない大きな水しぶきが上がります。
そして進行方向から急激に折り返す…こちらは対戦相手のカット・バック。
大村選手はより鋭く小さな幅でターンしているのが分かります。
そして1つの波で4回ものターン。
バランスを崩さない安定感も大きな得点源です。
自分の事はちっちゃいなとは思いますけどでも別にあんまり何とも思ってないです。
だからといってすごく見栄えが小さくなるサーフィンをしてる訳でもないので…。
自分のいい部分もあると思うのでそこをうまく使えたらなと…。
大村選手が目指すのは世界最高峰の舞台…通称CTです。
参加できるのは僅か17人のトップ選手だけ。
高い波に恵まれたハワイやオーストラリアなどの最高の海で繰り広げられます。
世界チャンピオンに6回も輝いた…身長177センチ。
パワーと高度な技術を併せ持っています。
大量の水しぶきを扇のようにまき散らすカービング・スラッシュ。
波の斜面を2回もターンするラウンドハウス・カット・バック。
更に大波のトンネルをくぐるチューブ・ライディング。
ここで戦う事は世界中のサーファーの究極の目標なのです。
大村選手が参加しているのはCT入りを目指す選手が戦う予選ツアーです。
この4年間で予選45位から一時24位まで順位を上げ日本人で初めてのCT入りが見えてきました。
そこのツアーで優勝しない限り満足っていうのはないんじゃないかなって思います。
大村選手は圧倒的な練習量で世界との差を縮めてきました。
日の出とともに自宅近くの鵠沼海岸で練習を始めます。
海外に比べて波が小さい日本の海。
練習の環境面では海外の選手より大きく劣っているのが現実です。
しかしその差を大村選手は波に乗る回数を増やす事で補ってきました。
1回のライディングを終えると押し寄せる波に逆らってまた沖へ50メートル以上戻る。
その繰り返しです。
午前8時からは海水浴シーズンの間サーフィンが禁止されます。
そのため大きな荷物を持ってほかの海岸へ移らなければなりません。
行き先は大きな波が期待できる千葉県や茨城県。
電車で移動します。
車は持っていません。
海外遠征の費用を捻出しなければならないため買う事ができないのです。
サーフィン禁止の規制が解かれた地元の海に戻ってきました。
はい。
(取材者)今日何回目ですか?
(取材者)大分薄暗くなってきましたけど…。
ちょっとその辺でやって来ると思います。
1日3回合計6時間のトレーニング。
波がない日以外は冬でも練習は休みません。
この練習量が高いテクニックと安定感を作り上げました。
練習が終わるとすぐアルバイトに向かいます。
78。
12345678。
アマチュア向けのサーフィンのインストラクター。
これも遠征費を賄うためです。
1234テイクオフ。
帰宅して翌日の早朝練習まで睡眠は4時間ほどしか取れません。
1発で中心に。
そうです。
帰ったらすぐに寝ます。
チャンピオンシップ・ツアーを目指して全てをサーフィンにささげる毎日です。
サーフィンと出会ったのは小学5年生の時。
家族で旅行したハワイで体験教室に参加。
心を奪われました。
ボードの上に初めて立ち上がった時の不思議な感覚。
それを描いた絵は今でも部屋に飾ってあります。
ただ立ってるだけなのにス〜ッと行くのがすごく不思議でした。
とにかく楽しかったです。
それ以来大村選手はサーフィンにのめり込むようになります。
練習場所は自宅近くの海。
朝5時から2時間。
学校が終わると走ってまた海へ。
毎日時間を忘れて没頭しました。
ホッピングとかあるじゃないですかピョンピョンピョンって…。
あれもホッピングが曲がるまで…鉄の棒が曲がるまでやり続けたりスケートボードやったらスケートボードず〜っとやってっていう…。
とにかく…最初は簡単なターンから始め少しずつ難しい技に挑戦しました。
そして2年後には…。
オフ・ザ・リップ。
現在の得意技の原点です。
技を覚えれば覚えるほど夢中になっていきました。
「クリアやった〜!」みたいなのがすごく自分を上げていくので。
何かをコツコツコツコツクリアしていくようなのが多分好きなんですよね。
高校3年生の時国内ツアーの年間優勝を達成。
当時史上最年少の快挙でした。
翌年すぐに世界に飛び出した大村選手。
常に上の世界を目指して一つずつ階段を上ってきたのです。
しかしこの夏大村選手は壁にぶつかっていました。
ランキングが思うように上がらなくなったのです。
パワーに勝るトップ選手と当たるようになり同じ技を決めてもダイナミックさで見劣りするようになってきたのです。
ひとつ上の世界に行くためには武器のテクニックを更に高めるしかない。
大村選手は新しい技を身につける事を決意しました。
お手本にしたのはハワイのココ・ホー選手。
チャンピオンシップ・ツアーで活躍する世界屈指のテクニシャンです。
得意技の…ボードが波の上に高く飛び出すダイナミックな大技。
世界でも数人しかできません。
しかもこの技は体格やパワーではなく高いテクニックこそが求められます。
世界で勝つためにどうしたらいいかっていうのを考えてそのフィン・アウト・リップをやろうっていうふうに決めたので。
勝てる技かなと思います。
次の予選ツアーまで3週間。
大技を完成させるためいい波が来る千葉県の海岸で強化合宿を行いました。
教えるのは…大勢のトップ選手を育ててきた日本では数少ないプロのコーチです。
無線がついたヘルメットをかぶって練習します。
(及川)常にここで1回スローにしてチェックしてもう一回それを向こうに連絡してあげるんですね。
フィン・アウト・リップを試みますが…。
ボードが斜めになりしかも1/3しか飛び出していません。
こちらはお手本のココ・ホー選手。
ボードが半分以上まっすぐ波から出ています。
この差を生み出していたのは波を駆け上がる前のターンのしかたの違いでした。
従来のターンと同じように足の力を使ってボードを回すと回転が足りずボードが斜めになって少ししか飛び出しません。
一方この技は足を使わず上半身のひねりでターンします。
こうすればより大きな力が伝わってボードが十分に回転するため大きく垂直に飛び出すのです。
ココ・ホー選手を見ると胸が波の方を向き上半身が十分回転している事が分かります。
大村選手の場合胸とおなかがこちらを向き上半身のひねりが足りていません。
このためココ・ホー選手のようにはボードが十分に回らず高くまっすぐ飛び出さないのです。
何度やってもうまくいきません。
これまでとは全く違う上半身でのターン。
感覚がつかめません。
足でターンしようとする癖がなかなか抜けません。
海の中でじゃあどうなってるか。
ク〜ッて来て…こうやって待ってんの。
こうやってずっと待ってたってターンはできない。
ボトムからトップに上がる時にグ〜ッて…奈央はこうなってって…違う。
だから最後ねじってんだよね。
(及川)そのねじりの違いは分かる?最後だから速度上げて…頭では分かっていても体はこれまでと同じように動いてしまいます。
海から上がったあとも練習は続きました。
上半身を大きく素早く回す練習。
体にしみついた癖が消えるまで何度も繰り返します。
なんとか感覚をつかみたい。
一日3時間毎日続けました。
およそ1週間の合宿の最終日。
大村選手はまだ手応えをつかめずにいました。
それでも練習を繰り返します。
2時間経過。
練習が終わる時間です。
ほかの選手たちが帰り始めてもまだやめません。
そして…。
それが大きな違いかなと思います。
おなかを回す事を意識すると上半身がうまく回り始めました。
ボードが波から半分近く上がったのです。
ようやく感覚をつかみました。
おなかを意識して更に繰り返します。
それから30分後でした。
(及川)ナイスリップ!ついにボードがまっすぐ上がりました。
完成はしてないけれど近づいてきてる感じはあります。
合宿が終わっても大村選手は予選ツアー出発の朝まで練習を繰り返しました。
新しい世界の扉を開く鍵は自分の努力だけ。
そう信じています。
最終的に…アメリカ・カリフォルニア州オーシャンサイド。
サーフィンの本場で予選ツアー最大の大会が開幕しました。
試合は全米にテレビ中継優勝賞金は8,000ドル。
これを狙ってチャンピオンシップ・ツアーの選手たちも17人中10人が参戦しました。
単身渡米して挑む大村選手。
4回戦まで進みました。
次は4人中上位2人が勝ち上がります。
しかし大村選手よりランキングが上の選手が2人もいます。
「スリーツーワン」。
(合図の音)試合開始。
この日は大きな波がほとんど来ない中での戦いになりました。
それでも大きな水しぶき。
そしてもう一度。
高い技術と安定感で複数のターンを決めていきます。
開始4分でトップに立ちました。
しかしランキング上位の選手が追い上げます。
ピンクの選手がパワーあふれるターンを2回決めてトップに立ちます。
(拍手と歓声)白の選手も大きなターン。
2位に食い込みます。
大村選手僅差で逆転されました。
立ちはだかるトップ選手の壁。
波の来る回数も減ってきました。
残り30秒。
その時大きな波。
フィン・アウト・リップをねらいます。
土壇場で成功。
ただボードが傾きました。
(合図の音)試合終了。
果たして結果は…。
逆転。
ランキング上位の選手を破りました。
お疲れさまです。
(取材者)最後の1本が?そうです。
…で逆転した。
本当に最後の最後で勝ててよかったです。
次の試合は3人中2位に入れば勝ち上がれます。
ところが強敵が待っていました。
賞金を狙うチャンピオンシップ・ツアーの選手たちです。
去年…そして…フィン・アウト・リップのお手本にした選手です。
正念場の5回戦。
(合図の音)試合開始。
まずヴァン・ダイク選手が実力を見せつけます。
高い水しぶき。
豪快なターンを次々に決め高得点で断トツの首位に。
次に波を捉えたのはココ・ホー選手。
高い技術で確実にターンを決めていきます。
開始7分。
大村選手がようやく波を捉えました。
しかし波が早く崩れしぶきが上がりません。
もう一度。
焦って失敗。
このままでは3位敗退。
大技フィン・アウト・リップに懸けます。
残り7分。
ようやく波が来ました。
高くはありません。
それでも。
成功。
こん身のフィン・アウト・リップ。
上半身を波に向けて大きく旋回。
ボードは高く跳ね上がりました。
逆転で2位に浮上しました。
その直後ココ・ホー選手。
フィン・アウト・リップ。
最後に決めました。
「スリーツーワン」。
(合図の音)試合終了。
同じ大技が勝敗を分ける事になりました。
天をつくようなココ・ホー選手のボード。
力の差を見せつけられました。
この大会17位に終わりました。
翌朝5時。
誰もいないカリフォルニアの海に大村選手の姿がありました。
練習していたのはフィン・アウト・リップでした。
大村奈央選手22歳。
世界最高峰の舞台で勝つために。
サーフィンに没頭した幼い日のままに上の世界を目指し続けます。
2015/10/17(土) 16:50〜17:35
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「ひとつ上の世界へ サーフィン 大村奈央」[字][再]
女子サーフィン、日本のエース・大村奈央選手。今、世界のトップだけが戦えるチャンピオンズツアー入りまであと一歩の位置にいる。新たな技に取り組む挑戦の日々を追った。
詳細情報
番組内容
東京五輪の追加種目の候補に残り、注目を集めているサーフィン。大村選手は自宅前の湘南の海で毎日猛練習を重ねています。今、狙うのは世界の上位17名だけが戦えるチャンピオンズツアー入り。参戦できれば日本人初の快挙だ。ランクを上げるため持ち前の強じんな足腰を生かして、高得点を奪える技「フィン・アウト・リップ」に取り組んでいる。世界でも数人しかできないという高度な技だ。すべてをかけて挑む大村選手に密着。
出演者
【語り】袴田吉彦
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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