はるか古代の日本。
邪馬台国を治めた女王卑弥呼。
フランスの国民的ヒロインジャンヌ・ダルク。
人類の歴史に現れた強〜い女性リーダーたち。
オオカミの世界にもそんな強いメスがいました。
普通オオカミはオスとメス2匹が群れのリーダーを務めます。
しかしこのメスはたった1匹で群れを率いて自分の王国を築いたんです。
狩りでは孤軍奮闘。
獲物と1対1の死闘を繰り広げます。
なわばり争いでは群れの先頭に立って戦いライバルを撃退!伝説の女王オオカミ。
その劇的な生涯に迫ります。
(テーマ音楽)アメリカロッキー山脈の中ほどにある世界自然遺産イエローストン国立公園。
湯気の立ちのぼる青い湖。
あちこちから温泉が湧く独特の景観が広がります。
公園には多様な野生動物が暮らしています。
その豊かな生態系の頂点に君臨しているのが今回の主人公。
ハイイロオオカミです。
ここでは40年ほど前に絶滅しましたがその後カナダから連れてこられました。
現在およそ100匹が暮らしています。
オオカミの多くには調査のため首に発信器が取り付けられています。
オオカミは通常オスとメス2匹のリーダーが率いる群れで暮らします。
オスのリーダーの最大の役割は狩りを取りしきること。
どの獲物を狙うか決めたり急所に飛びついてとどめを刺したりします。
そのパートナーであるメスのリーダーは狩りにも参加しますが最も大切な仕事は子育てです。
ところがそんなオオカミ社会の常識を覆すメスのリーダーの存在が明らかになりました。
「グレイ」と呼ぶことにしましょう。
グレイは狩りやなわばり争いなどどんな時も先頭に立ち1匹だけで群れをまとめたんです。
その一生は波乱に満ちていました。
グレイが生まれたのは2006年の春。
下にいるのがグレイ。
2匹はケンカごっこの最中です。
こうした遊びを通じて群れの中での順位が決まっていきます。
グレイは狩りの得意なリーダーである父のもと不自由なく暮らしていました。
しかしグレイが2歳を迎える少し前悲劇が起こります。
それは父親の突然の死。
リーダーを失った群れはひどい混乱に陥りました。
狩りのまとめ役がいなくなり獲物がいても捕まえることができません。
ほとんど肉の無い骨にさえかじりつくありさま。
食べ物をめぐって群れの中でも争いが起こります。
やせ細って死ぬものや群れを出て行くものが相次ぎました。
13匹いた群れはわずか数匹にまで減ってしまったのです。
このまま残るか群れを出るか。
グレイにも決断の時がやってきました。
たった1匹で歩きだしたグレイ。
パートナーのオスを探し新天地で新しい群れを作る道を選んだのです。
次の春。
独りぼっちのグレイが狩りをしていました。
狙いはシカの仲間ワピチ。
子どもに目を付けたようです。
ワピチの母親は子どもを茂みの中に隠します。
ゆっくりと子どもに近づくグレイ。
とその時です。
ワピチの母親が突然攻撃してきました。
オオカミといえどもワピチに蹴られれば命を落とすこともあります。
群れの力を頼りに生きるオオカミ。
1匹だけでは狩りもままならず生きていくのは大変です。
秋を迎えました。
アメリカバイソンの群れです。
大きなもので体重およそ1トン。
群れの中の順位をめぐりオス同士が戦っています。
激しいぶつかり合い!もしバイソンに突進されればオオカミはひとたまりもありません。
近くにワピチがいました。
グレイが慎重に近寄ります。
狙っているのは若いワピチ。
襲いかかりました!ワピチはバイソンの近くに避難。
これではグレイは近寄ることができません。
せっかく獲物を見つけたのに…。
万事休すかと思われた次の瞬間。
なんとバイソンがワピチを攻撃し始めました。
逃げ込んだつもりが逆に襲われることになってしまったワピチ。
一体どういうことなんでしょう?よ〜く見て下さい。
バイソンの尻尾が立っていますよね。
これは怒っている証拠。
群れに近づいたのが気に入らなかったのかもしれません。
グレイは思いがけず大きな獲物を手に入れ命をつなぐことができました。
しかしこんなことはいつも起こるわけではありません。
群れを作らなければ生き延びるのは困難です。
冬がやってきました。
グレイが雪に鼻を近づけながらうろうろしています。
においを頼りに何かを探しているようです。
すると目の前に2匹の若いオスが現れました。
兄弟のようです。
その1匹に近づくグレイ。
2匹とも尻尾を振っています。
これはリラックスしている証拠。
お互いに相手のことを気に入ったようです。
グレイはついにパートナーを見つけたんです。
こうしてまだたった3匹ですが新しい群れが出来ました。
次の春。
グレイはみごもっていました。
おなかが膨らんでいるのがわかりますか?生まれてくる子どものためにもたくさん食べなくてはなりません。
運よくワピチの死骸を見つけました。
ひとしきり食べて立ち去ると鳥たちがすかさず横取りに来ました。
手前にはコヨーテもいます。
慌てて戻ってきたグレイ。
キツネやコヨーテたちを追い払います。
普通オオカミは群れで食べ物を守りますが…。
パートナーのオスはなんと遊びの真っ最中。
まだ若いオスにはグレイを助けようとするそぶりは全く見られません。
頼りないパートナーとの新生活。
この先が思いやられます。
春の終わり。
グレイは4匹の子どもを産みました。
かわいい子どもたち。
でもこれからは母としてそしてリーダーとしてグレイの負担は一層重くなります。
ワピチがいました。
狩りをするのはグレイ1匹。
パートナーのオスは狩りも手伝ってくれません。
簡単に逃げられてしまいました。
おなかをすかせた子どもたちが待っています。
何とか食べ物を調達しなければなりません。
再びワピチ目がけてジャンプ!しかし激しい川の流れで足元が安定しません。
ワピチにとっては川に逃げ込むことこそ最善の策。
オオカミに比べてワピチは脚が長いため川の深みでは有利に立てるからです。
それでも諦めるわけにはいかないグレイ。
必死に食い下がります。
逃げるワピチ。
川の流れに乗ってどんどん離れていきます。
結局捕まえることはできませんでした。
こんな調子で群れは大丈夫なんでしょうか。
冬。
グレイの挑戦は続いています。
またもやワピチを追いかけています。
ワピチはイエローストンで最も数の多い大型草食動物。
何とかものにしたい獲物です。
首にかみついて引き倒しました。
ついにたった1匹での狩りに成功したんです。
その姿はまさに女王の貫禄。
頑張りましたね。
ちょっと待った!おヒゲじいやっぱり来ましたね。
そりゃそうですよ。
グレイだけにつらい思いをさせてオスはあんまりじゃないですか。
そうですよねぇ。
どうしてオスは狩りを手伝わないんですか?そこにはですねいろいろと事情があったようなんです。
え?どどんな事情ですか?はい。
通常オオカミの社会ではオスもメスも2歳を過ぎると群れを離れるものが出てきます。
そしてパートナーを見つけ新しい群れを作るんです。
はいはいはい。
それで?しかしですねグレイのパートナーのオスは出会った時まだ1歳でした。
群れに何か異変があり幼いうちに離れなくてはいけなかったようなんです。
そのため狩りのしかたを十分学んでいなかった可能性があります。
へえそうなんだ。
はい。
それにねヒゲじい1歳というと人間で言えば10代。
まだまだ遊びたい盛りなんです。
それでグレイだけが何から何までしなければいけないんですな。
はい。
ちなみに出会った時グレイは3歳。
オオカミのペアは同い年が多くメスが年上なのはとっても珍しいんです。
こうした事情が重なり研究者も驚くメスのリーダーが誕生したのではないかと考えられます。
なるほど。
群れのために頑張るグレイを見ると感動で思わず目が「ウルフッ」ときますな。
オオカミだけにね。
第2章では女王グレイがますます活躍。
群れは急成長します。
ある時群れを率いて国立公園を出たグレイ。
そこには想像を超えた出来事が待ち受けていました。
突然ですがここで「ダーウィンNEWS」です。
クルクルと回る謎の生きもの。
クモです。
長い脚を使い回転しながら移動します。
去年発見されたばかりの新種です。
5月アメリカの研究機関が「世界の新種トップ10」を発表。
去年見つかった2万種近い新種の中から特に注目を集めた10種類を選んだんです。
クモのほかにも巨大なナナフシやカラフルなウミウシなど奇妙な生きものばかり。
そしてこちらのフグ。
アマミホシゾラフグといいます。
皆さん見覚えありませんか?海底にミステリーサークルを作る驚きのフグ。
3年前「ダーウィンが来た!」で紹介しました。
取材班は鹿児島・奄美大島の海で長期密着。
小さなフグが1週間をかけおなかやヒレなど全身を使って直径2メートルもある幾何学模様を作っていく様子を初めて明らかにしました。
さらにミステリーサークルが産卵に使われることなどたくさんの新事実を発見。
この時わかった驚きの生態が今回の選考理由になったんです。
取材班に同行しこのフグが新種であることを確かめた国立科学博物館の松浦啓一博士です。
はいお任せ下さい!「ダーウィンが来た!」はこれからもワクワクするような新発見を目指してがんばりま〜す!アメリカイエローストン国立公園。
女王グレイが群れを持って1年が過ぎました。
この日グレイとパートナーのオスはワピチの死骸を見つけました。
そこに巨大なヒグマが接近。
このヒグマがしとめた獲物だったようです。
グレイを追い払うヒグマ。
パートナーのオスも必死に抵抗しますが…とても太刀打ちできません。
とはいえあの頼りなかったオスも手伝ってくれるようになったんですね。
冬の終わりのある日グレイはメンバー全員を連れて狩りに向かいました。
見つけたのは巨大なワピチ。
みんなで取り囲みます。
ところがワピチが隙間から逃げ出しました。
グレイが先導して追いかけます。
おや?群れが二手に分かれました。
斜面の上と下に分かれて挟み撃ちにする作戦のようです。
逃げ場を失ったワピチが川に飛び込みました。
群れで取り囲んでしまえばあとはじっと待つだけ。
女王グレイに率いられ群れは着実に成長を続けています。
ある日。
グレイの群れのそばに別の群れが近づいてきました。
なわばりを乗っ取るつもりのようです。
グレイの群れは隣り合う2つの群れとなわばりが大きく重なっています。
そのため頻繁に争いが起こるんです。
にらみ合う両者。
突然グレイの群れが逃げ出しました。
数で勝るライバルを前に勝ち目はないと判断したようです。
安全な場所まで逃げ切った群れ。
しかしグレイの娘の1匹が逃げ遅れてしまいました。
それを追うライバルの群れ。
ついに捕まってしまいました。
そこに次々とライバルの群れのメンバーが集まります。
絶体絶命のピンチ!ところが相手の攻撃の手が緩んだ瞬間グレイの娘が逃げ出しました。
まさに間一髪。
危ないところでした。
それから数か月が過ぎました。
グレイのなわばりにライバルの群れの5頭が近づいてきました。
獲物を追うのに夢中になっています。
それに気づいたグレイたち。
グレイの群れは子どもが新しく生まれ全部で13匹。
数の上では有利です。
グレイが攻撃を仕掛けました。
ライバルの群れの黒い1匹に狙いを絞ったようです。
グレイが先頭に立って追いかけます。
ついに捕まえました。
時には相手の命を奪うこともあります。
オオカミの死亡原因のおよそ5割がこうした群れ同士の争いによるものだとも言われています。
厳しいようですがそれがオオカミの宿命なのです。
グレイが群れを持って2年。
グレイの首に調査用の発信器が取り付けられました。
この年公園内ではある異変が起きていました。
オオカミたちの獲物として欠かせないワピチの数が減り続けていたのです。
異常気象で厳しい寒さが続いたことが原因ではないかと考えられています。
飢えから群れを守るためグレイはある決断をしました。
公園の外に狩りに出かけたんです。
しかし公園の外には人が暮らし車も走っています。
オオカミにとって決して安全な場所ではありません。
公園を少し出た所。
グレイの群れはワピチの死骸を見つけました。
危険を冒したかいがありました。
ところがこうした遠征を続けていたある日のこと。
(銃声)ハンターがグレイの命を奪いました。
オオカミの数が安定してきたためイエローストン国立公園の外ではオオカミのハンティングが解禁されていたのです。
(遠ぼえ)優秀なリーダーを失ったことで群れはバラバラに。
グレイのパートナーのオスも群れから去っていきました。
そんな中希望もありました。
こちらはグレイの娘。
群れにとどまりわずかに残った仲間を率いています。
春。
グレイの娘が赤ちゃんを産みました。
命は確かに受け継がれたのです。
どんな困難にも果敢に立ち向かいたった1匹で群れを率いてきた伝説の女王グレイ。
その娘や子どもたちもきっと試練を乗り越えていくはずです。
そしていつの日かイエローストンに新たな伝説を作り出していくことでしょう。
2015/10/17(土) 16:20〜16:48
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「伝説の女王オオカミ 波乱の生涯」[字][再]
たった1匹で群れを率いたメスのオオカミが主人公。群れを守るため狩りに孤軍奮闘し、縄張り争いでは先頭に立ってライバルと激闘。伝説の女王オオカミ、劇的な生涯に迫る!
詳細情報
番組内容
“伝説の女王”となったオオカミの物語。普通、オオカミの群れはリーダーのオスとメス、2匹が率いるが、たった1匹で群れをまとめ上げた強いメスがいる。生まれ育った群れの崩壊、ひとりぼっちの厳しい放浪生活。群れの仲間のため狩りに孤軍奮闘し、縄張り争いの先頭に立って戦った女王時代。そして、衝撃の結末。アメリカ、イエローストン国立公園の雄大な自然を舞台に、伝説の女王オオカミの劇的な一生を見つめる。歌:平原綾香
出演者
【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:16105(0x3EE9)