日本の話芸 落語「品川心中」 2015.10.17


今日は「子どもの脊柱側わん症」についてお伝え致しました。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(橘家圓蔵)お運びさまでありがとうございます。
久しぶりでちょっと早めに来たんで後ろのほうでじ〜っとねえ〜まあ後輩の落語を聴いてたんですけどね。
やっぱりう〜ん他人の落語ってのは聴いて楽しい時と聴いて苦しい時とありますね。
ええ。
(笑い)でもやっぱり…自分でも喋っててね途中で立たれるってのは嫌なもんですよね。
僕はプロなんですからね。
こうやってどこで見てるって分かるんですよ!だから立たなくてねず〜っと座って聴いてましたけどつらかったです。
ええ。
(笑い)もう本当にねあの人の落語ってのは嫌ですね。
じゃあ自分の落語はどうだってえとプログラムにも書いてありますけどねやっぱりこうやってイヤホンでね寝ながら聴いてんですけどね。
本当に嫌ですね!自分の落語ってのは。
(笑い)「俺こんなからっ下手かな?」と思うんですよね。
「よくお客様に我慢しろなんて…こらいけないな」と思う。
そうかといって「よくできたな〜!」なんてね思わないですよ。
ほとんどがね「悔しい〜っ!」と思ってますよ。
だからあの私のお師匠で桂文楽ね!今の文楽じゃないですよ!あんな下手くそと訳が違います。
(笑い)ヘヘヘッ。
もう放送だってなんだってハッキリ言わなきゃいけない。
まあとにかくね…黒門町の師匠だ。
(笑い)「竹!お前…」。
あっ僕最初竹蔵だったんです。
「竹!お前な…一年で何席やる?」。
「そうですね。
大体400席…?それちょっとですね」。
「あっそうかい。
そのうちな『あ〜っ今日はよくできた!』ってのは感心するのはな3席ないぞ」って。
なるほどそうなんですね。
どうしても納得いかないんですね。
「ねえこの間ウケてたよあんた!」って言われてもねお客はどう思っても私は嫌なの!「嫌だな〜」と思うんですよね。
「3席ないよ」って言うんです。
なるほどそうですよ!今年だってもうね随分過ぎちゃってね放送日はいつだか分かんないけどまあとにかく5〜6か月今年は過ぎてますよね。
そうするとねそん中でね「あ〜今日はできた!」ってその3席のうちの1席にも会ってないんです今年は。
だからね今日あたりここでぶつかるんじゃねえかなとね!エヘヘヘヘッ。
(笑い)そう言ってお客をだまくらかさなきゃね!
(笑い)この頃のお客は図々しいからね!どうしようもないですけどね。
でもやっぱりあの…今日は「品川心中」ってね。
こりゃもう私のカラー私の柄じゃないんですけどね!それをやるんですけどね。
やっぱりNHKさんはね本当にいろいろ考えてくれてこれやったほうがいいですよと。
ないものをやれと。
自分にないものをやれというんでやらなきゃいけない。
それでいろいろ考えてんですけどね。
ですから男と女の噺ですけどね…。
男と女!これね…あの私今日本当にねすごく近眼がひどいですから女の人がいるかいないかよく分かんないですけどね。
(笑い)まあいたらお詫びしときますけど…男と女!女のほうがね「夢」が1つ足りないですね。
男のほうが夢が1つ多い。
これはまあ私の内儀さんを例えて言うんですけどね。
ええ。
この間…フフフッねっ!こう何だか知らないけどね朝起きたら女房が突っかかってくるんですよ!「嫌だな〜!突っかかってきて!何だろう?」と思ったんですがちょうど医者へ行く日なんです。
医者へ。
だから医者へ行ってその…レントゲンがどうの血がどうのこうの答えの出る日なんです。
だからイライライライラしますよ女房。
だから私に突っかかってくる。
私も一緒に医者へ行く日なんです。
私も診てもらうんですよ。
私がイライラしたい。
でもやっぱり「ああ女房なんだからね!そのくらいの我慢しなきゃいけない。
そのくらいのことは受け止めてやんなきゃいけない!」てんでタクシーへ乗った。
面白くも何ともないですよ。
医者へ行ってこれから何を言われるか分かんないんですから。
夫婦で下向いて黙〜ってんですね!で…向こうへ行ったら先生が「奥さん大丈夫ですよ!師匠も大丈夫ですよ!」。
その時の僕の嬉しさ!「あ〜っ!よかったな!あ〜よかった!」。
またタクシーに乗ったの。
と…行きのあの暗さ帰りの明るさね。
「あ〜よかった!よかった!」と思ったらあまりの嬉しさに僕女房の手をギュッと握ったんです!そしたらいきなり女房がね「何しやがんだこの野郎!」って言うんですから。
(笑い)そらねえ黙って握った私も悪いけどね。
だけどね「お母ちゃんよかったね!嬉しいね!手ぇ握らせて!」。
そんな馬鹿なこと言える訳ない。
(笑い)でも「あ〜そうかな!」と思った。
男のほうがロマンがあるな。
夢があるなと思ったんですね。
石井ふく子さん劇作家の。
うん。
で…その…あっ私の噺はアッチャコッチャアッチャコッチャいきますから!枕が。
(笑い)本当にね長丁場喋ってると同じこと2度言う時ありますから。
聴いたら聴いたってハッキリ言って下さいね!
(笑い)「圓蔵聴いたぞ!」って言って下さいね。
私は「我慢しろ!」って言いますからね。
(笑い)「誰が妥協なんかするものか!」なんて。
(笑い)まあとにかくね…何だか分からないけどねどうも。
あの…石井ふく子さん。
で…お父さんが伊志井寛さん。
そのお父さんが…まあおじいちゃんですね。
これはね三升屋小勝ってえ〜4代目かなんかですね。
ええ。
え〜と97歳まで現役で仕事してた。
大変艶っぽい師匠だったそうですがね。
横浜へ旅に行ったら72になるお囃子さんを口説いてたってんですよね。
(笑い)周りの若手がちょっと下司でごめんなさいですけど「師匠!男ってのは幾つまでそういうことできるんですかね?」ったら長火鉢の灰を持ってこうやった。
「人間灰になるまでその了見を忘れちゃ駄目だよ!」。
綺麗ですね!本当に。
やっぱりそういう了見がなくちゃいけない。
男が女を見てもね「いいな!」女が男を見ても「いいな!」というような気持ちがなきゃいけないなと思ったですね。
だから艶っぽさってのはどうしても…男と女でね艶っぽさってのは絶対なきゃいけないなと。
品川の新宿に…。
(笑い)もう駄目ですよ!もう本当にあの「品川心中」へ入っちゃったですからね!
(笑い)もうこれでこうなんてなりゃしないですよ!品川の新宿に白木屋という女郎屋がありまして。
そこで板頭を張っているお染という…。
まあつまり板頭ってのは一番上のほうにいるんですね。
え〜まあキャバレーのほうで言うと「ナンバーワン」なんですね!私あの…キャバレーのことあんまり知らないんですけど。
(笑い)でもやっぱり福富太郎さんとちょっと知り合い願ってるからそういう裏話も見たり聞いたりしてますけど。
ああいう所でナンバーワンてな大変だそうですね売れるの。
なかなかこれをもうね維持するのは大変ですね。
だから中にはね噺家で口の悪いやつが「キャバレーのナンバーワンは胃が丈夫」って言ったんですけどね。
(笑い)なるほどそうじゃねえかなと思うんですけど。
まあとにかく板頭を張っていて売れて売れて…売れ抜いてる。
ところが…ああいう艶っぽい社会ですからね。
だんだんだんだんと年を取ってくるとね目じりん所に皺が寄っちゃったりなんかしてね。
顎ん所に皺が寄っちゃったり。
フフンこらあすごい!何か物を食べるとね顎じゅうが動いちゃったりなんかしてね。
あいつはポパイじゃねえかというくらいに。
(笑い)今まで売れてて妹やなんかにね妹芸者ズラ〜ッ!「何してくれ!ああしてくれ!」と使ってるのがだんだんと抜かれちゃう。
客がつかなくなる。
そらそうですよ!お客だってお金払って来るんですからやっぱり若いほうがいいかもしれない。
だんだんと抜かれる。
その時分には紋日というのがある。
紋日ってのは衣がえですね。
僕らだって衣がえやってんですよ!本当に。
もう袷と単衣なんて訳ないですからね。
こう縫ってるの捨てちゃえばいいんですからね。
(笑い)それでまた縫ったりなんかして。
まあとにかくそういうふうにしなきゃいけないってんでねは〜こうね一生懸命。
お金を使うんですね!紋日というのは。
お金を使う。
それが自分だけじゃないんですよ!やっぱり朋輩を上げてワイワイワイワイ騒ぐ。
ねっ!それがだんだんだんだんできない。
売れてこなくなる。
「もう嫌になっちゃったね私。
は〜っ情けないね。
…後輩にどんどんどんどんと抜かれちゃうし」。
私もね後輩に抜かれたことあるんですよ。
本当に抜かれたんです!小朝に抜かれた時は悔しかったですね!
(笑い)なんとかしてやろうと思ってねイライラしたらやっぱりそのままのスタートで行っちゃいましたけどね。
(笑い)ですから小さん師匠に言ったんです。
「師匠ね!私はね小朝に抜かれたってのは悔しいてえよりあいつのパワーにはかなわないね!」ったら「馬鹿!何言ってやがんだ。
お前はあいつより古いんだろ。
テクニックというものがある。
だからパワーなんかで競うんじゃない!テクニックでフォローしろ」ってんでね悔しいなと思ったんですけどやっぱりあのフォローできなかったですけどね。
(笑い)やつはねやっぱり実力がありますけどね。
とにかく朋輩に何かお金を使わなきゃいけないお金がない。
「お金がないと嫌だ嫌だ」ってね!とうとうお金がなくてねこらあもう妹芸者やなんかに馬鹿にされちゃって「何を言ってんだい!」って言われる。
「弱ったね。
お金がありゃこんな苦労もしないんだけどね。
いっそのこと私死んじまおうかしら?死んだほうがいいよ。
だけど死んだほうがいいったってね1人で死んだら朋輩に金ができずしょうがないねと言われるし!そうだ!誰か引っ張り込んでねそいつと一緒に私は心中しちゃおう!いいじゃないの!品川心中なんてないいもんだよ!じゃあそうしよ!」なんてんでね。
すぐに馴染み帳玉帳なんての調べましてね。
「誰にしようかしらね?誰がいいかしらねえ?ブリキ屋の由ちゃん?は〜っ!この人はいいけどねまだ所帯持ったばっかりだ。
内儀さんが若いしね引っ張り込んじゃまずいしね。
どうしたらいいんだろうね。
茶碗屋の源ちゃん!この人は年寄りを抱えててかわいそうで!誰かいないかね?」ってんで見ているとその時分に古本屋の金蔵なんてのがいましてね。
「あっそうだ!この人ならいいよ!この人は本当にね胃が丈夫だからね!本当にケチでどスケベで胃が丈夫ときてる!こんなやつなんかひき殺したってかまやしないよ!こいつに決めよう!」なんて決められたやつはいい面の皮で!すぐに手紙を書きまして「一身上のことで相談がある」と書いて渡す。
ねっ!いつもいつも女にモテないやつがね手紙なんか貰っちゃって「あら嬉しい!」ってんでね懐へ入れましてお染の所へやって来ました。
「おうお染!どうしたい?」。
「ありがとう…」。
「いやありがとうじゃねえよ!一身上の相談があるってから俺飛んできたんだい!何だ?相談ごとってのは?」。
「それがね…相談ごとしようと思ったけどね私はお前さんの顔見たらねあきらめんだよ!」。
「何が?」。
「…死んじまうんだけどね」。
「よせよお前死ぬようなことは!そんなに悩んでんならここで言ったらいいじゃねえか!何だい?」。
「お金が欲しいんだよ!」。
「お金が欲しい?冗談じゃねえよ!金なんぞ!金は天下の回りもんだ!銭がねえってそのぐらいのことでガタガタ言っちゃいけないんだよ!幾ら欲しいんだい?なっ!100両欲しい200両欲しい!ドンと言ったらいいじゃないか」。
「20両ありゃいいんだよ」。
「に…20両?そらお前大金だな!」。
(笑い)「そうだよ!だからね私は朋輩も何もできないんだから死んじまうけどお前さんと年季が明けたら一緒になろうって約束した仲だ!だからねお前さんを呼んだのはほかでもないんだけど…。
悪いけどね!私が死んじまうから!お線香の一本でも気が向いたら上げとくれよね!」。
「おい!ち…ちょっと待てよ!そういうことは言うもんじゃねえよ!死ぬなんて洒落や冗談で言えるもんじゃねえじゃねえか!本当にお前死ぬのか!?」。
「当たり前だよ!そんなこと冗談で言えるかね!」。
「よしっ!お前が死ぬならな俺も死んでやろうじゃないか!」。
「あっ!お前さん本当かい?」。
「本当だよ!」。
「本当に死んでくれる!?」。
「当たり前だよ!俺だってお前と一緒に暮らそうと思ってるのにお前に先に死なれたら俺嫌だよ!死んじゃうよ!」。
「お前さん!本当に死んでおくれかね!?」。
「ああ!おおくれ
(大国)主命ってくらいのもんでね!」。
(笑い)「お前さん肝心な時洒落言うから話が崩れるんだよ!」。
(笑い)「本当に死んで?」。
「ああ死んでやるよ!」。
「…じゃ今夜死んでくれるかい?」。
「いや今夜はまずいよ!まだ飯食ってねえんだもんな!そらまずいよ」。
(笑い)「お前さん本当に死ぬ気があんのかい?ええっ!?『今夜は』ってどうすんだい?」。
「いいからいいから!俺だって本や何か持ってるんだからバッと売っちゃうから明日いる?明日死のうじゃないか!」。
「本当に死んでくれる?」。
「ああ死んでやるよ!」。
「ま〜っ!嬉しいね!」ってんでその晩は抱え込みましてカ〜ッ!もうどういうふうにかわいがったか分からない!プロの女がかわいがるんですから馬鹿なやつはポ〜ッとしちゃって。
「は〜っ!ああっあいつは本当に俺に惚れてんだろうな!あいつのためなら命は要らねえ」。
特攻隊みたいなこと言ってね。
家へ帰って「本当によかったね!俺だってボンヤリしていられねえ。
いい女だね!あ〜あいつと死ぬならね男冥利に尽きるね!ヘヘヘッ。
死んじゃうんだ!もうこんな世の中嫌なんだから!そうだよ!ねえっ!死んじゃってね蓮の葉の上で暮らそうかな!」なんてね。
何か間抜けたこと言ったりして。
すっかり荷物を片づけちゃって兄貴分の所へ行きまして挨拶をしなきゃいけない。
「…ちは!こんちは!こんちは!」。
「誰だい?烏が子を取られたような声出しやがって!…誰だい?」。
「金蔵でござんす…」。
「えっ!?…おう!何だ!お前金蔵じゃねえか!」。
「ええ金蔵です。
そこにあるのが雑巾で…」。
「この野郎!洒落なんか言ってやがる!何だ?」。
「あの…長いことお世話になったんですけど暇乞いをしようと思うんです」。
「暇乞い!?何だい?どうすんだい?」。
「ちょっと旅へ出ようと思って挨拶に来たんです」。
「旅へ出る?そりゃいいや!若いうちはどんどん旅してな!そのほうがいいんだよ!どこへ行くんだい?」。
「どこへ行くって別に決まってないんですけどね。
ええ…」。
「…決まってねえ?」。
「ええ。
人の言うにはね何か西のほうへ行くってんですけどね」。
「西のほう?上方か?」。
「もうちょっと西なんですねえ。
西方弥陀の浄土とか?そういう所に…」。
「何を言ってやがる!?馬鹿なこと言ってやがって!てめえ気をつけろよ!人の噂じゃな白木屋のお染って女に惚れてるってがあんな女スレッカラシなんだから!けつの毛まで抜かれるぞ!財産そっくり持ってかれるぞ!」。
「…ヘヘヘヘヘッ!」。
「この野郎!笑ってやがんな!嘘だろう?」。
「へえ嘘の笑いで」。
「嘘の笑い!?この男!いいからちょっとうちへ寄ってけ!」。
「どうも…また来ますから!さいなら!」。
パ〜ッと帰っちゃった。
「おいおいおい!帰っちゃったはいいけど何だ?おい!竈の所に短刀置いてきやがる!あの野郎馬鹿だね!本当に。
短刀置いてったってことは何だええっ!友達に頼まれやがって殴り込みに行こうってやつだ!しょうがねえ!しまっちゃえ!」。
金蔵は「あっちへ!こっちへ!」ってんで日が高いから日の暮れるのを待ってるなんてんでね!「これは!」ってんで夜中に来て…。
「…お染!今来たよ!」。
「まあっ!本当にお前さん来てくれたね!嘘じゃなかったんだね!」。
「当たり前よ!カ〜ッ!もう今日はなとことん金使うからそう思え!」。
「あら?お前さん…」。
「どうせ死んじゃうんだからながんがん飲んでがんがん騒ごうじゃないか!」。
「ま〜っ!お前さん嬉しいね!本当に嬉しいね!ええっ!で…勘定はどうすんだい?」。
「勘定なんかいいんだよ!死んじまうんだから払うこたないよ!」。
「それもそうだね」。
ひどいやつがあるもんで。
さあ飲んだり食べたり!騒いで飲んでいるうちにだんだん酔っ払ってくると地金が出て。
「さあっ!…矢でも鉄砲でも持ってこい!ええっ!一度人間死にゃああとはな二度と死なねえんだから!三途の川で俺は誰でもいいから引っ張り込んでやる!」。
「こりゃいけない!早いとこ寝かせないといけない!」とお染は自分の部屋へ行って寝かせちゃった。
回しを取るってんでねあっちこっちあっちこっち時のたつのを待っている。
そ〜っと草履を持って自分の部屋へ来てス〜ッと開けると金蔵のやつはカ〜ッてんでねもう大きな口開いて寝てる。
「しょうがないねこの人は!忘れてんのかね?本当に!ちょっと!ちょっと!寝てる顔はこれだよ。
ねえっ!洟提灯出してる!提灯出したり!出したり下りたり出したり下りたり…お祭りだね!提灯が消えちゃったよ!あっ蝋が滴れてる!だらしがないね!本当に。
しょうがないね!こんな顔してんだよ!寝てる顔はこれだろ!起きてる顔はあれだろ!死に顔は…ぞっとするね!まあいいや。
ちょいと!ちょいと!金さん!金さん!」。
「おっと!もう食えねえ!」。
「何を言ってんだよ!?食えないじゃないんだよ!起きとくれ!」。
「起きとくれって冗談じゃねえ!こんな早く起こすことねえ!駄目だよ!こんな早く帰ってみろ!夜明けにな犬が吠えたりなんかして…」。
「何だい!?お前さん!帰るってお前さん家へ帰んのかい?」。
「当たり前よ!ここへ泊まってく訳にはいかねえ」。
「何言ってんだ!?お前さん私と死ぬって約束したろ?」。
「そうだ!死ぬって約束したっけな〜!ウフフッ。
忘れちゃった!ヘヘヘッ。
え〜日延べしよう!」。
「何が日延べだよ!?こんなに飲んだり食べたり騒いでて日延べも何もあるもんかね!し…死ぬんだよ!」。
「いやいや死ぬ!死ぬけどさあ弱ったね本当に!」。
「お前さん短刀を持ってくると言ったのにどうしたの?」。
「短刀?あっいけねえ!親分の所置いてきちゃった!」。
「そうだろうと思うからね私はちゃんと用意しといたんだよ!ここにね剃刀が…」。
「おっと!剃刀はいけないよ!剃刀で切ったらね医者が縫うのに骨折れるからよそうよ!」。
「何言ってんだよ!?本当に!お前さんが1丁私が1丁持ってひのふのみで喉をスッと!」。
「いやだ…駄目だってんだよ!そんな…そんな所やって医者が縫いづらいの駄目なんだよ!」。
「お前さん本当に死ぬのかい?私と!死ぬ気がないんだろ?いいんだよ!死ななきゃ死なないで!私は先に死んじまって今にお前さん取り殺してやっからそう思え!」。
「この野郎冗談じゃないよ!鳥屋の喧嘩じゃねえんだから鳥殺すなんてそんなこと!だからさ…じゃじゃあ…。
弱ったな〜!おい。
じゃいいよ。
じゃあ死ぬよ!」。
「じゃお前さんねここに帯があるから帯でこうやって!」。
「帯で首!?駄目!首くくるなんてろくなことない!いけない!」。
「しょうがないね〜!どうすんだい?」。
「どうすんだってしょうがねえからな!下にばあやさんがまだ起きてるだろうからな。
いいか!木綿針20本ぐらい借りてきて10本お前持って俺が10本持ちチクチクチクチク突くんだよな!急所つついてるうちにだんだんだんだんとな血の気がなくなっちゃって夜明けに2人でバッタリ倒れる!」。
「何を言ってんの!?そんな馬鹿なことするんじゃないよ!お前さん海!海飛び込もう!」。
「海!?海いけないよ!駄目だよ!海はいけない!俺風邪ひいてるんだから勘弁してくれ!」。
(笑い)「何言ってんだい!?本当に!こっちへおいで!」。
捕まっちゃいけないと思って雨戸を開けるとサ〜ッ!品川の風。
す〜っと垣根がありまして木戸に鍵がかかってる。
ところが潮風でもって鍵が腐ってる。
「よ〜し!」ってんで懐から手拭いを出してギュッギシッ!パッ!開いた途端に風がサ〜ッと!「早く行きなよ!早く行くんだよ!」。
「ちょっと押しちゃいけないよ!押しちゃ駄目だてんだよ!ええっ!これ桟橋なんだよ!俺落っこっちゃう!」。
「何言ってんだい!?桟橋から落ちる?桟橋は長いんだよ!」。
「桟橋は長いったって命は短い!弱っちゃうね!」。
やっこさん死ぬ気はないんです!洒落に言っちゃったんですから。
ですからってんで桟橋の上でガタガタガタガタ震えてる。
「押すなよ!しょうがない死ぬよ!飛び込むけどさ寒い!そこに棹あるからそこらよくかき回してくれ」。
(笑い)「そうすると何か大丈夫!」。
「何言ってんだい!しょうがない!先行っとくれ!」。
ポ〜ンと押したからザブ〜ンと落ちた!続いてお染もバ〜ン!飛び降りようと思ったら。
「おっと!お染ちゃん待ちな!」。
「だ…誰だい?離しとくれ!」。
「離しとくれって…どうもおかしいと思ったんだよ!部屋へ行ったら部屋が乱れてる!心配することはねえんだよ!番町の旦那が来てね銭はちゃんとそろって持ってきてくれたよ!」。
「えっ!?…お金を?持ってきてくれたの!?じゃ私は死ななくていいんだね?」。
「そうだよ!」。
「あら〜弱っちゃったね!寝覚め悪いからひと言ぐらい言わなきゃ!ねえ金さん!まだ今入ったばかりだから大丈夫だと思うんだけどね!お上がんなさいよ!金さん!」。
(笑い)「この人はね本当にね早いんだからお前さん嫌になっちゃうね!本当に。
金さん!あのねお金ができたんだって!だから私は飛び込まないから!だから我慢して!分かった?そのかわりね人間一度は死ぬと二度と死なない!私もね後から追いかけるったって…気が向いたら死ぬから!じゃ失礼!」なんて…こんな失礼な話はない!
(笑い)金蔵のやつはザブ〜ンと飛び込んだんですけどご案内のとおり品川は遠浅ですからね。
「チクショー!チクショー!見やがれ!ブワ〜ッ!」と立ち上がると膝小僧までしかない。
ねっ!
(笑い)その膝っこで横になって暴れてる。
「チクショー!ふざけやがって!」。
横になってるから全部お染の言うことは聞こえてる。
「悔しいね!チクショーあの野郎!人を馬鹿にしやがって!カ〜ッ!どうしゃがるか見やがれ!」。
そのまま部屋へ帰りゃ恥の上塗り!しょうがないから土手を八ッ山のほうへトントントントンと歩いてく。
自分の家なんかありゃない。
しょうがないってんでね。
と…ちょうど夜明けに駕籠屋が客の来るのを待っている。
そこへトントントントンと行く。
血だらけになってザンバラ髪になってサッと行くからさあ驚いたのなんのって!駕籠屋のほうが「化け物だ!」てんでそのまま逃げた。
しょうがないってんで置いてったね駕籠屋の息杖を持ってこう一生懸命に…。
犬のやつがワンワンワンワンワンワン!すごい!5〜6匹の犬がワンワンワンワンワンワン!中には「ニャオ〜!」なんてねモノマネのうまい犬がいたりなんかしてね。
ワンワンワンワン!
(笑い)と…「犬の町内送り」なんてね隣町まで来ると隣町の犬がそこにいるんだそうですね。
そこでもってパッと会うと前の犬と隣町の犬と代わる。
ワン・タッチってのはこれから変わったってんですね。
(笑い)パ〜ッてんで行っちまった。
「チクショーめ!うちへ帰る訳にいかねえ!しょうがねえ!じゃちょっと親分の所へ行こう!」ってんで親分の所へ行ってトントントントン!トントントントン!その時分はってえと若えやつが集まって暇があるとね「もう一丁!」なんてんでね骰子だの花札だのどんどんやってる。
トントントン!「親分!親分!」。
グサッ!ちょうど釘が出てたんですね。
そこへド〜ンといったから手が血だらけになって「あっ!手が痛い!」。
「手が痛い!」を「手が入った!」と聞いたもんですから。
「こらいけねえ!フッ!」。
灯り消した途端皆バラバラドサドサッ!「心配するな!逃げることはねえんだよ!大家さんが驚かしてんだから心配することねえ!大家さんでしょ?え〜今何もしてねえんですから!ええ。
今開けますから待って下さい!灯りをつけろ!灯り!そう。
こっちよこせ!コンチクショー!本当に。
いいんだよ!心配するな!待ってろ!待ってろ!大家さんでござんしょう?あっ!誰だ!?」。
見ると血だらけになっている金蔵がいる。
「…誰だ!?お前は?」。
「金蔵でございます…」。
「金蔵だ?」。
「そこにあるのが雑巾で」。
「この野郎!洒落2度も同じこと言いやがってコンチクショー!」。
(笑い)「この野郎!てめえ何だな?女と心中し損なってカ〜ッ!てめえが助かって女を殺して帰ってきたんだな!?」。
「女は助かって私が死に損なって!」。
「死に損なった!?どうだ?足があらあ!大丈夫だ!お〜い!心配するな!何だよ!金蔵のやつがな!うん。
さあさあみんなもう一丁やろう!なあっ!何だよ?場が散っちゃったよ!何だ何だ?…あれ?あれっ?おい!この最中にここにあった俺の財布盗んだやつがいる!しっかりしてるやつだな!おい。
まあいいや!なあっ!おいもう一遍…もう一回やろう!おい!何だい?おいええっ?誰だい?鴨居へ上がったやつは?由公じゃねえか。
どうしたい?お前だな!この野郎!俺の肩からポンポンて上がっていったのは!下りてこい!」。
「ヘヘヘッもう大丈夫!大丈夫だけど足がすくんで下りられねえ!」。
「この野郎!しょうがねえ野郎だな!褌をピチッとしろ!ピチッと!この野郎!本当に帆掛け船みてえな格好になっちゃって!何?帆柱が丈夫です!?何を言ってる!?この野郎!」。
(笑い)「下りてこい!しょうがねえな!おうお前どうしたんだ?」。
「カ〜ッ!手が入ったってからバ〜ンてんで戸棚開けたらね酒があったからね!それダ〜ッ!カッと飲んだらねショッペエのなんのったらね!醤油飲んじゃったんで!ええ。
ショウユウこととは露知らず」。
(笑い)「この野郎め!ようやっと洒落言ってやがんな!この野郎!しょうがねえな!本当に。
誰だい?そこでもってグズグズしてんのは?おっ何だ?おい!竹さんじゃねえか!どうした?」。
「あ〜っ!驚いたね!ええっ!?あ〜あ。
ダ〜ッと逃げようとした途端にね台所で上げ板踏み外して!上げ板踏み外したからね糠味噌へズドンと落ちちゃった!そっくり落ちりゃいいんですが半分落ちた!ですからね股座打っちゃってね痛えのなんのってね!玉上がっちゃったんですいませんオフクロに届けて下さいな」。
(笑い)「この野郎貴重な野郎だね!玉上がったって見せてごらん!馬鹿!これ茄子の古漬けじゃねえか!この野郎!」。
(笑い)「ありました!」。
「当たり前だ!あるに決まってる!おい。
糠味噌の臭いだけじゃないよ!便所の臭いがするね!誰か便所へ落ちやがったな!与太郎か?」。
「ええ私で」。
「『私』じゃねえ!この野郎!どうすんだい?上がってきちゃいけねえ!あ〜あ〜あ〜臭くてしょうがねえ!」。
お馴染みの「品川心中」でした。
ありがとうございます!
(拍手)2015/10/17(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「品川心中」[解][字][再]

橘家圓蔵の落語「品川心中」を再放送する。

詳細情報
番組内容
橘家圓蔵の落語「品川心中」を再放送する。(東京・ニッショーホールで収録)
出演者
【出演】橘家圓蔵

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 1/0+1/0モード(デュアルモノ)
日本語
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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