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■検察側は異議申し立て

 大阪市東住吉区で1995年、小学6年の女児が死亡した住宅火災をめぐり、大阪高裁(米山正明裁判長)は23日、殺人罪などで無期懲役とされ服役中の母親・青木恵子元被告(51)と内縁の夫・朴龍晧(たつひろ)元被告(49)の裁判をやり直すと決めた大阪地裁の再審開始決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。放火ではなく、車のガソリン漏れによる自然発火の可能性がより高まったと判断した。

 高裁は「無罪を言い渡すべき蓋然(がいぜん)性がより高くなった」と刑の執行停止も認め、26日午後2時以降に指定。しかし、検察側はただちに高裁に異議を申し立てた。高裁決定が確定すれば、2人は逮捕から20年ぶりに和歌山、大分の各刑務所から釈放される。

 2006年に確定した判決は、2人は生命保険金1500万円を得ようと長女(当時11)の殺害を計画したと認定。朴元被告が自宅車庫にガソリンをまいて火をつけ、居間にいた青木元被告と当時8歳の長男とともに避難し、入浴中の長女を焼死させたと判断した。

■「自然発火の可能性」

 だが、大阪地裁の12年の再審開始決定は、車庫の車から漏れたガソリンが気化して風呂の種火に引火し、数秒で炎に包まれたとする弁護側の再現実験を重視。朴元被告が捜査段階に「放火後に家に入って家族に知らせ、車庫の炎を跳び越えて逃げた」と述べた方法では無傷で脱出できないとし、「車庫の車から何らかの原因でガソリンが漏れ、自然発火した可能性も否定できない」と判断した。

 高裁決定も朴元被告の「自白」の信用性を認めず、今回新たに示された実験結果や証言を重視。同じメーカーの車4台で給油口からのガソリン漏れが確認され、火災現場の車の給油キャップも密閉されていなかったとみる技術者の証言から、大量のガソリンが漏れた可能性は否定できないと指摘。自然発火の具体性が明らかになったとし、「放火しかあり得ない」という検察側主張を退けた。

 さらに、釈放の判断について「拘束が20年に及ぶことに照らすと、刑の執行を今後も続けることは正義に反する」と結論づけた。(阿部峻介)

 大阪高検の榊原一夫次席検事は「即時抗告が認められなかったことは誠に遺憾。決定内容を十分検討し、適切に対処したい」とコメントした。

■大阪高裁の決定骨子

・女児が死亡した火災は、住宅車庫の車からガソリンが漏れ、風呂釜の種火に引火して自然発火した可能性が具体的に認められる

・再現実験の結果、捜査段階で元被告が供述したとされるような方法では無傷で逃げられるか疑問で、実現可能性が乏しい

・今回の審理で無罪の可能性がより高まり、身柄拘束が20年に及んでいることを考慮すると刑の執行を今後も続けるのは正義に反する

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 〈東住吉放火殺人再審〉 大阪市東住吉区の住宅で1995年7月22日夕、入浴中の青木めぐみさん(当時11)が火災で焼死。大阪府警は保険金目的の放火殺人事件とみて、母親の青木元被告、朴元被告を殺人と現住建造物等放火、詐欺未遂の疑いで逮捕した。ともに捜査段階で容疑を認め、公判で無罪を主張。99年に無期懲役の判決を受け、2006年に最高裁で確定。09年に再審請求し、大阪地裁は12年に自然発火の可能性を認めて再審開始を決めた。