クリスマスケーキの強制買い取りは違法?
クリスマスが近づいている。こんな季節に続発する労働問題がある。「クリスマスケーキ」や「おせち料理」の買い取り強制問題だ。
「ウチの職場では、18000円以上のおせちをバイトが買うか売ってくるかのノルマがあります。月10数万円の給料なのに、高いもんを買わされそうで、本当に困っています」。
これは、私のツイッターに寄せられた労働相談だが、典型的な内容だ。
最近では、大手コンビニからクリスマスケーキ自腹購入の相談も続々と来ている。ある相談によれば、ケーキやお歳暮は数千円だから「まだ乗り切れる」。心配なのは、おせち料理(約2万円)の自腹だそうだ。
こうした実情を踏まえ、改めて、アルバイトの「ノルマ」や「買い取り」を法的・社会的に考ええたい。
法的にはどうなるのか?
法的には、アルバイトの商品の買い取りそのものが、即座に違法になるわけではない。買い取りを求められたとしても、アルバイトが買うかどうかは本来「自由」だからだ。問題は、それが「命令」として強制されている場合である。つまり、どの「程度」強制的なのか、どんな「方法」で買わせているのか、という二つが論点となる。
任意の勧誘→○
例えば、「買ってほしいと思っている」とか「買う人もいるよ」という「勧誘」の程度であれば、違法だとはいえないだろう。「任意」に買い取りを行う場合には、一般の消費者と同じである。
しつこい勧誘→△
一方、何度も「買ってほしい」「買う人が多い」「バイトは買うものだ」などと繰り返していれば、たとえ強制ではなくとも、組織的な力関係(店長や上司への気遣い)から買わざるを得ない場合もある。かといって、強要や強迫ともいえない。法的な評価が難しい、一番微妙なケースである。
強要→×
明白に違法になるのは、店長や上司がアルバイトに買い取りを「強要」している場合である。「買え」と命令されたり、「買わなければクビだ」などと言われている場合がこれに当たるだろう。この場合には命令を録音しつつ(隠し撮りは法的に合法)、はっきりと拒否するのが正解だ。後から首などにされた場合も、損害賠償を請求できる。
給与から天引き→×
次に、「方法」が悪質な場合も違法性が高まる。商品の代金を「給与から天引きされる」という場合には、労働基準法違反になるので、刑事犯罪となる。司法警察員である労働基準監督署も取締りができる。当然、天引き分の給与はすべて請求可能だ。
罰金→×
さらに、ノルマを達成できない場合には「罰金」を支払わせるという場合もあるだろう。だが、「罰金」もほとんどの場合が労基法違反である。「罰金」を合法に科すためには、就業規則に定めがあり、しかもそれが「合理的」な内容である必要がある。アルバイトにノルマを課して罰金までとるのは「合理的」とは言えないので、確実に違法になるだろう。
対応方法
さて、このように多くが違法になる商品の「買い取り」であるが、対応方法をいくつか挙げておこう。
本部への通報
チェーン店の本部は違法な買い取り強制を認めていない。コンビニチェーンなどであれば、本部に通報し、店長を指導してもらう方法が有効だ。自分で電話をする勇気がなければ、私のような労働側のNPOに相談し、連絡してもらうのもよいだろう。
労基署への通報
労基法違反の場合には、労基署に相談することが有効だ。ただ、労基署は証拠がはっきりしていないと動いてくれない。また、人員に限りがあるので、対応が遅くなってしまう可能性も高い。
弁護士に相談
法律上は違法でも、「弁護士に相談するほどでもない」と考えている人が多いのではないだろうか。確かに、金額が少額であれば、弁護士に頼むほどではないかもしれない。だが、あまりにも高額な商品を買わされたり、継続的に強制されている場合には、弁護士への相談も選択肢になる。文末に無料労働相談を受け付けている弁護士団体の連絡先を紹介しておいた。
労組に相談
職場全体の改善を目指すなら、労働組合に相談することが有効だ。ただし、本社の労組は小さい店舗のノルマや買い取りの問題までは扱ってくれない。社外の労組であっても、労組は個人加盟で交渉をすることができるので、そこに相談すれば、店長と交渉し、ノルマをなくすように話し合いで解決することが期待できる。
社会的な問題として
最後に、最近話題となっている「ブラックバイト」とも関連して、「社会」の視点からも考察してみたい。
日本のサービスは本当に「便利」で「安い」。だが、そのサービスを支えているのは圧倒的多数のパート・アルバイトなどの非正規雇用である。コンビニでは宅配便や公共料金の支払いまでできるが、最低賃金近い時給のアルバイトが支えている。支払いのミスが生じると、大きなトラブルになってしまうこともあるという。
日本の非正規雇用は低賃金の割に、本当にまじめに働いている。「便利」「安い」の背後には、「安く」「一生懸命」にサービスを提供する人たちがいるのだ。宅配便の管理も、公共料金の支払いも、本当はプロが行うべき作業かもしれない。お隣、韓国では非正規雇用が増えすぎたために、交通機関での事故が絶えないとも言われている。きちんとした待遇が保障されなければ、日本のサービスもいつか質が確保できなくなっていくかもしれない。
また、最近多いのは、高校生のアルバイトからの労働相談だ。消費者としては、「安く」、「便利」なサービスに利益を受けているのだが、その提供者が高校生や大学生だという実情も見過ごせない。暴力的なクレームの対応を19歳の女子大生が行っている職場もある。
さらに、学生が責任の重いアルバイトばかりしていては、学業に支障をきたすことも考えられる。将来、日本の新しい産業を支えていくために、学生時代は基礎的な語学力や技術、国際情勢などに精通する時間ともなる。
アルバイトは学生の家計にとっても、企業や社会にとっても必要不可欠なものだ。だが、その「あり方」は、もっと真剣に考えていく必要があるのではないだろうか。
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