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本を素材にした独創的な空間作りで評判の「ツタヤ図書館」は、中古本の購入などを批判されながらも、多くの来館者を集めている。図書館はどうあるべきなのか。ツタヤ流の発想からは、まったく違った姿が浮かび上がってくる。
■イベント評判、「学びの連鎖」ねらう
天井まで届きそうな書架。館内にはジャズが流れ、入り口のそばの書店とカフェでは、学校帰りの中高生らがコーヒーを飲みながら読書や雑談を楽しむ。
神奈川県海老名市で1日に改装オープンした市立中央図書館。レンタル大手「ツタヤ」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者として運営する。佐賀県の武雄市図書館に続く、全国2番目の「ツタヤ図書館」だ。
2013年に開館した武雄では、年間来館者が改装前の3倍以上に。市が行った利用者アンケートでは、満足との回答が85%を占めるなど「成功例」とされる。だが、CCCの図書館カンパニー社長で、海老名の館長も務める高橋聡氏は、「今すごく迷っています。良かれと思ってやっていることがどんどん否定されていくので……」とこぼす。
ツタヤ図書館の選書と分類方法を批判する専門家は少なくない。15日に東京都内で開かれた全国図書館大会。シンポジウムで登壇者が、図書の購入を決めること(選書)や適切に並べること(排架)の「大切さを勉強してから参入していただきたい」と発言すると、会場から拍手が起きた。
■ユニークな配置
武雄と海老名では、10年以上前の資格試験対策の中古本や、海外の風俗店の情報も載った旅行本なども購入していた。そのため自治体側が選書をチェックするよう改めた。
図書分類でも、多くの図書館は日本十進分類法を採用するが、CCCは独自のジャンル分けを導入。海老名では当初、東野圭吾の小説『手紙』が「手紙の書き方」の棚にあるなどしたため、利用者から「本が探せない」という指摘が相次いだ。
愛知県小牧市では、建設予定だったツタヤ図書館への反対運動が起こり、4日の住民投票で反対が上回った。
なぜ、これほどまでに物議を醸す選書や分類法になったのか。
高橋氏によると、選書の際には、CCCが運営する東京の「代官山 蔦屋(つたや)書店」などでよく売れている本を参考に仮の購入リストを作成。図書館の利用者アンケートの結果も踏まえて購入本を決めるという。「CCCは書籍の販売、流通量では日本一。そのデータを使うことが僕たちの強みになる」
分類法も、蔦屋書店の「発見性」を重視したユニークな並べ方が原点という。例えば海老名では、料理本の書架には食材や調味料別に図書が配置され、「カフェごはん」という項目もある。高橋氏は「生活シーンに合わせた分け方。今日のご飯は何にしようかと思った時のサポートになるし、新たなライフスタイルの提案もある」と説明する。
■カフェも朝ヨガも
1日12時間365日開館するなど、利用者目線での運営には一定の評価もある。「市民生活がより豊かになる図書館」がCCCの理念だという。「本を読んで学ぶ姿が絵になる空間」を作り、カフェや雑誌の読み放題を目的に訪れた市民の間に「学びの連鎖」が起こることを狙う。武雄では昨年、120以上のイベントを実施。本の販売も絡めた著者のトークショーや、子ども向けバリスタ講座での調べ学習、朝ヨガなどに約7千人が参加した。「図書館は本だけではなく、集まった人やそこで起きていることからも学ぶ場所だと思う。今のみなさんが知っている『図書館』からすると、『公設ブック&カフェ』とか『市民読書センター』と呼んだほうがいいってことなんですかね」
CCCの図書館事業は、武雄の来館者が予想を上回ったため人件費が増え、カフェや本の販売収益では採算が合わず、2年連続赤字となった。「利益が出る設定でおとなしく運営することもできたが、利用者により良いサービスを提供することを優先した」と高橋氏。海老名でも約600の雑誌を中心に本を販売するが、「狙いは、もっと本に接してもらうこと。ただ売り上げを上げるのが目的なら、コミックや売れ筋の本をそろえます」
武雄市との指定管理の契約はあと2年半。高橋氏は、これまでの事業成否について回答を保留したが「そろそろ利用者や地域に良い変化が起こってくる」と推測する。「図書館運営は相当の力を込めないとできないが、今後も続けていきたい。都道府県に一つくらいこんな図書館があってもいいんじゃないか」
ツタヤ図書館に関心を示す自治体側も、「子どもから大人までいつでも集える場所」として、街を活性化する機能を期待する。海老名市教育委員会は「CCCは独創的な空間デザインにたけている。多くの市民に足を運んでもらいたい」と話し、年間の来館者目標を約2・5倍の100万人に据える。
図書館としての役割が見えにくくなるなか、慶応大学の糸賀雅児教授(図書館情報学)は「カフェや書店といった図書館と親和性のある物品販売で売り上げを確保しようとする戦略は悪くないが、空間作りにこだわりすぎると、選書や排架といった図書館の生命線がゆがんでしまう恐れがある」と指摘する。
一方、地域の課題解決のための本をそろえたり、人材育成の拠点づくりをしたりといった「時間はかかるけれど必要な役割」を軽視してきた、これまでの図書館のあり方も問題だと言う。「どこまでを民間に任せ、図書館のどんな機能を守るのか、自治体はしっかり検討して欲しい」(竹内誠人、塩原賢)