印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,仕事術,書評 06:30 AM
相手の気持ちを引きつけるひと言を添える、「一筆箋」とは?
一筆箋とは、贈りものなどにひとこと添えるために使用する短冊状の細長い便箋。『心が通じる ひと言添える作法』(臼井由妃著、あさ出版)は、この一筆箋を利用して「ひと言を添える」大切さを説いた書籍です。著者自身、しゃべるのが苦手で、書くことにも苦手意識を持ち続けていたものの、一筆箋と出会ったことで社交性を身につけることができたのだとか。
さまざまなシーンでひと言を意識したことで、私だけではなく、ひと言添えを心がけている方たちの人生がどんどんいい方向に変わっているのに気づきました。本書では、こうした経験などから修得した、最低限のマナーを押さえながら、簡単に、時間をかけず、楽しみながら続けられる「ひと言添えの作法」、そして、そのひと言を伝えるのに有効な「一筆箋の魅力」をご紹介していきます。(「はじめに たった『ひと言』で人生が変わる」より)
でも一筆箋を使ったことがない人は、まずその魅力を知っておきたいところ。そこで第3章「こんなに簡単! 一筆箋を書く七つのポイント」をチェックしてみましょう。
ポイント1:書き出しは気楽に
手紙でもメールでも「さあ書こう」という段になると考えすぎてしまい、うまい言い回しが浮かばず、「やっぱり無理だ」と思い込んでしまう...。そんなことはよくある話です。著者によればそれは、思い込みによる意識の壁「メンタルブロック」ができてしまっているから。メンタルブロックがあると、人はどうしても後ろ向きでマイナス思考になり、手が止まってしまうというわけです
それを防ぐには、頭に浮かんだフレーズをとにかく「書き出す」のが重要。迷ったり考えたりする必要はなく、一文字でもいいから書く、手を動かすことが大切だといいます。そして実際に文字を書いてみると、意外と手が進むもの。やがて「こんな感じかも」「いけそうだ」という感覚になり、肩の力が抜けて文章が書けるようになるそうです。そうして書けたものは、自分自身のなかにある素直なことば。だから気楽に読め、相手の心にスッと入りやすいものに仕上がるのです。(100ページより)
ポイント2:最初の1行は「つかみ」で
いくら気楽でいいとはいえ、決まり切った文言で相手を引きつけることは困難。つまり、「つかみ」が必要。著者によれば、つかみは「極力短く、ゆったり」がポイント。その方が内容に興味がわき、気持ちよく読め、ストレスを感じない好印象の文面になるといいます。いちばんいいのは、1行、それも35文字以内。その程度であれば、視線を上下させることなくひと息で読めるため、相手もストレスを感じなくてすむということです。(103ページより)
ポイント3:礼儀をあえて無視する
常識や礼儀、道徳など、世の中には決まりごとがたくさん。しかし気持ちや心を伝えるうえでは、必ずしもそれらを守ることがプラスに働くわけではないと著者はいいます。あえてルールを無視することも、ときには必要だという考え方。
特に一筆箋の場合は、時候の挨拶やご機嫌伺いなど、通常の書式にとらわれすぎない方が、相手にとっては読みやすく、理解しやすく、親近感が増すものになるそうです。手紙の基本的な構成は、頭語、時候の挨拶、本文、結語、追伸(P.S.)。このことを理解したうえで、あえて追伸にあたる部分を1行目に書くといいのだとか。構成を重んじすぎて、つまらないことやどうでもいい話からはじまると、相手の読む気を削いでしまいかねないというのがその理由。最初から伝えたいことを書く方が、相手の時間を奪わずにすみ、喜ばれるということ。
書き出しの1行として著者が勧めているのが、相手に関するひと言。「焼肉でも、食べに行きませんか?」など、共感や親近感、笑顔、賞賛を伝えることがポイントだそうです。また、「先日、◯◯さんの夢を見ました」など、相手を驚かせるひと言からはじめても、興味を持って読んでもらえるもの。こうして意図的に礼儀のたぐいを無視すれば、心の距離を縮められるという発想です。(109ページより)
ポイント4:「セリフ」でメリハリをつける
文章のなかにセリフが入ると、まるでその場にいるような臨場感が生まれると著者は記しています。特に感謝やお礼を伝える場合は、セリフを使うと相手により響くメッセージに。そしてビジネスシーンなどのフォーマルな文章であっても、メリハリが生まれて説得力が増すことになるというのです。
◯◯様の自分の経験を若い方に伝えたいというお話に感銘を受けました。
ぜひ、またお話を伺わせていただきたく存じます。↓
「自分の経験を若い方に伝えたい」
◯◯様のお話に感銘を受けました。
ぜひ、またお話を伺わせていただきたく存じます。
(114ページより)
内容は一緒なのに、たしかにセリフが際立ち、なにに感銘を受けたのかが明確になります。つまりセリフを使うと、整った文章では表しにくい「すなおな気持ち」を表現でき、共感や協調を呼びやすいということです。(112ページより)
ポイント5:感動を呼ぶ「五感の法則」
目=見る、耳=聞く、鼻=嗅ぐ、舌=味わう、肌感触=触れる。これらの五感に訴えかけるように書くと、相手がそれを感じ取り、心も動くため、想いがぐっと伝わりやすくなるそうです。一方で注意したいのは、「とても」「すごく」「大変」という表現ほど、心に響かないものはないということ。曖昧すぎて、かえってイメージが湧かないからだといいます。
土砂降りの雨に、立ち往生しました。
↓
バケツをひっくり返したように降る雨に、身動きがとれませんでした。
(118ページより)
こうした表現は必ず必要というわけではないけれども、心を動かすことばのバリエーションが豊かになればなるほど、相手との心のつながりが強固になるもの。だからこそ、相手が共感しやすいように、普段から五感を意識した表現を心がけるべきだと著者は主張しています。(116ページより)
ポイント6:「思い十分でも腹六分」で
一筆箋をはじめとする短い文章では、ひと言の影響力が、長文とは比較にならないほど大きいもの。相手にプレッシャーを与える様なことばは使わないようにするべきで、具体的には「絶対に返事をくださいね」「必ず顔を見せてください」「ずっと待っております」などは避けた方がいいといいます。
なぜなら「絶対に」「必ず」「ずっと」などのことばは、そんな意図がなかったとしても、相手の行動を指図する様な雰囲気を醸し出してしまうから。また、人はあれこれ指図されると反感を持つため、かえって逆の行動をとりたくなるものだといいます。
10の想いを10のことばにして書いてしまうと、相手に対して逆に負担を与えてしまうということ。健康の秘訣が「腹八分」であるように、形に残る文章は「腹六分」が適量だと著者はいいます。「腹六分の文章」は、かわいらしさや奥ゆかしさを感じさせるのだそうです。
返事がほしいのなら、「お返事、心待ちにしています」と、大和ことばを使って心の機微を伝える。本当に会いたいのなら、「◯◯さんと、またお話できたらうれしいなぁ」と、さらっと伝える。その方が相手の心をつかむことができ、相手も「また会いに行こうかな」など行動を起こしたくなるもの。ただ思いをぶつけるだけではなく、余裕を持って「思い十分でも腹六分」で伝えることが大切だということです。(120ページより)
ポイント7:突っ込みを入れたくなる1行を入れる
一筆箋は、どこに関心や興味を向けさせるか、どこにインパクトを置くかで、相手の受け取り方が変わるのだといいます。具体的には、「ニュース!」など書き出し1行のインパクトを強めると、「これからどうなるんだろう?」とワクワクし、「白状しますと、」など中盤のインパクトを強めると「そうなのか」と共感してもらえることに。そして「幸せになります」など締めの1行のインパクトを強めれば、読み手は余韻に浸ったり、今後に思いを馳せたりすることができるというわけです。
つまり、そのような心理を理解したうえで、どこに「突っ込みどころ(インパクト)」を置くかを決めて書く。そうすれば、相手の心をつかむ一筆箋になるということ。(123ページより)
届けものなどに添えられた手書きの一筆箋を目にすると、たしかに心が温かくなるもの。本書でその活用法を身につければ、コミュニケーションの幅を広げることができるようになるかもしれません。
(印南敦史)
- 心が通じる ひと言添える作法
- 臼井 由妃あさ出版