安倍内閣は、この秋の臨時国会の召集を見送る方向だ。

 これに対し民主党はじめ野党がきのう、早期の召集を求めることで一致した。当然の要求であり、安倍首相はただちに応じるべきだ。

 通常国会で尽くせなかった法案審議などのため、秋に臨時国会を開くことは慣例となっている。この秋に開かれなければ、05年以来のことになる。

 菅官房長官は「首相の外交日程を優先せざるを得ない」と説明する。11月にかけて日中韓首脳会談や主要20カ国・地域首脳会議などが続くのは確かだ。一方で、立法府の議論が求められる政策課題は山ほどある。

 首相は第3次改造内閣を発足させ、GDP600兆円などを目標とする「新3本の矢」や「1億総活躍社会」を掲げた。ただ、その実現可能性や「総活躍」の意味について、首をかしげる国民も多い。首相はまず所信表明演説でめざすところを明確にし、質疑を通じて国民の疑問に答える必要がある。

 また、安全保障関連法制について首相は「国民の理解がさらに得られるよう丁寧に説明する努力を続けたい」と語った。言葉通り、今後どのような運用を考えているのかなど、いっそうの説明責任を果たすべきだ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)での合意内容、政府と沖縄県の対立が深まっている米軍普天間飛行場の移設問題、近隣外交の立て直しや難民対策なども議論しなければならない。

 これだけの論点を、すべて年明けの通常国会に持ち越せというのは身勝手ではないか。国会軽視と言われても仕方がない。

 新閣僚にも問いたいことがある。森山農水相が代表を務める自民党支部は、鹿児島県から指名停止となった建設会社による寄付を受けていた。不祥事が指摘される閣僚はほかにもいる。

 政府側が早期の国会に及び腰なのは、野党の追及をできるだけ遅らせたいからではないか。そう見られては首相としても不本意だろう。

 野党は憲法53条に基づく召集要求を視野に入れている。53条は、衆参いずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなければならない、と定めている。

 条文には召集期日の規定はなく、内閣としては引き延ばしも可能だが、だからといって早期召集を拒めば、少数派の意向を尊重すべきだという憲法の趣旨に反することになる。

 野党の要求を待つまでもなく、安倍内閣はみずから臨時国会召集に踏み切るべきだ。