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10月20日付
「太地の捕鯨をユネスコ産業遺産に」
ワーンさん(和大観光学部特任助教)講演会

 新宮ユネスコ協会は新宮商工会議所で17日、シネマトグラファーで和歌山大学観光学部特任助教のサイモン・ワーンさんを迎え、太地の捕鯨をテーマに講演会を開催した。ワーンさんはこれまでの映像作家としての自身の活動や太地町での調査・研究を通じて「太地の捕鯨をユネスコの産業遺産に」という持論を展開している。集まった約100人の聴衆がその意見に耳を傾けた。

 同会の中谷豪会長は「ユネスコの活動の主要なものは平和維持活動。求められるには他を尊重し違いを認めること」と考えを述べ、捕鯨をめぐる対立への違和感を示した。太地町の宇佐川彰男教育長は「現在太地町では12隻の捕鯨船団が活躍している。漁は農家の方が米を作るのと同じように認可を得て行っているもの。反捕鯨団体の外国人はそれを批判している。過去現在未来を通じて鯨と関わり、漁業者をしっかり守るのが町の役割」と捕鯨をめぐる情勢のなかでの町の立場を明言した。

 講師を務めたワーンさんは、オーストラリア出身の映像作家で現在は和歌山県在住。アメリカの動物専門チャンネル「アニマルプラネット」の人気企画「Whale Wars(クジラ戦争)」の撮影に携わり、日本の南氷洋での調査捕鯨に反対するシーシェパードの活動に5週間密着した経験などを持つ。2008年より太地町の捕鯨に関する研究を開始し、対立解消や新たな観光産業の可能性を提案する活動を続けている。

 ワーンさんは、太地の古式捕鯨を優れて持続可能性を持った産業として評価。「肉眼と素手を使い、後に機械で行うこととまったく同じことをしていた。これは驚くべきこと」と述べ、「捕鯨をめぐる対立を政治的な問題ではなく学術的な問題として語ることが重要」との考えを語った。

 また地域住民に向けて「間違った態度で太地に来る西洋人が大勢いる。捕鯨についてのリアルな物語を知り、発信することが必要」といい、特色ある歴史とそれにまつまる物語を多くの人が共有し、伝達することによる相互理解の可能性を強調した。現在、太地捕鯨史の基本文献である太地五郎作の『熊野太地浦捕鯨乃話』の英訳本の出版企画を進めていることも明かした。「こんなにも素晴らしい物語がなぜ正しく伝わっていないのか を考えたい。世界で唯一持続可能な捕鯨をしている太地の捕鯨を産業遺産にするのが私の仕事だと思っている」と述べ、講演を締めくくった。

■「もっと知りたい」と高校生

 講演の後の質疑応答では、新宮高校3年の鈴木亜妃さんが「われわれも西洋人も豚や牛は食べるのに、なぜクジラだけが批判されるのか」と英語で質問。ワーンさんは、西洋人が鯨類を知能の高い特別な動物だと思ってきたのに対し、日本人はすべての動物を等価に置いているという背景の違いを説明。そうした文化の違いを踏まえ「今度は皆さんが自分たちの物語を発信してください」とメッセージを送った。

 講演会終了後、鈴木さんは「捕鯨の話は小学校のときに少し教わっただけであまり知りませんでした。外から来た人の視点で知れることが沢山あると思いました。反捕鯨のことも調べてみたい」と感想を語った。

講演を行うサイモン・ワーンさん