2015年7月24日04時22分
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で、参加12カ国が著作権の保護期間を「作者の死後70年」で統一する方向で最終調整に入ったことがわかった。日本では現在「50年」のため、確定すれば20年間延長される。日本に課されている約10年の「戦時加算」は、参加国間では事実上、解消される見通しだ。
保護期間はいま、日本やカナダ、ニュージーランドなど6カ国が原則「死後50年」で、米国や豪州など5カ国が「70年」、メキシコは「100年」となっている。交渉では、ディズニー作品など著作権大国の米国が「70年」への統一を要求。欧州連合(EU)を含む先進国では「70年」が主流で、日本も容認する方向で検討に入った。
70年に統一されれば、日本はTPP参加国の著作物を利用するときは、著作権使用料を20年長く払わなければいけなくなる。日本の使用料の国際収支は米国を中心に2013年で約6200億円の赤字となっており、赤字幅は拡大する見通しだ。ただ、日本の作品がTPP参加国などで利用されるときは、これまでより使用料を20年長く得ることができる。
また、敗戦国の日本は1951年のサンフランシスコ講和条約で、戦勝国の米国やカナダ、豪州など計15カ国の戦前の著作物については、保護期間を約10年延ばす「戦時加算」が課されている。70年で統一されれば本来約80年となる計算だが、日本は加算の解消を強く要望し、参加国間では加算を無効にする方向となった。
■「米国に有利」の見方
著作権管理団体にとっては、「戦時加算」の解消によって、海外の音楽作品などを扱うハードルが下がるのはメリットだ。
不平等な形で海外に使用料を多く払ってきた日本音楽著作権協会(JASRAC)は、「日本だけが条約に基づき一方的に義務を課されており、国際的に極めて異例」として、戦時加算の解消を求めている。どの海外の著作物が加算の対象になるか判断しにくい上、国によって戦争期間が異なるため、「保護期間を加算する計算が煩雑」(広報担当者)で、実務上の問題も大きいという。
ただ、保護期間が「70年」になると、米国に有利に働くという見方が強い。
米国は「ミッキーマウス」や「スーパーマン」など長期にわたり世界中で使われるコンテンツを多く持つからだ。著作権に詳しい福井健策弁護士によると、現行の制度なら「くまのプーさん」の著作権は2017年に切れるが、保護期間の延長で延命することになるという。一方で、日本にはこうした作品が少ない。
23日、TPP交渉での著作権条項の見直しを求めるグループが、内閣府に署名を提出した。
メンバーの一人である福井弁護士は会見で「保護期間を延長すれば、(日本が)海外に支払う金額が確実に増え、国際収支の赤字がさらに増える。戦時加算の解消とバーターであるなら、あまりにバランスを欠いている」と批判した。
■TPP交渉参加国の著作権保護期間
【50年】
日本、カナダ、ニュージーランド、ブルネイ、ベトナム、マレーシア
【70年】
米国、豪州、シンガポール、チリ、ペルー
【100年】
メキシコ
注)年数は、原則として作者の死後
◇
「著作権保護70年で調整」の記事で、「日本の作品がTPP参加国などで利用されるときは、これまでより使用料を20年長く得ることができる」として例示した「アニメ」は誤りでした。出版物や音楽は作者の死後50年ある著作権の保護期間が20年長くなりますが、アニメや映画などの動画は現在「公表後70年」でした。
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