男子体操の最年少、加藤凌平選手(18)は、体操技の名前にもなった名選手を父親に持つサラブレッド。だが、母校、埼玉栄高校体操部の堀出一夫総監督(60)は「身体能力は中の上」と評する。そんな加藤選手を初五輪に導いたのは、得意の床運動に集中しスペシャリストを目指す作戦だった。
団体総合では安定した演技で日本の銀メダルを支えた。しかし、表彰台が期待された種目別の床では予選で9位と出遅れ、ギリギリで決勝進出を逃した。
「空中での体のひねりは目についた。ただ、着地時の膝とつま先の並びが汚かった」。埼玉栄高を名門校に育てた堀出総監督は、入部当初の加藤選手を振り返る。
高難度の平行棒の降り技「カトウヒロユキ」(後方抱え込み2回宙返り1回ひねり降り)を作った父、裕之さん(48)とは身体能力の差が歴然としていた。内心では「高校レベルでは通用するが、その先はないな」と思っていたという。
ただ、加藤選手は「手取り足取り指導されるのが嫌いなタイプ」。総監督も「無理なことはするな」などと声をかけるだけだった。
そんな思いをくみ取ったかのように、加藤選手は自分の強みを研究し、弱点克服に取り組んだ。脚力の弱さを克服するため、練習前後には時間をかけて柔軟体操に取り組んだ。技のイメージをつかむため、練習をビデオに録画し動きを確かめた。
高校1年の秋ごろから、ジャンプ力がつき、空中でのひねりが格段に美しくなった。膝や足の並びもそろってきた。つり輪や跳馬など道具を使う種目はミスが多いが、床は減点が少なく安定感があることが分かった。堀出総監督は「床なら上が狙えると確信した」という。
高校2年の時、全日本種目別選手権の床で3位に入賞。僅か1年前までは「先がない」と思っていた選手が、将来を期待される存在に浮上した。
ロンドン五輪の代表選考では、床と鉄棒の「スペシャリスト枠」を設定。加藤選手は減点が少なく、4日間中3日間首位を維持し、五輪切符を手にした。
ロンドンから帰国後の記者会見では「自分の力を出せたので、個人的には最高の舞台だった」と振り返った加藤選手。4年後については「(内村)航平さんに並び、日本を引っ張る選手になりたい」と頼もしく決意を語った。
(東京社会部 川口健史)
男子体操・個人種目別床運動。7月28日、9位で予選敗退。団体総合は7月31日、内村航平選手らとともに決勝で2位。
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