World Energy Watch

VW問題でCO2排出量にも疑義 欧州で注目高まるEVと日本車

山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)  常葉大学経営学部教授

京都大学卒業後、住友商事入社。地球環境部長などを経て2008年から10年までプール学院大学国際文化学部教授。近著に「いま「復興」「原発」とどう向き合えばよいのか」(共著PHP研究所)がある。

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迷走を続ける日本のエネルギー政策。海外の事例をもとに、問題の本質と解決策を導いていく。

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 欧州でもカタログ値と実際の走行時の燃費は異なるが、その差はメーカーによりかなり違っている。しかも毎年のようにカタログ値と実測値の差が拡大しているとなると消費者は穏やかではいられない。

 「輸送と環境」は“Mind the Gap”(ロンドンの地下鉄の車内アナウンスでよく聞く言葉だが、ホームと電車の隙間に気をつけてという意味だ)というレポートを出しており、CO2のカタログ値と実測値の差に気を付けてと注意を促している。

 2014年版はまだ暫定値だが、燃費の実測値が計測され示されている。図-4が"Mind the Gap"の元データにあるメーカーごとのカタログ値と実測値の燃費の差を示したものだ。平均では燃費の実測値はカタログ値よりも37%高くなっている(注:欧州では100キロ走行するのに何リットルの燃料が必要かで燃費を表示する。従って、燃費が悪化すると必要な燃料が増え、数字が大きくなる)。問題は、メーカーによる差だけではなく、カタログ値と実測値の差が年々拡大していることにある。2008年から14年のカタログ値のCO2排出量は31g/キロ改善している。実測値も同様に改善すべきだが、11g/キロしか改善しておらず、カタログ値との差は25g/キロから45g/キロに拡大している。図-5の通りだ。

【図4】燃費のカタログ値と実測値の差
(注)カタログ値に対し実際の走行で必要な燃料量の比率
(出所)”From Laboratory to Road”
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【図5】 CO2のカタログ値と実測値の推移
(出所)”From Laboratory to Road”
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 今回のVWの不正を受け、一部の環境団体からは、燃費、CO2の計測も不正ではないかとの声も出ていると報道されているが、この指摘に応えられるのは走行時にはCO2を排出しない電気自動車(EV)だろう。EUでの14年のEVの販売台数は6万7000台に過ぎず、シェアは0.5%しかない。

 しかし、車からのCO2排出量の計測値が注目されるようになり、実測値では改善が進んでいないことに気がつく消費者が増えるに連れ、EVがさらに注目される可能性がある。EU域内でのEVの販売台数1位と2位は三菱自動車と日産自動車だ。14年の販売台数はアウトランダーが1万8030台、リーフが1万400台だ。自動車の排ガス問題を契機に、トヨタ自動車のハイブリッドを含め日本車が欧州でさらに注目されることになるかもしれない。

  
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著者

山本隆三(やまもと・りゅうぞう)

常葉大学経営学部教授

京都大学卒業後、住友商事入社。地球環境部長などを経て2008年から10年までプール学院大学国際文化学部教授。近著に「いま「復興」「原発」とどう向き合えばよいのか」(共著PHP研究所)がある。

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