8月に行われた国内の大会。横一列に並んだ「デトネーション・フォーカスミー」は、ヘッドセットで連絡を取り合いながらゲームを進める

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 一日中ゲームをして報酬を得ている若者がいる。スポンサーの支援を受け、ゲーム大会で勝利を追求する「プロゲーマー」だ。千葉県船橋市には、一軒家で共同生活を送りながら技を磨くゲーマー集団がいる。プロだけにストイック。菓子を食べながらダラダラ、などという雰囲気はない。モニターを凝視するその目は、世界一を見据えていた。

 プロゲーマーが共同生活を送る家は、JR西船橋駅から徒歩10分ほどの住宅街にあった。目に飛び込んできたのは大豪邸。地上2階、地下1階の9LDKの物件だ。吉田恭平(21)はここを拠点に、プロゲーマー「Ceros(セロス)」の名前で活動している。

 キッチンとつながっている大広間が練習場。ゲーム専用のパソコン9台が机の上に並び、プロゲーマーたちはヘッドホンをつけ、モニターに向かって黙々とキーボードを叩いていた。記者が近寄っても、気にするそぶりもなかった。吉田はラフな部屋着姿。「どんな生活をしているかよく聞かれます」と笑った。

 正午に起床し、深夜4時に就寝。昼夜2食と休憩を除きゲーム漬けだ。現在18〜25歳の7人が暮らしている。各自に個室があり、なんと専属の料理人までいる。おまけに家賃、食費、光熱費はタダ。10月はオフシーズンに当たり、土日は休みだが「お金を使う機会はあんまりないですね。結局休みでもゲームしてます」と淡々と語った。

 なぜここまで好待遇なのか。それは吉田たちが「プロ選手」だからだ。コンピューターゲームで対戦する競技は「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツの略)」と呼ばれる。その中で最も人気があるのが、5対5のチームで戦うゲーム「リーグ・オブ・レジェンズ(LoL)」。吉田が参加しているチームは現在、国内リーグの王者だ。

 チームの運営側によるとスポンサーが9社ついており、年間数千万円の収入がある。運営側は選手たちがゲームに専念できるよう生活をサポートし、給料まで支給している。厚生労働省の調べでは、高卒男性の20〜24歳の平均月給は19万4000円だが、吉田は「それよりはもらっていますね」と話した。

 プロになったのは「やりたかったことが本当にゲームだけだった」からだ。小学校の卒業文集に「夢はない」と書くような少年。17歳で出合ったLoLが、そんな少年を変えた。緻密な戦術やチームプレーの奥深さを知り、のめり込んだ。高校卒業後、LoLのアマチュアチームでプレーしていたところ、現在のプロチームに誘われ、兵庫県西宮市から上京した。

 チームは実力優先主義。自分のポジションを誰かに奪われれば、この家から去らなければならない。当面はプロゲーマーを続けるつもりだが「正直何年持つか分からない。今から10年後は全く想像がつかない」と不安もちらつく。

 体への負担もある。「やっぱり目は疲れますね」。ゲーム中は目の負担を和らげる専用眼鏡をかけ、眼精疲労に効くサプリを飲んでいる。中学時代に2・0だった視力は0・8に落ちた。体を動かす機会がめったにないため、腹筋やダンベルを使った筋力トレーニングで体調を維持している。

 ゲームばかりの毎日を、どう思っているか。「今のチームは大会で1位を目指し、一切の妥協を許さない。プロの野球選手やサッカー選手に対して“毎日同じことをやって飽きないのか”と聞かれる感覚ですね。うまくなるのが楽しいだけ」と言い切った。プロ選手の、自信に満ちた顔だった。

 LoLの国内リーグ戦の会場には最近、1試合200人を超えるファンが集まり、画面の中のキャラクターの動きに歓声を上げる。そのキャラクターを操る吉田らは、日本中を感動させたラグビー日本代表のような屈強なアスリートではない。だが、己を磨き、勝利を求める姿は通じる部分がある。プロゲームの世界で日本は米国、韓国などに後れを取っているが、吉田らが“ジャパンウエー”で世界を驚かせる日は、そう遠くないはずだ。=敬称略=

 ≪約7500万人が世界でプレー≫LoLの国内リーグは1月に開幕し、吉田の所属チーム「デトネーション・フォーカスミー」が8月の日本一決定戦を制した。LoLは世界で約7500万人がプレーしており、大会の獲得賞金やプレー動画の配信料などで年収1億円を稼ぐプロもいる。世界最高峰の大会は優勝賞金1億円以上。米国では大会に参加する選手にプロアスリートビザが発給されスポーツとして政府に公認される。