ギフト券が当たる! ニュースサイト毎日新聞 アンケート実施中

SUNDAY LIBRARY:私的本屋賞『透明の棋士』北野新太・著

2015年06月23日

 ◇ただひたすらに高みを目指す純粋さ

◆『透明の棋士』北野新太・著(ミシマ社/税抜き1000円)

 コーヒーを飲みながら、この本を読んでいる。著者同様、特に将棋に興味はなく、これからもないだろうと思っていた将棋が、興味ある対象として今、浮かび上がっている。新聞記者である著者は、あるとき、ひとりの棋士との出会いから、将棋の世界へとのめりこむこととなった。

 棋士になるのは、超難関だ。プロになれるたった二つの席をめぐって、全国各地で神童と呼ばれていた天才たちが競い合い、敗れたものはまた戦わなければならないのだが、そのリミットは26歳までだ。

 そんな勝負の世界において、著者が間近で見た棋士の姿は、勝負師としての顔というよりも、タイトル通り、透明の姿として映る。羽生善治、渡辺明、森内俊之、里見香奈など、多数の棋士たちが描かれているのだが、彼らは一様に、将棋に対し熱く、純真で、また謙虚である。負けることの重みを、誰よりも知っているのだろう。勝負を通して棋士たちは、勝負を超えた向こうにある世界を見ているような気がする。もっと、もっと、高みへと。その思いが彼らを、透明のように澄んだ存在へと変えてゆくのだろう。

 本書はミシマ社が放つ、「コーヒーと一冊」という新シリーズの一冊である。コーヒー時間に読めるようなページ数で、一冊の本を読了することの喜びを知ってほしいと始まった。熱く、茶色く澄んだコーヒーを飲みながら、棋士たちの強さと清さを、そしてそんな彼らに魅了された著者の、心の震えを思った。(京都 ホホホ座(元ガケ書房) うめのたかしさん)

<サンデー毎日 2015年7月5日号より>

最新写真特集