韓国教育省は、2017年から中学と高校の歴史の授業に国定教科書を使うことを決めた、と発表した。

 現行の検定制の歴史教科書の中には事実関係の誤りや、北朝鮮に融和的な記述もあるとしており、国定教科書にすることでそうした問題を解消し、「国民統合をはかる」と説明する。

 しかし、民主化して30年近くたつ韓国は、多様な価値観が存在する先進国である。いまごろなぜ、歴史教科書のみを国定化せねばならないのか、理解に苦しむ。

 韓国政府内にも反対意見はあったが、朴槿恵(パククネ)大統領の強い意向によって決まったと伝えられる。多くの意見をとりいれるとの趣旨で、国史編纂(へんさん)委員会で中身を詰めるという。

 だが、野党や学生、市民団体などが強く反発しており、社会に動揺が広がっている。

 主要大学の歴史学研究者らは早々と、執筆陣に加わることを拒否すると宣言したほか、保守系メディアの中からも多様性を守るべきだとして慎重意見や反対論が相次いでいる。

 朴氏は大統領府での会議で「歴史教育は、決して政争や理念の対立によって国民や学生を分裂させてはいけない」と述べた。だが、対立の最大の原因となっているのは、ほかならぬ国定化の一方的な通告だ。

 韓国では朴大統領の父で、軍事独裁政権を率いた故・朴正熙大統領時代の1974年に教科書が国定化された。80年代の民主化後にやっと徐々に検定制の採用が始まり、全面的に検定教科書が使われ出したのは、わずか4年前のことだ。

 現行教科書には軍事独裁に批判的な記述も少なくない。国定化に反対する人々が「最大の狙いは父親の名誉回復だ」と非難を強めるのはそのためだ。

 国定教科書の略称は「正しい歴史教科書」にするというが、そもそも誰が何をどう正しいと判断するのか。

 朴氏は日本に対しても繰り返し「正しい歴史認識」の重要性を強調してきた。確かにどの国であれ、過去の負の事実から目を背けたり、政治の思惑で史実を曲げたりするべきではない。だが、まるで朴氏の主張だけが正しいかのような姿勢は、日本側に失望感を生んでいる。

 韓国の民主化は、多くの流血の末に市民が勝ち取った。多様な意見が共存してこその民主国家である。

 時計の針を逆戻りさせるかのような時代遅れの措置は、国民統合どころか、社会に不信感を広げるだけだ。