(2015年10月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

ダイムラーのハンバッハ工場(スマートヴィル)の生産ライン(写真:Daimler)

 フランス北東部ロレーヌ地方の森林に覆われた一角で、ある自動車工場が、フランスの労働組合は一夜にしてドイツになることができないということに気づきつつある。

 ハンバッハにある独ダイムラーの自動車工場で週35時間労働を延長する計画は、2人の労組代表が、たとえ大半の従業員が支持したとしても計画を阻止すると述べたことで、行き詰った。交渉は労働者を分裂させ、労使関係を緊張させた。

 労使関係は、人事担当幹部が怒った従業員たちに背中側からシャツを破り取られるほどには悪化しないかもしれない。航空大手エールフランスでは10月初旬、現にそんなことが起き、醜悪な光景が世界中に飛び交うことになった。

 エールフランスとは異なり、小型車「スマート」を生産するダイムラーの工場は利益を出しており、差し迫った人員削減のリスクはない。

 だが、今回の一件は、自社の運命を自ら決め、フランスの画一的な労働法体系から逸脱する自由を企業にもっと与えることで国の労働市場を改革しようとするフランソワ・オランド大統領が直面する困難を浮き彫りにする。

フランスの労働市場改革の前に立ちはばかる壁

 「これが我々の実態だ。自分の意思に反して、デモを行っている」。「スマートビル」と呼ばれるハンバッハ工場の人事部門トップを務め、労組との交渉の先頭に立つフィリップ・ステイエー氏はこう語る。「我々は地元の解決策を探そうとしている。だが、いま見て取れるのは、パリにいる数人の労組代表がこの協定を阻止するか否かを決定する、という状況だ」

 来年に向けて計画され、雇用増加を目指すオランド氏の改革法案は、フランスをドイツモデルに近づけることになる。その背景には、フランスのエマニュエル・マクロン経済相をはじめとした政治家やエコノミストらが不可侵とされる週35時間労働を批判していることがある。1998年に社会党政権のリオネル・ジョスパン首相によって導入された同制度は、現在、硬直性の原因として広く認識されている。

 だが、中央集権と国家干渉の伝統や労組の加入者減少、そして企業の団体交渉を年次昇給という狭い問題に限定する習慣は、まだ強力な障害となっている。法律事務所ファルトゥア・アセリノ&アソシエの弁護士、オリビエ・バラ氏は「フランスの労使関係は妥協に向いていない。あらゆる逆風を考えると、この改革が実を結ぶかどうか定かでない」と言う。