Kuina-chan

くいなちゃんOct 12, 2015


数学とは、「正しい」とするいくつかの前提から出発して、「正しい」と言えるものを論理的に導出していく学問です。 様々な問題に対して、その答えが「正しい」ことが説明できるように一緒に学んでいきましょう!

第1期(全13話)では、数学の基本的な構造から始まり、応用しやすい実用的な数学を解説します。 第2期以降は、第1期で解説した概念を一般化したり深く踏み込んで、幅広い視点で数学が扱えるようにしていきます。

公理と定理と証明

先ほど「数学とは正しいとするいくつかの前提から出発する」と言いましたが、これらのあらかじめ決めておいた正しい前提のことを「公理」といいます。 数学では公理の他にもいくつかのルールが定義され、公理とこれらのルールを使って次々と正しいことを導出していきます。
新しく導出された正しいことを、公理と合わせて「定理」と呼び、定理を導出する過程のことを「証明」といいます(図1-1)。
公理と定理と証明

公理と定理と証明

別の見方をすると、数学の問題を解くこととは、今までに導出された定理を使って、いかにその問題の答えが定理になるかという証明を見つける作業になります。

命題と論理式

「1+1=2である」「2+2=5である」のような、定理であるかどうかを判断しうる対象のことを「命題」といいます。
命題の扱い方にはいくつかの方法がありますが、ここでは解りやすく「定理ならば真、定理でないならば偽」となる論理式で命題を表すことにします。 例えば、「1+1=2である」という命題が定理であれば、「1+1=2である」は「真」となります。 「2+2=5である」という命題が定理にならなければ、「2+2=5である」は「偽」です。
このとき、ある命題たちを「p」「q」などの文字で表すことにすると、「pならばq」や「pかつq」のように、これらを組み合わせて新しい命題を作ることができます。 例えば、pが「1+1=2である」という命題で、qが「2+2=5である」という命題であれば、「pまたはq」とは、「1+1=2である、または、2+2=5である」という命題を意味します。 通常、「または」は「∨」の記号、「かつ」は「∧」の記号で表し、「p∨q」「p∧q」のように書きます。
「∨」「∧」の厳密な値は表2-1の通りです。

∨∧の値

p q p∨q p∧q
「1+1=2」が真、つまり定理であり、「2+2=5」が偽、つまり定理でないとき、「(1+1=2)∨(2+2=5)」は真で定理となり、「(1+1=2)∧(2+2=5)」は偽で定理でないことになります。

否定と排中律と矛盾

「1+1=2である」という命題に対し、「1+1=2ではない」という否定の命題を考えることができますが、これを表すのが「¬」の記号です。 命題pに対し「pではない」ことを「¬p」と書き、そのときの値は表3-1のようになります。

¬の値

p ¬p
この表から、どんな命題であっても「p」か「¬p」のどちらかが真、つまり定理になることが解ります。 このように「pも¬pも定理にならないような命題は存在しない」ことを「排中律」といいます。
また、「pも¬pも定理である」ことを「矛盾」と言います。 この表から、矛盾する命題は存在しないことも解ります。

その他の論理演算

その他の記号として、「pならばq」を意味する「p⇒q」や、「pのとき、かつそのときに限ってq」を意味する「p⇔q」があります(表4-1)。

⇒⇔の値

p q p⇒q p⇔q
注意が必要なのは、前提が偽の場合です。 例えば、「p⇒q」のpが偽の場合、qが真でも偽でも、「p⇒q」は真になります。
「くいなちゃんは数学の記事を決して書かない」という命題が偽で、「くいなちゃんは1兆円を手にできる」という命題も偽であるとき、「くいなちゃんは数学の記事を決して書かない、ならば、くいなちゃんは1兆円を手にできる」が真となるのは、直感に反しているように感じるかもしれません。 しかし数学の「ならば」とは、日本語の「ならば」のように因果関係を表すものではなく、条件を表すものです。 つまり「くいなちゃんは数学の記事を決して書かない」という条件が決して満たされることのない場合、「くいなちゃんは1兆円を手にできる」と主張しても何ら差し支えがないわけです。
また、値から解る通り、「p⇒q」は「(¬p)∨q」と等しく、「p⇔q」は「p⇒q∧q⇒p」と等しいです。

命題関数

外から値を受け取って初めて命題になるものを「命題関数」といいます。 例えば「a+b=2である」という記述に対し、aに1、bに3を代入すると「1+3=2である」という命題になるような場合、「a+b=2である」は命題関数です。
命題関数には「1」「3」などの具体的な値の他に、「すべての値」や「ある値」を入れることができます。 これらは「x」「y」などの文字の前に「∀」「∃」の記号を付けることで表されます。 例えば「a=1である」という命題関数に対し、∀xで囲んでaにxを代入し「∀x(x=1である)」のように書くと、「どのような値xに対してもx=1である」という命題を表します。 同様に、∃xで囲んでaにxを代入し「∃x(x=1である)」のように書くと、「x=1であるようなある値xが存在する」という命題になります。
また例えば、「a+b=2」という命題関数があり、aとbに1を入れた「1+1=2」は真で、aに1をbに3を入れた「1+3=2」は偽であるとしましょう。 このとき、すべてのa、bに対して「a+b=2」が真になるわけではないので「∀x(∀y(x+y=2))」は偽となります。 また、「a+b=2」が真になるようなa、bは少なくとも存在していますので「∃x(∃y(x+y=2))」は真となります。

トートロジー

以上、「命題」と「∨∧¬⇒⇔」の記号と「命題関数」と「∀∃」の記号を使うことで、様々な命題を表すことができることを説明しました。
ここまでは「論理式が真ならば定理であり、偽ならば定理ではない」という方法で命題を扱ってきましたが、このほかにも命題を扱う方法があります。 その一つが「トートロジー」を用いる方法です。
トートロジーとは、「p⇒(p∨q)」のように、pやqなどがどのような値であっても常に真となるような論理式のことです(表6-1)。

トートロジー

p q p⇒(p∨q)
そして、「論理式がトートロジーならば定理であり、トートロジーでなければ定理ではない」と決めておくと、なんと先ほどまでと同様に命題を扱うことができます。
先ほどの方法と比べて、命題の意味から切り離された抽象的な扱いが可能とされているため、論理学的な視点ではトートロジーの方法がよく使われます。 しかし実現できることには大差ないため、通常は真偽の方法で命題を扱って問題ありません。

直観主義論理

最後に、「直観主義論理」と呼ばれる、これまでとは異なる考え方を簡単に紹介しておきます。
これまでは、命題pと¬pがあったときに少なくとも一方は定理であるとする「排中律」を前提としていましたが、直観主義論理ではこの排中律を否定します。 つまり、「くいなちゃんは寿司が好きかどうかは判らないが、くいなちゃんは寿司が好きか好きでないかのどちらかだ」とこれまでの論理では言えましたが、直観主義論理ではこれすらも懐疑し、「くいなちゃんは寿司が好きか好きでないかのどちらかである、かどうかも判らない」となります。 証明できるかどうかの可能性を考慮します。
排中律を否定すると多くの定理が証明できなくなってしまうため、現在の数学では直観主義論理は主流となっていませんが、このような考え方もあることを頭の片隅に留めておくと良いでしょう。
今回は、数学の基本的なルールを説明しました。 次回は実際に、具体的な公理から定理を証明してみましょう!

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