春画はわいせつ物か芸術か…文春編集長の休養“処分”に波紋
産経新聞 10月18日(日)8時33分配信
男女の性風俗を描いた江戸時代の浮世絵「春画(しゅんが)」に関する記事掲載をめぐり、週刊文春を発行する文芸春秋(東京都千代田区)の取った対応に波紋が広がっている。同社は今月8日、「配慮を欠いた」として週刊文春の新谷学編集長(51)を3カ月間、休養させたことを明らかにした。男女の局部などを描写した春画を「わいせつ物」ととらえた形だが、芸術愛好家らには「ただのポルノグラフィと違い、芸術性が高い」とみる向きも強い。春画はわいせつ物か芸術か。ブーム到来中の今、議論が白熱している。
■広告にクレーム
週刊文春10月8日号(1日発売)では、「空前のブーム到来」などの見出しを付け、巻末グラビア面で葛飾北斎らの春画3点を見開きで計6ページにわたり取り上げ、画像付きの記事を掲載した。
その後、文芸春秋は新谷編集長に休養を取らせる対応を取った。同社広報部は「編集上の配慮を欠いた点があり、読者の信頼を裏切ることになったと判断した。週刊文春編集長には3カ月の間休養し、読者の視線に立って週刊文春を見直し、今後の編集に活かしてもらうこととした」とコメントした。
なぜこうした対応を取ることになったのか。担当者は「外部からの要請に応えた対応ではなく、あくまで社内での判断によるもの」と説明する。しかし、同社がインターネットに掲載している編集長ブログでは1日、新谷編集長名で「電車内の中吊り広告にクレームが入った。詳細はあえて触れないが、一部路線では広告の春画の部分が黒く塗りつぶされている」と内情を明かしていた。
■展覧会が盛況
週刊文春が取り上げたのは、都内で現在、国内で初めて本格的に春画を扱った展覧会が開催され、注目を集めていることだった。
春画をめぐっては2013年から14年にかけてイギリスの大英博物館で展覧会が開催され、9万人を動員したという。国内ではこれまで本格的な展覧会がなかったが、鎌倉時代から続く戦国大名・細川家の財産を管理する「永青文庫」の協力で実現し、今年9月にスタートした。国内外から集めた鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿など著名な浮世絵画家の春画133点が展示され、9月の大型連休中(19〜23日)には1万4千人以上が詰めかけるなど盛況だという。
春画展にはクレームが寄せられているのだろうか。広報担当者によると10月15日現在、春画を展示すること自体についてクレームは一切ないという。
本格的な春画の展示会は前例がなかったことから、主催者側は警察当局を含めた関係各所と事前に打ち合わせを行った。その結果、東京都青少年健全育成条例に配慮し、18歳未満を入場禁止にすることにしたという。
担当者は「春画は『わいせつ物』に当たらないと認識している。前例として書籍化されたり、一部で展示されたりしているが、問題になったとは聞いていない。短絡的にポルノグラフィと同一視すべきではない」と説明する。
永青文庫理事長、細川護煕元首相も「春画は日本文化の歴史に間違いなくあり、最高の美術品。実行委の春画展日本開催への情熱と意義に応え、協力したいと考えた」と公式サイトでコメントしている。
関係者によると、春画は20、30代の若い世代にも認知が広がっているという。人気歌手の宇多田ヒカルさんが今年5月、簡易投稿サイト「ツイッター」で春画を評価する内容を投稿したのがきっかけだ。
宇多田さんは「大英博物館で開かれた春画展が、肝心の日本で結局開かれなかったことを知ってびっくり。当時の日本人を身近に感じられてすごく面白かったし、歴史の勉強にもなったので残念」とつぶいやいていた。
■自主規制の問題?
芸術作品がわいせつ物にあたるかどうかはこれまでもたびたび問題になっている。
名古屋市東区の愛知県美術館では昨年8月に開かれた企画展で、男性ヌードを撮影することで知られる写真家の作品50点を展示していた。美術館側は「一部作品が不快な印象を与える可能性もある」という注意書きを掲示した上、カーテンで仕切るなどの配慮をしたが、愛知県警から作品のうち局部が映っている12点の撤去を指示された。
これに対し、美術館側は写真に布をかけたり、紙を張ったりするなどして直接見えないようにする対策を提案し、県警側も納得したという。
また、昨年7月には、自分の女性器と同じ形をしたものを3Dプリンターで複製できる立体データを他人に提供したとして、わいせつ電磁的記録頒布の罪などでペンネーム「ろくでなし子」の漫画家、五十嵐恵被告(43)が逮捕、起訴された。五十嵐被告は「私の作品はわいせつではない」と起訴内容を否認しており、東京地裁で現在公判が進められている。
春画に対する評価というのは時代とともに変わってきた。浮世絵全盛期の江戸時代には「風紀を乱す」として幕府の規制を受けた。以後、研究目的でも修正が必要とされるなど自主規制が続いてきたが、平成3年に学習研究社が無修正の画集を刊行して以降、事実上の“解禁”となった経緯がある。
甲南大学法科大学院の園田寿教授(刑法)は「時代によって、あるいは解釈によってわいせつの観念は変わる。必要以上に表現の自由が制限されないよう当局側の判断について、事後的にでも検証し続けることが求められる」と話した。
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