うつを発症する前の幸せな記憶を人工的に再活性化することにより、うつの症状を治せる可能性があると分かった。
楽しい経験の後でうつになると?
日本でも既に広く紹介されているが、研究報告は、理研MIT神経回路遺伝学研究センターの利根川進氏らの研究グループが、有力科学誌ネイチャー誌で2015年6月18日に行ったもの。
研究グループは、過去の記憶を再活性化する手法によって、うつを治療できるかについて検証した。
ネズミの動物実験で、オスをメスと過ごす楽しい経験をさせた。その間、脳の中でも記憶に関係する「海馬」と呼ばれる場所で、楽しい記憶の痕跡を書き留めている神経を処理して、光を受けると活発になるタンパク質と組み合わせるようにした。
その後、オスのネズミに慢性ストレスを与えることで、うつのような症状を引き起こした。その結果、オスのネズミは困難な状況に直面するとすぐにあきらめたり、通常は楽しめる活動を楽しく感じなかったり、という人間のうつの症状を示した。
記憶を蘇らせる
楽しい記憶を思い出すと、そのうつ症状が回復するという結果になった。
過去の楽しい記憶を書き留めていたニューロンに光を当てて刺激すると、うつになったことのないマウスのように行動を始めた。
さらに、楽しい記憶を持つ細胞を5日間にわたって1日に2回、15分間再活性化すると、長い効果が見られるとも分かった。
病気にも使えるか
この研究により、うつのような重い病気のメカニズムを理解できるだけではなく、治療法が明らかになる可能性もあると見られている。
利根川氏のグループは光遺伝学を応用した脳の研究を継続的に進めている(懐かしいにおいや子どもの顔…思いがけず記憶が蘇るのはなぜか、利根川進氏らが新発見を参照)。今後も新しい発見はありそうだ。
文献情報
Recalling happier memories can reverse depression
http://newsoffice.mit.edu/2015/recalling-happier-memories-reverse-depression-0617