2022年度に始まる予定の高校の新しい学習指導要領で、「歴史総合」(仮称)が必修科目として登場する。

 その中身を具体化する議論が中央教育審議会で来月、始まる。知識の暗記を超え、歴史を複眼思考でとらえる内容にしてもらいたい。

 「歴史総合」は「世界史」と「日本史」を一つにし、近現代史を中心に学ぶ科目だ。

 いまは「世界史」が必修になっている。「日本史」の必修を求める声が自民党から出ていたが、二者択一ではなく統合する形にした。

 グローバル化が進むなか、日本と世界の歴史を関連づけながら学ぶ意味は大きい。特に近現代史は重要だろう。それは主に戦争を含む歴史であり、現在の問題に直結するからだ。

 日本と中国、韓国の間では、南京事件や慰安婦などをめぐる歴史認識の違いが問題になってきた。なぜ対立するかを理解し、解決策を考えるには、記録や資料をふまえ、論点をつかむことが欠かせない。

 歴史教育全体も見直したい。

 これまでの授業は、年号や用語などの暗記が中心だった。古代から順に学習するため、近現代史は足早に通過しがちでもあった。それらを改め、自ら調べる学習を充実させ、課題を論じる授業を広げてもらいたい。

 心配な点もある。

 まず、先生の教える自由がどこまで保障されるかだ。

 先生が自らの主張を教え込む授業では困る。一方で、偏っているとの批判を恐れ、及び腰になっては元も子もない。

 論争的なテーマの授業を試行錯誤できるよう、教育委員会も保護者も見守ってほしい。

 教科書のありかたも問題だ。

 文部科学省は教科書の編集の指針を改め、領土問題で日本政府の考えを書くよう求めた。

 検定基準も戦後補償など政府の見解があるときは、それに基づく記述を入れるよう定めた。

 その結果、中学校の教科書の領土の記述は政府見解をなぞるだけで、相手国の主張まで扱った本はほとんどなかった。

 慰安婦など論争的な主題を扱うのに消極的な傾向も見える。これでは多様な考えを学ぶ授業は難しい。

 安倍首相は戦後70年の談話で「謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります」と述べた。

 それを実現するカギを握る一つが歴史教育だ。価値観の違う人々と次の世界をつくる世代をどう育てていくか。中教審の議論に注目したい。