個人や企業が決められた税金を納める。国や自治体は、税金を使って必要な行政サービスを提供する。これが税・予算制度の基本的な仕組みである。

 支払った税金が国などに届かず、誰かが懐に入れる事態がまかり通るようでは、行政システムは成り立たない。税金を実際に負担する人と、税務署への納税事務を担う人が異なる間接税については、とりわけ目を光らせる必要がある。

 代表的な間接税である消費税に関して、10%への増税後も食料品などの税率を現行の8%にとどめる軽減税率の導入を政府・与党が検討し始めた。実務上の課題として、業者間の取引にインボイスを導入するかどうかが争点になっている。

 インボイスとは、取引するモノやサービスごとに、適用される消費税率と税額を記した明細書だ。消費税率が二本立てになれば、きちんとした納税を促すためにインボイスが不可欠とされる。軽減税率を実施済みの欧州各国では、インボイスがやりとりされている。

 ところが、「事務負担が増す」との理由から、日本の経済界では中小業者を中心にインボイスへの反対が強い。自民党の中に軽減税率への消極論が根強く残るのも、理由はもっぱらインボイス問題だ。

 軽減税率を導入するなら、インボイスは欠かせない。

 ある業者が原料を仕入れ、製品に加工して販売した、としよう。業者は原料の仕入れ時に消費税を支払い、製品の販売時には消費税を受け取って、その差額を税務署に納める。消費者が支払った税金を事業者が取引段階に応じて分担して納税するのが消費税の仕組みだ。

 例えば、消費者は基本税率分の消費税を支払ったのに、業者が軽減税率の取引だと偽れば、業者の手元に税金の一部が残る。こうした不正を防ぐための道具がインボイスである。

 軽減税率を主張してきた公明党は、業者の事務負担を軽くするために、既存の伝票類を生かして軽減税率の取引に印をつける「簡易型」インボイスを提唱している。が、こうした方法でしっかりチェックできるのかどうか、心もとない。

 消費税には、納税額の計算を簡単にする簡易課税制度や、売り上げが一定額以下の業者は納税しなくてよい免税点制度があり、消費者が支払った税金が業者の手元にとどまる「益税」問題がかねて指摘されてきた。

 軽減税率の導入で不透明・不公正さを増すような制度設計は許されない。