映画・アイカツ!ミュージックアワード公開を記念して、公式での3rdシーズン無料配信が始まりました。
http://www.aikatsu.net/story/haishin.html
(追記:108話の公開期間は終了しています)
7/20(月)から2週間の間、102~111話の10話を無料公開しているようです。そこから2週間刻みで10話ずつ公開していくってことなんでしょうかね。
そういうわけで111話まで観たんですけど、108話の「想いはリンゴにこめて」がたいへん素晴らしく感動したので、どう素晴らしいのかについてレビューしてみたいと思います。
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アイカツ!108話「想いはリンゴにこめて」
脚本:平見瞠 絵コンテ・演出:佐藤照雄 作画監督:松岡謙治、前澤弘美
挿入歌「タルト・タタン」作詞:只野菜摘 作編曲:Narasaki 歌:もな from AIKATSU☆STARS!
15/7/30追記しました。
14/9/11あらすじの項を削除し、タルト・タタン等について追記しました。
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スミレがリンゴに込めた三つの想い
この108話では、リンゴが主要なモチーフとして登場しますが、サブタイトルにあるリンゴにこめた想いとは一体どのような想いなのでしょうか。私は、このエピソードのリンゴ、特にスミレの作る焼きリンゴには、スミレの三つの想いがこめられていると考えます。
1.ロリゴシックというブランドに対する理解
2.ロリゴシックにまつわる姉との思い出の結晶
3.ユリカという「白雪姫」と対峙するための、小道具としての毒リンゴ
の三つです。それぞれについて解説していきます。
1について。
スミレはCMの撮影現場において、ロリゴシックというブランドの持つダークなイメージと白雪姫という童話の残酷さがよくマッチすることを指摘します。この指摘に対して、ユリカは「あなたなかなか鋭いわね」とスミレを評価します。
ここで評価された「ロリゴシックの持つダークさ」という部分にスミレは着目し、きっと新作ドレスにもダークさ、言い換えるならば「毒」がこめられているだろうと考え、きっと新作ドレスにもリンゴがついているはずと思うに至り、焼きリンゴを手土産に持っていくこととするのでした。
そして、魔夜の部屋にて新作ドレスと対面した時に、スミレは「ついてる!リンゴ!」と喜びをあらわにします。これは、自分のロリゴシックに対する理解が正しかったことによる喜びの発露でしょう。
2について。
氷上スミレというキャラクターは、姉の氷上あずさと強く結びついているキャラクターです。いいこと占いも姉の影響、スミレがスターライト学園に入学したのも姉の薦めによりますし、ロリゴシックをスミレが好むのも姉との結びつきゆえです。
この108話において、スミレがロリゴシックに関するクイズを解く際、スミレはユリカの写るポスターを見ながらも、記憶を占めるのは姉との思い出でした。「ゴスマジックコーデ」で思い出すのはそれを真似て母が縫ってくれたドレスを着た姉の姿ですし、「ブリティッシュコーデ」で思い出すのは、母が似せて縫ってくれたドレスを着た自分への、姉の「すっごく可愛い」という賞賛でした。ロリゴシックへの愛着は姉によってスミレにもたらされ、姉とともに育まれていったものでした。スミレはそのロリゴシックへの想いを、姉が作ってくれた「焼きリンゴ」というかたちで表そうとします。この焼きリンゴは、ロリゴシックと姉、双方への愛の結晶といえるものでしょう。
3について。
最終的にはスミレが着ることとなる「スノープリンセスコーデ」ですが、これはもともとは魔夜がユリカのために作ったドレスでした。CM撮影の際に魔夜がユリカへと送ったメールから、このドレスがユリカのために作られたものであることは明らかです。
「ユリカに似合いそうな 新作ドレスが出来たよ 見て欲しいんだけど忙しいかな?」
魔夜は、ユリカを白雪姫に見立てて、ユリカに似合うように「スノープリンセスコーデ」を作ったものと思われます。
ユリカが白雪姫なのだとすると、108話においてスミレの役回りとは一体何なのでしょうか。もう一人の白雪姫でしょうか? 実はそれは、「女王」です。毒リンゴを白雪姫に食べさせて、世界で一番の美女となろうとする女王として108話のスミレは描かれているのです。
それを最も端的に示すのは、スミレが鏡に問いかけられる試練に直面するシーンです。
魔夜の部屋へ入る手前で、鏡の向こうから「鏡よ鏡、世界で一番ロリゴシックのドレスが好きなのはだあれ?」と問いかけられた時に、スミレは鏡の中にユリカの姿を見ます。これは童話の白雪姫において「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」と女王が問いかけた時に、鏡が白雪姫の姿を映すことと対応しています。この対応を念頭におけば、スミレが鏡の中にユリカを見ることは、女王が鏡の中に白雪姫を見ることとの対応であるということになり、すなわちスミレ=女王、ユリカ=白雪姫の図式がここに描かれているということになります。
スミレは白雪姫であるユリカを鏡の中に見て、そして「確かに、今は藤堂先輩には敵わないかもしれない。でも、それでも。いつかはきっと!」と鏡へ向けて語ります。この「いつかはきっと」は、『タルト・タタン』の最後の台詞でもあり、非常に印象的な台詞なのですが、これを童話の白雪姫の観点から解釈すれば、毒リンゴを用いて白雪姫を殺し、自分が世界一美しい存在となろうとする宣言であるという風にとることができます。もちろんスミレは実際にユリカを消そうとしているわけではなく、いつかはきっとユリカよりも深くロリゴシックを愛せるようになる、という決意表明にすぎないのですが。
さて、鏡の先の魔夜の部屋で、魔夜は「実はそのリンゴ、つけるかどうか最後まで迷ったんだ。だって物語の中では、白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ」と語りますが、これを聞いたユリカは、はっと息を呑み、何かに気づいたような表情を見せます。
ここでユリカが気づいたこととは一体何だったのでしょうか。
ユリカは魔夜の発言を受けて、魔夜の言う「白雪姫」がユリカ自身のことであること、そして「リンゴをつけるかどうか最後まで迷った」という発言が、「ユリカとスミレのどちらにドレスを渡すべきか迷っている」ことの暗喩的な表現であることに思い至ったのだと考えられます。ユリカを新しいプレミアムドレスを得られないという「危機」に陥れてしまう効力が「毒リンゴ」には備わっている。それゆえに魔夜は最後まで迷っている――という婉曲的な魔夜の言い回しをユリカは理解し、わずかな驚きを表情にこぼします。
そのユリカの表情の変化を見て、スミレも同様に魔夜の暗喩へと気が付き、表情を曇らせます。ついてる!と無邪気にはしゃいで喜んだ「リンゴ」の裏に在った意味を知って、スミレの内心は恥ずかしさとユリカに対する申し訳無さでいっぱいになってしまったことでしょう。
そこで、そんなスミレの表情を見たユリカは、その曇った表情を打ち消すように優しく微笑みかけながらこう問いかけます。「氷上はどう思う?」
そのユリカの微笑みに背を押されて、スミレは「変じゃありません!」とドレスのリンゴを力強く肯定します。ロリゴシックへの愛について、今は及ばないユリカという白雪姫をいつか上回ってゆくために、スミレにはプレミアムドレスが必要であり、それを得るための毒リンゴが必要なのでした。
そして、勢い良くテーブルへと近づき、皿に焼きリンゴを盛りつけ、魔夜に、そしてユリカに「リンゴ」を食べさせようとします。これは「白雪姫」に毒リンゴを食べさせようとする「女王」の行動をなぞるものです。魔夜がイメージする白雪姫の世界ではユリカこそが白雪姫であることを踏まえた上で、スミレは、「焼きリンゴ」という小道具をユリカたちに供することによって、白雪姫の「女王」として振る舞おうとしていたのでした。
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ユリカは屋敷の前で、ロリゴシックのプレミアムドレスを着る者の条件を「このブランドを愛し、理解し、その世界の住人になれる者」と提示します。
それに応えるように、スミレは焼きリンゴにその全ての想いをこめています。
「愛」は、スミレにとってはロリゴシックへの愛は姉への愛と深く重なるものであり、その姉から教わった焼きリンゴをつくることによってロリゴシックへの愛をも表現しています。
「理解」は、ロリゴシックの作風を理解していることを、白雪姫における「リンゴ」という少し残酷すぎるようなモチーフを敢えて手土産に持って行くことによって表現しています。
「世界の住人」は、ユリカこそが魔夜にとっての白雪姫であるという魔夜の創作の文脈を読み取り、自身が魔夜の白雪姫における女王となるべく、ユリカに焼きリンゴを食べさせようとするお芝居をすることによって表現しています。
スミレが全ての条件を満たす存在として振る舞ったことに満足したユリカは、魔夜にプレミアムドレスをスミレへ渡すよう促します。それを受けて魔夜がユリカへ贈る「ユリカはいい先輩になったね」という賞賛。この台詞によって、いかにユリカがスミレをいかに丁寧に時に厳しく、時に優しく導いてきたかが思い出されます。
スミレの愛を伝える手段が焼きリンゴというかたちを取ったのは、ユリカが魔夜は甘いモノが好きと教えたからですし、スミレがドレスにリンゴがついてると確信できたのも、スミレのロリゴシックに対する理解をユリカが「鋭い」と認めたからです。最後のスミレのお芝居も、当惑するスミレに対しユリカが微笑みかけて「氷上はどう思う?」と促したおかげでできたことだったでしょう。
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ここは憶測が大いに混じりますが、ユリカは訪問前日、スミレに同伴の許可を与えた後に、魔夜に対してスミレという新しい後輩に新作プレミアムドレスを譲りたい旨とそれに対する謝罪を伝えていたものと考えられます。
「スノープリンセスコーデ」は魔夜がユリカのイメージに合うよう、ユリカのために作ったコーデでした。それはユリカがドレス制作の進捗をある程度把握していたことや、ドレスのモチーフが白雪姫であることを発表に先んじて知っていたことからも伺えます。二人で時間をかけて作り上げてきたドレスだったのでしょう。そしてそのドレスを後輩に譲ろうとするということが、魔夜に対してどれほど失礼なことであるかを理解できないユリカではありません。
ユリカは魔夜に無理を言ってドレスのスミレへの譲渡を申し出たわけで、だからこそ、魔夜に言われた「いい先輩になったね」という言葉がユリカには深く響いたことでしょう。これは魔夜による、ユリカの下した選択に対する赦しであり、祝福でもあります。この言葉を聞いた時、ただその時だけは、ユリカの表情が吸血鬼の顔でもなく、先輩の顔でもなく、ただロリゴシックと魔夜を敬愛するひとりの少女の顔になるのでした。
スミレの強い想いがユリカの導きによって、リンゴを介して伝わる――
ユリカの先輩としての素晴らしさ、そしてスミレの想いの強さが、技巧に富んだ脚本と繊細な演出を通じて伝わってくるこの108話。間違いなくアイカツ!を代表する名エピソードのひとつといえるでしょう。
その他細部
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このエピソードは20話「ヴァンパイア・スキャンダル」と、89話「あこがれは永遠に」を踏まえた内容になっていますので、その2話を見返してから観るとまた一段と面白く観ることができると思います。
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ユリカ=白雪姫、スミレ=女王として捉えると、序盤のスミレによるにんにくラーメンの差し入れもまた、『女王が白雪姫に毒リンゴを食べさせる』ことのメタファーであると捉えることができます。吸血鬼のユリカにとってにんにくが毒であるともいえますし、20話「ヴァンパイア・スキャンダル」において、ユリカにんにくラーメンの出前を受け取っている写真がスキャンダルとして週刊誌に載ったことを踏まえれば、ユリカにとってにんにくラーメンが強い毒として機能するということになります。
(20話のスキャンダル記事。この記事は89話でも言及される)
しかしかつて20話でユリカを苦しめたこの「毒リンゴ」を、ユリカは髪をおろし、素のユリカへとキャラをパッと切り替えて平らげてしまいます。この素のキャラをためらいなく見せるユリカからは、89話で知り合った少女に素の姿を見せて勇気を与えたエピソードが思い出されます。
89話のCMの撮影でユリカがロリゴシックとハッピーレインボーの二つのドレスを巧みに着こなしていたことに象徴されていたように、ユリカは吸血鬼と素の少女の異なるキャラクターを行き来しながら、どちらもきちんとユリカであるという風に振る舞うことが可能となっています。
成長したユリカのもつこの強さが、スミレに新作のプレミアムドレスを譲る余裕の下地になっているのでしょう。20話の時はスキャンダルをはねのけるためにプレミアムドレスがどうしても必要なほど弱かったユリカが、89話では自分から素の姿をさらすことができるほど強くなり、そして108話ではにんにくラーメンという毒リンゴを平気に平らげることができるようになりました。このことによって、魔夜の言うところの「白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ」さえも今のユリカなら平らげてしまうことができる、つまり、後輩にドレスを譲って自身がプレミアムドレスが得られなくても大丈夫である、ということが示されているのです。
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魔夜の館でスミレたちの前に立ちはだかる試練たちは白雪姫をモチーフにしたものが多いですが、それらの内実は20話の時にユリカの前に立ちはだかったものと似通っています。急に現れて驚かせてくるネコ、老婆を羽交い締めにする仲間、驚かせる役のアルバイトが実はアイドルファン、壁の向こうからのマイクを使った試練、という要素が共通しています。
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『タルト・タタン』のステージの最後、鏡が割れる描写があります。白雪姫のヴァリエーションのひとつに、物語の最後に鏡が割れて女王が死んでしまう、というものがあります。108話のスミレが白雪姫における女王であることからすれば、これもまたロリゴシックらしい、ダークな表現というふうに見ることも可能かもしれません。が、103話のステージなどと比較するとその解釈はちょっと違うかな、という感じがします。
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『タルト・タタン』は103話→108話→117話と3つのステージで用いられる曲で、その3つのステージでそれぞれ表現が異なっています。主に着目したいのは「反転」です。ごちゃごちゃテキストを観てもピンと来ないかもなので、比較動画を貼っておきます。これを観ながら読んでもらえるとわかりやすいと思います。
103話
初め:向かって左にリボン。
スペシャルアピール後:衣装が反転。ダンスの振り付けも反転。
鏡に触れる:衣装も振りも戻る。
最後:鏡が割れる。
108話
初め:向かって右側にアップルクラウン。
スペシャルアピール後:衣装が反転。ダンスは反転しない。
鏡に触れる:衣装が戻る。触れるときにウインクする。
最後:鏡が割れる。
117話
初め:向かって右側に帽子、衣装の右側にリボン。
今まで木の影に隠して見せなかった「読み取れない万華鏡」の振りをきっちり見せる。
スペシャルアピール後:衣装、ダンス共に変化なし。
「彼は私を」のところで、180度転回し、鏡に向かって踊り始める。
「好きになる~」のところで、カメラが鏡に映るすみれの瞳にズーム。
→瞳がフェードしていき、反転した衣装をまとったスミレが映る。ダンスは反転せず。
鏡に触れる:衣装が戻る。これまでとは違い、鏡の中の自分を見るのではなく、鏡の横からスミレを撮っているカメラに目線をやっている。
最後:カメラが鏡の裏側に回りこみ鏡を映すと、あたかも鏡が透明な硝子になったようにスミレを映す(衣装も振りも反転せず)。
背景には合わせ鏡がスミレを挟んでいると思しき光景が映される。
・103話verと108話verの差
103話と108話の主な違いは、103話はスペシャルアピールの後に衣装と一緒にダンスの振付も反転してしまうが、108話は衣装だけが反転してダンスは反転しない、というものです。衣装が反転していることから、これらのスペシャルアピール後のシーンでは「鏡に映ったスミレ」を映しているのだと思われますが、その場合ダンスも反転している方が自然なはずです。つまり、103話ではスミレは普通に踊っていて、それが鏡に映ったものをカメラが写しとっているが、108話では、スミレはスペシャルアピール後、敢えて左右逆の振り付けで踊っているということになります。これは何を意味しているのでしょうか。
これは、スミレがカメラが何を写しているかを理解し、それに合わせて動きを変えられるようになった、ということを意味しているのではないでしょうか。
・108話verと117話verの差
117話ではほとんどのカットでカメラの位置が変更されています。最も特徴的なのは「読み取れない万華鏡」の振りが今まで見えないように物陰で隠していたのが見えるようになっていることでしょう。これは117話verの最後のカットが合わせ鏡のスミレであることと、万華鏡が複数枚の鏡を組み合わせた合わせ鏡の一種であることとの重ねあわせでしょう。『鏡』というオブジェクトに対して、117話のスミレが習熟していることの表現といえるでしょう。最後のシーンの鏡だったはずのものが、あたかもマジックミラーであるかのように透過してスミレの姿を映し出すのも、『鏡』とスミレの関係の発展を示す描写と思われます。
また、103話と108話の間にあった『カメラ』についての習熟も更に進んでいます。それを示すのが、鏡に触れるところの描写の差異です。108話では鏡に写った自分に対してウインクをしていますが、117話では鏡の脇にあるカメラに目線をやっています。その他にも117話verではカメラの位置を強く意識したカメラ目線などが多く見られることから、『鏡』と同様に『カメラ』とスミレの関係もまた発展しているといえるでしょう。
・これらの違いは物語とどう関連しているのか?
というのを姉のあずさとスミレの関係、あるいは歌とモデルのどちらを選ぶかの問題などから考えてみたのですが、うまく説明できるような理屈が考えつきませんでした。単純にスミレがステージに習熟した、というだけにしてはかなり細やかな描写なので、何らかの意図があるとは思うのですが。ひとまずはこれからも考えていく課題として残しておきたいと思います。