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 凶悪犯罪が起きるのはなぜか。1年前、高齢女性が自宅で首を絞められ、腹を刺されて殺された。強盗殺人罪で起訴された男に、30回にわたって面会した。

 田中雄也被告。34歳。昨年10月1日午後、宅配便の配達員を装って大阪市住吉区の住宅に入り、住民の井川英子さん(当時86)の首を絞め、鋭利な物で殺害したとされている。検察側は金を奪う目的だったとみて、強盗殺人罪と住居侵入罪で起訴。田中被告は裁判員裁判で審理される身として、大阪市内の拘置所に勾留されている。

 「直接質問してほしい。筆無精なので」。拘置所の面会室。刑務官とともに現れた田中被告はガラス越しに言い、続けた。「申し訳ない」。井川さんや遺族への謝罪の言葉だった。一方で、こうも語った。事件を起こしたのは「別の自分」だったと。

 約20年前の12月。クリスマスの礼拝を終えた子どもたちが、大阪市内の教会員の家々の前で賛美歌を歌っていた。その中に10代前半の男の子がいた。消防士の父、母、妹2人の5人家族の長男。田中被告だった。

 中学校ではいじめられていた。理由なく同級生に殴られたり、テニス部で使っていたラケットを壊されたりした。勉強は苦手。成績は体育が「2」で、それ以外は「1」。卒業後は定時制高校に通いながらガラス製品を扱う会社で働いた。

 22歳の時。手首にカッターの刃をあてた。8針を縫い、命が危なかったと医者に言われた。「上司と合わないな、辞めたいなって。でも認められず、会社に行きたくなくなった」。田中被告は振り返る。

 これを機に会社を辞め、退職金を受け取った。失業保険が入り、働かなくても金が入った。職探しをする気になれないまま、金はすぐに底をついた。