脚本家・橋本忍
橋本忍(1918~)兵庫県生まれの現在97歳
1949年、サラリーマン時代に書いた芥川龍之介「藪の中」の脚色が黒澤明の目に止まり、同じ芥川の「羅生門」を加えて長編に改変させた脚本が「羅生門」として映画化。ベネチア国際映画祭、アカデミー外国語映画賞といきなりのダブル受賞をしたのをキッカケにプロの脚本家となる。その後も黒澤組のメンバーとして「生きる」「七人の侍」「蜘蛛巣城」などの黒澤代表作など計8作に参加「影武者」ではアドバイザーとして参加している。まさに世界の黒澤を作り上げた代表的な存在である。
その他にも様々な監督につき「真昼の暗黒(今井正)」「切腹(小林正樹)」「白い巨塔(山本薩夫)」「日本のいちばん長い日(岡本喜八)」「八甲田山(森谷司郎)」など歴史的名作の脚本を担当する。
中でも松本清張作品の脚色には定評があり、1958年の「張り込み」を皮切りに「ゼロの焦点」「影の車」「砂の器」など計6作を手がける。橋本の大きな特徴といえる回想シーンの効果的な使い方により、その後のサスペンス描写に世界的にも影響を与えた。
清張作品以外にも「白と黒」「首」「日本沈没」「八つ墓村」などサスペンスの秀作、話題作を数多く手がけているのも、その作風がうまく活かされている顕れだろう。
社会派の作品にも、そのサスペンス風のタッチが活かされ、緊迫感のあるドラマに仕上げている。その代表作が自らも監督した「私は貝になりたい」と言えるかもしれない。しかし監督としては思う存分才能が発揮できなかったことも事実だ。
「羅生門」
デビュー作。回想シーンと現在を上手く交錯させ、その後の法廷物の基礎を作り上げた名作。
「張込み」
モノローグを効果的に使い、張込みの対象である女性の心理を序々に浮き彫りにさせる見事な構成。まさにシナリオの教科書といえる。
「七人の侍」
言わずと知れた黒澤の世界的人気作品。脚本の草稿を橋本が手がけ、登場人物のキャラクター設定はそのまま活かされている。
「切腹」
これが橋本脚本の最高傑作と思っている。封建的な時代背景に鋭くメスを入れ、大胆な構成で一気に終盤の盛り上がりにまで繋げて極上の娯楽作に仕上げていく筆力は見事というほかない。
「私は貝になりたい」
テレビドラマ用に書き下ろされた作品。ある平凡な男が戦争の闇に巻き込まれていく悲劇を実在の人物の手記を元に創作した傑作。自ら監督した映画化作品、そして中居正広主演の同名作では再び書き直したほど橋本自身にとっても最も思い入れのある作品であろう。
「黒い画集 あるサラリーマンの証言」
松本清張の短編小説集からの一篇。ふとしたことから殺人事件の容疑者になった主人公。明らかなアリバイはあるものの、それを言えば愛人との関係がバレてしまう。複雑な心理を実に解りやすく描く感性の光る小品。
「白と黒」
橋本のオリジナル脚本。冤罪と死刑制度を絡めた社会派サスペンス。二転三転するドラマ展開はラストまで息を抜かせない。
「仇討」
「切腹」と同様に封建社会における悲劇を描いた作品。ラストの壮絶な斬り合いは映画史上の語り草にも。
「霧の旗」
松本清張の人気小説を若き山田洋次が映像化した作品。後の「砂の器」でもタッグを組んだ橋本・山田によるもので主演の倍賞千恵子が好演している。
「白い巨塔」
山崎豊子原作の大ヒット作。医科大学内部における熾烈な権力争いを描いた内容で、ともすれば堅いだけで退屈さが指摘される山本薩夫の演出に橋本の娯楽性豊かな作風が奇跡的にマッチした一篇。原作がまだ完結してなかったためラストは橋本の創作である。
「風林火山」
井上靖原作を戦前からの時代劇の名匠・稲垣浩が演出。武田信玄の川中島合戦に至るまでの活躍をかの軍師・山本勘助を通して描いた戦国絵巻。三船敏郎、中村錦之助、佐久間良子、石原裕次郎とオールスターキャストでじつに楽しい作品に仕上がっている。
「大菩薩峠」
中里介山の何度も映画化されている人気作を岡本喜八とのコンビで映像化。黒白のシャープな映像に橋本の描くニヒルな主人公像がじつによく合い、他の同名作の中でも傑作といえる出来栄えとなった。しかし興行的には不発だったのか続編が作られなかったことが非常に残念。
「上意討ち 拝領妻始末」
お家の事情から無理難題を押し付けられてきた一家がついに怒りの反逆をするという「切腹」「仇討」とも並ぶ封建的社会に対する社会派時代劇。ベネチア国際映画祭やキネマ旬報でも1位に輝くなど前二作を超える人気も得た。
「日本のいちばん長い日」
終戦の8月14日未明から15日の天皇の玉音放送をめぐる一連のあまり語られることのなかった騒動をサスペンス色豊かに描いた橋本にとっても集大成といえる傑作。数え切れない程の登場人物をそれぞれが色の濃いキャラクターに仕上げ、さらに混乱させることもなく緻密に描けるのは、まさに橋本忍の真骨頂である。
「首」
弁護士・正木ひろしの著書から実際に起きた「首なし事件」を映画化。ある裁判から浮かび上がる疑念を晴らすために活躍する弁護士の姿とラストに迎える猟奇的な展開からカルト的な人気を持つ作品。
「日本沈没」
1974年度の邦画興行成績1位になった大ヒット作。小松左京の空想科学小説の映像化でややもすれば奇想天外な作品になりがちなところを的確な人物描写・科学的背景で現実味のあるものにまで何とか仕上げた。これを機に洋画の「ポセイドン・アドベンチャー」と合わせパニック映画ブームが巻き起こった。
「砂の器」
松本清張をして「原作を超えた唯一の作品」と言わしめた名作。その見事さは原作には軽く触れる程度の親子の旅のシーンを最重要エピソードに切り替えたことにある。そして本来は退屈と言われる謎解きシーンにも橋本お得意の回想シーンを織り交ぜることにもなり名場面となった。その橋本のセンスに原作者は舌を巻き日本中の涙を誘った。さらに主人公の職業を作曲家に変更したことで、あの名曲も生まれたのである。
「八甲田山」
新田次郎の「八甲田山死の彷徨」を映像化した超大作。ここもやはり複数の主要登場人物と回想シーンなどを的確に織り交ぜた橋本の手腕が存分に発揮されている。台詞も最小限に取捨選択されたもので言葉に惑わされずに映像の力強さがスムーズに伝わってくる。
1949年、サラリーマン時代に書いた芥川龍之介「藪の中」の脚色が黒澤明の目に止まり、同じ芥川の「羅生門」を加えて長編に改変させた脚本が「羅生門」として映画化。ベネチア国際映画祭、アカデミー外国語映画賞といきなりのダブル受賞をしたのをキッカケにプロの脚本家となる。その後も黒澤組のメンバーとして「生きる」「七人の侍」「蜘蛛巣城」などの黒澤代表作など計8作に参加「影武者」ではアドバイザーとして参加している。まさに世界の黒澤を作り上げた代表的な存在である。
その他にも様々な監督につき「真昼の暗黒(今井正)」「切腹(小林正樹)」「白い巨塔(山本薩夫)」「日本のいちばん長い日(岡本喜八)」「八甲田山(森谷司郎)」など歴史的名作の脚本を担当する。
中でも松本清張作品の脚色には定評があり、1958年の「張り込み」を皮切りに「ゼロの焦点」「影の車」「砂の器」など計6作を手がける。橋本の大きな特徴といえる回想シーンの効果的な使い方により、その後のサスペンス描写に世界的にも影響を与えた。
清張作品以外にも「白と黒」「首」「日本沈没」「八つ墓村」などサスペンスの秀作、話題作を数多く手がけているのも、その作風がうまく活かされている顕れだろう。
社会派の作品にも、そのサスペンス風のタッチが活かされ、緊迫感のあるドラマに仕上げている。その代表作が自らも監督した「私は貝になりたい」と言えるかもしれない。しかし監督としては思う存分才能が発揮できなかったことも事実だ。
「羅生門」
デビュー作。回想シーンと現在を上手く交錯させ、その後の法廷物の基礎を作り上げた名作。
「張込み」
モノローグを効果的に使い、張込みの対象である女性の心理を序々に浮き彫りにさせる見事な構成。まさにシナリオの教科書といえる。
「七人の侍」
言わずと知れた黒澤の世界的人気作品。脚本の草稿を橋本が手がけ、登場人物のキャラクター設定はそのまま活かされている。
「切腹」
これが橋本脚本の最高傑作と思っている。封建的な時代背景に鋭くメスを入れ、大胆な構成で一気に終盤の盛り上がりにまで繋げて極上の娯楽作に仕上げていく筆力は見事というほかない。
「私は貝になりたい」
テレビドラマ用に書き下ろされた作品。ある平凡な男が戦争の闇に巻き込まれていく悲劇を実在の人物の手記を元に創作した傑作。自ら監督した映画化作品、そして中居正広主演の同名作では再び書き直したほど橋本自身にとっても最も思い入れのある作品であろう。
「黒い画集 あるサラリーマンの証言」
松本清張の短編小説集からの一篇。ふとしたことから殺人事件の容疑者になった主人公。明らかなアリバイはあるものの、それを言えば愛人との関係がバレてしまう。複雑な心理を実に解りやすく描く感性の光る小品。
「白と黒」
橋本のオリジナル脚本。冤罪と死刑制度を絡めた社会派サスペンス。二転三転するドラマ展開はラストまで息を抜かせない。
「仇討」
「切腹」と同様に封建社会における悲劇を描いた作品。ラストの壮絶な斬り合いは映画史上の語り草にも。
「霧の旗」
松本清張の人気小説を若き山田洋次が映像化した作品。後の「砂の器」でもタッグを組んだ橋本・山田によるもので主演の倍賞千恵子が好演している。
「白い巨塔」
山崎豊子原作の大ヒット作。医科大学内部における熾烈な権力争いを描いた内容で、ともすれば堅いだけで退屈さが指摘される山本薩夫の演出に橋本の娯楽性豊かな作風が奇跡的にマッチした一篇。原作がまだ完結してなかったためラストは橋本の創作である。
「風林火山」
井上靖原作を戦前からの時代劇の名匠・稲垣浩が演出。武田信玄の川中島合戦に至るまでの活躍をかの軍師・山本勘助を通して描いた戦国絵巻。三船敏郎、中村錦之助、佐久間良子、石原裕次郎とオールスターキャストでじつに楽しい作品に仕上がっている。
「大菩薩峠」
中里介山の何度も映画化されている人気作を岡本喜八とのコンビで映像化。黒白のシャープな映像に橋本の描くニヒルな主人公像がじつによく合い、他の同名作の中でも傑作といえる出来栄えとなった。しかし興行的には不発だったのか続編が作られなかったことが非常に残念。
「上意討ち 拝領妻始末」
お家の事情から無理難題を押し付けられてきた一家がついに怒りの反逆をするという「切腹」「仇討」とも並ぶ封建的社会に対する社会派時代劇。ベネチア国際映画祭やキネマ旬報でも1位に輝くなど前二作を超える人気も得た。
「日本のいちばん長い日」
終戦の8月14日未明から15日の天皇の玉音放送をめぐる一連のあまり語られることのなかった騒動をサスペンス色豊かに描いた橋本にとっても集大成といえる傑作。数え切れない程の登場人物をそれぞれが色の濃いキャラクターに仕上げ、さらに混乱させることもなく緻密に描けるのは、まさに橋本忍の真骨頂である。
「首」
弁護士・正木ひろしの著書から実際に起きた「首なし事件」を映画化。ある裁判から浮かび上がる疑念を晴らすために活躍する弁護士の姿とラストに迎える猟奇的な展開からカルト的な人気を持つ作品。
「日本沈没」
1974年度の邦画興行成績1位になった大ヒット作。小松左京の空想科学小説の映像化でややもすれば奇想天外な作品になりがちなところを的確な人物描写・科学的背景で現実味のあるものにまで何とか仕上げた。これを機に洋画の「ポセイドン・アドベンチャー」と合わせパニック映画ブームが巻き起こった。
「砂の器」
松本清張をして「原作を超えた唯一の作品」と言わしめた名作。その見事さは原作には軽く触れる程度の親子の旅のシーンを最重要エピソードに切り替えたことにある。そして本来は退屈と言われる謎解きシーンにも橋本お得意の回想シーンを織り交ぜることにもなり名場面となった。その橋本のセンスに原作者は舌を巻き日本中の涙を誘った。さらに主人公の職業を作曲家に変更したことで、あの名曲も生まれたのである。
「八甲田山」
新田次郎の「八甲田山死の彷徨」を映像化した超大作。ここもやはり複数の主要登場人物と回想シーンなどを的確に織り交ぜた橋本の手腕が存分に発揮されている。台詞も最小限に取捨選択されたもので言葉に惑わされずに映像の力強さがスムーズに伝わってくる。
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