18歳選挙権:自民党と民主党「主権者教育」提言の趣旨は
2015年09月29日
来夏の参院選から選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられるのを受け、自民党と民主党は今夏、主権者教育のあり方に関する提言をまとめ、それぞれ安倍晋三首相、菅義偉官房長官に提出した。模擬選挙の実践などで「主権者教育を充実させる」というスタンスは両党とも変わらない。しかし、教員の政治的中立をいかに確保すべきかを巡っては、自民党が「罰則を科すための法改正が必要」と主張するのに対し、民主党は「罰則は不要」との立場で大きく異なる。提言の趣旨や狙いについて、両党の政策責任者に聞いた。【佐々木洋】
◇中立逸脱した教員に緩い罰則 冨岡勉・自民党文部科学部会長
−−自民党の提言には、学校が政治闘争の場になり混乱するのを避けるため、「高校生の政治的活動は学校内外において基本的に抑制的であるべき」だとありますね。
◆やはり生徒たちの本分は学問。主権者教育を受けることが、イコール政治活動につながるわけではないことを副教材などを使いながら認識してほしい。
−−校内の活動には一定のルールが必要だとしても、校外では最大限自由にする考え方もあります。
◆校外の活動にはとやかく言っていません。選挙権のある人が集会に出たり、ビラを配ったりするのは許されるし、その辺は全く記載していない。提言では(公選法違反に問われる恐れがある)事例を示しているので、それを読んでもらえれば分かると思う。
−−提言には政治的中立を逸脱した教員に罰則を科すための法改正が必要とあります。罰則まで必要ですか?
◆ルールを破った時にどうなるかを決めておくのが法治国家です。破っても何のおとがめもないのではルールとして不備なので、非常に緩い罰則を付けようということ。変な先生は僕も経験があるが、ごく一部だと思う。罰則と書いたが今国会や臨時国会で(法改正に)突っ走るつもりはさらさらない。我々の提言は罰則ばかり注目されるが、全文をよく読んでほしい。
−−教員が萎縮せずに主権者教育を進めるため、副教材の配布以外の手立ても検討すべきではないですか?
◆生徒が興味を持って討論できそうなテーマをマスコミも含めて考えてくれれば参考になります。例えば、身近なものでは同性婚を認めるかなどがある。安保論争などは国が決めることで、大きな流れは決まっているから、あまりそぐわないかもしれませんね。
−−提言には「教職員組合の収支報告の義務づけ」も盛り込まれています。選挙で民主党を支援する日教組をけん制する狙いではないかとの指摘があります。
◆一部で、選挙資金が組合費から出ているなどと言われて久しい。ただ、収支報告書の義務化を求めているのはごく一部。自民党が目くじらを立てて何かするという段階ではなく、僕自身が(義務化を)推進する気も今のところありません。
◇自民党提言の主な内容
・政治参加等に関する初等中等教育の抜本的充実(高校生への副教材の配布、高校新科目「公共<仮称>」の創設)
・混乱を未然に防ぐため、学校における政治的中立性の徹底的な確保(教員の政治的行為の制限違反に罰則を科すための教育公務員特例法等の改正)
・大学、家庭、政治やマスコミなど社会全体での取り組みの充実(キャンパス内での期日前投票所の設置など)
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◇ルール化し地域社会と共有を 中川正春、民主党・主権者教育のあり方検討ワーキングチーム座長
−−選挙権年齢引き下げの意義をどう考えますか?
◆自治体の住民投票では10代の投票を認めており、若者を排除しては地域の再生も創生もあり得ない。選挙権年齢の引き下げをきっかけに、自分でものを考え、判断する能力をつけるための主権者教育を、学校教育の中で推進すべきだと考えて提言をまとめました。
−−提言には「現実にある課題や争点から学ぶ」とあります。
◆国政で国論を二分するような問題だけではなく、身近なところで子どもたちに直接影響が出てくるような課題を取り上げるのもいいでしょう。例えば、自治体レベルで言えば給食費無料化の是非などです。もっと身近なところで、制服や髪の長さなど、校則について話し合うということも考えられます。身近なテーマを通じ、意思決定の過程を学ぶことが重要です。
−−現実の政治課題を取り上げると「政治的中立から逸脱した」と批判されることもあります。6月に山口県の県立高校で安保関連法案に関する模擬投票を行い、県議会で問題視されました。
◆主権者教育は教員が個人的にやろうとすると、色眼鏡でみられる場合もある。大事なことは学校や教育委員会が一定のルールを作り、地域社会にオープンにすること。そうすれば地域の協力も得られるでしょう。例えば、あるテーマについて地元の地方議員を招き、さまざまな立場から意見を述べてもらい、それを基に討論するという方法もある。生徒が学ぶだけでなく、学校が中心となって住民と共に地域の課題を考えるきっかけにもなります。
−−自民党は政治的中立性を確保するため、法改正して教員の政治的行為の制限違反に罰則を科すべきだと主張しています。
◆その必要はないと思う。学校や教委で主権者教育のやり方をルール化し、指針を作って地域と共有すれば大丈夫です。もちろん、教員が個人の考えを生徒に押しつけるべきではない。多様な意見を紹介し、一つの問題を複眼的に見ることの大切さを教え、最後は生徒自身に判断させるべきです。テーマによっては教員が意見を述べるケースが出てくるかもしれないが、その場合も、別の意見があることを紹介しながら議論させることが必要です。
◇民主党提言の主な内容
・現実にある課題や争点から学ぶ学習活動を進める
・学校全体のチームとして取り組み、保護者、地域、大学などとの協力関係をつくる
・教職員に法令順守を求める
・模擬選挙(投票)は小中学校でも推進
・期日前投票を含め、高校や大学などへの投票所設置
・民主党は子ども向けマニフェストを作成し、積極的にインターンシップを受け入れる