産経ニュース

【経済インサイド】五輪「国内最高位スポンサー」激烈バトル「富士通×NEC」  異例「2社契約」の水面下

【経済インサイド】五輪「国内最高位スポンサー」激烈バトル「富士通×NEC」  異例「2社契約」の水面下

「永遠のライバル」富士通とNECは東京五輪のスポンサー契約でもしのぎを削った(コラージュ)

 「永遠のライバル」と聞かれて思い浮かべるのは「巨人」と「阪神」、「早稲田大」と「慶応大」、古くは「上杉謙信」と「武田信玄」なんていうのもある。IT業界で永遠のライバルといわれているのが「富士通」と「NEC」だ。

 その両社が東京五輪の国内最高位のスポンサー「ゴールドパートナー」の契約をめぐって、バトルを繰り広げた。150億円以上の契約金が必要なゴールドパートナーは、原則1業種1社のみ。東京五輪では、ITインフラの大型投資が見込まれており、ゴールドパートナーになれば、これらの仕事を優先的に受注できるという。このため、両社のバトルは、ヒートアップ。強力な売り込みのかいもあってか、今回はこれまでの慣習を破る「2社契約」という異例の形で決着をみた。どこまでも譲らない富士通とNEC。両社の戦いの終わりは見えない。

「激しかった」ロビー活動

 東京五輪・パラリンピック組織委員会と、NEC、富士通は2月19日、ゴールドパートナー契約を締結した。当日は、両社がそれぞれ記者会見を開催。東京オリンピック・パラリンピック競技大会の森喜朗組織委員長も、両社の会見に足を運び、それぞれの社長と調印式を行うなど華やかな場となった。

 ゴールドパートナーの契約企業は、大会ロゴやスローガンを広告で使用する権利や、五輪やパラリンピックの日本代表選手団への協賛権などを得る。

 IT企業にとって、五輪は自社の技術やブランドを世界にアピールする絶好の舞台だが、大型案件を受注できるビジネスチャンスの場でもある。NECの遠藤信博社長は、「東京五輪の経済効果は18兆円に及び、IT関連は1兆円とされている。そのうち、20%を取りたい」と意気込む。

 五輪は、競技場や選手村のほか、近隣の交通機関にITインフラが必要になる。ゴールドパートナー契約を結べば、優先的にこれらの仕事が回ってくるとされる。両社とも“売り込み合戦”をしたことを認めないものの、自民党関係者は「両社の組織委員会へのロビー活動は、相当激しかった」と漏らす。

 これまで、両社は半導体や携帯電話事業などの不振に苦しみ、構造改革を断行。ようやく改革にめどがつき、業績が上向きつつある。数年前は、150億円以上のスポンサー料はとても拠出できなかったが、今期も黒字を確保できる見通しで、攻めの経営に転じる重要な段階を迎えている。それがゆえ、両社とも東京五輪をさらなるステップアップの場にしたいという思惑がにじむ。IT業界に詳しい広告代理店関係者は「(両社とも)東京五輪のゴールドパートナーは絶対に契約したい案件だったはず」と指摘する。

「電電ファミリー」の一員

 もともと、両社とも日本電信電話(現NTT)の通信機器を手がける「電電ファミリー」の一員。業態がそっくりなゆえ、重複事業が多く、古くからライバル関係にある。大型のIT投資が見込まれる東京五輪は、数十年に1度のビックチャンスだけに、両社は、絶対に負けられないとの思いが強かったとみられる。今回は、両社の強力なロビー活動のかいもあってか、原則1業種1社のゴールドパートナーに2社とも選ばれ、結果的に引き分けとなった。

 異例の同業2社がゴールドパートナーに選ばれたことについて、両社とも「特にコメントすることはない」(広報担当者)とそっけない。組織委員会の担当者は、「ITといっても、すべて1社で行うことはできない。例えば、飲料でも炭酸飲料とビールは違う。今回は、契約カテゴリーが異なり、棲み分けはできており、2社との契約を決めた」と話す。両社の“熱い売り込み”と、組織委員会の業種の細分化が、引き分けをもたらしたといえなくもない。

 今回の契約カテゴリーは、NECが顔や指紋などによる生体認証技術やネットワーク機器、ドローン(無人小型飛行ロボット)。対する富士通がインターネットの膨大な情報を支えるデータセンター(DC)分野だ。

 ただ、NECが契約したネットワーク機器は富士通も取り扱っており、一方、富士通が契約したデータセンターはNECも力を入れている分野だ。五輪でどの仕事を取りたいのかというところで、「調整が難航した」(関係者)という。このため、契約が当初の予定よりも大幅に遅れ、発表日までギリギリの調整が行われた。

会見当日に“場外乱闘”

 ようやく、契約カテゴリーが決まり、棲み分けがついた格好だが、会見当日にも、両社の間で、ちょっとした“場外乱闘”があった。この日は、午前にNEC、午後に富士通がそれぞれ会見を行ったが、これは組織委員会と契約する電通の指定で行われた。

 ただ、広報にとっては150億円以上の巨費を払ってつかんだスポンサーだけに、どちらがメディアの露出が多いのかというのは、最も気になるところだ。午後の富士通は急遽(きゅうきょ)、会見終了後に山本社長の囲み取材を行うと前日に記者へ連絡するなど、NECにむき出しの対抗心をみせた。晴れの舞台だけに、広報関係者の五輪への強い執念をみせつけられた格好だ。

 NECの会見で、組織委員会の森喜朗会長は、契約カテゴリーの棲み分けについて問われ、「錯綜(さくそう)するところはあるが、オールジャパンで行く」と、両社に五輪を盛り上げるための協力を呼びかけた。ライバル企業同士の両社に対し、仲良くするよう、くぎを刺した発言とも読み取れる。

 永遠のライバルの富士通とNEC。両社の戦いはまだまだ続きそうだ。

©2015 The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL All rights reserved.