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徴兵以下のIT奴隷制度を作るよりマネジメントを学ぶべき

 安保法制デモなんかで「徴兵制が!」「戦争に行かされる!」みたいなのがあってバカじゃねーの徴兵なんて今時やるわけねえだろと思ってたのだが、やあもしかしてサイバー戦争うんたらで俺らITエンジニアを徴兵するとかはあり得るかもよ? みたいなヨタ話をしてたことがある。

もちろんヨタ話なので「可能性があるかないかで言えばある」というだけにすぎなくて、まさか本当にやるなんて思っちゃいなかった。ところがガチでそんなことを言い出す人物が現れたのである。

前提として考えてもらいたいのは、これからのサイバー攻撃は、まさに戦争を仕掛けられているのと同じだという点だ。

(中略)

国の重要インフラを破壊されるのは、戦争と言わずに何というのか。これは最悪のシナリオであることには違いないが、日本の政府や業界、企業は、それに対する危機意識が低すぎる。

 そして、これを守るためのエンジニアが不足しているのは明らかだ。そのためには人材を育成しなければならない。それが4万人。今から教育をしなくては間に合わない。だが、国はそれに対して費用を出す計画がない。

(中略)

そこで育成されたエンジニアが2020年に開催される東京五輪の開催期間中の1カ月間でもいいから、ボランティアで働くという仕組みを提案した。

「五輪にはボランティアで働けるエンジニアが必要」発言の真意を聞く - ZDNet Japan

この場合のボランティアというのは原義の自発的な兵士という意味ではなく、予算がないからタダ働きさせようという話である。徴兵したあげくに給料ゼロとかぶっちゃけ徴兵制度よりひどい奴隷制度を「IT業界をひとつにまとめて政策提言する」という立場にいる人物が発してるのである。

確かにITエンジニアというのはそもそも人材が不足してるし、一級品の技術を持った人間を雇い入れるとなると最低でも年間2000〜3000万円程度の雇用コストがかかるものではある。ただ給料が高いとは限らなくて、先日もブラックIT企業勤めの人のまとめで出向先の大手メーカーは所属会社に毎月250万円払ってるけれども月給は20万円残業代無しボーナス無し、なんて話があった。

IT業界と一口に言ってもそれは幅広くて、いわゆる多重請負構造が蔓延してるような大手メーカー周辺のIT業界と、Web系と言われるようなネットでエンジニアの顔が見えるIT業界、さらには通信インフラを支えてるようなIT業界はほとんど別業種といってもいいくらい離れてたりはする。

だからこういう全然知らないところが「IT業界をまとめあげる」みたいなことを言い出してびっくりするということが起きたりもするんだけれども。

そもそもIT業界の人材不足なんてのは大嘘であって、技術者が足りないからなんとかならないかなんて話を聞くと予算が「人月60万円」なんて話がザラにある。60万円は給料ではないので、税金やら経費やら引くとだいたい1/3になると思っていい。昔からフリーランスの年商1000万円はサラリーマンの年収400万円と同じくらいと言われるけれども、実際税金やら保険やらがあるので、人間を雇用すると給料と同じくらいの金額がぽいぽいと出て行くもんなのである。そこに経費がのっかるわけだから年商1000万円=年収400万円程度となるのだ。

タイの一般労働者の給与は9000バーツ(およそ3万円)程度、大卒初任給も14000バーツ程度だが、大学を卒業して技術を身につけたITエンジニアを雇おうと思ったら最低でも3万バーツ(およそ10万円)程度はかかる。

技術者というのは勉強にものすごいコストをかけてるので、一般の倍くらいの給与がでないと割に合わないのだ。なんせ通信インフラを学んでる人たちは数十万円の機材を私費で購入して実際にいじってたりするし、5000円以上する専門書を数えきれないほど読んでたりする。広めの家に住んで1部屋まるごとサーバルームみたいになってる人もいたりする。実際うちでもコンピュータを10台位稼働させて電気代が6万円突破したこともあった。

そういう情報技術者たちを平均年収以下の給与で雇おうとするのはそりゃあ無謀である。勉強するにも金がかかるのだ。情報技術者を育てたいと思ったらまずは金を出す必要がある。人にもよるが情報技術者の娯楽は情報技術を学ぶことなので、お金と時間さえあれば勝手に勉強してたりするのである。そして情報技術を学ぶというのは本当に本当に楽しいことなのである。

それを20万円程度の給与と長時間労働で縛り付けようとしたらそりゃ学ぶお金も時間もない。育つわけがないのだ。

よく「日本は技術立国だから技術者を育てることが重要」なんてことを言い出す人たちがいる。それは大間違いだ。日本の技術者は他国に比べてもとても優秀で、個々人の力は他の国々の一般エンジニアを見てきた人たちからは信じられないレベルにある。日本語の書籍も充実してるし、ネットでの意見交換も活発だ。日本のプログラマ、情報技術者のレベルはかなり高い。

ではなぜ日本はITで世界に太刀打ち出来無いのか。70年前の敗戦を思い出してみるといい。日本の航空エンジニアも船舶エンジニアもとても優秀だった。なのになぜ勝てなかったか。マネジメントができてなかったからだ。

ザ・ゴール ザ・ゴール

日本に足りないのはマネジメントなのである。思い出してみるがいい。LINEは日本のエンジニアが作ったがマネジメントは韓国だ。そしてLINEは驚異的なスピードで世界に広まっていったがサーバが落ちて使えないなんてことはほとんどなかった。あんな速度でユーザーが増えたのにである。Twitter が拡大期にしょっちゅう落ちてたことを思い出すとこれは本当に驚異的な技術である。おそらくライブドアを買収したのもよかったのではないか。ライブドアも以前のトップがテレビで派手な発言をしてアクセスが集中するなどしてたが一度も落ちたりしなかった。日本の情報インフラ技術はまさに一級品である。

そしてそうした技術をまとめあげるマネジメントこそが日本に足りないのである。

マネジメントの基礎を学ぶのにドラッカーもいいのだが、ザ・ゴールという本もいい。小説仕立てで読みやすいがその基礎がよくわかる。物事の見え方が変わる本である。

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それからITシステムを受注発注する人たちは「アジャイル」という考え方を学ぶべきであろう。アジャイル・サムライという本がわかりやすく説明している。ITシステム開発における「計画」とは建築のようにはいかず、行ったり来たりしながら試行錯誤のような状況が必要だ。それをどのようにうまくまとめて行ったらいいのかかがわかる本だ。

それから重要なのはUNIXという考え方という本である。この本はITに関わるすべての人にとって必読だ。コンピュータはどのように使ったら上手に扱えるのか、ということがわかる本である。これを理解してないと無理筋のシステムを考えだしてひどいことになってしまう。

UNIXという考え方―その設計思想と哲学 UNIXという考え方―その設計思想と哲学

どうもITシステムを発注する人たちというのは「言った通りのものを作ってくれればいい」くらいに考えてる人たちが多いようだ。ソフトウェアというのはそういうものではない。いいですか、あなたの会社にシステムを導入するということは、ソフトウェアを使うということではないんですよ。

システムとはITである必要はない。ホワイトボードと付箋紙でもシステムは作れる。そしてそのシステムとは経営そのものなのだ。

だから経営者のみなさん、まずはITとマネジメントを十分に学んだ人材を年棒1000〜2000万くらい出して雇ってください。そしてその人物を役員会のメンバーにするのです。さらにその人物に権限を移譲し、エンジニアを数名雇い入れてください。そしてできあがったチームから、全部署に人員を派遣し業務を実際にやらせて改善案を出させるのです。それがシステム設計の第一歩です。

業務を十分に理解し、会社という組織をどこへ導いたらいいのかわかる人材を内部に抱え込むのです。そうしてシステムを作り始め、ITシステムが必要になったら十分なスキルを備えたソフトハウスに発注してください。内部に作ったチームはアジャイルでいう「顧客」になります。彼らが外部のエンジニアたちを正しく導いてよいシステムを作ってくれることでしょう。開発が終了したらメンテナンスは内部チームがやれます。協力会社にとっても手離れがいいのはよいことです。

そうして作られたシステムは、想像を遥かに超える生産性を叩きだすだろう。マネジメントというのはそういうものである。

いいですか、日本に必要なのは「マネジメント」なのです。技術者は十分に育ってるのです。マネジメントがクソだからみんな逃げ出したり死んじゃったりしただけなんですよ。

そう、あの葬式で若くて優秀でみんなに期待された息子が早世した母親の顔を、俺は二度と忘れない。殺したのは、あいつらだ。

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