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No.1269 TPP攻めの開国(247)と農業改革(新2) 大筋合意その9
10月15日付け日経新聞より、森山自民TPP対策委員長(右から3人目、当時)は政府交渉団に譲らぬよう念を押したが…(9月30日、米アトランタ)=共同
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い699(61)から本年10月15日付け1268(246)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年10月12日付け1265(244)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
TPPは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでの閣僚会合で日本時間10月5日に遂に大筋合意に達した。
前記事1258~1268では連日に亘り大々的に掲載された膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を「TPP攻めの開国 大筋合意その1~8」として連載した。
10月14日付け日経新聞「迫真」で「薄氷のTPP交渉」と題するシリーズ記事の掲載が始まった。なかなか面白い内容なので、本ブログでも「大筋合意」シリーズの延長として掲載させていたく。
前記事1968掲載の「(1)我々がルールをつくる」に続き本号では15日付け日経新聞より「(2)“寝耳に水だ”憤る農家」を下記する。
「情報は遅いし中身も薄い。遊びにきているんじゃないんだぞ」。TPP閣僚会合の初日が終わった9月30日深夜、米アトランタ。自民党議員団が陣取るフォーシーズンズホテル8階の一室に怒号が飛んだ。
声の主は自民党TPP対策委員長(当時、現農相)の森山。政府交渉団を“監視”するため派遣された5人の農林族議員の筆頭格だ。
内閣官房総括官の佐々木らを呼び交渉状況を聞いたが、要領を得ない説明に怒りが爆発した。交渉結果しだいでは来年の参院選に響きかねない。普段は温厚な森山も必死だった。
気をもんだのがコメ、麦、乳製品、牛・豚肉など「重要5項目」。生産者への影響が大きいとして国会の委員会決議で守るべき「聖域」と位置づけた分野だ。なかでもニュージーランド(NZ)が大幅な輸入増を求めて譲らない乳製品は目が離せなかった。防衛ラインは生乳換算で7万トン。「本当に大丈夫か。1グラムも譲るなよ」。森山は交渉団に念を押し続けた。
森山にいち早く交渉結果が伝わったのは5日朝。ホテルの朝食会場で佐々木がささやいた。「乳製品は死守しました」
1時間後、日米間の懸案だったコメでも輸入枠を7万トンとする日本案を軸に協議が決着したと報告が届く。「よく踏ん張った」。森山は佐々木らに笑顔で言った。
「国益にかなう最善の結果だ」。6日、首相の安倍も成果を誇った。だが交渉結果の全容が明らかになると雲行きはあやしくなる。
8日、自民党本部でのTPP交渉の説明会。議員らで埋まった大会議室で配られた21ページの資料を見た野田は面食らった。オレンジ、ブドウ、サクランボのほか、牛タンや銀ザケなど7割の品目で関税が撤廃されると記してあったのだ。
果樹農業振興議連の会長である野田には看過できない。当選15回の党重鎮ながら真っ先に手を挙げ叫んだ。「この話は今まで出てなかった。大変なことになるぞ」
生産者も動揺した。
「寝耳に水だ」。浜松市。ミカンが主力の三ケ日町農業協同組合の組合長、後藤)は競合するオレンジの関税が協定発効から8年目で撤廃されるとニュースで聞いて仰天した。組合員からも「予想外だ」と戸惑う声が相次ぐ。
日本最大の落花生の産地、千葉県八街市。収穫期の作業に追われる落花生の加工・販売業者、増田)も「関税撤廃」をテレビで知った。
今は実質10%の関税をすぐなくすという。輸入落花生は中国産が最も多いが、米国産もある。「価格ではかなわない」と憤る増田は「政府は農家への打撃を知りながら説明を避けてきたのでは」と不信感を隠さない。
アトランタ会合後の内閣改造で農相に就いた森山はどう答えるか。9日のインタビューではこう弁明した。「党の責任者だったが、全部を聞いていたわけではない」
だが政府は全品目の95%の関税撤廃を目安としていた。5項目をすべて守れば自由化率は93.5%にとどまり、他品目の関税撤廃を迫られると専門家には想像がついた。
政治の後ろ盾があるコメなどを守るため、ほかを捨てたのか――。関係者の間で疑念が渦巻く。
農業団体は表向き抑制的だ。「厳しい交渉に臨んでいただいた。心からお礼を申し上げます」。8日、自民党本部。全国農業協同組合中央会(JA全中)会長の奥野)は党農林水産戦略調査会長の西川らに深々と頭を下げた。
安倍が掲げた農協改革に前会長の万歳が徹底抗戦。全中が権限の大幅縮小を迫られたことは記憶に新しい。
農水省幹部はTPP交渉が大筋合意する直前こう忠告していた。「安倍さんを怒らせたら農業対策費が1円も出なくなるぞ」。農業予算を目の前にぶら下げられては正面から批判はしにくい。
不満のマグマはたまる。6年目の関税撤廃が決まったサクランボの産地、山形県。地元選出の若手衆院議員、鈴木は地元農家がささやいた言葉が耳を離れない。「多くの生産者は裏切られたと思っている。言わないだけだよ」
国益が絡んだ交渉で守るものと譲るものが出るのは仕方ない、と鈴木も思う。だが何が明暗を分けたか、釈然としない後味の悪さは残る。声なき声を聞き、説明を尽くさないと選挙でしっぺ返しを受ける。鈴木の背筋を冷たいものが走った。(敬称略)
次号記事に続く。
No.1268 TPP攻めの開国(246) 大筋合意その8
10月14日付け日経新聞より、TPP交渉が大筋合意し記者会見する甘利氏(左)とフロマン氏ら(5日、米アトランタ)=共同
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い699(61)から本年10月13日付け1266(245)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年10月12日付け1265(244)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
TPPは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでの閣僚会合で日本時間10月5日に遂に大筋合意に達した。
前記事1258~1266では連日に亘り大々的に掲載された膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を「TPP攻めの開国 大筋合意その1~7」として連載した。
10月14日付け日経新聞「迫真」で「薄氷のTPP交渉」と題するシリーズ記事の掲載が始まった。なかなか面白い内容なので、本ブログでも「大筋合意」シリーズの延長として掲載させていたく。
本号では「(1)我々がルールをつくる 」を下記する。
TPPが大筋合意した10月5日午前、米アトランタのウェスティンホテル7階にある一室。経済財政・再生相の甘利は米通商代表部(USTR)代表のフロマンと抱き合った。何度も衝突した日米の両代表が共通の利害を確認し合った瞬間だ。
2日前の3日昼。甘利は同じホテルでフロマンを責め立てていた。「もたもたしないでくれ。内閣改造があるから俺は明日、必ず帰るからな」
開始から5年半に及んだTPP交渉。参加12カ国が最後の機会と臨んだアトランタ会合は予定を2日間過ぎても合意のメドが立っていなかった。
「米国の関与が東アジアの安定に重要だと思うから国内の反対があっても交渉しているんだ。関税の問題を超えた価値観のためだ」。かねてそう主張する甘利に賛意を示してきたフロマン。「大臣の帰国便までにまとめよう。それがタイムリミットだ」とうなずくしかなかった。
猛然と動き出した議長国・米国は翌日、全31分野で最難関の医薬品を巡りオーストラリアと妥協案をまとめた。乳製品でも大幅な輸出拡大にこだわるニュージーランドの貿易相グローサーとフロマンが6時間協議し、けりをつけた。協定の文書案ができたのは最後の閣僚会合の20分前。発表の記者会見を当初予定から4日ずらしての薄氷の合意だった。
蓋を開ければ米国は想定外の譲歩をしていた。医薬品のデータ保護期間は、製薬業界が求めてきた12年でなく実質8年。日本のコメ市場開放も日本案に近い年7万トンの輸入枠で折り合った。
強気だった米国が譲ったのはなぜか。答えは翌日、明らかになる。
6日午前、首都ワシントン。米大統領のオバマは農業団体幹部約20人を前にTPP合意の意義をこう強調した。「世界経済のルールは中国のような国ではなく、われわれがつくる」
10日余り前。オバマはワシントンで中国国家主席、習近平と会った。南シナ海での岩礁埋め立てやサイバー攻撃の中止を迫るオバマに習は明確な回答を避けた。
中国の自信と野心を前に米政府内であらためて1つの認識が共有されていく。TPP交渉で意識すべきは中国。「小異」を捨て妥結させねば――。交渉に不参加ながら「陰の主役」に躍り出た中国。オバマはメキシコ、ペルー、チリの各首脳に電話をかけ、自ら交渉妥結のお膳立てに動く。
TPPは通商協定にとどまらない。米国が関与した地域の連携を通じ、中国の一方的な勢力拡大を食い止める安全保障上の意義も大きい。
太平洋を隔てた同盟国の首相、安倍)も思いは同じ。6日すかさず歩調を合わせた。「日米が主導し、このアジア太平洋に自由と繁栄の海を築き上げる」
その安倍に朗報が届いたのは日本時間5日夜。公邸での仏首相バルス(53)との夕食会の直後だ。甘利の電話に「本当にお疲れさま。苦労のかいがありましたね」とねぎらった安倍は上機嫌だった。
心中穏やかでないのは中国。「TPPは中国の押さえ込みや排除が狙いでないと米国は言ってきた」。商務相の高虎城¥は9日、けん制した。
だがTPPには国有企業への優遇制限など中国流の「国家資本主義」と相いれない条文が並ぶ。参加して貿易拡大の果実を得たければ国内制度の大改革を迫られる。
中国を核にした一帯一路(新シルクロード)経済圏、アジアインフラ投資銀行(AIIB)……。周辺への影響力拡大に躍起の中国にとって自国抜きのTPPが存在感を高めれば大きな痛手だ。
はやくも韓国政府は5日、「国益拡大のため参加を積極的に検討する」との声明を出した。国内では「中国に傾斜しすぎた通商政策は見直すべきだ」としてTPP参加をせかす声も出ている。
5日、交渉妥結後の記者会見。「雪崩のように参加が広がれば」と期待を示す甘利にフロマンは「成果をほかの国とも共有したい」と応じた
ただ、その足元では次期大統領選の民主党の本命候補、クリントンが「現時点では賛成できない」と反対論をぶつなど、TPP発効には不安も漂う。
世界経済の成長をけん引するアジア太平洋地域。そこにどの国が、どんなルールを敷くか。TPPを軸にした新たな覇権争いの幕が開いた。(敬称略)
次号記事に続く。
No.1267 安倍政権アベノミクス(144)
10月13日付け日経新聞夕刊より日本経済再生本部であいさつする安倍首相(13日午前、首相官邸)
2013年4月18日付け記事709(8)以降本年10月11日付け1264(143)まで“アベノミクスの第3の矢”である“成長戦略”に集中して掲載、農業の岩盤規制打破にかかる「TPP攻めの開国と農業改革」シリーズも掲載してきた。
10月7日に第3次安倍改造内閣が発足した。
前記事1264(143)では本シリーズのタイトルから「我ら日本人」をとり「安倍政権のアベノミクス」のみとして再開、10月8日付け日経新聞より「安倍改造内閣が発足“経済最優先”再び 一億総活躍へ年内に対策 初入閣9人、主軸続投」「“新3本の矢”具体化急務 安倍改造内閣GDP600兆円」・財政再建の両立 経済再生待ったなし」と題する2記事を掲載し筆者のコメントを述べた。
10月13日付け日経新聞夕刊に「投資拡大へ官民対話創設 経済再生本部 首相“聖域設けず壁排除”」と題する記事が掲載されたので下記する。
政府は13日午前、首相官邸で日本経済再生本部(本部長・安倍首相)の会合を開き、首相や経済閣僚と経済界が参加する「官民対話」を同日付で創設した。安倍政権は賃上げに続く景気回復策として、国内企業の設備投資の拡大を掲げている。官民対話で重点的に取り組むべき分野や規制緩和策などについて具体的に意見を交わす。
会合で首相は「戦後最大の名目国内総生産(GDP)600兆円を実現するため、日本経済の生産性を抜本的に高める革命に取り組んでいく」と表明。「企業収益が過去最高の今こそ設備、技術、人材に積極果敢に投資していただく」と述べた。「未来への投資を拡大する上で制度的に壁があれば取り除く。聖域を設けずこの場で決めていく」とも強調した。
政府は、企業収益が過去最高水準にあるのに、設備投資の増加スピードが鈍いとみる。政労使会議が賃上げに一定の効果があったように、設備投資も官民対話の場で地ならしを進める考えだ。
官民対話は来春まで毎月開催する。首相のほか、麻生副総理・財務相、甘利経済財政・再生相、菅官房長官、林経済産業相、加藤一億総活躍相と企業の経営者、有識者で構成。毎回、テーマを変える予定で、幅広い業界代表者から要望を聞く。必要に応じてほかの閣僚も出席する。
甘利氏は官民対話の場で、法人実効税率の数年内に20%台という目標の前倒しに関する要望があった場合、「財政再建との関係でできるものはやっていきたい」と前向きな認識を示す。規制緩和や行政手続きのワンストップ化も「具体的な要望があれば、できるものならば即刻やる」と強調している。
筆者コメント
前記事1264のコメントで下記述べた。
“筆者は第3次安倍改造内閣では愈々本腰を入れてアベノミクス第3矢である成長戦略の目玉政策である農協改革や雇用改革のような痛みを伴う方針を打ち出すものと大いに期待していた。
来夏に参院選を控え、業界団体などの反発を招く新たな岩盤規制改革を避けるなら、アベノミクスはじり貧で、成長はもちろん株価や内閣支持率にも跳ね返る。アベノミクスを大いに応援してきた筆者としては全くの期待外れ(がっかり)である。”
本記事では安倍政権が賃上げに続く景気回復策として官民対話の場で国内企業の設備投資の拡大を計り、安倍首相は「官民会話の場で重点的に取り組む分野を決め、規制改革については聖域を設けず実行する」と強調したことが分かった。
昨13日夜のBSフジTV番組「プライムニュース」に登場した甘利経財相はTPP大筋合意につき種々説明したが、本記事についても官民対話について「アベノミクスによる円安、株高効果で輸出産業を主体とする大企業に過去最高の企業収益が生まれ300兆円もの内部留保があるのに、設備投資のスピードが鈍い。今こそ長期のデフレで沈滞した設備、技術、人材に積極果敢に投資し日本経済の生産性を抜本的に高めるべきだ」と強調した。
筆者も全く同感で、上記“期待外れ(がっかり)”を撤回する。
No.1266 TPP攻めの開国(245) 大筋合意その7
10月9日付け日経新聞より甘利経政相
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月12日付け1265(244)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年10月12日付け1265(244)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
前記事1258~1263では10月6日付け日経新聞に6面に亘り大々的に掲載され膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を「TPP攻めの開国 大筋合意その1~6」で逐次掲載した。
前記事1265では10月9日付け日経新聞に「TPP対策本部発足 基本方針決定 首相“攻めの農業に転換”」と題する記事、10月10日付け日経新聞に「TPP対策、年内に 森山農相“コメ備蓄見直す”」と題する記事を掲載した。
10月9日付け日経新聞にTPP大筋合意の最大の功労者である甘利経済政・再生相とのインタビュー結果が掲載された。農業改革やアベノミクスについても網羅された包括的な内容であり、「中国巻き込む努力必要」と題する坂口記者の解説と共に下記し筆者のコメントを述べる。
記事:TPP、地域安保に寄与 甘利経財相に聞く 農業、対策費ありきでない/東南ア、参加希望いくつも
甘利経済財政・再生相は8日の日本経済新聞のインタビューで、TPP大筋合意は経済成長を促す効果とともにアジア太平洋地域の安全保障に貢献すると強調した。国内の農業対策については、打撃を受ける農家への損失補填に力点を置いた過去の対策にとらわれず、成長産業への転換につながる政策を重視する考えを示した。
――TPPは日本にどんな利点があるか。
「12カ国のバリュー・チェーン(価値の連鎖)ができる。それを前提にモノと人と資本が自由に行き交う。新しい商取引への対応もできる。その障害となっているものを外し、問題があれば協議する仕組みができた。TPPが経済成長にプラスにならないわけがない」
「東アジアは非常に不安定な地域だ。中国の覇権があり、北朝鮮があり、そういうなかに米国のプレゼンスが経済を通じて直接絡んでくる。TPPは経済の話だが、これは間接的な安全保障で地域の安定に貢献する。やがて中国も仲間に入らざるをえなくなってくる」
小国もメリット
――韓国も参加を検討している。
「東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国でも入りたいという意思表示を非公式で言っている国がいくつもある。早く入れてくれという順番待ちが始まっている。米国以外の国は、日本がTPP交渉に参加してくれて本当によかったと言っている。ライオンとウサギの間にトラが入り、ライオンにしっかりものを言う。そうすることによって経済小国にも大国にもメリットのある内容になっていった」
――新たな参加国にあわせてルールを見直すことはないのか。
「基本は12カ国がつくったルールだ。新しく入る国の事情に配慮して変えることはない」
「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、協議が遅滞している枠組みを動かす潤滑油にもなる。中国も国有企業を民営化していく際、TPPのルールを無視して独自型という具合にはいかなくなる。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉も加速していくだろう」
飛躍のツール
――日本ではいつTPP協定案の国会承認をめざすのか。
「できるだけ直近の国会に出していく。来年1月からの通常国会で正々堂々と審議するのがいいのではないか」
――自民党内には来年夏の参院選で農業票離れを懸念する声も多い。
「TPPは後ろめたい気持ちでやるわけではない。農業が一気に飛躍していくツールだ。日本の農業は成長産業で、TPPはそのための環境整備だということを理解してもらわないといけない」
――国内農業対策の予算規模は1990年代のウルグアイ・ラウンド対策事業費約6兆円がたたき台になるのか。
「ウルグアイ・ラウンドは外国産の農産物に攻められるから国内農業に補填するものだった。TPPは魅力ある日本の1次産業の強みを伸ばし成長産業にしていくためにある。基本姿勢が違う」
「金額の規模は政府の対策本部で決める。農産品はTPPが発効してから長い年数をかけて段階的に関税を下げる。今の時点でこれだけ対策費が必要というのではなく、農業をどのように強化していくのかを綿密に考えて予算を組んでいく。額ありきではない」
――今後のアベノミクスで必要なことは。
「企業収益は最高なのに、設備投資はまだ一歩踏み出せていない。だからこそ、これからはじまる官民対話を通じて踏み出してほしい。踏み出さないと内部留保で食いつないでいくだけになる」
――岩盤規制改革はどの分野に切り込むのか。
「官民対話を通じて実体経済の現場から意見が出てくるのが適切だ。政府もやることはやる。たとえば規制緩和でなにかしてくれということは、できることは即決する。現場の声にはすぐに応えたい。だから思い切って踏み出してほしい」
解説:中国巻き込む努力必要
日米が核の環太平洋経済連携協定(TPP)は新たな自由貿易圏による経済秩序をアジア太平洋地域に生み出すだけではない。覇権をむき出しにする中国をけん制する安全保障の効果が大きい。
TPPは世界経済の約4割を占める12カ国の枠組み。将来、中国も加わり依存関係を深めれば、軍事的衝突を未然に防ぐ「間接的な安全保障」(甘利明経済財政・再生相)につながる。それがTPPの本質だ。
日本政府が呼び水とみるのが、マレーシアとベトナムのTPP参加だ。中国と同じように、国有企業が自国経済を支えているからだ。
外務省幹部は「国営企業に頼るだけではいずれ自国経済が行き詰まることは、中国もわかっている。TPPは中国の経済改革を刺激する」との見方を示す。まずはTPPの魅力を世界に伝え、韓国やフィリピンなど第2陣以降の加盟国を増やす努力が必要になる。
筆者コメント
下記記事699と本記事の甘利大臣の写真を見比べればお分かりの通り、TPP交渉前に黒かった同氏の頭髪が交渉後には真っ白に変わってしまったことが、交渉に当たっての担当大臣としてのプレシャーが如何にきついものであったか物語っている。
記事699 http://fo-jac.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06
TPP大筋合意については、新聞・TVなどのマスコミが連日大々的に取り上げたが、本記事の甘利大臣のインタビューでは短いやりとりでポイントを極めて上手く説明している。
前記事1263でもコメントしたが、改めて甘利大臣の大筋合意に向けての多大のご努力に対し敬意を表すると共に、これからも協定の署名、議会批准、発効まで先が長く、即時に始めねばならぬTPPの成果を挙げるための種々の経済財政・再生政策の遂行に向け体調管理にも万全を期し頑張っていただきたい。
No.1265 TPP攻めの開国(244)と農業改革(新1)
日経新聞10月9日付けよりTPP総合対策本部の初会合であいさつする安倍首相(9日午前、首相官邸)と10日付けより森山新農相
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月10日付け1263(243)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでのTPPの閣僚会合の進展につき前記事10月2日付け1253から連載してきたが、日本時間10月5日未明に遂に大筋合意に達した。
前記事1258~1263では10月6日付け日経新聞に6面に亘り大々的に掲載され膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を「TPP攻めの開国 大筋合意その1~6」で逐次掲載した。
TPP攻めの開国と農業政策シリーズは昨年2月22日付け記事906(112)から本年8月29日付け1239(231)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載してきたが、農業改革のシリーズ番号をつけていなかったので、TPP大筋合意を契機に本号を(新1)とし新シリーズ番号をつけることとする。
10月9日付け日経新聞に「TPP対策本部発足 基本方針決定 首相“攻めの農業に転換”」と題する記事、10月10日付け日経新聞に「TPP対策、年内に 森山農相“コメ備蓄見直す”」と題する記事が掲載されたので下記する。
記事1:TPP対策本部発足 基本方針決定 首相“攻めの農業に転換”
政府は9日午前、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を踏まえ、全閣僚で構成するTPP総合対策本部の初会合を首相官邸で開いた。(1)TPPの活用による新たな市場の開拓(2)新産業の創出と生産性向上(3)国民の不安払拭と農業対策――の基本方針を決めた。TPPで打撃を受ける農業など総合的な政策大綱を年内にもまとめる方針だ。
安倍首相は初会合で「TPPを真に経済再生、地方創生に直結させたい。政府一丸となって総合的な政策を策定する」と強調。「国民の不安に寄り添い、不安を払拭していく。合意内容を丁寧に説明したい」と述べた。
会合では農水分野の基本方針も確認。農業の体質強化やコメ・麦など重要5品目の競争力向上のための対策を検討する。首相は「守る農業から攻めの農業に転換し、若い人が夢を持てるようにしたい」と力説した。
甘利経済財政・再生相は閣議後の記者会見で「経済財政諮問会議などとも連携し、できるだけ早く対策をまとめたい」と語った。対策に必要な予算規模については「この時点で規模感は分からない」と述べるにとどめた。基本方針では経費に関して「予算編成過程で検討する」とした。
対策本部の会合後、政府は首相を本部長に農業対策を議論する農林水産業・地域の活力創造本部の会合も開いた。
今回の大筋合意では、農林水産品の多くで関税撤廃が決まった。
記事2:TPP対策、年内に 森山農相“コメ備蓄見直す”
森山農相は9日、日本経済新聞などとのインタビューで、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けた国内対策について、年内の策定をめざす考えを示した。国内のコメ需給を維持するため政府備蓄を見直す方針を表明した。一方、政府は同日開いたTPP総合対策本部の初会合で、コメや小麦など重要5品目への支援を強化する基本方針を確認した。具体策は今後詰める。
森山農相は対策について年内のとりまとめが「一つの目標だ」と述べ、年末に向け詳細を詰める考えを明らかにした。必要な予算の手当てについては「今年度の補正予算か来年度の当初予算でやる」と話した。「毎年の予算で対応できるものがあるかもしれない」とも述べ、一部の対策が半ば恒久的な措置となる可能性も示唆した。
コメはTPP合意で、米豪から年7万8400トンの無関税の輸入枠を新設する。農相は「この量は国内備蓄の見直しで対応しなければならない」と指摘。輸入が増えた分を政府が追加的に買い上げることで需給が保たれるため「コメ価格に影響を与えることはない」と強調した。
政府は現在100万トンを適正在庫として備蓄している。20万トン台半ばを備蓄用に買い上げ、5年経た古いコメは飼料米として放出している。TPP発効後は、買い上げ量を30万トン強に増やして、飼料米として放出するまでの期間も短くする。政府が買い上げる量が膨らむ結果、市場でのだぶつきが減る。
買い上げ量の増加で、財政への負担は増える見通し。ただ米国産コメの入札実績が不調なことから、輸入枠が全て埋まらない可能性もある。
一方、TPP総合対策本部は全閣僚が出席し、農業分野を中心に中堅・中小企業のアジア地域での市場開拓などを含む幅広い政策対応を検討していく。
安倍首相は初会合で農業対策について「万全の対策を講じていく考えだ」と述べた。
農業分野では生産性向上や輸出促進など「攻めの姿勢」を強めるほか、コメや麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の「重要5品目対策」については支援を手厚くするなどの基本方針案をまとめた。
コメの備蓄強化はこの一環だ。牛・豚肉では、収益が生産コストを下回った場合に、国が一部拠出する積立金などで所得補填する経営安定対策の拡充などを検討する。
小麦や砂糖では、製粉・精糖工場の規模拡大で競争力を強めるため業界の再編・合理化を後押しする。政府として補助金などを出すことも視野に入れる。今後はまず内閣官房を中心にTPP合意による影響を分野ごとに試算。これを踏まえて、具体策の策定に入る。
No.1264 安倍政権アベノミクス(143)
10月8日付け日経新聞より
記念写真に納まる安倍首相と新閣僚ら(7日、首相官邸)
2013年4月18日付け記事709(8)以降本年9月25日付け1252(158)まで“アベノミクスの第3の矢”である“成長戦略”に集中して掲載、農業の岩盤規制打破にかかる「TPP攻めの開国と農業改革」シリーズを掲載してきた。
前記事1249、1250では9月25日付け日経新聞より「出生率1.8へ子育て支援 介護離職ゼロめざす 首相が総裁再選会見 2020年へ“新3本の矢”」「首相“新3本の矢”発表 参院選にらみ経済重視 かすむ成長戦略」と題する2記事と「問われる具体策」と題する解説を掲載し、1250で筆者のコメントを述べた。
前記事1252では9月28日付け日経新聞夕刊より「貧困撲滅へ最大限努力 首相国連演説、目標採択を歓迎」、9月30日付け日経新聞より「首相“一にも二にも三にも経済” NYで講演 企業統治強化、日本投資促す」と題する2記事が掲載されたので下記し筆者のコメントを述べた。
10月7日に第3次安倍改造内閣が発足した。
本号より本シリーズのタイトルから「我ら日本人」を外し「安倍政権のアベノミクス」のみとしNo.143から再開する。
10月8日付け日経新聞に「安倍改造内閣が発足“経済最優先”再び 一億総活躍へ年内に対策 初入閣9人、主軸続投」と題する記事と「“新3本の矢”具体化急務 安倍改造内閣GDP600兆円」・財政再建の両立 経済再生待ったなし」と題する同紙瀬能編集委員の記事が掲載されたので下記し筆者のコメントを述べる。
記事1:冒頭箇所抜粋
第3次安倍改造内閣が7日、皇居での認証式を経て発足した。安倍晋三首相は首相官邸で記者会見し「これからも経済最優先だ。経済政策を一層強化していかなければならない」と述べ、主軸の閣僚を続投させ経済重視の政権運営を再び強める考えを強調した。新たに掲げた「一億総活躍社会」の実現のため、年内に具体策をまとめる意向を示した。
記事2:“新3本の矢”具体化急務 安倍改造内閣GDP600兆円」・財政再建の両立 経済再生待ったなし
安倍政権の経済政策「アベノミクス」が第2段階に入る。経済に子育て支援や社会保障を加えた「新3本の矢」だが、いちばん問われるのは首相が目標に掲げた600兆円の名目国内総生産(GDP)の達成と財政健全化を両立する具体策だ。日本経済再生は時間との競争になる。(1面参照)
2014年度の日本の名目GDPは490兆円だった。なぜ600兆円が目標なのか。名目経済成長率が3%以上と高めで推移した場合、21年度にGDPが600兆円を超えるという内閣府の中長期試算を参考にしたのだろう。
エコノミストの間では「達成には少なくとも10年かかる」(英調査会社キャピタル・エコノミクス)との見方があるが、デフレから完全に脱却して日本経済のパイを大きくしようという発想は間違っていない。問題はそのための具体策が伴っていないことだ。
人口減少が続くなか、日本経済の実力である潜在成長率はわずか「0%台前半ないし半ば程度」(日銀)。経済の生産性を高める構造改革が急務なのはこのためだ。アベノミクス第1弾の3本目の矢である成長戦略を再起動すべきだ。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を追い風に、農業・漁業や労働といった「岩盤規制」の改革を進める。企業統治の一段の改革や、法人実効税率を20%台に下げる道筋をつくる。そんな基本戦略を深掘りする必要がある。
同時に、先進国で最悪の財政を立て直すことから逃げてはいけない。少子化対策の財源を確保しながら、医療など社会保障を徹底的に効率化するのは待ったなしだ。
時間はあるようであまりない。異次元の金融緩和の下で日銀は市場から国債を大量に購入し続け、すでに全体の3割超を保有しているもよう。非常時の政策を無制限に続けられるわけがなく「今後2~3年がアベノミクスの勝負」とみずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは語る。
世界はいま中国経済減速の影におびえる。08年のリーマン危機、11~12年のユーロ危機、そして「15年の新興市場危機という3部作のうち、3番目の初期段階に入っている可能性がある」(英イングランド銀行のチーフエコノミスト、ハルデーン理事)。
中国の成長率が2年間で2%落ち込むと日本経済は年0.5~0.6%程度低下しかねない、と経済協力開発機構(OECD)は試算する。日本の景気後退局面入りの可能性すら指摘されるなか、アベノミクス第2弾は出発点から正念場を迎えている。
安倍政権は世界経済の急減速という有事への備えを頭の片隅におきつつ、まずは経済成長と財政健全化を両立させる改革をかつてないスピードで断行すべきだ。
新3本の矢である強い経済、子育て支援、社会保障は、政策の具体策となる「矢」というより目標としての「的」と言い換えた方がいい。やるべきは抜本改革を意味する「真の矢」を放ち続けることだ。
筆者コメント
前記事1250では下記述べた。
”筆者は首相が愈々本腰を入れてアベノミクス第3矢である成長戦略の目玉政策である農協改革や雇用改革のような痛みを伴う方針を打ち出すものと大いに期待していた。
ところが、上記記事の通り新「3本の矢」に成長戦略という言葉はない。1本目の矢の「希望を生み出す強い経済」の説明で「生産性革命」「投資や人材を日本に呼び込む」と語った。成長戦略はそこに入るのだろうが、それ以上の説明はなかった。
来夏に参院選を控え、業界団体などの反発を招く新たな岩盤規制改革を避けるなら、アベノミクスはじり貧で、成長はもちろん株価や内閣支持率にも跳ね返る。本ブログでアベノミクスを大いに応援してきた筆者としては全くの期待外れ(がっかり)である。”
上記記事末尾記載の下記に全く同感である。
第3次安倍改造内閣は世界経済の急減速という有事への備えを頭の片隅におきつつ、まずは経済成長と財政健全化を両立させる改革をかつてないスピードで断行すべきだ。
新3本の矢である強い経済、子育て支援、社会保障は、政策の具体策となる「矢」というより目標としての「的」と言い換えた方がいい。やるべきは抜本改革を意味する「真の矢」を放ち続けることだ。
No.1263 TPP攻めの開国(243) 大筋合意その6
10月6日付け日経新聞より
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月9日付け1262(242)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年8月29日付け1239(231)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
本シリーズでは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでのTPPの閣僚会合の進展につき前記事10月2日付け1253から連載してきたが、日本時間10月5日未明に遂に大筋合意に達した。
本号では前記事1258から「大筋合意その1~5(各記事のタイトルは前記事1262に記載)」で連載してきた膨大な10月6日付け日経新聞記事の総まとめの意味で相当長くはなるが「TPPテコに世界経済の活性化を」と題する社説を下記し、筆者のコメントを述べる。
歴史的な成果だ。日米を含む12カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、大筋合意に達した。
12カ国の経済規模は世界の4割弱を占める。世界最大の自由貿易圏をつくる道筋ができた。日本をはじめ各国はこれにあわせて国内の構造改革を進め、経済の活性化につなげるべきだ。
約5年半に及んだ交渉は、先月30日から開いた閣僚会合で実質的に妥結した。交渉が年単位で漂流するおそれもあっただけに、各国が歩み寄った意義は大きい。
貿易・投資の新ルール
最後まで難航したのは、医薬品のデータ保護期間の扱いだ。製薬企業を抱える米国が12年を主張したのに対し、オーストラリアは5年を求めていた。結論として8年で折り合った。
ニュージーランドが求めていた乳製品の市場開放については、日米などが受け入れた。
自動車の関税撤廃ルールでは、一定の割合の部品をTPP域内でつくれば関税撤廃の条件を満たすという「原産地規則」で、日本とメキシコなどが合意した。
通商協定は、各国が互譲の精神で目先の痛みを受け入れ、長い目でより大きな自由貿易の果実を得るようにするのが鉄則だ。今回の決着は全体として均衡のとれた内容といえるのではないか。
TPPの意義は、高い水準の貿易・投資のルールにある。物品の関税撤廃・削減だけでなく、投資、サービス、知的財産権など範囲は多岐にわたる。環境、労働、国有企業といった分野も含む21世紀型の協定といえる。
域内のヒト、カネ、モノ、サービスが自由に行き来しやすくなることで、域内の国内総生産(GDP)を0.9%分、日本のGDPを2%分押し上げる効果があるとの試算もある。
日本企業の利点は大きい。例えば日本からエンジンをマレーシアに輸出し、そこで組み立てた最終製品を米国に輸出する。そんな柔軟な供給網を構築しやすくなる。
サービス業でも日本のコンビニエンスストアがマレーシアやベトナムに進出しやすくなる。日本企業は攻めの経営でさらなるグローバル戦略に打って出るときだ。
農産品の分野では、日本は米国産とオーストラリア産のコメの輸入枠を設けるほか、牛肉や豚肉の関税率を大幅に引き下げる。
日本の消費者にとっては、関税の削減・撤廃により外国産の農産品を今より安く手に入れやすくなる。一方で米国も和牛などにかかる関税を将来撤廃するため、日本からの輸出増加も期待できる。
今後の焦点は国内の農業対策に移る。TPP締結で国内の農林水産物の生産額は3兆円程度減少する、と日本政府は試算している。市場開放の影響を緩和するための一定の対策は必要だ。
しかし、1994年にまとめた関税及び貿易に関する一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド対策では事業費ベースで6兆円超を投じたものの、大半は農業土木に費やされ、農業の体質強化につながらなかったとの指摘は多い。
安易なバラマキは慎み、コメの生産調整(減反)廃止や、農協改革との相乗効果で農業の生産性を高める対策にお金を重点配分すべきだ。
歴史上、TPPは93年に妥結したウルグアイ・ラウンド以来の大きな通商協定となる。
自由貿易圏を広げよ
欧州連合(EU)は米国との間で環大西洋貿易投資協定(TTIP)を交渉している一方で、日本とは経済連携協定(EPA)交渉を始めている。日本はTPP合意をテコに、EUとの交渉妥結を急ぐべきだ。
さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加の21カ国・地域が自由貿易圏をつくる構想がある。TPPはその一里塚だ。
TPP、日中インドを含む16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓自由貿易協定(FTA)のすべての交渉に参加しているのは日本だけだ。この地域の自由貿易圏づくりを主導してほしい。
中国をはじめとする新興国経済が減速し、世界経済の下振れリスクが強まっている。そんな時こそ保護主義に対抗し、自由貿易を通じて世界経済を下支えしようとする努力がきわめて重要になる。
大事なのはTPPを経済の変革につなげることだ。企業は競争を通じ収益力を磨き、個人も海外のサービスや人材と触れあい研さんを積む。そんな努力を重ねれば、アジア太平洋地域が世界経済のけん引役であり続けるだろう。
筆者コメント
筆者は上記社説に全面的に同感である。
前記事1257(大筋合意の1日前)で述べたコメントをbrush-upして下記する。
冒頭にもある通り、本シリーズは2013年4月6日付けTPP交渉対策本部発足にかかる記事699(61)から前記事10月9日付け1262(243)まで2年半で563もの記事を掲載してきた。
シリーズ1号の「TPP攻めの開国」(1)は2011年11月12日に掲載したので、記事1262までほぼ4年間に亘り掲載してきたことになる。下記の両前記事を再度ご覧いただきたい。
記事422 http://fo-jac.blog.so-net.ne.jp/2011-11-12
記事699 http://fo-jac.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06
先ずは、最後の土壇場で議長国米国が本気を出し大筋合意に達したことを歓迎し、日本は遅れて2013年7月に(12ケ国中11番目として)交渉に参加したにも拘わらず長丁場の交渉での担当の甘利経財相、鶴岡・大江首席交渉官をはじめとする関係者の多大の努力に対し敬意を表したい。特に、議長国米国フロマン代表に対し甘利経財相が今回最の最終会合で強くはっぱをかけ指導力を発揮したのは流石である。日米の連携によるTPPの本筋合意は中國に対する安全保障上の効果大であり、中国が主導するAIIBにも影響するところ大であろう。
これからも協定署名、各国の議会批准(2017年?)、発効(2018年?)まで紆余曲折があろう故、本シリーズを続け、更なるコメントを述べたい。
No.1262 TPP攻めの開国(242)大筋合意その5
10月6日付け日経新聞より
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月9日付け1261(241)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年8月29日付け1239(231)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
本シリーズでは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでのTPPの閣僚会合の進展につき前記事10月2日付け1253から連載してきたが、日本時間10月5日未明に遂に大筋合意に達した。
10月6日付け日経新聞に6面に亘り大々的に掲載され膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を逐次掲載することとし、前記事1258ー/その1で「TPP 大筋合意 12カ国、31分野で協定 関税撤廃・知財まで網羅」と題する記事1を、1259/その2で「環太平洋 成長への決意」と題する解説を、1260/その3で「安保と両輪、中国けん制 市場開放促すカードに“アベノミクスの成果”強調」と題する記事2を、1261/その4で「メガFTAに追い風 日本、TPPテコに対欧州・RCEPに照準」と題する記事3を掲載した。
本号では「米で、アジア軸足へ一歩 TPP実現、国内に壁 立法手続き、予断許さず」と題する同紙アトランタより矢沢記者の記事4と「中国は“新シルクロード”アジアに自国中心経済圏」と題する同紙 北京大越記者の記事5を下記する。
記事4:米で、アジア軸足へ一歩 TPP実現、国内に壁 立法手続き、予断許さず
七転八倒の末に環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意にこぎ着けた。米オバマ政権は台頭著しい中国への対抗軸となる外交・経済のアジア軸足(ピボット)戦略実現へ歴史的な一歩を踏み出す。だが、知的財産権保護などを巡る妥協点を巡り米連邦議会には強い不満が鬱屈しており、署名から協定批准に至る米国内の入り組んだ立法手続きは予断を許さない。TPP発効への道のりは「バンピー(悪路)になる」(米政府筋)との不安も濃い。(1面参照)
3日、早朝。23回目の結婚記念日をミシェル夫人らとくつろぐオバマ氏にアトランタから電話をかけた米通商代表部(USTR)のフロマン代表は祝いの言葉もそこそこに手早く要件を伝えた。「日程をさらに1日延ばし、なんとしても交渉を終わらせたい」
米側の事前調整の遅れから11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議前に決着を先送りするしかないとの声もあったが、カナダの総選挙をはさみリスクが高い。大統領に通商交渉権限を一時委任する貿易促進権限(TPA)法に沿って合意から正式署名までは90日間の経過期間をおくため、今でさえ署名はオバマ氏の任期最終年である2016年1月以降になり政治日程も綱渡りだ。背水のフロマン氏は「やっと戦闘モード」(日本政府関係者)に入った。
TPPを背後で突き動かしたのは中国だ。「『あの光景』をみれば、中国の巨大な経済力に対抗できるのはTPPしかないのを実感する」。ある米国務省高官は最近、先の習近平・中国国家主席が訪米の第一歩として西海岸を訪問した際の印象を語った。会談に駆けつけたのはアップルのティム・クック氏、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏ら。米著名経営者がそろい踏みで膨大な購買力にひれ伏す構図は、「中国以外の首脳訪米ではあり得ない」と同高官。高成長に陰りが見えるとはいえ中国市場の吸引力は衰えない。「このままでは中国が世界の通商ルールを書き換える」。オバマ氏が繰り返すように、アジアに日米同盟を基軸とした高度な自由貿易圏の橋頭堡(きょうとうほ)を構築するためのTPP構想は、米国内への通商・雇用のみならず、中国抑止という地政学上も死活的に重要な利益をもたらすレガシー(遺産)になりうる。
だがオバマ政権にとって大筋合意を立法化するという険しい作業はこれからだ。米国内法制に沿って今から正式署名まではおよそ3カ月の経過期間が必要で、実施法案提出は来年2月以降だ。今年5月から40日以上におよぶ激しい攻防の末にTPA法を僅差で可決したことで与野党内に大きなしこりを残しており、TPAを支持した共和党議員の中にもTPP批准への反対をちらつかせる向きがある。
大筋合意ではオーストラリアなどと妥協の産物として新薬データの保護期間は実質8年としたが、12年と定める米国内法との差異が大きく「間違いなく審議紛糾の火だね」(米政府関係者)だ。新薬以外にも「マレーシアの人身売買問題、為替条項など米議会の攻撃材料は山積みで、オバマ氏の任期中に批准できるかは予断を許さない」(米政府関係者)。協定案の棚ざらしに危機感を強める米商工会議所幹部も4日、「5日からただちに会議所内の議会対策チームを動かし、慎重派の共和議員を重点に説得運動を展開する」と語った。
なお分厚いカベの米議会を前にフロマン氏らも合意の高揚感にひたる余裕はない。
記事5:中国は「新シルクロード」 アジアに自国中心経済圏
米オバマ政権が中国抜きで進める環太平洋経済連携協定(TPP)に対し、中国の習近平指導部は対抗策を練ってきた。港湾、鉄道、発電施設などインフラ投資を強化し、アジアに自国中心の経済圏をつくる一帯一路(新シルクロード)構想だ。
一帯一路は、中国から欧州へ抜ける陸路と、中国沿岸から中東、アフリカに至る海路の2ルートで経済圏を築く国家戦略だ。米国主導のTPPがアジアの貿易や投資のルールの統一をめざすのに対抗し、習指導部は「インフラ投資というアジアの実需」(中国社会科学院の李向陽氏)を取り込む構想に乗り出した。
日本がTPP交渉に正式に合流した2013年、中国はTPP参加の是非を検討すると唐突に表明し、「中国包囲網」への焦りを募らせた。だが、その後のTPP交渉の難航をみて、最近では商務省高官が「TPPの早期妥結を祈る。米国政府が中国との投資協定交渉に人員を割くことができるからだ」と発言する余裕もみせ始めている。
TPP参加国が詰めの協議を続けた3日、国慶節(建国記念日)の大型連休中の中国では、国営中央テレビの有名女性キャスターがアジア各国を一帯一路の関係国として現地から紹介する特別ニュース番組を流し始めた。アジアの経済圏を巡る米中の主導権争いはすでに本格化している。
次号記事に続く。
No.1261 TPP攻めの開国(241)大筋合意その4
10月6日付け日経新聞より
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月7日付け1260(241)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年8月29日付け1239(231)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
本シリーズでは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでのTPPの閣僚会合の進展につき前記事10月2日付け1253から連載してきたが、日本時間10月5日未明に遂に大筋合意に達した。
10月6日付け日経新聞に6面に亘り大々的に掲載され膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を逐次掲載することとし、前記事1258ー/その1で「TPP 大筋合意 12カ国、31分野で協定 関税撤廃・知財まで網羅」と題する記事1を、1259/その2で「環太平洋 成長への決意」と題する解説、1260/その3で「安保と両輪、中国けん制 市場開放促すカードに“アベノミクスの成果”強調」と題する記事2を掲載した。
本号では「メガFTAに追い風 日本、TPPテコに対欧州・RCEPに照準」と題する記事3を下記する。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意に達したことで、経済規模の大きい自由貿易協定(メガFTA)作りが世界で加速しそうだ。政府はTPPの妥結をテコに、中国などアジア諸国にもさらなる市場開放を迫りたい考え。FTA交渉で日本は出遅れてきたが、TPPをテコにメガFTAが実現すれば日本企業の競争環境も改善する。
「TPPの妥結は欧州や中国・韓国との通商交渉を一変させる可能性がある」。経済産業省の幹部はこう語る。
100カ国以上が加盟する世界貿易機関(WTO)による通商ルール作りは2000年代に入り停滞。各国は迅速に締結できる2国間のFTA交渉に注力してきた。だが、2国間FTAでは多くの国をまたぐ企業のサプライチェーン(供給網)に対応しきれない。地域を絞ったメガFTAが通商交渉の焦点になっており、米国はEUとも環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉を進める。TPPはメガFTAの試金石と位置づけられてきた。
日本はTPPに加え、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)、日中韓FTA、日中印など計16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を進める。いずれも13年に交渉が始まったが、この半年ほどはTPP交渉が停滞し日欧EPAやRCEPも前に進まない悪循環に陥っていた。
慶応大学の渡辺教授は「日本はTPPでできたルールをひな型に、日中韓FTAやRCEPに落とし込むことを目指す」と話す。日米はTPPに参加する12カ国以外に、タイ、フィリピン、韓国などにも参加を促し、中国に交渉の推進を促していくとみられる。
メガFTAは政府の成長戦略の柱でもある。FTAを結んだ国・地域との貿易額が全体に占める比率は現在2割程度。政府は18年に70%まで引き上げる目標を掲げる。これはTPP、日欧EPA、RCEPがすべてまとまってようやく達成できる水準でTPP妥結はその第一歩といえる
自動車や電機産業で競合する韓国は00年代に入り米国などと2国間FTAを締結。貿易額に占めるFTA締結国・地域の比率が41%に達する。米国や欧州向けの輸出で日本企業は不利な競争を強いられており、市場占有率(シェア)を奪われる事態も起きている。TPPの合意は日本企業の競争環境の改善に向けた一里塚にもなる。
特に日本が注目するのは中国の対応だ。TPPは国有企業改革、知的財産保護、投資自由化などで高水準のルールを盛り込んだ。いずれも中国に進出した外資企業が悩まされる問題ばかりで「明らかに中国を意識した内容」(経産省幹部)となっている。
次号記事に続く。
No.1260 TPP攻めの開国(241)大筋合意その3
10月6日付け日経新聞より
2013年4月6日のTPP交渉対策本部発足に伴い、699(61)から本年10月7日付け1259(240)までTPP関連記事をシリーズで掲載している。本年4月6日付け記事1157よりアジアインフラ投資銀行(AIIB)にかかる記事をシリーズで掲載している。
また、昨年2月22日付けより記事906(112)から本年8月29日付け1239(231)まで減反政策廃止、農協改革などの農業改革にかかる記事をシリーズで掲載している。
本シリーズでは9月30日から始まり、会期を大幅に延長して6日簡に亘った米国アトランタでのTPPの閣僚会合の進展につき前記事10月2日付け1253から連載してきたが、日本時間10月5日未明に遂に大筋合意に達した。
10月6日付け日経新聞に6面に亘り大々的に掲載され膨大な関連記事の中から本ブログのテーマであるアベノミクス成長戦略に関連する記事を逐次掲載することとし、前記事1258/その1で「TPP 大筋合意 12カ国、31分野で協定 関税撤廃・知財まで網羅」と題する記事1を、1259/その2で「環太平洋 成長への決意」と題する解説を掲載した。
ない。
本号では「安保と両輪、中国けん制 市場開放促すカードに“アベノミクスの成果”強調」と題する同紙アトランタより坂口記者の記事2を下記する。
安倍首相は成長戦略の柱と位置づける環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意したことで、自らの経済政策「アベノミクス」の追い風になると期待している。日米を核としたアジア太平洋地域で新たな経済秩序をつくり、安全保障と経済の両面で日米の連携を強めて中国をけん制する戦略だ。
甘利経済財政・再生相は5日(日本時間同日夜)、米アトランタでの記者会見で「われわれのルールが世界に広がるに従い、相互依存関係が深まり、間接的な安保、地域の連帯、平和につながる重要な試みだ」と強調した。「高いレベルのルールが世界のスタンダードになっていく」とも語った。
第2次政権発足から間もない2013年3月にTPPへの参加を表明してから約2年半。首相が「国家百年の計」と繰り返してきたアベノミクスの柱の一つがようやく成就した。アベノミクスの成果の指標となっていた株価が下落基調にあるなか「経済面での大きな成果」(首相周辺)と位置付ける。首相は6日午前に首相官邸で記者会見し、成果をアピールする。
通商のルールづくりを主導して依存関係を深めれば安保のつながりも強まる――。安倍政権にとって世界経済の4割近くを占める12カ国の自由貿易圏の実現は、安保面での成果も大きい。軍事力の増強や海洋進出を強める中国を意識した包囲網づくりの一環でもある。
明文化したルールに基づく「法の支配」の経済圏に中国を巻き込む。その布石となったのがマレーシアとベトナムのTPP参加だ。中国と同じように両国は国有企業が自国経済を支える。TPPに国有企業の優遇措置を廃止・縮小する措置を盛り込んだ。外務省幹部は「将来的に中国の参加を見越せば市場開放を促すカードになる」と話す。
軍事面では、日米両政府は4月に自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、平時から有事まで切れ目のない協力の体制を整えた。安倍政権はその裏付けとなる安全保障関連法を9月に成立させ、物品役務相互提供協定(ACSA)の改定に向けた協議も本格化させる。
日米はTPPに中国を引っ張り込むことで、地域の安定につなげたいとの思惑もある。日本政府関係者は「経済関係の強化は、軍事衝突を未然に防ぐ抑止効果に役立つ」と指摘する。
交渉参加を検討している韓国とは、2国間関係で日本側が切り札を持つことになる。韓国が正式に交渉への参加を表明した場合、TPP参加12カ国で認めるかどうかを決める運びになる。韓国はすでに日本を除く11カ国との事前協議を終えている。日本は韓国に自動車や家電など工業品の関税引き下げを要求する構えだが、韓国にとってはハードルが高く、折り合う見通しは立っていない。
次号記事に続く。
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