コトラーの新刊は
マーケティング本ではない?
マーケティング界の巨人、フィリップ・コトラーの新刊は、資本主義というシステムがもたらす課題を主題にしている。書名は『資本主義に希望はある』。マーケティング学者はなぜ資本主義の問題に切り込むのか。
コトラーの新刊はマーケティング本ではない?
先日、東京で開催されたワールドマーケティングサミットに出席するため、フィリップ・コトラーが来日されました。コトラー教授は、言わずと知れたマーケティング論の第一人者で、『マーケティング・マネジメント』を代表に50冊を超える著作があります。優れたマーケティングの事例や、マーケティング理論など、コトラーが著作で紹介することで、初めて世界的に認められると言っていいほど多大な信頼を集めています。
そのコトラーが久しぶりに単著を刊行しましたが、書名は『資本主義に希望はある』。これは紛れもなく、現在の経済社会の問題をテーマにした本で、マーケティング本ではありません。本書では貧困、経済格差、環境破壊など、現在の資本主義社会で露呈している14の課題を提示しています。「コトラーが経済本?」という驚きもありましたが、元々、ミルトン・フリードマンやポール・サミュエルソンといった経済学者の下で学んだ氏の経歴から説得力もうなづけるところもあります。それでも、なぜいま、マーケティングの第一人者が資本主義の課題に取り組むのか。
そもそもマーケティングとは市場のニーズを把握して、最適な供給システムを構築することです。そこには製品の位置づけもあれば、販売場所、販売チャネル、販促活動などの要素があり、これらがマーケティングの分野として拡大していきました。
一般的にマーケティングは広告活動に代表されるように、顧客にどう魅力的にアピールするか、というコミュニケーション分野にイメージが偏りすぎている印象があります。しかし、サービス・製品の最適な供給システムを提供することと定義すると、コトラーが資本主義の問題をテーマに上げた背景も見えてきます。
マーケティングは需要サイドに働きかけることですが、逆にいうと、しっかりとした需要サイドが存在しない限り供給サイドは機能しません。マーケティングを突きつめていくと需要と供給をマッチさせる市場というシステムの機能と課題を考えざるを得ません。
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