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気刊びびび

なんか気が向いたら書く。

文庫同人誌の話をします

思ったこと

 びびび文庫とかいうサークル名で活動してるせいで、文庫サイズ以外の本を出すのってどうなのみたいな気分になってしまう。みなさんには縁遠い話かもしれないが、文庫サイズの本は1冊あたりの印刷費がかなり割高になる。あの人またお金の話してる……とみなさんは思うだろうが、僕だって思ってる。でもね、お金って大事なの。同人誌の印刷費ってロット勝負なところが大きくて、例えば僕がよくお世話になっているサンライズで考えてみよう。

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 上のグラフは、サンライズで「フルカラー表紙セット(B5、表紙4色PP、本文モノクロ)」を印刷した時の、印刷部数と1冊あたり単価の関係だ。横軸が印刷部数、縦軸が単価を表している。たとえば28ページの本で考えると、30冊刷った時の1冊あたりの単価は1333円。即売会での相場が300~500円であることを考えると、目もくらむような大赤字だ。しかし同じページ数でも50部だと814円、100部だと447円。500部刷ると単価は160円にまで抑えられる。1冊300円で売っても140円の黒字だ。そのうち90円ほどは交通費や宿泊費に消えるとしても、まだ50円残っている。それが何になるか分かりますね? そう、焼肉です。

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 翻ってこちらは同じくサンライズで「小説本セット(文庫判、フルカラーカバー付)」を印刷した時の部数・単価関係だ。文庫判はA6サイズに等しい。B5よりもとても小さいわけで、そのぶん紙1枚あたりの価格も安くなる*1。それが現れているのだろうか、同じページ数でも文庫本の単価はB5本よりかなり低い。28ページの本で30冊刷った時の単価は1053円、50部で642円だ。文庫本お得じゃん!

 だが待って欲しい。28ページのカバー付き文庫本があると思いますか? おかしいと思いませんか、あなた。小説はマンガよりもページ数を食いまくるとの記述は古くは後漢書東夷伝にも見られる。ある程度見栄えのする小説文庫本を出そうとしたら、そうだね、少なくとも200ページは必要なんじゃないかな? ちなみにここ最近の僕の小説文庫本は52ページ、44ページ、44ページと推移しています。では220ページの文庫本単価を見てみよう。30部で1冊あたり3566円。はい解散。なんだこれ。50部刷っても2174円、100部刷っても1155円。そりゃね、そりゃ500部刷れば1冊あたり523円まで抑えられますよ。でも小説同人誌を買う人間は500人もいないんだよ。みんなマンガが好きなの。僕だってマンガが好きなの。よほどの人気サークルでもない限り、小説本は100部売れれば大成功の部類なんじゃないだろうか。そして220ページの文庫本の相場、だいたい800~1000円です。100部刷っても1冊あたり155円の赤字ですね。焼肉に消える分はありません。むしろ普段の食費を削って155円を補填し、贅肉が消えるわけです。

 さて、小説の同人誌といえば文庫判以外にもA5サイズもメジャーだ。先ほども書いたとおり、文庫判はすなわちA6サイズ。A5サイズはその倍の大きさなので、文庫判よりいっぱい文字が入りますね? 実際に僕が組版した本で見てみると、文庫判だと1ページあたりの最大文字数は714字。A5判で作ったものは1188字でした。つまり同じ分量の小説でも、A5サイズで製本すると60%くらいのページ数で済むということ*2。逆に言えば文庫判を選ぶと、ページ数は1.6倍に膨れ上がることになる。冒頭で言っていた「文庫本は割高」というのはそういうこと。

 しかし、サークル名が「びびび文庫」であるにもかかわらずA5本を出すのはなんか間抜けな気がする。あと僕個人の嗜好としてA5本はあまり好きじゃない。四六判ハードカバーとかならいいんだけど、A5の表紙カラーPPの小説本って一般書店で目にしないじゃん。ザ・同人誌って感じで、こう……。これはあくまで僕個人の思い込みなので無視してくれて構わないんだけど、まあなんだ、一番の問題は、文庫サイズでコピー本を作ろうとすると、クッソ折りづらくて死にそうになるってことですね。死にそうになりながら作ったコピー本を10/25に名古屋で開催されるリリカルなのはオンリーイベント「Eternal Garden」に持っていくから、みんなよろしくな!(唐突な宣伝)

 【演習問題】本稿では説明を省いたが、上記に挙げた印刷プランはすべてオフセット印刷と呼ばれるものである。オフセット印刷は品質が高い反面、少部数の印刷にはコストがかさみ適さない。一方、印刷品質は多少下がるが少部数の印刷に適したオンデマンド印刷というものもある。サンライズにはオンデマンド印刷のサービスもあるので、148ページ、220ページ、300ページの文庫判フルカラーカバー付きの小説本をオンデマンド印刷でする時、部数単価関係はどうなるかを調べよ。また、単価面でオンデマンド印刷よりオフセット印刷の方が得になるのは何部からかを調べよ。以上の演習を終えた上で、小説同人誌の頒布部数のボリュームゾーンが10~30部であることを念頭におき、「やっぱり絶望じゃないか!」と頭を抱えよ。

*1:マンガに用いる紙と文庫本に用いる紙は異なるのでかなり乱暴な説明だが。

*2:改行率などでも異なってくるので、あくまで理論値にすぎないが。