入れ墨調査:拒否の大阪市職員敗訴 高裁、1審取り消し
毎日新聞 2015年10月15日 21時25分(最終更新 10月15日 23時53分)
大阪市が職員に入れ墨の有無を確認する調査をしたことと、調査に答えなかった職員を懲戒処分にしたことは違法かが争われた2件の訴訟の控訴審判決が15日、大阪高裁であった。山田知司裁判長は、ともに違法とした1審・大阪地裁判決を取り消し、調査も処分も適法と判断した。
訴えていたのは、大阪市交通局の安田匡(ただす)さん(57)と市立病院の看護師、森厚子さん(59)。
調査は、市立の児童福祉施設で職員が子どもに入れ墨を見せて威圧したとの報道を受け、市への批判が高まったことから2012年に実施した。安田さんと森さんは調査への回答を「プライバシーの侵害」として拒否。市は回答を拒んだ6人を戒告処分にした。
控訴審判決で山田裁判長は、調査を「市政への信頼が失墜しないよう、目に触れる場所に入れ墨がある職員を把握し、市民らと接触が多い部署を避けるなどの人事配置に生かす目的で、正当だった」と必要性を認めた。
その上で、市が確認しようとした情報が入れ墨の形や模様ではなく、場所や大きさだけだったことに着目。「思想や信条、宗教についての個人情報とは認めにくく、人種、民族、犯罪歴についての個人情報でもない」とし、「社会的に不当な差別を受ける恐れがある情報ではない」とした。
また、山田裁判長は「調査への回答を命じることも適法」との判断を示した。2人が回答を拒んだことを「職務上の義務に違反し、全体の奉仕者としてふさわしくない非行。職場の秩序を乱した」と批判し、戒告処分は「裁量権の逸脱、乱用ではない」と述べた。
2人の1審判決はともに、入れ墨の有無の確認が「社会的な差別につながる恐れのある情報の収集を禁じた、市の個人情報保護条例に反している」として調査を違法と判断し、懲戒処分も取り消していた。
安田さんは提訴した後、交通局長から訴訟の取り下げを求められたが拒んだため、配置転換された。そのため配転の取り消しを求めて追加提訴。1、2審とも取り消しと110万円の賠償を市に命じ、市が上告している。【堀江拓哉】
太田肇・同志社大教授(組織論)の話 調査への回答を拒んだ職員を懲戒処分にする必要があったのかは疑問だ。しかし、入れ墨がある人の入浴を断る施設もあるなど、日本では入れ墨を見る目は独特だ。市民が入れ墨に不安を感じる可能性があるとして調査をし、回答を命じた市の対応と、それを適法とした今回の判決は理解できる。
右崎正博・独協大教授(憲法学)の話 多様な価値観を持つ個人を尊重する憲法13条の理念に反する判決だ。入れ墨については、職員に「見えないように」と指導することで十分だ。入れ墨調査を認めると、人格の核心部分にまで踏み込む調査をなし崩しに認めることにつながりかねない。
【ことば】大阪市の入れ墨調査
大阪市の入れ墨調査 橋下徹市長の指示で、2012年5月から教職員を除く全職員約3万3500人を対象に実施。114人が入れ墨があると答えた。このうち99人は人目に触れる場所に入れ墨があった。また、6人が回答を拒否した。