ユネスコが運営し、管理する「遺産」には3種類の制度がある。

 第1が「世界遺産」制度である。第2は「無形文化遺産」の事業である。「世界遺産」が建築物や景観など有形の文化財の保護や継承を目的としているのに対し、「無形文化遺産」は民族の慣習、芸能、風俗などの無形の財を対象とする。

 そして第3が今回、関心を集めた「世界記憶遺産」である。「記憶」というのは原則として過去の貴重な文化の形成に関する古文書や書物など歴史的な記録資料を指す。その種の登録資料をデジタル化などで保存し、広く公開することが事業の主体となる。

 ただし第1の「世界遺産」と第2の「無形文化遺産」はともに国連の条約に基づく保護活動である。それに対して第3の「世界記憶遺産」はユネスコによる単なる選定であり、緩やかな保護の対象になるだけである。

 しかし条約の支えがなくても、「記憶遺産」は国連のユネスコの名称を背負っての認定である。シンボル的な意味合いが強いとはいえ、保存のために必要な国連資金も出る。そのため、各国の政府は自国が誇る記憶遺産をユネスコに認めさせ、国内外へのアピールや宣伝を行う。

 これまでユネスコの「遺産」に対しての日本での関心は、官民ともに「世界遺産」に集中し、「記憶遺産」にはほとんど注意が向けられなかった。その世界遺産には今年7月に日本の申請した「明治日本の産業革命遺産」なども登録され、日本国内は喜びにわいた。世界遺産の登録は現在、全世界で合計1031件であり、そのうち19件が日本の遺産である。

 ところが「記憶遺産」は全世界で合計348件、そのうち日本は今回の新登録前までわずか2件だった。日本ではそもそも関心がなかったと言ってよい。ちなみに他の国ではフランスの「人権宣言」、オランダの「アンネの日記」、ドイツの詩人ゲーテ直筆の作品や日記などが登録されている。

記憶遺産の登録に積極的に取り組んできた中国

 中国は記憶遺産への登録申請活動を日本よりもずっと熱心に行ってきた。今回の追加登録前までに、故宮博物館所蔵の清代歴史文書や雲南省の少数民族が伝える古文書など、合計7件の登録に成功してきた。